2016年9月5日月曜日

経済誌に見切り? 東洋経済「みんなペットに悩んでる」

最近の週刊東洋経済は何かおかしい。9月10日号の特集のタイトルは「みんなペットに悩んでる」。しかも50ページにもわたる大型特集だ。Part1「医療の悩み」、Part2「老いの不安」、Part3「飼い主の倫理」という構成からも分かるように、ペット市場やペットビジネスを論じたものではない。犬や猫を飼う人に役立ててもらうための特集だ。「高度医療だけが医療じゃない 病から守るためにすべきこと」「いつかは来る別れ ペットロスは怖くない」といった飼い主向けの記事がこれでもかと並ぶ。

金鱗湖(大分県由布市) ※写真と本文は無関係です
東洋経済は経済誌のはずだ。だが、こんな特集をメインに据えた雑誌作りをするのならば、もはや経済誌とは言えない。「落語特集」など脱線企画に傾斜しつつある週刊ダイヤモンドの影響もあるのだろうか。「生き残っていくためには経済関連の特集だけではやっていけない」というのなら止めない。ただ、「東洋経済はもはや経済誌ではない」と読者にはっきり説明すべきだ。

しかも特集の内容には最初から問題を感じた。東洋経済オンラインを通じて送った問い合わせの内容を紹介したい。東洋経済の体質を考慮すると、回答はないだろう。

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済9月10日号の特集「みんなペットに悩んでる」についてお尋ねします。特集の冒頭に「親、兄弟・姉妹、配偶者、子ども。今、ペットはこうした血縁者に次ぐ『第5の家族』と呼ばれる」との記述があります。本当に現代の日本でペットは「第5の家族」と呼ばれているのでしょうか。

そう呼んでいる人が1人もいないとは言いません。しかし、上記の説明が成立するためには、ペットを「第5の家族」と呼ぶ人がかなりの人数に達している必要があります。なのにインターネットで「第5の家族」を検索してみても、それらしき使用例を見つけ出すのは困難です。「ペット=第5の家族」との認識が日本国内に十分に広がっているのならば、こうはならないと思えます。

また「第5の家族」と言う場合、第1から第4までを占めるのが「親、兄弟・姉妹、配偶者、子ども」なのでしょう。ここにはなぜか「祖父母」「孫」が入っていません。ペットが「第5の家族」ならば、同居している祖父母や孫は「第6の家族」「第7の家族」となるのでしょうか。この点からも「ペット=第5の家族」との認識が広がる可能性は低そうです。

ペットを「第5の家族」と呼ぶ人は日本にはほとんどいないと考えてよいのでしょうか。「かなりの日本人がそう呼んでいる」という判断であれば、そう言える根拠を教えてください。

また、記事では「配偶者」を「血縁者」に含めています。これは誤りです。「血縁者」とは「血のつながっている者」という意味です。養子を血縁者と見なす場合もありますが、配偶者は基本的に「血縁者」ではありません。

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この特集は犬や猫を飼っている人が読めば高く評価してくれる内容なのかもしれない。だとしても、雑誌の性格は考慮してほしい。例えばスポーツ雑誌「Number」で大々的にペット特集を組んだら、長年の愛読者は許してくれるだろうか。音楽雑誌でのペット特集ならば、どうだろうか。

東洋経済とはどういう雑誌なのか、編集部でもう一度よく考えてほしい。それでもまた今回のような特集で勝負するのならば、その時は「経済誌」としての歴史に終止符を打つべきだ。


※経済誌の特集にふさわしくない上に、問い合わせで指摘した問題もあるので、特集の評価はD(問題あり)とする。ペット愛好家にとって役に立つ記事かどうかといった点は考慮していない。

