2017年12月10日日曜日

「日本は鎖国」に無理がある 津山恵子氏「Netflix」関連記事

週刊ダイヤモンド2017年12月16日号に載った「World Scope from 米国~独り勝ちのNetflixに作品を供給できない『鎖国』日本の現状」という記事には騙された。筆者であるニューヨーク在住ジャーナリストの津山恵子氏は「各国のコンテンツが国境を越えている中、日本のコンテンツはいまだ『鎖国』状態だ」と記事を結んでいるが、実際には「鎖国」でも何でもないようだ。記事の一部を見ていこう。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
            ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

日本の動画配信サービス、プレミアムGYAO!が、サービスを終了する。乱立する動画配信サービスの中で、早くも淘汰が始まったのだろう。

このところ筆者は、米Netflixの「独り勝ち」を痛感している。それは、オリジナルドラマを世界に配信できるほか、世界中のコンテンツに投資をし、国境を越えて縦横無尽に配信できるという点だ。日本のコンテンツホルダーにも、Netflixが持つ世界的規模の配信網を利用する戦略を取るところが出てくるべきだ。

中略)現在、190カ国に1億人超の会員がおり、海外の会員数は、米国内の会員数を超えた。この「規模の経済」を生かしたコンテンツをなぜ、一部を除く日本のテレビ局や映画会社が提供できずにいるのか。各国のコンテンツが国境を越えている中、日本のコンテンツはいまだ「鎖国」状態だ。


◎複数のテレビ局が提供していても「鎖国」?

「Netflixに作品を供給できない『鎖国』」という見出しに釣られて記事を読み進めると、最後の方に「コンテンツをなぜ、一部を除く日本のテレビ局や映画会社が提供できずにいるのか」と出てくる。「えっ! 『一部を除く』なの? それで『鎖国』と言えるの?」と驚いてしまった。

調べてみると、フジテレビとテレビ東京はNetflixにコンテンツを提供しているらしい。民放キー局は5つしかない。そのうちの2つがNetflixと協力関係にあるのに「『鎖国』状態」と言われても困る。

「一部を除く」と入れているのだから、フジやテレ東の動きは津山氏も分かっているはずだ。それでも「鎖国」と打ち出したのならば、書き手としてのモラルか基礎的能力のどちらか(あるいは両方)に問題がある。

そもそも、「日本のコンテンツはいまだ『鎖国』状態だ」と言い切るならば、Netflixだけでなく他の動画配信サービスにもコンテンツを提供せず、自らも海外への配信に動こうとしないという状況が欲しい。Netflixに限っても複数のテレビ局がコンテンツを提供しているのに日本を「鎖国」と表現するのは無理が過ぎる。厳しく言えば間違いだ。


※今回取り上げた記事「World Scope from 米国~独り勝ちのNetflixに作品を供給できない『鎖国』日本の現状」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/22088


※記事の評価はD(問題あり)。津山恵子氏への評価も暫定でDとする。

2017年12月9日土曜日

日経ビジネス池松由香記者の理解不能な「トヨタ人事」解説

自分の読解力に絶対の自信があるわけではない。だが、日経ビジネス12月11日号に池松由香記者が書いた「時事深層 COMPANY~批判は『想定内』、章男社長の決意 トヨタ、前倒し役員人事の波紋」という記事を理解できないのは、記事の方に問題がある気がする。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

「デンソー副会長の小林耕士氏のトヨタ自動車副社長就任」は「自動ブレーキや自動駐車などの周辺技術を持つアイシン精機の主導権をまず握り、間接的にデンソーに影響力を持とうとしている」トヨタの豊田章男社長の「決意」が込められたものだと池松記者は分析している。この説明には多くの疑問符が付く。

記事の全文は以下の通り。

【日経ビジネスの記事】

トヨタ自動車が11月28日に発表した役員級人事が業界に波紋を投げかけている。例年4月1日付で新体制が発足するが、今回は3カ月前倒し。外部人材や女性の登用も進める。「お友達人事」(業界関係者)と批判の声もある今回の人事。豊田章男社長は一つの決意を込めていた。

発表した2018年1月1日付人事は異例尽くしだ。三井住友銀行から人材を招いたり、常務役員に初めて生え抜きの女性を登用したり。中でも多くの関係者が驚いたのがデンソー副会長の小林耕士氏のトヨタ自動車副社長就任だ。小林氏といえば、豊田章男社長が若い頃に仕えた元上司。03年にデンソーに出向し、15年6月からは同社副会長を務めている。今年4月からはトヨタの相談役も兼ねるようになった。

