2019年8月1日木曜日

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋

日本経済新聞はヤフー・アスクルの対立をどうしても親子上場の問題として捉えたいようだ。1日の朝刊総合1面に載った「真相深層~親子上場、揺らぐ子の独立 ヤフー、アスクル社長らの再任反対」という記事で再び「親子上場」を問題視している。そして、いつも通り説得力がない。
Bershka 渋谷店(東京都渋谷区)
   ※写真と本文は無関係です

まず記事の書き方で1つ指摘しておきたい。最初の2段落は以下のようになっている。

【日経の記事】

アスクルが2日に株主総会を開く。約45%の株を持ち、会計上は親会社のヤフーが岩田彰一郎社長の再任反対を表明。アスクルは資本・業務提携の解消を求めて対立が深まっている。ヤフーがアスクルの一般株主の権利を代表するはずの独立社外取締役の再任反対にまで踏み込んだことで、日本独特の「親子上場」の問題が再燃している

「まさか、ここまでするとは」。アスクルの戸田一雄社外取締役は24日、大阪の自宅でヤフーの発表資料を見て衝撃を受けた。資料には8月2日の株主総会で戸田氏の再任に反対すると記されていた。アスクルに約11%を出資するプラス(東京・港)もヤフーに同調。戸田氏に対する事実上の「クビ宣告」だった。



◎何月「24日」?

冒頭に「アスクルが2日に株主総会を開く」と書いている。これは「8月2日」だ。その後に「アスクルの戸田一雄社外取締役は24日、大阪の自宅でヤフーの発表資料を見て衝撃を受けた」と出てくる。形式的には「8月24日」だが、実際は「7月24日」だろう。月替わりの時期で同情の余地はあるが、日付をきちんと書けていない。

本題に入ろう。本当に「ヤフーがアスクルの一般株主の権利を代表するはずの独立社外取締役の再任反対にまで踏み込んだことで、日本独特の『親子上場』の問題が再燃している」と言えるだろうか。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

戸田氏は岩田氏の再任反対について、独立役員をないがしろにしていると、23日に会見を開きヤフーを批判したばかりだった。その翌日にヤフーが自身を含む独立取締役3人全員の反対を決めたことに「独立役員が意見を言ったら、親会社が口封じをするなんて、あってはならない」と憤る。

松下電器産業(現・パナソニック)元副社長の戸田氏は12年にわたりアスクルの社外取締役を務める。2015年にアスクルがヤフーの子会社になってからは、独立役員会を率い、経営者や親会社の意見に偏らないよう努めてきた自負がある。



◎「口封じ」はできてないような…

まず「口封じ」には動いていない気がする。実際に「戸田氏」はヤフー批判を続けているのではないか。「独立社外取締役の再任反対」にも問題は感じない。株主として「再任」が好ましいと判断すれば賛成だし、好ましくないと判断すれば「反対」となるはずだ。

独立社外取締役の再任」に親会社は常に賛成すべきなのか。「一般株主の権利を代表するはずの独立社外取締役」を最終的に決めるべきは取締役会であり、株主総会は無力化すべきというのが筆者ら(斎藤正弘記者、今井拓也記者、増田咲紀記者)の考えなのか。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

親会社とそれ以外の株主の利益は相反することがある。例えば子会社の有望な事業を親会社に格安で譲渡させれば、親会社は利益を得るが、その他の株主は損害を被る。

一般株主は実質的な決定権を持つ親会社に対抗する手段がない。そこで中立の立場から判断する独立役員が「盾」として、一般株主の利益を守ることが期待される。



◎ヤフー・アスクルに当てはまる?

上記の説明に異論はない。ただ、今回のケースには当てはまらない。まず「子会社の有望な事業を親会社に格安で譲渡させ」るといった話が出てきていない。

今回は「その他の株主」である「プラス(東京・港)もヤフーに同調」している。記事には「ヤフーの直前の実力行使に理解を示す一般株主もいる」との記述もある。大きな利益を得る「親会社」と、「損害を被る」だけの「その他の株主」の対立図式は成り立っていない。

なのに「親会社とそれ以外の株主」の利益相反の話として捉えるのは無理筋だ。ヤフー支持派とアスクル支持派の対立に過ぎない。であれば株主総会で決着を付けるのが筋だ。実際にそうなろうとしている。株式会社の意思決定に関する現行ルールを是とすれば、ヤフーのやり方を批判するのはかなり無理がある。

最後に記事の結びを見ておこう。

【日経の記事】

ヤフーは総会後に新たな独立社外取締役を選ぶ方針だが、候補はヤフーとプラスの出身者が半数を占める取締役会で決めることになる。独立性や透明性といった親子上場の懸念を払拭できるか。自らも上場子会社のヤフーが負う責任は重い



◎「独立」している方がヘンでは?

今回の記事の見出しは「親子上場、揺らぐ子の独立」だ。「上場子会社」は親会社から「独立」した存在だし、そうあるべきだとの前提を感じる。しかし、親会社が議決権の過半を持っているのに「上場子会社」が「独立」しているはずがない。また「独立」して自由に経営方針を決められるのならば、ガバナンスが機能しているとは思えない。

親子上場が好ましくないと思うならば禁止してもいいだろう。だが「上場子会社」を完全に「独立」させるのはやめた方がいい。完全に「独立」させた場合、もはや「子会社」とは言い難い。「議決権の過半を握る親会社から明確に独立している子会社」という分かりにくい存在を作り出そうとするから、おかしな話になる気がする。


※今回取り上げた記事「真相深層~親子上場、揺らぐ子の独立 ヤフー、アスクル社長らの再任反対
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190801&ng=DGKKZO48002610R30C19A7EA1000


※記事の評価はC(平均的)。筆者らへの評価は以下の通りとする(敬称略)。

斎藤正弘:暫定C
今井拓也:Cを維持
増田咲紀:暫定D→暫定C


※ヤフーとアスクルの件については以下の投稿も参照してほしい。

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html


※今井記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

やはり本部寄り? 日経「24時間 譲れぬセブン」今井拓也記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24.html

セブンに「非24時間」のFC契約なし? 日経 今井拓也記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24fc.html


※増田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「GAFAがデータ独占」と誤解するのは日経グループの癖?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/gafa.html

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