2019年8月10日土曜日

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

日本経済新聞の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)の書く記事が相変わらず苦しい。10日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日韓、対立で失うもの」という記事を読むと、秋田氏は「」とか「対症療法」の意味を理解していないのではと心配になる。
東日本大震災復興祈念公園(宮城県東松島市)
         ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘してみる。


【日経の記事】

中国には「不打不相識」という成句がある。「けんかをしないと、分かり合えない」との意味だ。1972年9月、国交を正常化させた日中がそうだった。訪中した田中角栄首相は、周恩来首相と決裂しかねないほど激しく応酬した末に仲直りにこぎつけた。

交渉がヤマ場を越えようとしていたころ、毛沢東氏は田中氏を中南海に招き、「けんかは済みましたか」と語りかけた。互いに腹蔵なくやりあって初めて和解できると、毛氏は知っていたのだ。

日本と韓国にも、この成句はあてはまるのだろうか。今のところ、悲観的にならざるを得ない。韓国の元徴用工判決に端を発した対立は泥沼になっている。



◎中国の話は要る?

互いに腹蔵なくやりあって初めて和解できる」という教訓が「日本と韓国」にも当てはまるのならば、「1972年」当時の中国の話を冒頭に持ってくるのも分かる。しかし「今のところ、悲観的にならざるを得ない」らしい。だったら何のために紙幅を割いて昔の話を引っ張り出したのか。単なる行数稼ぎにしか見えない。

韓国の元徴用工判決に端を発した対立」という説明も引っかかる。「元徴用工判決」の前から慰安婦問題に関する日韓合意を巡って「対立」が始まっていたのではないか。

記事の続きを見ていこう。ここでは「現実は逆」になっているかどうかを考えてほしい。


【日経の記事】

日本は今月2日、韓国への輸出管理を厳しくした。韓国は猛反発し、日本製品の不買運動が広がっている。日本が韓国に言うことを聞かせるため、強硬に転じた――。国際社会ではこう受け止められているが、現実は逆だと思う

舞台裏をのぞくと、日本はむしろ追い込まれ、本来、避けたかった「劇薬」を使わざるを得なくなったというのが、実態に近い。

第2次世界大戦中の強制労働をめぐり、日本企業に賠償を命じる韓国大法院(最高裁)の判決が出たのが、2018年10月。請求権問題の最終解決をうたった日韓請求権協定が覆されかねないとして、日本は再三、協議を求めたが、韓国はなしのつぶてだった。

日本政府関係者らによると、それでも首相官邸は当初、報復とみられる強硬措置はできれば避けたいのが本音だったという。来年の東京五輪を控え、韓国からの訪日ブームに水を差したくないうえ、消費増税後の景気への影響も心配したからだ。

だが、このままでは韓国で差し押さえられた日本企業の資産が売却されかねず、最後の手段として「報復措置」に踏み切った



◎現実は「その通り」では?

日本が韓国に言うことを聞かせるため、強硬に転じた――。国際社会ではこう受け止められているが、現実は逆だと思う」と秋田氏は言う。例えば「実は日本は強硬路線から柔軟路線に転じていた」といった話ならば「現実は逆」と感じたのも理解できる。

しかし「このままでは韓国で差し押さえられた日本企業の資産が売却されかねず、最後の手段として『報復措置』に踏み切った」のならば「日本が韓国に言うことを聞かせるため、強硬に転じた」との見方は大筋で合っている。「現実は逆」と判断する根拠は記事中には見当たらない。

次に「対症療法」の問題を考えてみたい。当該部分は以下のようになっている。


【日経の記事】

歴史問題が両国の土台を弱めているというよりも、こうした構造変化によって土台が弱まったから、歴史問題にも火が付きやすくなっているのだ。

では、どうするか。即効薬はないと言わざるを得ない。これ以上、事態を悪くしないため、対症療法に努めるしかないだろう

そのひとつは韓国の国民に直接、発信する体制を強めることだ。韓国内には行きすぎた反日と距離を置く世論もある。韓国ギャラップが7月12日に発表した世論調査では、日本への好感度は10%台に下がったが、日本人は「好感が持てる」が41%で「好感が持てない」(43%)と並んだ。

韓国政府が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄をにおわせていることには予備役将官らの団体が8月7日、破棄に反対する声明を発表した。このほかソウル市中区が今週、日本製品不買を呼びかける旗を掲げたところ、国民から批判が殺到し、撤去を強いられる騒ぎもあった。


◎「根本的な対策」になるような…

記事の中で秋田氏は「3つの構造変化が(韓国から見た)日本の価値の低下を招いている」と述べた上で「世代交代と民主化が進むにつれ、軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権協定は不平等、と考える世論が広がっている」と解説している。
豊後森機関庫駅(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

だとすれば「韓国の国民に直接、発信する体制を強め」て「反日と距離を置く世論」を広げていくのは、実現可能性はともかくとして「土台」を変えていく働きかけと言える。

対症療法」とは「根本的な対策とは離れて、表面に表れた状況に対応して物事を処理すること」(デジタル大辞泉)を指す。韓国の「世論」から変えていくのであれば「対症療法」ではなく「根本的な対策」と見なすのが妥当だ。

しかし、なぜか秋田氏は「対症療法」に含めてしまう。「即効薬はないと言わざるを得ない。これ以上、事態を悪くしないため、対症療法に努めるしかないだろう」との記述から推測すると、秋田氏は「対症療法即効性の乏しい治療法」と誤解しているのではないか。

そう考えると辻褄は合うが、だとすると記事の書き手としての基礎的な資質には疑問符が付く。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~日韓、対立で失うもの
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190810&ng=DGKKZO48425910Z00C19A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

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