2016年9月4日日曜日

伊藤忠「ペルー産高級綿」の記事に映る日経の基礎力不足

日本経済新聞の企業関連記事は総じて完成度が低い。その最大の原因は、日経産業新聞と日経MJの存在だと見ている。日経の企業報道部に配属された記者は、まずこの2紙の紙面を「埋める」ことを求められる。恒常的に記事が足りないので、要点を簡潔にまとめた記事よりも、中身の乏しいニュースでもダラダラと行数を稼いだ記事の方が喜ばれたりもする。なので、どうしても「粗製乱造」の傾向が出てきてしまう。

石橋文化センター(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です
しかも、記事のチェック役であるデスクの多くが長年この「粗製乱造」文化の中で生きているので、まともな指導力は期待しにくい。「基礎が身に付いてないなぁ…」と嘆きたくなる記事が4日の日本経済新聞朝刊企業面にも出ていた。その「伊藤忠、ペルー産の高級綿使った生地を日本で生産」という記事の全文をまずは見てほしい。

【日経の記事】 

伊藤忠商事はペルー産の高級綿「ペルヴィアンピマコットン」を使った生地を日本で生産する。日本の産地と協力し、従来の生地とは異なる風合いや肌触りに仕上げ、中国で生産してきた既存品との違いを打ち出す。国内外のセレクトショップなどに売り込み、ペルー高級綿の取り扱いを数年内に年600トンと2015年度の3倍に増やす

ニットでは山形県や新潟県、カットソーでは和歌山県など編み物・織物の有力産地と協力する。産地ごとに編み方や織り方が異なるため、同じ素材でも風合いや肌触りに違いが出る。産地との連携で生地の付加価値を高めて、個性的な商品を求めるセレクトショップなどの需要を開拓する

日本で生産した生地を使い、ベトナムで縫製。衣服などの最終製品を日本に持ち込み、セレクトショップなどに売る

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記事の問題点を列挙してみる。

◎「When」がない

伊藤忠商事はペルー産の高級綿『ペルヴィアンピマコットン』を使った生地を日本で生産する」と冒頭で書いているのに、最後まで読んでも日本でいつから生産するのか分からない。この「When抜き」は日経の企業面では当たり前で、もはや“伝統”と言ってもいい。ニュース記事の書き方の基礎が身に付いていれば、この手の記事で「When」を抜くようなヘマはまずしない。


◎説明がダブり過ぎ

国内外のセレクトショップなどに売り込み」「個性的な商品を求めるセレクトショップなどの需要を開拓する」「セレクトショップなどに売る」と「セレクトショップ」に絡んだ似たような説明が3回も出てくる。これは明らかにダブり過ぎだ。短い記事でこれだけダブらせると、伝えられる情報がかなり少なくなってしまう。


◎国内生産の規模は?

ペルー高級綿の取り扱いを数年内に年600トンと2015年度の3倍に増やす」という情報はあってもいい。だが、記事の柱は「ペルー産の高級綿使った生地を日本で生産」のはずだ。だったら、日本での生産がどの程度の規模になるのかを優先して伝えるべきだ。

これまでは中国で全量を生産していたとして、それを全て日本での生産に切り替えるのか、ごく一部を日本で生産するだけなのかが分からないと、このニュースの持つ意味を読者は判断しにくい。その辺りの情報も盛り込みたいところだ。

また、日本での生産に切り替えるとコストが上昇するはずだ。この点も、できれば触れてほしかった。


※記事の評価はD(問題あり)。「日経の粗製乱造文化の中で記事の書き方の基礎を身に付けるのは至難だ」と企業報道部の記者(特に若手)は肝に銘じてほしい。

2016年9月3日土曜日

「手数料開示」地銀に甘すぎる日経ビジネス杉原淳一記者

日経ビジネスの杉原淳一記者は優しい性格なのだろう。それ自体は責めるべきことではない。ただ、記者としては優しさが時としてマイナスに働く場合もある。9月5日号の「時事深層~窓販手数料開示に悩む地銀」という記事はその一例と言える。
柳川高校(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

