2019年8月30日金曜日

持ち合い解消求める日経も「トヨタとスズキ」の相互出資には好意的?

日本経済新聞は株式の持ち合いをどう評価しているのだろうか。30日の朝刊総合1面に載った「企業は政策保有株の説明責任を果たせ」という社説では「日本の上場企業が取引先の株式を持つ政策保有株の慣行に対し、投資家から疑問の声が強まっている。収益上のメリットが見えづらく、相手と互いに持ち合えば経営者の自己保身につながるからだ」と述べた上で以下のように訴えている。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

足元では凸版印刷など13社が政策保有するリクルートホールディングス株の売却を決める一方、住友不動産のように株の持ち合いを増やす企業もある。機関投資家は政策保有株の削減姿勢で投資先を選別する傾向を強めている。企業は株式市場の声を真剣に受け止め、削減を加速させてほしい

社説を読む限り「持ち合いは好ましくない。解消すべきだ」というのが社論だと思える。それはそれでいい。引っかかるのは他の記事の扱いだ。

この社説が載った前の日(29日)の朝刊1面トップは「トヨタとスズキ、資本提携 自動車『大変革』に備え~相互出資、トヨタ5%」という記事だった。

トヨタが960億円を出資しスズキ株の約5%を持つ。スズキもトヨタに0.2%程度を出資する」という株式の持ち合いを「現在の業務提携から関係をさらに深める」「長期的な関係構築が必要との考えから相互出資に踏み込んだ」などと前向きに報じている。

1面の記事では「持ち合い」という言葉も使っていない。「相手と互いに持ち合えば経営者の自己保身につながる」から「削減を加速させてほしい」と社説で訴えているのに「相互出資」の動きを朝刊1面トップで肯定的に報じるのはどうなのか。

29日の企業2面の解説記事では「相互に緩やかな株式の持ち合いになる」「今回の資本提携は当初から相互の株式持ち合いでパートナーとしての関係を築く考えがあった」などと「持ち合い」という言葉を用いている。新たな「持ち合い」との認識は、この件を報じた記者の中にもあったことになる。

となると、1面に関しては「トヨタとスズキ」を持ち上げるためにマイナスイメージの強い「持ち合い」という表現をあえて避けたのではないかと勘繰りたくなる。

持ち合い」が好ましくないとの前提に立てば、「現在の業務提携」が既にあるのだから「相互出資」は余計な動きと評価するのが自然だ。

社説では「企業は保有する合理性を数字で説明するとともに、説明のつかない株は削減を急ぐべきだ」とも訴えている。裏返せば「説明のつく株は削減を急ぐ必要がない」とも言える。「トヨタとスズキ」は例外的な動きと捉えればいいのだろうか。

その可能性はゼロではないが低そうだ。社説では「主要企業の開示内容を調査したゴールドマン・サックス証券は『ほぼ全ての企業が定量的な保有効果を記載していない』と指摘した」とも書いている。トヨタはマツダなどとも株式を持ち合っている。トヨタが「ほぼ全ての企業」の中に入っているとすれば「定量的な保有効果を記載していない」はずだ。それで「合理性を数字で説明」できているとは考えにくい。

相手と互いに持ち合えば経営者の自己保身につながる」から「削減を加速させてほしい」と日経が訴えるのならば、「トヨタとスズキ、資本提携」という記事は企業面で十分だ。そこで持ち合いの問題点をしっかり指摘して、「相互出資」の早期解消を訴えてほしかった。


※今回取り上げた記事

企業は政策保有株の説明責任を果たせ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190830&ng=DGKKZO49167000Z20C19A8EA1000

トヨタとスズキ、資本提携 自動車『大変革』に備え~相互出資、トヨタ5%
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190829&ng=DGKKZO49132450Z20C19A8MM8000


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