そもそもトヨタの役員経験者でない小林氏が相談役に就いたのも異例なら、その小林氏が副社長になるのも異例だ。業界から「お友達人事」と批判の声が出るが、章男社長にとってはそんな批判も「想定内」に違いない。小林氏の登用にある決意を込めているからだ。

あるグループ会社の有力OBがこう読み解く。「自動ブレーキや自動駐車などの周辺技術を持つアイシン精機の主導権をまず握り、間接的にデンソーに影響力を持とうとしている」

どういうことか。前提にあるのは「自動車業界は100年に1度の大変革の時代に入った」という章男社長の強い危機感だ。電動化や自動運転技術が進展し、競争環境が大きく変わる中で、こうした技術に強みを持つデンソーと密な連携を進めたいのが章男社長の本音。独ボッシュや独コンチネンタルなどメガサプライヤーと伍していく上でもグループ内での連携は欠かせないはずだ。

だが、デンソーにとってトヨタは取引先の一社にすぎない。これまでもトヨタから経営トップを受け入れない方針を貫いてきた。章男社長の危機感をデンソー経営陣が深いレベルで共有することはなかなか難しかった。

そこで白羽の矢が立ったのがアイシン精機だった。アイシンの現社長はトヨタで調達本部長や副社長などを歴任した伊原保守氏。章男社長の危機感を察し、社内改革にも着手していた。

そのアイシンでは来年1月1日付で、トヨタの先進技術開発カンパニーを束ねる伊勢清貴氏をひとまずアイシンの走行安全VC(バーチャルカンパニー)のトップに据え、6月から社長に就任させる予定だ。事務系から技術系トップへの切り替えは、トヨタがそれだけグループの技術力強化を目指している決意の表れといえる。

さらにアイシン傘下のブレーキ大手、アドヴィックス(愛知県刈谷市)にも社長を送り込む。同社は昨年10月、103億円の増資を実施。デンソーはこの時、同社への出資比率を18%から34%に高めているが、これは「トヨタからの要請があったから」(関係者)といわれる。

オールトヨタで世界に挑むために章男社長が下した異例の人事。吉と出るか凶と出るか。判断するには、まだ時期尚早だろう。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)副社長にすると何が変わる?

西日本短期大学附属高校(福岡県八女市)
         ※写真と本文は無関係です
デンソーへの影響力を強め「密な連携」関係を作るのが、小林氏をトヨタの副社長に就任させた目的だとしよう。小林氏はこれまでもトヨタの相談役だった。副社長になると、デンソーへの影響力に何か変化が生じるだろうか。

小林氏のデンソーでの役職は「副会長」で変わっていない。豊田社長と小林氏の関係は元から良いようなので、「副会長」としてデンソーに影響力を行使してもらいたいのならば、今まででもできたはずだ。デンソーでの役職が変わらないのだから、トヨタで副社長になったからと言って、デンソー内での力が強くなるわけでもないだろう。

何か特殊な事情があって、「トヨタで副社長になるとデンソーでの影響力が増す」と言うのならば、その事情を解説すべきだ。


(2)アイシン支配でデンソーへの影響力が増す?

「自動ブレーキや自動駐車などの周辺技術を持つアイシン精機の主導権をまず握り、間接的にデンソーに影響力を持とうとしている」という流れも理解しにくい。デンソーに対するアイシンの出資比率は2%未満なので、アイシンを支配してもデンソーへの影響力に大きな変化が生じるとは考えにくい。仮に特殊な事情があるのならば、やはり記事中で説明すべきだ。


(3)前からアイシンは支配済みでは?

「アイシン精機の主導権をまず握り」と言うが、前から「主導権」は握っているのではないか。「アイシンの現社長はトヨタで調達本部長や副社長などを歴任した伊原保守氏」だ。「トヨタの先進技術開発カンパニーを束ねる伊勢清貴氏」が来年「6月から社長に就任」するとしても、トヨタ出身者が社長を務めるのは同じだ。なのに「主導権」に変化が生じるのか。


(4)アイシンと小林氏人事の関係は?

豊田社長が「アイシン精機の主導権をまず握り、間接的にデンソーに影響力を持とうとしている」として、それが小林氏の人事とどう関係するのかも謎だ。小林氏に関しては「03年にデンソーに出向し、15年6月からは同社副会長を務めている」とは書いてあるが、アイシンに影響力があると判断できる記述はない。アイシン経由で「デンソーに影響力を持とうとしている」場合、小林氏は何の役に立つのだろう。


(5)アドヴィックスの話は何の関係が?

