2019年8月19日月曜日

夏枯れ? 基礎的な情報が欠けた日経1面「企業格下げ、米中で増加」

19日の日本経済新聞朝刊1面に載った「企業格下げ、米中で増加~膨張債務、市場に不安」という記事は、基礎的な情報が欠けた強引な作りになっていた。夏枯れでネタがないとは思うが、それでもこの出来では苦しい。
宮城県慶長使節船ミュージアム
(サン・ファン館)※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の記事】

企業の格下げが米国と中国で増えている。年初からの信用格付け(総合・経済面きょうのことば)の変更は世界で格下げが格上げを上回る。なかでもその差は、米国が3年ぶり、中国が2年ぶりの悪化を示す水準だ。長引く金融緩和を背景に企業の借金が膨らんだうえに、貿易摩擦などで業績が落ち込んで財務が悪くなる企業が多い。企業の信用力の低下は金融市場の不安要素のひとつだ。

米格付け会社S&Pグローバル・レーティングによる、世界の社債発行企業の信用格付け変更を集計した。事業会社と金融機関を対象とした年初からの格下げは487件(8月13日時点)。格上げを60件上回った。通年で格下げが格上げを数で上回れば2016年以来となる。

QUICK・ファクトセットによると、世界の企業全体の4~6月期純利益は前年同期比4%の減益で悪化が鮮明になっている。日本やアジアが減益。全体では増益を確保する北米も、アマゾン・ドット・コムなどの「GAFA」と呼ばれるIT(情報技術)大手を除くと15日時点で0.41%の減益となっている。

業種別ではエネルギー関連に加えて、自動車部品やアパレルといった米中摩擦の影響を受ける業種の格下げが目立つ。

「関税や貿易摩擦が収益に悪影響を及ぼすと、資金繰りが厳しくなる可能性がある」。S&Pは自動車のホイールなどを製造する米アキュライドの格付けを3月に「シングルB」から1段階引き下げた。さらなる引き下げの可能性も示唆した。

米中の関税引き上げ合戦が企業の収益を直撃したケースもある。工具を扱う米エイペックス・ツール・グループは中国から調達していた製品に制裁関税がかかり、利幅が縮小。4月に格下げとなった。

金融危機後の世界的な金融緩和で企業の有利子負債は膨らんでいた。QUICK・ファクトセットによると、世界全体の上場企業の有利子負債(除く金融)は08年度末の12.5兆ドルから18年度末には22.1兆ドルに8割増えた。特に目立つのが中国で、18年度末は2兆8千億ドル。10年前の5倍近くとなった。

中国の青海省政府傘下の青海省投資集団は、ドル建て社債の利払いを2月に遅延した。債務不履行(デフォルト)はぎりぎりで回避したが、S&Pは「資金繰りがかなり悪化しており、リスクがある」と指摘。格付けを「シングルBプラス」から「トリプルCプラス」へと一気に3段階引き下げた。

日本では格付投資情報センター(R&I)が今年、6月までに事業会社と金融機関について16件を格上げした。格下げは7件にとどまる。ただ「米中摩擦が長引いた場合、個社の信用力にどのように影響するかを注視していく」(石渡明・格付企画調査室長)という。

米連邦準備理事会(FRB)が7月末、約10年半ぶりの利下げを実施するなど、世界の中央銀行は再び金融緩和へとカジを切り始めた。だが金融緩和の陰で潜在的なリスクは膨らんでいる。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

(1)「米中の格下げ」件数は?

企業格下げ、米中で増加」と見出しで打ち出し、記事の冒頭でも「企業の格下げが米国と中国で増えている」と書いている。これが記事の柱だ。しかし、最後まで読んでも「米国と中国」での「企業格下げ」の件数は出てこない。

米国は3年ぶり、中国は2年ぶりの悪化水準(格上げ数-格下げ数)」というタイトルが付いたグラフから「格上げ数-格下げ数」のおよその水準は分かる。だが、ここから「企業格下げ」の件数は読み取れない。


(2)「格下げが増えている」?

記事では「格上げ数-格下げ数」を基に「企業の格下げが米国と中国で増えている」と書いている。しかし「格上げ数-格下げ数」の数字だけでは何とも言えない。「格下げ」が減っていても、それ以上に「格上げ」が減れば「その差は、米国が3年ぶり、中国が2年ぶりの悪化を示す水準」になり得る。

企業の格下げが米国と中国で増えている」と伝えたいのならば、どの程度の増加なのかを数字で見せてあげれば済む。なのに記事では頑なにそれを避けている。どうも怪しい。少なくとも、記事に必要な情報をきちんと盛り込んでいるとは言えない。


(3)「米国と中国」が特に目立つ?

年初からの信用格付けの変更は世界で格下げが格上げを上回る」らしい。その中でも「米国と中国」が特に目立つと筆者は訴えたいのだろう。だが「米国と中国」以外との比較が乏しいので「米中で目立って格下げが増えているんだな」とは納得できない。

日本では格付投資情報センター(R&I)が今年、6月までに事業会社と金融機関について16件を格上げした。格下げは7件にとどまる」といった記述があるにはある。

だが「米格付け会社S&Pグローバル・レーティングによる、世界の社債発行企業の信用格付け変更」を用いずに「日本では格付投資情報センター(R&I)」の数字を使っている。記事では基本的に「S&Pグローバル・レーティング」の数字を使っているのだから、統一した方が望ましい。「R&I」の数字を持ちだしたのには恣意性を感じる。

そう思って「S&Pグローバル・レーティング」のデータで作った記事中のグラフを見ると「格上げ数-格下げ数」の2019年の落ち込み幅は日本が中国を上回る。

「貿易戦争の影響で米中での格下げが増えているのではないか」との仮説を立てて夏枯れ対策用の記事を作ろうとしたのだろう。それ自体は悪くない。だが仮説通りのデータは得られなかったのではないか。なのに強引に1面向けの記事に仕立て上げてしまった--。

そう考えると腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「企業格下げ、米中で増加~膨張債務、市場に不安
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190819&ng=DGKKZO48700070Z10C19A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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