2019年8月21日水曜日

「敗者」になってる? FACTA「勝ったのに敗者『ヤフー川邊』」

FACTA9月号に載った「勝ったのに敗者『ヤフー川邊』」には色々と問題を感じた。まず記事を最後まで読んでも「ヤフー川邊」がなぜ「勝ったのに敗者」なのか不明だ。さらに言えば「アスクル社長解任劇の“真犯人”は、孫や宮内に尻を叩かれている川邊ともう一人いる」と打ち出しているのに「もう一人」が誰を指すのかも判然としない。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

記事を順に見ながら他の問題点を指摘しつつ、最後に「勝ったのに敗者」「もう一人」について考えてみたい。

【FACTAの記事】

オフィス用品通販大手のアスクルが8月2日に株主総会を開き、社長だった岩田彰一郎と独立社外取締役3人の再任が否決された。アスクル株を45%保有する筆頭株主のヤフーと2位株主で11%を保有するプラスが反対したため。同日開かれた取締役会で、岩田の後任には吉岡晃が内部昇格した。

この騒動は7月17日、ヤフーが突如として岩田の再任に反対すると発表したことで表面化した。同日、アスクルはヤフーに資本・業務提携の解消を申し入れ、翌18日に岩田が記者会見でヤフーを「乗っ取り」などと批判したことで一気に世間の耳目を集めることになったが、蜜月だった両社がこじれた深層がはっきりしないため、株主総会が終わったにもかかわらず、なお喧しい。


◎「真相」では?

深層がはっきりしない」という部分はこれでも成立するので変換ミスとは断定できない。ただ「真相がはっきりしない」の方が自然ではある。

続きを見ていく。

【FACTAの記事】

きっかけは今年1月11日、ヤフーがアスクルのロハコ事業譲渡の検討を要求し、アスクルが拒否したことにある。それははっきりしているのだが、岩田が「(ヤフーの親会社である)宮内謙ソフトバンク社長の意思を感じた」と語るかと思えば、「ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が背後にいると感じた」などと言ったため、“真犯人”探しが続いている。



◎「“真犯人”」と言うなら…

“真犯人”探しが続いている」と言うのだから、筆者は「アスクル社長解任劇」を「“犯罪”」と見ているのだろう。同意はできないが、筆者がそう判断したのならばそれはそれでいい。ただ、記事では「“犯罪”」と見なす根拠を提示できていない。一般的に「解任=悪いこと」ではないのだから「“真犯人”」と呼ぶのならば、なぜ「アスクル社長解任=悪いこと」なのかの説明は欲しい。

さらに記事を見ていく。

【FACTAの記事】

このうち孫は8月2日、「ヤフー執行部の判断は尊重するが、一連のヤフーの手段には反対する」といった趣旨のコメントを出した。

孫は投資するにあたり、保有株比率にさしてこだわらない。「志が一緒であれば、いわゆる資本の論理を振りかざす必要はない」というのが持論だからだ。

しかしヤフーは強権を発動した。わざわざ「俺の軸はぶれていない」と表明したのは、「孫は変節した」という見立てを否定するためだけではない。1月11日に開かれた岩田とヤフー社長の川邊健太郎の会談録が表沙汰になったからだ。

「ヤフーとしてはですね。あのう…まあ、ロハコの成長の鈍化に非常に強い憂慮を持っている。いま取扱高が500億円くらいのところの中で、ヤフーショッピングの成長を下回りつつある」。会談で川邊は岩田にそう切り出した。

岩田が「何が言いたいのかはっきりしてくれ」といった趣旨の発言をすると、川邊に同伴したヤフー取締役で、アスクルの社外取締役も務める小澤隆生がこう言った。

「言い方が難しいんですけれど、ロハコ事業をヤフーの方に何らかの形で移管する可能性がありやなしやっていうのを、ご検討していただきたいということになりますね」

しばらくして川邊は岩田にその理由を語る。

「ま、僕は別にそんなに孫さんと毎月やらなくてもいいと思ってるんですけど、宮内(謙)さんたち以下、孫さんが大好きなので、毎月食事をするんですね。そうすると必ず孫さんがする質問は、『いつ楽天を抜くんだ』、『いつアマゾンを抜くんだ』と、この2問しかないんですよ。『ロハコとヤフーの方でやります』って回答するんですけれども、要するに『今のロハコのままで大丈夫なのか?』というものに、いま変容しつつある」

岩田が「孫さんが背後にいると感じた」と語ったのはこのセリフがあったからだろうが、孫周辺はこう語る。「デジタル時代は同業トップしか生き残れないと孫さんは思っている。だからヤフーに成長を求めたが、具体策は川邊さんに任せている。だいたい10兆円ファンドで頭がいっぱいの人に、500億円の商売にあれこれ言う暇はない」

孫に一層の成長を求められた川邊はロハコ事業の吸収を思いつく。そこで岩田を説得するのに、孫の名前を出しただけという解説である。

岩田がもう一人の真犯人として挙げた宮内は、5日に開かれたソフトバンクの決算発表会見で「ヤフーを肯定したい。事業を大きく伸ばすための大義があったと判断している」と語った。