杉原記者は以下のように書いている。

【日経ビジネスの記事】

銀行が保険会社から受け取っている窓口販売手数料の開示問題で、地方銀行の対応に注目が集まっている。大手銀行が先駆けて自主開示に踏み切り、取り残された格好になったからだ。実務対応が間に合わないという事情に銀行数の多さという実態が加わり、解決は容易でなくなっている

(中略)商品によっては保険料の10%程度の手数料をもらえる保険窓販は、貴重な収益源となる。

開示が進めば、顧客が手数料の多い商品を敬遠したり、保険会社が手数料の引き下げに動いたりするなどして、収益の落ちる公算が大きい。

とはいえ、地銀業界が善後策を取るのは難しい。理由の1つはマンパワーの問題。大手地銀幹部は「できれば開示に踏み切りたいが、10月ではそもそも実務対応が間に合わない」とこぼす

もう1つは規模のばらつきだ。地銀・第二地銀は計105行あり、預金量が10兆円を超す大手がある一方、1兆円以下の中小地銀も少なくない。経営体力も、保険窓販の手数料収入が収益全体に占める割合も違うため、業界の意思統一が図りにくいという。

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これをよんで「なるほど」と思えただろうか。

まず「マンパワーの問題」。記事の書き方から判断すると、杉原記者は「できれば開示に踏み切りたいが、10月ではそもそも実務対応が間に合わない」という地銀幹部の説明を疑わずに受け入れたのだろう。

常識的に考えて、1カ月もの時間的余裕があるのに開示できないとは考えにくい。どの商品でどの程度の手数料をもらっているかは改めて調べる必要がない。データは揃っている。後はその数値を公表するだけだ。仮に地銀のホームページ上で公開するとして、そんなに「マンパワー」が必要なものか。

ホームページ上で公開できれば、支店ではそれを基に対応するだけなので、そんなに難しい話ではない。本社が開示用の資料を作成して支店に配布する場合もあるだろうが、担当者が1人だとしても1カ月はかかりすぎだ。1日でできても不思議ではない。なのに杉原記者は何の疑問も抱かなかったようだ。

百歩譲って10月に間に合わないとしても、だったら11月から開示すれば済む。11月が無理なら12月でもいい。それで終わりだ。なのに杉原記者は「実務対応が間に合わないという事情」があるので「(自主開示問題の)解決は容易でなくなっている」と書いている。

次は「規模のばらつき」について考えてみる。「経営体力も、保険窓販の手数料収入が収益全体に占める割合も違うため、業界の意思統一が図りにくいという」と杉原記者は解説する。だが、そもそも「業界の意思統一」を図る必要があるのか。

今回は大手銀行の自主開示方針を受けて地銀はどうするかという話だ。自主開示なのだから、各行がそれぞれに判断すればいいわけで、「業界の意思統一」は要らなさそうに思える。

『複数の大手地銀がまとまり、年末から年明けごろに開示するのでは』(地銀関係者)との見方もあるが、銀行ごとに対応にばらつきが出る可能性が高い」と杉原記者も書いているではないか。なのになぜ「業界の意思統一が図りにくい」ことが「善後策を取るのは難しい」と言える根拠になるのか。

自主開示ならば、それぞれの銀行が自由に判断すればいいし、法的な規制がかかったらそれに従うしかない。地銀にとっては開示するもしないも茨の道だろう。それは分かる。だからと言って、杉原記者のように業界関係者の話を鵜呑みにして、地銀への思いやり溢れる記事を書いてあげるのは感心しない。地銀のためにも読者のためにも杉原記者のためにもならないはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。杉原淳一記者への評価もDを据え置く。杉原記者に関しては「『個人向け国債』を誤解? 日経ビジネス杉原淳一記者」「投資の『カモ』育てる日経ビジネス杉原淳一記者の記事」も参照してほしい。


