2020年1月30日木曜日

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…

30日の日本経済新聞朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~『核の傘』代を求める米政権」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)。記事を見ながら問題点を指摘していきたい。
水鏡天満宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

外国との同盟は、米国の資産ではなくコストだ。こう信じるトランプ米大統領は、海外に駐留する米軍経費に加え、米軍本体の運用費の一部も、同盟国に払わせるつもりのようだ。

米メディアによると、トランプ政権は駐留経費の負担を約5倍に増やすよう韓国に迫り、今年から交渉に入る日本にも現状の約4倍の増額を求めようとしている。その是非を考える以前の問題として、物理的に無理な話である

防衛省の試算によると、駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える(2015年度)。ブッシュ(子)政権当時、米側が公表したデータでも、日本の負担率は約75%、韓国は約40%にのぼる。

日本は在日米軍駐留の関連経費として、19年度予算で約3900億円を割いた。この中には基地の光熱水料から住宅補修費、そこで働く労働者の福利費なども含まれる。さらに増やすとすれば、「米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」(日本の安保担当者)。


◎「物理的に無理な話」?

駐留経費の日本の負担」を「現状の約4倍」にするのは「物理的に無理な話」だと秋田氏は言うが、「物理的」には十分に可能だ。「駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える」ことを根拠としているような書き方だが、米国に直接カネを渡せば「負担」は無限に増やせる。「物理的」な限界はほぼない。「4倍」を大きく超える「負担」も「物理的」には可能だ。

付け加えると「米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」という「日本の安保担当者」のコメントも的外れだ。

米軍兵士の給料を払う」とその「米軍兵士」が米国ではなく日本の指揮下に実質的に入るのならば「日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」と言える。しかし、日米の力関係を考えれば、米国が指揮権を手放すとは思えない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

トランプ氏は本気のようだ。安倍晋三首相はこれまでの日米首脳会談で、日本は8割超を負担していると重ねて説いてきた。トランプ氏はその場では聞き置く姿勢を見せるが、次の会談で再び、現状に不満をこぼすという。

いったい大統領の本音はどこにあるのか。政権の内幕を探ると、これまでの同盟の本質を変えかねない新たな路線が浮かび上がる。

複数の外交筋によると、トランプ政権による韓国への増額要求には、駐留経費だけでなく、韓国の安全のために提供する核戦力と通常戦力の費用の一部も含めているという。詳細は伏せられているが、驚くべきは核戦力の一部費用まで徴収する方向で検討していることだ。

米国が同盟国保護のために提供する核戦力は「核の傘」と呼ばれる。米本土の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、海外に配備された核爆弾とそれらを搭載する爆撃機、核ミサイルを積んだ原子力潜水艦……。「核の傘」を保つにはこうした兵器を運用せねばならず、確かに膨大な予算がかかる。

世界中の標的に照準を定め、いつでも核戦力を使えるようにするには、巨大な統制システムも維持しなければならない。

核戦力に加えて、米軍は空母やイージス艦、軍用機といった通常戦力も海外に展開し、脅威に目を光らせている。韓国や日本に負担増を求めるのは、これらの恩恵を受けている分、コストも一部払ってほしいと考えるからだ。

米軍を世界警察に例えれば、米国はこれまで「交番」を置く地域に、その費用の一部肩代わりを求めてきた。今度は、警察本体の運営にかかわる費用も一部払えといっているようなものだ。

トランプ政権は今後、欧州の同盟国にも、似た要求を突きつけるだろう。米政府筋によると、昨年来、欧州各国との同盟関係についても調べ上げ、どのくらい負担増を求めるか精査してきた。

米政権が本気でこの方針を強行すれば、同盟国の米国離れを招き、トランプ氏が望む「偉大な米国」と逆の結末を招く恐れがある。

そもそも、「核の傘」の最大の目的は、米国自身を守ることにある。同盟国がその恩恵を受けているのは事実としても、コストのどこまでが米国分で、どこからが同盟分と切り分けるのは難しい



◎それは基地も同じでは?