「アイシン傘下のブレーキ大手、アドヴィックス(愛知県刈谷市)にも社長を送り込む」という話も、どう理解すべきか迷う。まず、小林氏の人事との関連がなさそうに見える。アイシンへの影響力という点では、既にアイシン本体に社長を送り込んでいるのだから、「アドヴィックス(愛知県刈谷市)にも社長を送り込む」ことに大した意味はなさそうだ。
大牟田市役所(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

デンソーがアドヴィックスへの出資比率を高めているとすれば、デンソーからアドヴィックス(あるいはアイシン)への影響力は増すかもしれないが「アイシン精機の主導権をまず握り、間接的にデンソーに影響力を持とうとしている」という動きにプラスに働くとは思えない。

ついでに言うと「デンソーはこの時、同社への出資比率を18%から34%に高めている」というくだりでは「同社=アドヴィックス」のつもりだろうが、形式的には「同社=デンソー」になってしまう。


(6)トヨタは単なる取引先?

「デンソーにとってトヨタは取引先の一社にすぎない。これまでもトヨタから経営トップを受け入れない方針を貫いてきた」と書いてあると、「デンソーはトヨタグループの一員ではない」と理解したくなる。しかし、記事の最後では「オールトヨタで世界に挑むために章男社長が下した異例の人事」とも述べており、これだと「デンソーはトヨタグループの一員」と考えるほかない。整合性に問題ありだ。

トヨタのホームページでもデンソーは明確にグループ企業として位置付けられている。「デンソーにとってトヨタは取引先の一社にすぎない」との説明に問題があると言うべきだ。

なぜ今回のような不可解な記事が出たのかは、何となく想像がつく。「お友達人事」との批判が予想以上に大きかったために、トヨタ関係者が池松記者に働きかけて「お友達人事」ではないという記事を書かせようとしたのだろう。

「お友達人事ではない」という筋立てにかなり無理があるのに、なぜか池松記者は受け入れて記事にしてしまった--。あくまで推測だが、そう考えると今回の記事に無理筋が目立つのもかなり腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~批判は『想定内』、章男社長の決意 トヨタ、前倒し役員人事の波紋」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/120400844/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。池松由香記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。

2017年12月8日金曜日

隠れ債務「2030年試算」の説明に難あり 日経「砂上の安心網」

日本経済新聞朝刊1面で連載していた「砂上の安心網~2030年への責任」が終わった。これまでの「砂上の安心網」シリーズに比べると悪くない出来だったが、8日の最終回「(4)不都合な現実 今こそ直視 痛みは分かち合うもの」という記事には引っかかる説明があった。問題のくだりは以下のようになっている。
福岡県うきは市の白壁通り ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

では、いまの高知のように日本全体で3人に1人が高齢者になると何が起きるのか。団塊の世代が80代になる2030年の試算が衝撃を告げる。年金や医療、介護の隠れた債務はおよそ2000兆円。国が抱える1000兆円の借金の2倍もの負担が将来世代にのしかかる。人類が経験したことのない状況を迎える。

◇   ◇   ◇

疑問点を挙げてみる。

(1)どこの試算?

「2030年の試算が衝撃を告げる」と言うものの、どこの誰が「試算」したのか明らかにしていない。「試算」が妥当なのか読者が検討しやすいように、出所はきちんと示してほしい。


(2)なぜ今と比べない?

問題の「試算」には2016年12月19日付の「砂上の安心網 第1部~2030年 不都合な未来(1)学習院大の鈴木亘教授『社保改革の約束、景気冷やさず』」という記事で触れている。そこでは「鈴木教授は『社会保障純債務』という言葉を使い、それが2015年時点で約1600兆円、30年時点で2000兆円弱になると試算しました」と出てくる。
日田駅に停車中のクルーズトレイン ななつ星 in 九州
            ※写真と本文は無関係です

今回の記事では「2015年時点で約1600兆円」に触れずに、「2030年」には隠れ債務が「2000兆円」になると述べている。ご都合主義的な数字の見せ方だ。

取材班でも「2030年に2000兆円だと『衝撃』だが、2015年の1600兆円は大したことがない」とは考えていないだろう。このままでは「2030年」には大変な事態になると強調したいがために「2015年時点で約1600兆円」を隠したのではないか。だとすると、一種の騙しだ。現時点(あるいは直近)のデータをきちんと示した上で「2030年」の「衝撃」を訴えてほしい。


(3)負担は「将来世代」限定?

