2019年8月28日水曜日

「個人がHFTと同じ土俵」が怪しい日経「隣のインベスター(2)」

今回も日本経済新聞の朝刊投資情報面で連載している「隣のインベスター第2部 アクティブ投資家の実像」を取り上げる。28日の「(2)デイトレ、数字見ず稼ぐ~アルゴリズム取引、個人にも 自ら作って成績上げる」という記事では「個人」が「HFT(高頻度取引業者)」と「土俵を同じに」できているのかが気になった。「小林克彦さん(46)」については「できている」と取材班は判断しているようだ。しかし、記事を読むとどうも怪しい。
松島の渡月橋(宮城県松島町)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

個人がアルゴリズムを使い始めた背景には、日本の株式市場におけるHFT(高頻度取引業者)の猛威がある。HFTが駆使するアルゴリズム取引は5年ほど前まではミリ(1000分の1)秒単位だったが今はナノ(10億分の1)秒単位で、売り買いを繰り返す

新潟に住む桜木道夫さん(35、仮名)はデイトレを始めて3年。株価チャート分析が得意だったが、ある事象に気付きがくぜんとした。チャートに上昇・下落を示すサインがともった瞬間に機械的な売買注文が膨らんでいた。人の動体視力とボタンを押すスピードでは勝てない世界が広がる。

勝つには土俵を同じにする必要がある。小林克彦さん(46)は相場予測をしない。寄り付き前の注文を読みこむプログラミングで、一日に300前後の銘柄を売り、買いとも仕込む。例えば、東証1部の中で25日移動平均から下に離れているものを買い、上に離れているものを売る。午後3時の取引終了間際にすべての持ち高を解消する。

15年での稼ぎはざっと2億円。対面営業を原則しないインターネット証券が日々の取引手数料欲しさに営業をかけるほどだ。カブドットコム証券の斎藤正勝社長は「自前でヘッジファンドを開設できるような『プロ並み』のプログラマーが増えている」と指摘する。


◎「小林克彦さん」の取引速度は?

個人がアルゴリズムを使い始めた背景には、日本の株式市場におけるHFT(高頻度取引業者)の猛威がある。HFTが駆使するアルゴリズム取引は5年ほど前まではミリ(1000分の1)秒単位だったが今はナノ(10億分の1)秒単位で、売り買いを繰り返す」というのが、まず前提にある。

そして「勝つには土俵を同じにする必要がある」と切り出している。具体例として出てくるのが「小林克彦さん」だ。「小林克彦さん」が「ナノ(10億分の1)秒単位で、売り買いを繰り返す」仕組みを個人で構築しているのならば「土俵を同じに」していると言える。しかし「小林克彦さん」の「プログラミング」でどの程度の取引速度を実現できたのかは触れていない。これで「勝つには土俵を同じにする必要がある」と言われても納得できない。

しかもこの「プログラミング」がよく分からない。「寄り付き前の注文を読みこむプログラミング」なのに「例えば、東証1部の中で25日移動平均から下に離れているものを買い、上に離れているものを売る」という。

25日移動平均」からの乖離ならば「寄り付き前の注文」を読み込まなくても分かる。両者を組み合わせた取引手法かもしれないが、説明がないので何とも言えない。しかも、これでどうやって「ナノ(10億分の1)秒単位で、売り買いを繰り返す」という「HFT」に対抗できるのか謎だ。普通に考えると、まともに正面から「HFT」に立ち向かっている感じはない。

15年での稼ぎはざっと2億円」という説明も引っかかる。「小林克彦さん」は15年前から今の手法で利益を上げてきたということか。だとすると「コンピュータープログラムが自動で株式売買注文のタイミングや数量を決め注文を繰り返すアルゴリズム取引が機関投資家に普及したのは2000年代。遅れること10年、個人投資家でも浸透しつつある」という筋立てとあまり整合しない。

今回の記事は「想定したストーリー通りの事例が集まらず苦労して作ったのかな」と思わせる内容だった。


※今回取り上げた記事「隣のインベスター第2部 アクティブ投資家の実像(2)デイトレ、数字見ず稼ぐ~アルゴリズム取引、個人にも 自ら作って成績上げる
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190828&ng=DGKKZO49062630X20C19A8DTA000


※記事の評価はC(平均的)。

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