核の傘」について「コストのどこまでが米国分で、どこからが同盟分と切り分けるのは難しい」と秋田氏は言う。それは「海外に駐留する米軍経費」も同じだろう。なのに「駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える」形で負担を分け合っている。「核の傘」では同じ対応ができないと考える理由はない。
西鉄甘木線(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

それでも米国が「核の傘」の代金を要求するなら、核戦力の詳細がどうなっているのか、同盟国には一定の情報を知り、運営に意見を言う権利がある。

元国防総省高官によると、核システムを共有する一部の欧州諸国などを除けば、米国は同盟国といえども、核戦力の詳細を明かしていない。国家の存亡にかかわる超重要機密だからだ

仮に、同盟国が核戦力の費用分担に応じるとしても、米国がこの秘密主義を変えることはないだろう。同盟国の側からみれば、口出しできないのに費用だけ徴収される「代表なき課税」に近い



◎「一部の欧州諸国」に明かしているのならば…

一部の欧州諸国」に「核戦力の詳細を明かして」いるのならば、他国には絶対に明かせない「超重要機密」とは言い難い。「核戦力の費用分担に応じる」条件として「核戦力の詳細」を開示するように求めてもいいのではないか。

国家の存亡にかかわる」と言われたら「一部の欧州諸国には開示してるじゃないか。開示がどうしても無理だと言うんならカネは出さないよ」と返せばいい。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

そうなれば、同盟国の間には、自前の核を持った方がよいと考える意見が出てくるかもしれない。

韓国ギャラップが17年9月、韓国内で実施した世論調査によると、韓国による核保有について、6割が賛成と答えた。中央日報など韓国メディアは19年、核保有の是非を論じるコラムを載せている。

米国の同盟国に核保有の動きが出れば、核不拡散体制がほころび、北朝鮮やイランに核放棄を強いる論拠も弱まる。「非核三原則」を堅持する日本の安全保障にも悪夢の筋書きだ。

では、韓国や日本はどうするか。米国が「核の傘」代を徴収するという前例をつくらないためにも、当面の交渉は米軍の純粋な駐留経費だけに対象を絞り、「核の傘」や通常戦力の維持費分担については別の交渉に移し替えるのが一案だろう。そのうえで11月の米大統領選の結果を見極めればよい



◎なぜ交渉に応じる?

米国が『核の傘』代を徴収するという前例をつくらない」ことが重要ならば、交渉を求められても断固拒否すべきだ。なのに、なぜか「『核の傘』や通常戦力の維持費分担については別の交渉に移し替えるのが一案だろう」となってしまう。

そして最終段落では以下のように締めている。

【日経の記事】

トランプ氏が大統領に再選されれば、時間稼ぎは難しくなるだろう。その場合、北大西洋条約機構(NATO)諸国と日韓で連携し、トランプ氏の方針に抵抗を試みるしかない


◎「抵抗」するだけ?

抵抗を試みるしかない」という結論が辛い。徹底的に「抵抗」するとどうなるのかを考えてほしかった。日経のような日米同盟絶対主義の考えでは、結局は米国に従うという結論になるはずだ。

それはそれで1つの考え方だ。だったら、そう書いてほしい。「それでも米国が負担増を求めてきたら従うしかない。結局、日本には安全保障面で米国に逆らう選択肢はないのだ」とでも書けばいいのではないか。

そこを濁しているのが残念だ。日米同盟絶対主義は日本から見れば属国体制容認主義とも言える。そのことを認めずに話を進めるから説得力がなくなってしまう。

日本が米国の属国ではないのならば「駐留経費は十分に払っている。増額交渉には応じない。核兵器の維持費などの負担は論外。それが不満ならば日本から出ていってくれ」と米国に言えば済む話だ。

駐留経費の日本の負担」を「さらに増やすとすれば、『米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵のようになってしまう』(日本の安保担当者)」と秋田氏も訴えていたはずだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『核の傘』代を求める米政権
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200130&ng=DGKKZO54992760Z20C20A1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

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