「負担が将来世代にのしかかる」との説明も正確さに欠ける。記事の書き方だと「2000兆円」の隠れ債務を現役世代は負担しないような印象を受ける。2030年以降に「隠れた債務」を返済する場合、今の20代や30代の現役世代にも負担はかかる。

「将来世代にツケを残すな」と言いたいのは分かるが、無理のある説明ではかえって説得力がなくなってしまう。


※今回取り上げた記事「砂上の安心網~2030年への責任(4)不都合な現実 今こそ直視 痛みは分かち合うもの」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171208&ng=DGKKZO24396610X01C17A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。「砂上の安心網~2030年への責任」の連載全体への評価はC(平均的)とする。過去の「砂上の安心網」シリーズについては以下の投稿を参照してほしい。

「2030年に限界」の根拠乏しい日経1面「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030.html

第2回で早くも「2030年」を放棄した日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030_20.html

「介護保険には頼れない」? 日経「砂上の安心網」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_21.html

日経朝刊1面連載「砂上の安心網(4)」に見えた固定観念
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_62.html

どこが「北欧流と重なる」? 日経1面「砂上の安心網(5)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_42.html

「格差是正が必要」に無理あり 日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_16.html

医療費で「番人」責めて意味ある? 日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_17.html

日経1面連載「砂上の安心網」取材班へのメッセージ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_22.html

日経「がん死亡率と1人当たり医療費」で無意味な調査
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_73.html

「既得権サークル」批判に説得力が乏しい日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_26.html

実態を曲げて伝える日経1面「砂上の安心網(3)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_70.html

民主主義より厚労省主導? 日経「砂上の安心網」の危うさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_30.html

センサーで排尿回数が減る? 日経「砂上の安心網」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_13.html

最後まで苦しい日経「砂上の安心網~未来との摩擦(3)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_14.html

「脳梗塞死亡率」の分析が不十分すぎる日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_20.html

2017年12月7日木曜日

エルサレムは「アジアから縁遠い」? 日経 岐部秀光記者に問う

米国によるエルサレム首都認定問題で7日の日本経済新聞朝刊総合2面にドバイ支局の岐部秀光記者が「3宗教の聖地 対立100年、世界の火種に 難民・国境…課題多く」という解説記事を書いている。この中で以下の2つの記述が引っかかった。
塚堂古墳(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

「日本やアジアから縁遠いとも感じるエルサレムの問題は、中東のみならず世界にとっても大きなリスクとなる」

「エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、中東だけでなく欧州や米国に暮らすそれぞれの信者にとって心情的に特別な土地だ」

前後は以下のようになっている。

【日経の記事】

日本やアジアから縁遠いとも感じるエルサレムの問題は、中東のみならず世界にとっても大きなリスクとなる。

「ユダヤ人のための民族的郷土(ナショナルホーム)をパレスチナに樹立することを支持する」――。第1次世界大戦中の1917年、バルフォア英外相がユダヤ系銀行家のロスチャイルド卿にあてた短い文書がイスラエル独立の根拠になった。英国は並行して大戦後の中東の勢力圏を仏ロと分け合うことを確認し、アラブ人にも独立を約束していた。この英国の「三枚舌外交」が現代の混乱につながる。

今年は「バルフォア宣言」から100年、イスラエルが東エルサレムを占領した67年の第3次中東戦争から50年になる。

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、中東だけでなく欧州や米国に暮らすそれぞれの信者にとって心情的に特別な土地だ。エルサレムをめぐる争いはこの100年、世界の火種になってきた。

◇   ◇   ◇

引っかかった点を列挙してみる。

(1)日本はアジアの外?

「日本やアジア」と書くと「日本はアジアの一部ではない」との印象を受けるが、常識的にはアジアの一部だ。


(2)エルサレムは「アジアから縁遠い」?

「日本やアジアから縁遠いとも感じるエルサレムの問題」と書いているが、個人的にはエルサレムはアジアの一部だと思える。ブリタニカ国際大百科事典はアジアについて以下のように定義している。
天ケ瀬温泉(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

「ユーラシアの東過半分と付属島からなり,南緯10°から北は北極海にまで広がる地域。東は太平洋,南はインド洋に臨み,西はウラル山脈,ウラル川,カスピ海,大カフカス山脈,黒海,ボスポラス海峡,ダーダネルス海峡を結ぶ線でヨーロッパに接し,南西はスエズ地峡によってアフリカに続く」

「スエズ地峡」をアジアとアフリカの境目とすれば、エルサレムはアジアに入る。中東をアジアから除く考え方もあるので「エルサレムはアジアの一部」と断定はしない。だが、アジアに含めてもおかしくないエルサレムについて「アジアから縁遠い」と書いてあると違和感はある。

アジアの範囲を狭く見た場合でも「アジアから縁遠い」との説明はどうかと感じた。マレーシアやインドネシアは明らかにアジアの一部で、しかもイスラム教徒が多い国だ。こうした国も含めて「エルサレムの問題」は「アジアから縁遠い」と言えるのか。エルサレムは「イスラム教の聖地」でもあるはずだ。


(3)なぜ「欧州や米国」限定?

「エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、中東だけでなく欧州や米国に暮らすそれぞれの信者にとって心情的に特別な土地だ」と書いてあると、「ユダヤ教、キリスト教、イスラム教」の信者は、中東以外では「欧州や米国」にしかいないように感じる。実際にはカナダや中南米にも多くのキリスト教徒がいるし、中東以外のアジアやアフリカにもイスラム教徒が多い国はある。「欧州や米国など」と「など」を入れるだけで問題は解決するのだが…。


※今回取り上げた記事「3宗教の聖地 対立100年、世界の火種に 難民・国境…課題多く」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171207&ng=DGKKZO24352680W7A201C1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。岐部秀光記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

2017年12月6日水曜日

「仮想」不在の日経ビジネス「外食に仮想レストランの波」

日経ビジネス12月4日号に「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動」という記事が載っている。タイトルを見ると、「仮想レストラン」が次々に誕生しているような印象を受けるはずだ。しかし、記事で取り上げた事例で真の「仮想レストラン」は1つもない。
甘木鉄道 甘木駅(福岡県朝倉市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の当該部分、日経BP社への問い合わせ、BP社からの回答を続けて見てほしい。

【日経ビジネスの記事】

飲食店の出前を代行するサービスが急増している。新聞販売店の従業員や一般の人に配達を委託し、多くの飲食店を巻き込む。その結果、店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある。

今、製薬会社のMR(医薬情報担当者)の間で人気の弁当がある。Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)の牛肉弁当だ。あるMRのサイトでは、著名な焼肉専門店の弁当を上回り、最も満足度が高い弁当に挙げられる。

MRは夜の接待が制限され、医者とコミュニケーションをとるのが難しくなっている。その代わり増えているのが、弁当の差し入れだ。医者たちと弁当を食べながら、薬の説明をする。フジヤマの弁当が人気なのは、コストパフォーマンスが良いからだ。黒毛和牛カルビ二段弁当で2160円など2000円前後のメニューが多い。MRは病院などで温かい弁当を受け取る。

フジヤマの弁当は、一般の人にはあまり知られていない。それは、店舗を持たないバーチャルレストランだからだ。東京都品川区のキッチンで弁当を作ることに経営資源を投入し、弁当を1日当たり300食販売する。多いときは500食になるという。

好調な弁当販売を支えているのが、出前代行だ。楽天が運営する「楽びん!」などを活用。バイクやスタッフを用意することなく、手数料の支払いで出前を委託できる。フジヤマを経営するギゼンの藤山敬一社長は、「出前代行があってこそ、店舗を持たないビジネスモデルが成功した」と振り返る。

ギゼンは、2010年から東京・表参道でレストランも運営していた。ただ、店の賃料や人件費などコストがかさみ店舗は12年に閉店を余儀なくされた。再起を期したのが現在のバーチャルレストランのモデル。好調なため16年には店舗を再び出店し、18年からは出前代行をフル活用し、個人宅への販売を強化する方針だ。


【日経BP社への問い合わせ】


日経ビジネス編集部 大西孝弘様 河野祥平様 宇賀神宰司様

12月4日号の「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動」という記事についてお尋ねします。記事では、ギゼンが運営する「Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)」に関して「フジヤマの弁当は、一般の人にはあまり知られていない。それは、店舗を持たないバーチャルレストランだからだ」「再起を期したのが現在のバーチャルレストランのモデル」と説明しています。これを信じればフジヤマは現在も「店舗を持たないバーチャルレストラン」のはずです。
古賀病院21(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事では「好調なため16年には店舗を再び出店」とも記しており、矛盾が生じます。店舗を構えて商品を受け渡ししているのであれば「バーチャルレストラン」とは言えません。フジヤマの現状を「バーチャルレストラン」と紹介するのは誤りではありませんか。店を構えて出前もするという、ありがちな「モデル」にしか見えません。店を出した後も「店舗を持たないバーチャルレストラン」に当たるとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、記事の冒頭では「店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある」と言い切っていますが、具体例として出てくるのはフジヤマだけです。唯一の事例が「店舗を構えて出前をする弁当店」だとすれば「店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある」との説明も怪しく思えてきます。実際には「存在感」は乏しいのではありませんか。本当に「存在感を高めつつある」と言えるのならば、それを裏付ける事実を記事中で提示すべきです。