追記)杉原記者の記事が出たすぐ後に、多くの地銀が「10月からの開示」を公表しているようだ。

2016年9月2日金曜日

松下村塾は下関? 日経「点検・安倍外交(下)」の説明下手

日米同盟」をテーマにした(中)ほどではないものの、1日の「点検・安倍外交(下)」も説明下手が目立っており、褒められる内容ではない。例えば見出しは「北方領土で問われる真価 経済協力の具体化、壁高く」となっているが、なぜ「壁高く」と言えるのか記事にまともな説明はない。
震災後の熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

記事の問題点を列挙してみたい。

【日経の記事】

来日する際には下関にお連れしようと思っている」。8月13日、夏休みで帰郷した安倍晋三首相は下関市の自宅で開いた後援者の会合でロシアのプーチン大統領を招待する考えを示した。

温泉でくつろげる旅館にも宿泊。信頼を深めるには格好の場で「プーチン氏の宿舎として事前視察だろう」(政府関係者)とみられている。松下村塾や松陰神社など訪問先の選定に入った

ウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は30日、プーチン氏の12月訪日を発表。首相は31日に会談した鈴木宗男元衆院議員に「ありがたい」と語った。ただロシア側の一方的な発表に外務省内には不快感も漂う。

ロシア側の要求は東京も含めた公式訪問だが、首相は「第2次政権の発足時からプーチン氏に山口に来てほしいと言っている」とこだわる。ウクライナ問題でロシアと対立する米国への配慮もある。対ロ外交は日米関係とも密接に絡む。

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◎松下村塾や松陰神社は「下関」にある?

記事の書き方だと「松下村塾や松陰神社」が下関にあると受け取れる。しかし、実際には山口県萩市にあり、下関とはかなり離れている。読者の多くは松陰神社が下関にあるのか萩にあるのか知らないのだから、誤解を招くような書き方は避けるべきだ。


◎「ありがたい」の意味は?

プーチン氏の12月訪日を発表」を受けて「首相は31日に会談した鈴木宗男元衆院議員に『ありがたい』と語った」と記事では述べている。これは訪日に向けて尽力した鈴木氏に感謝したものか。それとも訪日の発表があったことに関して「喜ばしい」という気持ちを述べただけなのか。そこは明確にしてほしい(他の記事からは後者だと思えるが…)。

記事には、鈴木氏が首相にロシア問題で助言する話も出てくる。読者の中には鈴木氏とロシアの関係を知らない人も多いので、なぜ鈴木氏が出てくるのかの説明も入れるべきだろう。


◎なぜ「逆接」?

ロシア側の要求は東京も含めた公式訪問だが、首相は『第2次政権の発足時からプーチン氏に山口に来てほしいと言っている』とこだわる」とのくだりは、なぜ逆接なのか。この書き方だと「東京も含めた公式訪問=山口には行けない」と感じる。しかし、東京と山口の両方を訪れれば、双方の希望が叶うはずだ。首相の「こだわり」が「東京ではなく山口」ならば、その点を明示すべきだ。

記事の後半部分にも問題は残る。

【日経の記事】

首相が北方領土問題を巡り提示したのは「新しいアプローチ」。領土問題の試金石となるのが5月の首脳会談で自身が示した8項目の経済協力の具体化だ。日ロ関係筋は「幅広い協力から北方4島の帰属の解決案を導き出す」と解説する。

7月、鈴木氏が首相に「9月のウラジオストクでの首脳会談で経済協力を具体化すればプーチン氏の胸にストンと落ちる」と助言すると、首相は「できる限りのことはやりたい」と意欲を示した

「早く白黒はっきりさせてほしい」。8月中旬、モスクワを訪れた国際協力銀行(JBIC)の幹部と会ったガルシカ極東発展相は極東ロシアから海底ケーブルを通じ北海道に電力供給する構想への期待をあらわにした

