2020年1月24日金曜日

「総花的」なインタビュー記事が残念な日経 佐藤大和編集委員

24日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「シティ マイケル・コルバットCEOに聞く~最大のリスクは日欧 決済機能 GAFAと協調」という記事は残念な出来だった。記事には「総花的ではなく、強みをもつ分野で戦略を研ぎ澄ませることこそが、これからの金融機関経営に問われる」という「コルバットCEO」の発言が出てくるが、このインタビュー記事こそまさに「総花的」で焦点が絞れていない。筆者の佐藤大和編集委員は大いに反省してほしい。
東公園の日蓮上人銅像(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

米金融大手シティグループのマイケル・コルバット最高経営責任者(CEO、59)は日本経済新聞記者と会い、緊迫する中東情勢について「(原油や株式など)金融市場に及ぼす影響への警戒は怠れない」としたうえで、焦点の米国経済は「もちこたえられそうだ」と強気の見方を示した。むしろマイナス金利など日欧の金融政策の手詰まりが将来の「最大のリスク」と警鐘を鳴らした。



◎何のためのインタビュー?

インタビュー記事を書くのならば、取材の段階から「今回は何を語ってもらうのか」を明確にする必要がある。そうでないと「総花的」になりやすい。そして記事の最初の段落でインタビューの狙いを読者に示すべきだ。

上記の記述では狙いがはっきりしない。最初は「世界経済全般について語らせるつもりなのかな」と感じた。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

米国は年明け3日、イランの革命防衛隊の司令官を殺害。報復を誓ったイランは民間機を撃墜する失態を犯し、中東情勢は混沌としている。

「この先の展開は不透明要因が多いのは事実。ただし個人消費がけん引する米国経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はかなり強い。『雇用』と『住宅』が安定しているからだ」

株式投資もさることながら、米中間層の資産の中核は住宅だ。2008年のリーマン危機では住宅市場が崩壊し、米国は深刻な景気後退局面に突入した。

足元では米連邦準備理事会(FRB)がすでに金融引き締めを停止して緩和に転換。失業率も過去最低水準で推移する。

「FRBの方針転換は、米国よりも海外経済の動向に対応したのだろう。心配なのは米国よりも、むしろ米国外の経済・金融政策運営だ。いずれ訪れる景気後退局面に日本や欧州は一体どう対応するのか

マイナス金利政策を導入している日欧は政府債務も膨らみ、構造改革の動きは鈍い。トランプ政権下の大型減税や歳出拡大に伴う財政悪化への懸念は募るが、日欧の経済成長率は米国に大きく見劣りする。


◎なぜ深掘りしない?

最大のリスクは日欧」と最も大きな見出しで打ち出したのだから、これがインタビューの肝となるはずだ。しかし「心配なのは米国よりも、むしろ米国外の経済・金融政策運営だ。いずれ訪れる景気後退局面に日本や欧州は一体どう対応するのか」と出ているだけだ。

これだけでは「最大のリスクは日欧」と言われても納得できない。「日欧」発の経済危機の発生リスクが高まっているのか。なぜそう言えるのか。発火点となるのは「日欧」のどの市場なのか。その辺りを深掘りすべきだ。しかし、あっさりと通り過ぎてしまう。
能古島から見た福岡市 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「金融デジタル化の潮流は利用者と金融機関の双方の利便性を高める。シティの戦略の柱は3つ。まず独自にIT投資を加速する。さらにIT企業との提携を深化する。そして必要とあればIT企業を買収するなどして技術を取り込む」

アマゾン・ドット・コムやアップルなど「GAFA」は金融ビジネスへの進出を加速している。フェイスブックは独自のデジタル通貨の発行構想を打ち出した。「しかしGAFAはあえて銀行になりたいわけではないはずだ」とみる。

巨大プラットフォーマーと対峙するのではなく連携する。「彼らが最も重視しているのは決済機能。そこは既存の銀行にノウハウがある」からだ。昨年、シティはグーグルとの提携に踏み切った。グーグルの利用者に当座預金口座を提供する。

「総花的ではなく、強みをもつ分野で戦略を研ぎ澄ませることこそが、これからの金融機関経営に問われる」

広範な海外拠点の半面、米国内のリテール金融網が弱いシティは市場評価(株式時価総額)でJPモルガン・チェースなどになお劣後する。


◎二兎を追う者は…

今度は経営戦略の話になっている。しかも、かなり漠然とした話だ。見出しでは「決済機能 GAFAと協調」となっているが、「コルバットCEO」はそう発言していない。「昨年、シティはグーグルとの提携に踏み切った。グーグルの利用者に当座預金口座を提供する」という佐藤編集委員の解説から取ったのだろう。

それを責めるつもりはない。「コルバットCEO」の発言にこれといった中身がないので見出しを付ける側も苦労したのだろう。

そういう発言しか引き出せないのは、佐藤編集委員の責任だ。焦点を絞って突っ込んだ質問を放っていれば、こうはならなかった気がする。

記事の終盤では「コルバットCEO」の発言さえ出てこない。

【日経の記事】

とはいえコルバット氏が、リーマン危機下で破綻寸前に追い込まれたシティ再生と株価回復を実現した手腕への評価は高い。戦線がのび切っていた海外事業のリストラ対象の象徴は日本だった。旧日興コーディアル証券に続き、歴史ある日本のリテール銀行の売却も断行した。

12年にCEOに抜てきされてからコルバット氏の在任期間は10年に迫る。後任をめぐる最有力候補は経営コンサルタント出身のジェーン・フレーザー・シティグループ社長(52)だ。

米有力企業で女性CEOは珍しくないが、いまだに「男社会」のウォール街は批判を浴びている。コルバット氏がナンバー2まで登用してきた彼女の処遇が注目を集めそうだ



◎なぜそこを聞かない?

コルバット氏がナンバー2まで登用してきた彼女の処遇が注目を集めそうだ」と思うならば、なぜ「ナンバー2まで登用してきた彼女」について「コルバット氏」に語らせないのか。「『男社会』のウォール街」について話してもらってもいい。

インタビュー記事の主役はあくまで取材相手の発言だ。解説を加えるなとは言わないが、主従が逆転してはダメだ。そこを佐藤編集委員は分かっているのか。

佐藤編集委員がインタビュー記事を書く機会は今後もあるだろう。次回は焦点を絞った深みのある記事に仕上げてほしい。


※今回取り上げた記事「シティ マイケル・コルバットCEOに聞く~最大のリスクは日欧 決済機能 GAFAと協調
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200124&ng=DGKKZO54775100T20C20A1EE9000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤大和編集委員への評価も暫定でDとする。

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