2019年8月25日日曜日

どうなったら「世界分裂」? 日経 甲原潤之介記者に問う

25日の日本経済新聞 朝刊総合2面に載った「G7、世界分裂防げるか きょう開幕~保護主義・ポピュリズム台頭 結束確認へ正念場」という記事は悪い出来ではない。だが引っかかる部分もあった。筆者である甲原潤之介記者への期待も込めて、記事に注文を付けてみたい。
グラバー園の旧三菱第2ドックハウス(長崎市)
          ※写真と本文は無関係です

最も気になったのは、見出しにもなっている「世界分裂」についてだ。

【日経の記事】

主要7カ国首脳会議(G7サミット)が24日午後(日本時間25日未明)、フランスのビアリッツで開幕する。米欧は保護主義やポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭し、閉塞感を強める。米中両国による報復関税合戦はグローバル経済の危機でもある。世界の分裂を阻止できるか。G7サミットはその試金石となる。



◎「世界の分裂」は実現してない?

記事を最後まで読んでも 「世界の分裂」の基準は不明だ。多くの独立国があって、日韓のような険悪な関係も珍しくない状況を考えると「世界の分裂」は現実になっているとも言える。

世界の分裂を阻止できるか。G7サミットはその試金石となる」と書いているのだから、甲原記者は「世界の分裂」がまだ起きていないとみているのだろう。それはそれでいい。だが、大きな見出しで「G7、世界分裂防げるか」と打ち出すのならば、何を以って「世界の分裂」とするのかの基準は示してほしい。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

G7サミット直前の23日、トランプ米大統領は2500億ドル(約26兆円)分の中国製品に課している制裁関税の引き上げを発表した。中国の報復関税への対抗措置で、トランプ氏はその余勢を駆ってG7に参加する。

2017年にトランプ氏が大統領になって以降、サミットの風景は一変した。自由貿易の旗振り役だった米国の大統領がその役割を放棄し、保護主義に傾いているためだ。

これまでG7サミットの核心だった保護主義への反対と自由貿易の推進を確認できないのは、G7サミットの存在理由を問われかねない事態ともいえる。

カナダ・シャルルボワで開いた昨年のG7サミットは貿易の立場で米国と他の6カ国は違った。首脳と事務方はサミット閉幕日の朝、狭い部屋に集まり首脳宣言の文言を協議した。

トランプ氏も一度は首脳宣言に同意したが、採択のわずか3時間後、議長国カナダの記者会見に反発し「承認しない」とツイッターで表明。議長国のメンツを潰した。

自国第一を掲げるトランプ氏の基準は明快だ。再選のかかる2020年11月の大統領選に得か損か。G7もその内向きの考え方で臨むため、協調できる分野は限定的になる。

今回もパリ協定など温暖化対策を巡るトランプ氏と欧州勢の対立は必至。米側が提唱する中東のホルムズ海峡を航行する民間船舶の安全を確保するための有志連合づくりも米欧が一致するかは微妙だ。

サミットは事務方が各国の意見を集約し、首脳宣言の文案をつくる。各国の意見が合わない分野は首脳会議の場で表現などを詰める。多くの分野は事務方が事前に作った台本通りに議論が進むが、トランプ氏の登場以降、それは難しくなった。今回は台本を作ることもできていない。

議長であるフランスのマクロン大統領は「G7のリニューアル(刷新)」を掲げ、首脳宣言を出さない考えを示していた。

ドイツなどから「宣言は出すべきだ」との要望が強まり、直前になっても首脳宣言を出すかどうかの方針が定まらない異例の展開だ。

安倍晋三首相はサミット開幕直前にG7最多参加のドイツのメルケル首相らと個別に会う。事前に議論の進め方を擦り合わせるためだ。

首相に同行している日本政府関係者は「今回のG7は何が出てくるか分からない『びっくり箱』だ」と話す。


◎「G7最多参加のドイツのメルケル首相」?