首相は安全保障協力にも取り組む。今秋に谷内正太郎国家安全保障局長が訪ロし、プーチン氏側近のパトルシェフ安全保障会議書記と協議する案もくすぶる。首相が対ロ外交にこだわるのは中国とロシアの連携にくさびを入れたい思惑もある。

対ロ外交は父・安倍晋太郎元外相が晩年、心血を注いだ。秘書としてその背中を見ていた首相にとってロシアへの思い入れは強い。単なる米国追従とは一線を画すのが外交哲学でもある。

4島一括返還か、妥協を認めるか。戦後の対ロ外交は原則論と譲歩論がぶつかりあってきた。首相が探る柔軟なアプローチは一定の譲歩を意味する。歩み寄りは国内世論の反発を招くリスクを抱える。だからこそ世論に信を問う衆院解散論もくすぶる。領土問題の解決を政権のレガシー(遺産)にできるか。安倍外交の真価が問われる。

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◎「経済協力の具体化、壁高く」?

これで記事は終わりだ。「経済協力の具体化、壁高く」と感じただろうか。「領土問題の試金石となるのが5月の首脳会談で自身が示した8項目の経済協力の具体化」であり、「首相は『できる限りのことはやりたい』と意欲を示した」らしい。そして「(ロシアの)ガルシカ極東発展相は極東ロシアから海底ケーブルを通じ北海道に電力供給する構想への期待をあらわにした」という。

ウクライナ問題でロシアと対立する米国への配慮もある」のだろうが、記事から「経済協力の具体化、壁高く」と判断するのはかなり無理がある。「経済協力、具体化へ機運高まる」とでも言われた方がしっくり来る。


※記事の評価はD(問題あり)。今回は3回の連載を通して完成度の低さが目立った。連載を担当した政治部では「なぜこうなってしまったのか」を真摯に検討してほしい。

「日米同盟」巡り日経「点検・安倍外交(中)」が重ねる無理

日本経済新聞は「日米同盟」の話になると無理のある展開になりやすい。8月31日の「点検・安倍外交(中)米の内向き志向に不安 力の空白 うごめく中国」という記事はその典型だ。今回も「日米同盟の変調は、広大な太平洋に力の空白を生みかねない」といった、何を言いたいのかよく分からない珍妙な解説が出てくる。
熊本学園大学付属高校(熊本市) ※写真と本文は無関係です

記事の流れを順に追っていこう。

【日経の記事】

オバマが核の先制不使用を表明したいそうだ」。核兵器の先制不使用宣言をオバマ米大統領が検討していることが7月に表面化すると、日本政府内にかねての懸念が頭をもたげてきた

米国が「世界の警察官」の座を放棄し、他地域への関与を減らすのでは――。外務省は外交ルートで何度も真意を確認し、けん制した。

安倍晋三首相は、民主党政権で失った日米同盟の信頼を回復することに努めた。国内に強い反発のあった安全保障法制の制定や環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉妥結を実現。注いだ政治的エネルギーは大きい。

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まず記事の書き方に注文を付けておこう。冒頭の「オバマが核の先制不使用を表明したいそうだ」は誰のコメントか分からない。コメントかどうかも微妙だ。こういう曖昧な使い方は感心しない。しかも、その後の「核兵器の先制不使用宣言をオバマ米大統領が検討している」というくだりと内容がほぼ重なっているので、繰り返し感が強くなる。この辺りは工夫が足りない。

米国が『世界の警察官』の座を放棄し、他地域への関与を減らすのでは」との記述もこれまでの日経の説明と食い違う。例えば3月29日付の「アジアの安定、日本に責任 安保法施行」という記事で秋田浩之編集委員はこう書いている。「オバマ政権は『米国は世界の警察官ではない』と公言し、その通りに行動している」。

米国が「世界の警察官」かどうかはどちらでもいい。ただ、同じ新聞の中では統一してほしい。「日経は違うと思っているが、外務省は『世界の警察官』だと思い込んでいる」という事情があるならば、それが読者にも分かるような書き方を選ぶべきだ。