「出前代行サービス」の話で記事を作ろうとしたが、それでは地味なので「仮想レストラン」を前面に出すことになり、無理のある説明になった--といった事情が透けて見えるような気もします。しかし、それは読者には関係のないことです。看板に偽りのない記事作りを心掛けてください。


【日経BP社からの回答】

ご購読いただきありがとうございます。いただいた質問にご回答させていただきます。

ギゼンが運営する「Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)」は、店舗を持たず牛肉弁当の調理に特化しています。ギゼンの経営者は、店舗運営の負担がないことから調理に集中できて、販売を伸ばすことができたと語っています。

ご指摘のように2016年に出店しました。これはバーチャルレストランの経営が好調だったため、さらなる収益拡大を図ったという背景があります。メニューも違うので、バーチャルレストランと店舗の運営は別々にしています。また今後もバーチャルレストランを経営の中心にするという方針で、外部から人材を招き、個人宅への出前を強化していく予定です。

誌面スペースの関係で載せることはできませんでしたが、従来からピザや寿司のように店舗を持たず、デリバリー特化型のバーチャルレストランは数多くございます。これまでは自社でバイクや従業員を抱え、出前をするケースが多かったのですが、最近は自社で出前システムを構築せず、出前代行のインフラを利用する事業者が登場してきました。

また、出前代行ではないものの、昨今の宅配ニーズを受けて、デリバリー特化型として店舗を持たず、ピザや寿司以外にも、様々な料理を提供するバーチャルレストランが増えています。こうした業者は、受発注については「出前館」などの情報インフラに乗るなど、新たな仕組みの活用に積極的です。一方で、宅配寿司を展開してきた事業者が出前代行を始めるど、業容を広げている例もあります。

記事で紹介した米国だけでなく、中国でもバーチャルレストランが普及しつつあります。日本でも出前サイト運営の経営者が、こうした業態を広げるための新たなビジネスモデルを検討しているようです。

ご質問をいただき、誠にありがとうございます。読者に伝わりやすい表現を心がけ、執筆・編集に努めたいと存じます。

◇   ◇   ◇

苦しい回答ではある。「ギゼンが運営する『Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)』は、店舗を持たず牛肉弁当の調理に特化しています」と言い切りながら「ご指摘のように2016年に出店しました」とも書いており、矛盾を解消できていない。店舗があるのならば「バーチャルレストランを経営の中心にする」のではなく「出前を経営の中心にする」と考えるべきだ。
福岡県立朝倉高校(朝倉市)※写真と本文は無関係です

「従来からピザや寿司のように店舗を持たず、デリバリー特化型のバーチャルレストランは数多くございます」という説明も無理がある。確かに寿司やピザでは「デリバリー特化型」も珍しくない。だが、多くの場合「店」はある。「デリバリー特化型のバーチャルレストラン」と言うならば、看板を掲げた店がなく、ネット注文に特化している必要がある。電話などで注文を受ける出前専門の寿司店を「バーチャルレストラン」とは呼ばないはずだ。回答を含めて考えても、少なくとも日本では「外食に仮想レストランの波」が来ている感じはしない。

それでも回答をしたこと自体は高く評価したい。東昌樹編集長の下で日経ビジネスが正しい方向に向かっていると実感できる。


※今回取り上げた記事「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/112800840/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。大西孝弘記者への評価は暫定B(優れている)から暫定Cに引き下げる。河野祥平記者への評価はCで確定とする。宇賀神宰司記者は暫定でCとする。さらに、最近の日経ビジネスの内容、間違い指摘への対応などを総合的に評価して、東昌樹編集長への評価をB(優れている)とする。

2017年12月5日火曜日

友野典男 明大教授の「サンクコスト」の解説に異議あり

週刊エコノミスト12月12日号の特集「すぐに使える新経済学」は内容の目新しさに欠けるものの、出来は悪くない。ただ「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」という記事に出てくる「サンクコスト」の解説は間違いだと思える。筆者の友野典男 明治大学教授はこの分野の専門家なので誤りを指摘するのは気が引けるが、どう考えても納得できなかったので編集部に問い合わせを送ってみた。その内容は以下の通り。
宝満川(福岡県久留米市・佐賀県鳥栖市)
       ※写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】


週刊エコノミスト編集部 担当者様  
明治大学教授 友野典男様

12月12日号の特集「すぐに使える新経済学」の中で、友野様が書かれた「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」という記事についてお尋ねします。記事では「サンクコスト」に関して以下のように解説しています。

