2019年8月5日月曜日

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎

5日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に「看過できなくなってきた親子上場の弊害」という社説が載っている。この社説の最大の問題はなぜ「親子上場」の禁止を求めないのかという点だ。社説の全文は以下の通り。
瑞鳳寺(仙台市)※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

上場企業が子会社も上場させる「親子上場」の弊害が看過できなくなってきた。弱い立場に置かれている上場子会社の一般株主の利益を守る仕組みをつくるとともに、企業も日本特有の親子上場の数を減らす努力をすべきだ。

親子上場の弊害を印象づけたのが、オフィス用品通販大手のアスクルとその約45%の株を持つヤフーの対立だ。ヤフーが消費者向けネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の事業譲渡を申し入れ、両社の関係が悪化した。

2日のアスクルの株主総会ではヤフーと約11%を持つ第2位株主のプラスが岩田彰一郎社長の再任に反対し、岩田氏は解任された。

アスクルは業績と株価が低迷している。ヤフーが社長在任が20年を超える岩田氏の責任を問うたのは株主の権利として理解できる

解せないのが、ヤフーが松下電器産業(現パナソニック)元副社長の戸田一雄氏や日本取引所グループ前最高経営責任者(CEO)の斉藤惇氏ら3人の独立社外取締役も同時に解任したことだ。

独立社外取締役は、中立の立場から一般株主の利益を守る役割を負っている。仮にヤフーが自分の方に有利な条件でロハコ事業を取得しようとしても、他の一般株主は対抗手段がなくなってしまう。

日本の親子上場は300社を超える。NTTグループ3社や日本郵政グループ3社など民営化企業に加え、ソフトバンクグループは昨年、携帯電話子会社のソフトバンクを子会社のまま上場した。

アスクルと同じ問題は他の親子上場でも起きうる。日本取引所グループは上場子会社の審査を厳しくして、親会社が上場子会社を意のままに操れない企業統治を求めてほしい。上場子会社には独立社外取締役の数を取締役会の最低3分の1以上、できれば過半数に増やすよう義務づけるべきだ。

ヤフーとアスクルの親子上場は2012年にアスクルがヤフーに第三者割当増資を実施したことに端を発する。M&A(合併・買収)で形成された親子上場にも取引所は審査の網を広げてほしい。

欧米では親子上場は極めてまれだ。非中核事業の切り離しで親子上場になっても、数年後に完全売却し解消するのが一般的だ。

日本でも日立製作所のように20社以上の上場子会社を4社まで減らし、投資家の評価を高めた企業もある。他の企業にも親子上場を解消する決断を期待したい


◎禁止すれば済む話では?

個人的には「親子上場」に大きな問題はないと感じる。だからと言って「親子上場」の禁止にも反対しない。どちらにしろ問題はないからだ。

日経が「『親子上場』の弊害が看過できなくなってきた」と確信しているのならば、「親子上場」の禁止を求めるべきだ。現存する上場子会社については一定期間後に上場廃止か親子関係の解消を選んでもらえばいい。

なのに、社説では「日本取引所グループは上場子会社の審査を厳しくして、親会社が上場子会社を意のままに操れない企業統治を求めてほしい」と言うだけだ。その上で「他の企業にも親子上場を解消する決断を期待したい」と当該企業の判断での「解消」を求めている。

他の企業にも親子上場を解消する決断を期待したい」のであれば、日本から親子上場がなくなった方が好ましいと日経は判断しているはずだ。なのに親子上場の禁止は求めない。そこが解せない。

親会社が上場子会社を意のままに操れない企業統治」などと言う奇怪な仕組みを作ってまで、なぜ「親子上場」を存続させる必要があるのか。親会社が子会社を支配するのは当然だ。子会社のまま上場すると「弊害が看過」できないのならば禁止すれば済む。簡単な話だ。

ついでに言うと「解せないのが、ヤフーが松下電器産業(現パナソニック)元副社長の戸田一雄氏や日本取引所グループ前最高経営責任者(CEO)の斉藤惇氏ら3人の独立社外取締役も同時に解任したことだ」という解説が「解せない」。社説では「独立社外取締役は、中立の立場から一般株主の利益を守る役割を負っている」とも書いている。

3人の独立社外取締役」は「ヤフー」にも「アスクル」にも付かない「中立の立場」を守っていたのか。

アスクルは業績と株価が低迷している。ヤフーが社長在任が20年を超える岩田氏の責任を問うたのは株主の権利として理解できる」と社説でも書いている。ならば「岩田氏の責任を問うた」のは「一般株主の利益」にも反しないはずだ。

なのに「独立社外取締役」である「戸田一雄氏」は「実質的な決定権を持つ1、2位株主が岩田社長の再任に反対することは『上場会社のガバナンス(企業統治)を無視している』」(7月23日付の日経の記事)と主張した。他の2人の「独立社外取締役」も同じ考えだとすれば「中立の立場」は完全に崩れている。

今回は「11%を持つ第2位株主のプラス」もヤフー側に付いており、「3人の独立社外取締役」は少なくとも「第2位株主」の利益も代弁していない。その他の「一般株主」にもヤフーへの支持があるようなので、「3人の独立社外取締役」を「中立の立場から一般株主の利益を守る」存在と位置付けるのは無理がある。

結局、今回も「『親子上場』の弊害が看過できなくなってきた」といった状況には至っていないと感じる。「そんなことはない。親子上場は問題が多過ぎる」と日経が言うならば、それはそれでいい。だったら「親子上場」の禁止を求めるべきだ。


※今回取り上げた社説「看過できなくなってきた親子上場の弊害
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190805&ng=DGKKZO48186640T00C19A8PE8000


※社説の評価はC(平均的)。

0 件のコメント:

コメントを投稿