記事の問題点はこれにとどまらない。

【日経の記事】

核先制不使用の報道に首相は表向き「今後も米国政府と緊密に意思疎通をはかっていきたい」と述べるにとどめる。だが、抑止力の低下につながりかねない報道に「構想が表に出るだけでも日本としては不愉快」(外務省幹部)なのが本音だ。

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ここもまず書き方への注文から。「抑止力の低下につながりかねない報道」とすると、「報道」そのものに「抑止力の低下」を招く力があるように取れる。「実現すれば、抑止力の低下につながりかねないだけに」などとした方がよいだろう。

米国による「核先制不使用」の宣言が「抑止力の低下につながりかねない」との懸念も理解できない。「こちらが核兵器を使うと向こうも使ってくるだろう。だから、こちらから先には使えない」と相手に思わせる状況を作れば、「抑止力」としては十分だ。米国による「先制不使用」の宣言は、この状況に影響を与えるものではない。

「通常兵器での攻撃に対する抑止力が低下する」と取材班は考えたのかもしれない。しかし、「通常兵器での他国の軍事行動に対して米国が核兵器で反撃する可能性はほぼない」のは常識だと思える。改めて宣言しなくても、宣言しているのと大差ない。

次はこの記事の最大の問題である「太平洋の力の空白」を取り上げたい。

【日経の記事】

内向きが懸念材料だったオバマ氏が来年1月に退任しても、次の大統領も心配の種だ。

「誰が陣営の指揮をとっているのか」「新大統領との首脳会談はいつ実現しそうか」。首相は7月の共和、民主両党の党大会に外務省の森健良北米局長らを派遣し、情勢を探った。

共和党の大統領候補、不動産王ドナルド・トランプ氏は「米国第一」を掲げ、在日米軍の撤退に触れる。日米同盟の抑止力に影響しかねない。

TPPには、トランプ氏だけでなく、民主党候補のヒラリー・クリントン前米国務長官も反対姿勢だ。7月の民主党大会で会場が「反TPP」のプラカードであふれかえった様子を見た外務省関係者は愕然(がくぜん)とした。「ヒラリーが完全にカジをきった証拠だ」。暗礁に乗り上げれば、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の推進力も損なう。

日米同盟の変調は、広大な太平洋に力の空白を生みかねない

8月24日、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射。これに先立ち、米韓合同演習には「容赦なく核先制攻撃を浴びせる」と脅しをかけた。日本外務省幹部は「北朝鮮が米国の動向をみて行動をエスカレートしているのは間違いない」と身構える

中国も時期を同じくして、東シナ海や南シナ海への攻勢をかける。9月上旬に訪中するオバマ大統領は習近平国家主席と会談するが、「オバマは海洋進出に自制を求めるのだろうが、習は聞く耳を持たないだろう」(外務省幹部)。

米国の揺らぎは、北朝鮮による日本人拉致問題の解決をますます遠のかせる可能性もある。米国の内向き志向は今後の安倍外交にとって大きなリスクになる

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上記の説明から「日米同盟の変調は、広大な太平洋に力の空白を生みかねない」と思えただろうか。「力の空白」という表現はやや抽象的だが、太平洋に誰の勢力圏でもない場所が新たに生まれる懸念があると取材班は言いたいのだろう。

しかし、それがどこなのか謎だ。極端な事例として「在日米軍の撤退」という「変調」を考えてみよう。それでも日本には自衛隊がいるのでその近海に「力の空白」は生まれない。米国は日米同盟がどうなろうとハワイにもアラスカにもカリフォルニアにも軍を置き続けるだろうから、この周辺の海域で新たな「空白」が生まれるとも考えにくい。