「バイキング料理で料金の元を取ろうとして食べ過ぎてしまったことはないだろうか。バイキング料理に5000円払ってしまったら、もう5000円は戻ってこない。このように、既に支払ってしまって、回収不能なコストを『サンクコスト』と言う。このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる。合理的な選択では、サンクコストである5000円のことは忘れて、どれだけ食べれば適切なのかだけを考えて食べる。カロリー摂取量を気にしていたり、ダイエット中だったりしたら、そこそこで食べるのをやめればよい。しかし、つい食べ過ぎてしまうのは、もう戻らない5000円にとらわれて非合理的な選択をするサンクコスト効果のためだ。私たちが陥りがちな強固なバイアスの一つと言われている」

「サンクコスト」とは「すでに支出され、どのような意思決定をしても回収できない費用のこと」(デジタル大辞泉)を指します。「バイキング料理に5000円」を払う場合、食べることによって投資を「回収」できるはずです。食材の原価で回収度合いを計算するとしましょう。5000円が「サンクコスト」ならば、食べ始めた段階で「回収不能」となっているはずです。しかし、本人の健康などに問題が生じない範囲で原価5000円分の食事ができれば投資は「回収」できます。ゆえに「サンクコスト(どのような意思決定をしても回収できない費用)」とは言えません。

「このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる」とするのであれば、「回収」にも「食事の楽しさ」などを含めてよいでしょう。そうなれば、さらに「回収」は容易になります。

バイキング料理に支払った5000円を「サンクコスト」とする説明は誤りではありませんか。控えめに言っても、例として不適切だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
須賀神社(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

「サンクコスト」の解説には続きがある。ここでも1つ指摘しておきたい。

【エコノミストの記事】

公共事業や企業経営でもサンクコスト効果は生じ、「コンコルド効果」と呼ばれることもある。

英仏が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」は、完成しても採算が取れる見通しがなかったために開発途中で中止も検討された。しかし、それまでに投資した巨額のコストが無駄になるという理由で開発が強行された。その後に完成・就航したが赤字は累積し、事故も起こし、早々に運航中止になった。

開発を途中でやめれば、確かにそれまでの投資は回収できない。だが、赤字額は開発を強行した場合よりもずっと少なく済んだはずだ。



◎コンコルドは「早々に運航中止」?

ブリタニカ国際大百科事典によると、「(コンコルドの)定期便は 1976年1月 21日、ロンドンから英国航空、パリからエールフランスが同時に運航を開始した」という。「2003年全機引退した」ので、定期便の運航開始から全機引退までに20年以上を要している。これを「早々に運航中止になった」と説明するのは無理がある。


※今回取り上げた記事「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20171212se1000000037000


※記事の評価はD(問題あり)。友野典男教授への評価も暫定でDとする。

2017年12月4日月曜日

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員

特に訴えたいこともないが、紙面を割り当てられたので仕方なくあれこれ書いてみました--。4日の日本経済新聞朝刊1面に載った「ポスト平成 新しい日本へ(下)激動の世界 現実主義で」という記事の筆者である大石格編集委員の気持ちを代弁すれば、こんなところだろうか。「激動の世界 現実主義で」と見出しでは打ち出しているものの、「何に関して、どういう現実主義が求められているのか」は教えてれない。
夜明大橋(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

他にもこの記事には色々と問題を感じた。まずは冒頭を見ていこう。

【日経の記事】

平成の始まりと冷戦の終わりが軌を一にしたのは偶然だが、米国にとって最大の敵だったソ連の消滅は日本の立場を大きく変えた。



◎「軌を一にした」の使い方が…

「軌を一にする」を辞書で調べると「1、車の通った跡を同じくするように、立場や方向を同じくする。2、国家が統一される」(デジタル大辞泉)と出てくる。記事の「平成の始まりと冷戦の終わりが軌を一にした」というのは、辞書に出てくる1でも2でもない。

そもそも「平成の始まり」と「冷戦の終わり」は時の流れの中の「点」なので「『軌』を一に」との相性が良くない。「平成の始まりと冷戦の終わりが時を同じくした」などとした方が自然だ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

平成になって半年。1989年7月にパリで開いた宇野宗佑首相とブッシュ大統領(父)の日米首脳会談は史上最短の6分間で終わった。日本の貿易黒字を減らすための構造協議を始めることで合意したことになった。

「話し合いは以心伝心で行われた」と政府筋は解説したが、要するに米政府が作成したペーパーを手渡されて終わったのだ。米国では日本を新たな脅威と位置付ける見方が広がっていた。

日本政治はこうした動きにうまく対応できなかった。反共の旗印を失った自民党は首脳会談直後の参院選で歴史的惨敗を喫した。昨年回復するまで27年間、参院で過半数に届かなかった。

「普通の国」「小さくともきらりと光る国」

この頃の永田町で流行した単語からは、急に大きくなった自画像へのとまどいが読み取れる。

ポスト平成の時代。かつて反共と日米同盟さえ言っていればよかった日本は、多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか。


◎結局、何が言いたい?