まず「G7最多参加のドイツのメルケル首相」という説明が引っかかる。歴代「最多参加」が「メルケル首相」ならばこの書き方でもいい。しかしドイツのコール元首相の在任期間は16年なので「参加」回数で「メルケル首相」を上回っているのではないか。
くにみ海浜公園(大分県国東市)※写真と本文は無関係

今回参加する首脳の中で「最多参加」との趣旨ならば、その点は明示すべきだ。

多くの分野は事務方が事前に作った台本通りに議論が進むが、トランプ氏の登場以降、それは難しくなった。今回は台本を作ることもできていない」といった記述から、甲原記者は「事務方が事前に作った台本通りに議論が進む」予定調和型の「首脳会議」が好ましいと考えているのだろう。

個人的には「何が出てくるか分からない『びっくり箱』」の「首脳会議」であってほしい。「事務方が事前に作った台本通りに議論が進む」のならば、多くの時間と費用をかける意味はあまりない。「何が出てくるか分からない」ガチンコの議論をしてこそ各国の首脳が顔を合わせる価値があると思える。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

G7を含む各首脳会議は外相や財務相を集めた閣僚会合の枠組みもある。6月末の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の前哨戦となった同月上旬の茨城県つくば市でのG20貿易相会合。共同声明で「反保護主義」の文言明記を見送った。

G7は今年、外相会合を4月に開き、サイバー攻撃対処での協力を宣言した。7月の財務相・中央銀行総裁会議はデジタル通貨「リブラ」の規制などを話し合い、議長総括を出した。今回、こうした積み上げが首脳会議の議論に反映されるかも分からない。

英国は欧州連合(EU)離脱強硬派のジョンソン首相が初めて出席する。昨年「G6+1」といわれたG7はさらに混迷の度合いが深まっている。

1975年、第1回のサミット(当時はカナダを除く6カ国)を発案したのはフランスのジスカールデスタン大統領だった。西ドイツのシュミット首相との「仏独コンビ」が第1次石油危機や変動相場制など西側諸国の経済問題で議論を先導した。



◎「変動相場制」で伝わる?

変動相場制」は「変動為替相場制」のことだろう。「変動相場制」だけで読者に伝わると甲原記者は判断したのか。だとしたら不親切が過ぎる。

最後に結論部分を見ていく。

【日経の記事】

その後の40年以上、首脳宣言は欠かさず出した。世界経済の安定や自由貿易の推進、北朝鮮の非核化など幅広いテーマで共通のメッセージを発信してきた。

米中貿易戦争の影響で世界経済の下振れリスクは高まる。G7の足並みの乱れは世界の不安を助長する。

自由貿易と民主主義をけん引してきたG7は戦後の世界の秩序づくりを主導した。サミットはG7の共通の価値を確認し、結束を示す場だった。

もし混乱がことさら注目されるのであれば、G7サミットの事実上の終焉(しゅうえん)と言わざるを得なくなる


◎「混乱がことさら注目」されたら「事実上の終焉」?

もし混乱がことさら注目されるのであれば、G7サミットの事実上の終焉(しゅうえん)と言わざるを得なくなる」という結論には同意できない。むしろ逆ではないか。「事務方が事前に作った台本通りに議論が進む」予定調和型の「G7サミット」が世界の注目を集めるだろうか。

何が出てくるか分からない『びっくり箱』」の「G7サミット」で「混乱」が起きて人々の関心を集めた方が、存在意義は高まりそうな気がする。少なくとも個人的には、予定調和型の「G7サミット」に興味はない。


※今回取り上げた記事「G7、世界分裂防げるか きょう開幕~保護主義・ポピュリズム台頭 結束確認へ正念場
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190825&ng=DGKKZO48973560U9A820C1EA2000


※記事の評価はC(平均的)。甲原潤之介記者への評価はCで確定とする。甲原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 甲原潤之介記者は「非核化の歴史3勝3敗」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/33.html

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