極端な例として「在日米軍の撤退」を考えたが、記事で言っているのは「日米同盟の変調」だ。ちょっと仲がギクシャクするぐらいで、一体どんな「空白」が生まれるのだろう。しかも「東アジア」とかではなく、なぜか「太平洋」だ。「日本海」は心配いらないのだろうか。そもそも「日米同盟の変調」が起きるとなぜ「広大な太平洋に力の空白を生みかねない」のか、記事には説明が見当たらない。

さらに言えば「米国の内向き志向は今後の安倍外交にとって大きなリスクになる」との結びも、理屈が合っていない。記事ではその前にこう書いている。

8月24日、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射。これに先立ち、米韓合同演習には『容赦なく核先制攻撃を浴びせる』と脅しをかけた。日本外務省幹部は『北朝鮮が米国の動向をみて行動をエスカレートしているのは間違いない』と身構える」。

これは米国が“外向き志向”だから北朝鮮を刺激して、それが日本までも「身構える」事態を招いているという話だろう。だったら「米国の内向き志向」を「リスク」と捉える必要は乏しい。記事を読む限り、「米国が内向きでいてくれれば、北朝鮮も余計なミサイル発射なんかしないのでは?」と思える。

米国の揺らぎは、北朝鮮による日本人拉致問題の解決をますます遠のかせる可能性もある」との説明も謎だ。だったらオバマ政権の「内向き志向」を次の政権も引き継いで「揺らぎ」を見せないことが、拉致問題解決に向けた近道のはずだ。なのに「米国の内向き志向は今後の安倍外交にとっての大きなリスクになる」という逆の結論を導いている。

とにかく話の展開が雑すぎる。「日米同盟」に関して自分たちの主張に整合性を持たせるにはどうすべきかをもう一度よく検討すべきだ。

※記事の評価はE(大いに問題あり)。

2016年9月1日木曜日

日経「点検・安倍外交(上)」での中国に関する奇妙な説明

8月30日から始まった日本経済新聞朝刊政治面の「点検・安倍外交」がどうも怪しい。説明がご都合主義と言えばいいのだろうか。まずは初回の「(上) 『日中互恵』歯車回るか 尖閣誤算、不信の連鎖」で引っかかったくだりを見てほしい。
皇居周辺の桜(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

【日経の記事(8月30日)】

だが中国も日本外交の弱点を突く。北朝鮮の3日の弾道ミサイル発射を巡る国連安全保障理事会の非難決議案は、中国が難色を示し廃案に。中国は自らの協力なしに北朝鮮包囲網をつくれないことを日本に見せつけた

中国の「壁」を越えるため、日本の安保理常任理事国入りは悲願だ。27、28両日にケニアで開いたアフリカ開発会議(TICAD)では国連の大票田、アフリカ各国首脳と相次ぎ会談し、常任理事国入りへの支持を求めた。支持する声もあったが、拒否権を持つ中国との良好な関係なしに、常任理事国入りは不可能だ。

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これを読む限り「北朝鮮の3日の弾道ミサイル発射」に関して、国連安保理は厳しい姿勢を打ち出せていないのだろう。しかし、「中国、G20控え北朝鮮ミサイル非難で軟化 安保理報道声明、国際社会と協調演出」という28日付の記事では以下のように報じている。

【日経の記事(8月28日)】

国連安全保障理事会は26日、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの発射を強く非難する報道声明を発表した。今月3日の弾道ミサイル発射時には、中国が難色を示して声明を取りまとめられなかった。だが中国は20カ国・地域(G20)首脳会議の自国開催を間近に控え、国際社会との協調姿勢を演出するために軟化に転じたとみられる

声明は日本時間24日朝のSLBMに加え、7月のSLBM、今月3日の弾道ミサイルなど計4回のミサイル発射を対象に「重大な安保理決議違反」として非難した。

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8月11日付では「国連外交に中国の壁 安保理、ミサイル非難声明を断念 」という記事が出ているので、当初は「点検・安倍外交」で言うように「非難決議案は、中国が難色を示し廃案に」なったのかもしれない。しかし、その後に北朝鮮を非難する報道声明を発表したのであれば、話は変わってくる。「点検・安倍外交」の取材班が知らなかったのか、知っていて故意に触れなかったのかは微妙だが…。