記事の前半部分はあまり意味がないのだとは思う。後半とのつながりも、ほとんど感じられない。だが、それでも注文は付けておこう。
須賀神社(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

まず「日本政治はこうした動きにうまく対応できなかった」との説明が漠然とし過ぎている。どう「対応」すべきだったのかが記事からは分からない。「米政府が作成したペーパーを手渡されて」首脳会談を終えるようなことをせず、毅然とした態度で臨むべきだったのか。それとも「日本を新たな脅威と位置付ける見方」が米国に広がらないように手を打つべきだったのか。

そこを解説しないまま「この頃の永田町で流行した単語からは、急に大きくなった自画像へのとまどいが読み取れる」と、漠然とした話へ移ってしまう。

仕方がないのでそこは忘れて「多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか」との問題提起に目を向けてみよう。本来ならば後半では、この問題にしっかり斬り込んでくれるはずだ。後半部分は以下のようになっている。

【日経の記事】

米国第一主義のトランプ大統領の誕生は特別な事象ではない。国力の衰えた米国が内向きになっていくリスクは絶えずある。台頭する中国は習近平体制のもと、覇権主義的な性格を強めていく懸念がつきまとう。そこに北朝鮮のような安全保障リスクも加わる。

日本も迅速に意思決定できる国にならなくてはならない――。衆院に小選挙区制を導入した最大の理由は、カネのかからない選挙を実現するためだが、背景にはこんな計算もあった。

政権交代可能な二大政党が切磋琢磨(せっさたくま)し政治の質を高める。こうした期待は裏切られ、いま私たちが目にするのは巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党といういびつな姿だ。

いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない。欧州の優等生とされるドイツですら、総選挙から2カ月たっても政権の枠組みが決まらないありさまだ。

海外で成功した仕組みをそっくり取り入れる。こんな明治維新型のビジネスモデルではやっていけない時代にどんな政治をつくり出すのか。ポスト平成の最大の課題がそこにある。

幸いなことに、日本は世界に吹き荒れるポピュリズムの波にまだのみ込まれてはいない。だが兆しはそこここにある。少子高齢化と激変する安保環境。内憂外患を抱えた日本が突然、大躍進することがあり得るかは少し考えればわかることだ。

「不確実な状況では、予測される最悪な事態を避けることが何よりも重要である」。米国の哲学者ジョン・ロールズはこう説く。政治のリーダーシップには理想やキャッチフレーズに左右されない、現実主義的なアプローチが求められる。夢物語に踊らされて針路を誤る。そんな失敗だけはしたくない。


◎「現実主義的なアプローチ」の中身は?

「多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか」「明治維新型のビジネスモデルではやっていけない時代にどんな政治をつくり出すのか」との問いに対し、大石編集委員は「政治のリーダーシップには理想やキャッチフレーズに左右されない、現実主義的なアプローチが求められる」と答えを出してくれている。
久留米市役所(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

「それはそうでしょうね」ぐらいの同意はできる。だが、具体的に中身を語らないと意味がない。例えば「安定的に2%の経済成長を実現させる。その前提で政治を進めていく」というのは「現実主義的なアプローチ」なのか。それとも「夢物語に踊らされて針路を誤る」ケースなのか。人によって見方は分かれるはずだ。

「現実主義的なアプローチが求められる。夢物語に踊らされて針路を誤る。そんな失敗だけはしたくない」とすれば、具体的にはどう「アプローチ」するのか。そこを論じない記事を日経の顔とも言える朝刊1面に持ってくるのは、無駄遣いが過ぎる。

ついでに言うと「いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない」との説明も引っかかった。大石編集委員は何を以って「きちんと機能している」と判断しているのだろうか。

「巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党」だと「きちんと機能」していないことになるのか。「巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党」の下でも災害対応などで「政治がきちんと機能」する可能性は十分にあるだろう。

「いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない」と言い切るためには200近い国に関して「きちんと機能している」かをチェックする必要がある。大石編集委員にそれができているのかとの疑問も残る。


※今回取り上げた記事「ポスト平成 新しい日本へ(下)激動の世界 現実主義で」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171204&ng=DGKKZO24204710T01C17A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html