宮内の発言は一見、「ヤフーの手段に反対する」とした孫とは食い違っているように見えるが、真意は恐らく一緒だ。

ヤフーは今年6月、「Yahoo!スコア」サービスで失態を演じた。昨年12月には傘下のスマホ決済会社ペイペイ(東京・千代田区)が実施した大規模なポイントキャンペーンで不正利用が発覚した。(本誌2019年8月号「孫正義がポイ捨てする『ヤフー』」参照)

こうしたエラーが続くヤフーをソフトバンクは子会社化した。孫が言うところの同志的結合のままではヤフーの成長は心もとないということだろう。「しかし川邊なりに前足をかいてロハコ事業の吸収を考えた。ヤフーを必死に成長させようとしていることは認めてやろうというのが宮内さんの心境のはず」(ソフトバンク幹部)


◎ヤフーとは「同志的結合」だった?

こうしたエラーが続くヤフーをソフトバンクは子会社化した。孫が言うところの同志的結合のままではヤフーの成長は心もとないということだろう」という解説が解せない。
松島(宮城県松島町)※写真と本文は無関係です

ヤフーをソフトバンクは子会社化した」から「同志的結合」の時代は終わったと筆者は見ているようだ。しかし、それ以前の「ヤフー」は「ソフトバンクグループ(SBG)」の子会社だった。「子会社化」されると「同志的結合」ではなくなるのならば、以前から「同志的結合」ではないはずだ。

ここから最後まで一気に見ていく。

【FACTAの記事】

こうなると真相は、孫や宮内に尻を引っ叩かれている川邊の拙速な経営判断ということになるが、一方の岩田は本当に悲劇のヒーローなのか。宮内は5日の記者会見で気になる発言をしている。「ロハコは前期92億円の赤字でした。他社のことなので詳しく述べるわけにはいかないが、マスコミの皆さん、アスクルの実態をもっと調べられたらいかがですか」

さかのぼる12年4月、ヤフーとアスクルは資本・業務提携を発表した。その約3週間前、ヤフーCEO(最高経営責任者)に就任したばかりの宮坂学(当時)は岩田と面会、すっかり意気投合して330億円の出資は決まったという。

が、このディールは綺麗事ばかりではない。当時、岩田は親会社だったプラスから解任されかかっていた。「そこで発行済み株式の74%にものぼる新株をヤフーに割り当て、プラスが保有する株式の希薄化に成功した」と関係者は言う。

プラスが岩田を解任しようとした理由は定かではない。アスクルはプラスから生まれた会社。岩田はロハコ事業でプラスのライバルであるコクヨ製品も取り扱うなど、異能ぶりを発揮した。「しかし、ともかく在任期間が長く、私物化が目立っていた。岩田さんはバツ2。再々婚した相手は元アスクル社員だ」(関係者)という指摘もある。

ヤフーやソフトバンクの横暴という筋立てを語り、それを鵜呑みにした記事が相次いだため、「ジャーナリストの正義感に感謝する」と語った岩田は「結構な狸」(岩田を知る関係者)でもある。そのあたりも検証しなければ、騒動の真相が何なのかはわからない。(敬称略)


◎なぜ自分で「検証」しない?

最初の話に戻ろう。

記事を読んで「勝ったのに敗者『ヤフー川邊』」と思えただろうか。「川邊」氏に関して「敗者」と取れるくだりがまずない。なのになぜこの見出しなのか。編集部内の誰も気にならなかったとしたら怖い。

アスクル社長解任劇の“真犯人”は、孫や宮内に尻を叩かれている川邊ともう一人いる」に関しては多少の材料がある。「真相は、孫や宮内に尻を引っ叩かれている川邊の拙速な経営判断ということになる」のならば「“真犯人”」は「川邊」氏だけだ。

ではなぜ「もう一人いる」と書いたのか。「岩田がもう一人の真犯人として挙げた宮内」という記述から「宮内」氏かとも考えたが「真相は、孫や宮内に尻を引っ叩かれている川邊の拙速な経営判断」という説明と整合しない。

他に考えられるのは「岩田」氏だ。しかし、解任された側が「“真犯人”」というのも無理がある。どうしても「もう一人」を選べと言われれば「岩田」氏だが、強引すぎる。結局「もう一人」は謎と見なすべきだろう。

ついでに上記のくだりに2つ注文を付けたい。

まず「岩田さんはバツ2。再々婚した相手は元アスクル社員だ」という「関係者」のコメントは何のために入れたのか。経営者としての資質とは基本的に関係ない話だ。「私物化」の具体例のつもりかもしれないが、「元アスクル社員」との「再々婚」を「私物化」と関連付けるのもやはり強引だ。

岩田は『結構な狸』(岩田を知る関係者)でもある。そのあたりも検証しなければ、騒動の真相が何なのかはわからない」という結びも引っかかった。この問題が起きてかなりの時間が経っている。「そのあたりも検証しなければ、騒動の真相が何なのかはわからない」のならば、FACTAが自ら「検証」すればいいではないか。

それを避けているのは、自分たちに「検証」能力がないと認めているからなのか。


※今回取り上げた記事「勝ったのに敗者『ヤフー川邊』
https://facta.co.jp/article/201909006.html


※記事の評価はD(問題あり)。

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