中国の『壁』を越えるため、日本の安保理常任理事国入りは悲願だ」との説明も気になる。取材班では「日本が安保理常任理事国入りすれば、中国の『壁』を越える力を持てる」と考えているようだ。しかし、日本が常任理事国になっても、中国が常任理事国として持つ拒否権という「」を越えられるわけではない。地理的に考えても、中国抜きで「北朝鮮包囲網」を作れないのは自明だ。これも日本が常任理事国になれば解決する問題ではない。

この連載の奇妙な説明は(上)だけにとどまらない。(中)(下)については別の投稿で触れる。


※(上)の評価はD(問題あり)。

2016年8月31日水曜日

「市場」を理解できない週刊ダイヤモンド片田江康男記者

週刊ダイヤモンドの片田江康男記者は「市場」をあまり理解していないようだ。2016年9月3日号に載った「Inside~(石油) ガソリン流通改革が大詰め 鍵握る指標会社は米社優勢」という記事を読む限り、そう判断するしかない。まずは記事の前半部分を見てみよう。
靖国神社(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

市場が不透明だとして経済産業省が進めてきた、ガソリンや灯油といった石油製品の流通市場改革で、大きな動きがあった。

改革の最大の要は、石油元売り企業と中間業者である商社などが取引する際の卸価格に、市場原理を持ち込むことだった

というのも、これまでは卸価格を決める際、正規流通ルート外の余剰製品を取引するスポット市場の価格、いわゆる「業転玉」の価格を指標にすることが業界の慣行だった。業転玉は実勢価格よりも安い価格で取引されることが多い。そのため、元売りは実勢価格と懸け離れた安い卸価格で取引せざるを得ない事態が常態化していた。

さらに、こうした流通構造が、業界特有の「事後調整」の温床となっていた。事後調整とは、元売りが中間業者と一度決めた卸価格を、後で調整する取引だ。先述した市場価格よりも安い業転玉の価格を盾に、中間業者が元売りと交渉し、卸価格を安くさせるのだ

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◎「市場原理」が働いていない?

経済産業省が進めてきた、ガソリンや灯油といった石油製品の流通市場改革」に関して、「最大の要は、石油元売り企業と中間業者である商社などが取引する際の卸価格に、市場原理を持ち込むこと」と片田江記者は書いている。現状では「市場原理」に基づく価格形成になっていないとの判断だろう。

だが、本当に「市場原理」は働いていないのか。卸価格には「事後調整」の仕組みがあると記事では述べている。これは「業転玉の価格を盾に、中間業者が元売りと交渉し、卸価格を安くさせる」ものだ。そして業転玉の価格は「余剰製品を取引するスポット市場の価格」だ。

スポット市場で決まる価格に基づいて卸価格が動くのだから、卸価格の決定に「市場原理」が働いているのは明らかだ。卸価格の形成過程に「市場原理を持ち込むこと」が「改革の最大の要」だと経産省が本気で信じているのならば、「それは昔から実現していますよ」と教えてあげるべきだろう(本気で信じている可能性はほぼゼロだが…)。


◎「実勢価格」の意味は?

実勢価格」を辞書で調べると、「実際に市場で取り引きされる価格。企業の希望小売価格などに対していう」(デジタル大辞泉)と出てくる。「正規流通ルート外の余剰製品を取引するスポット市場の価格、いわゆる『業転玉』の価格」は、間違いなく「実勢価格」に入る。しかし片田江記者はそう考えていないようだ。

では、片田江記者は何を以て「実勢価格」と呼んでいるのか。「業転玉は実勢価格よりも安い価格で取引されることが多い。そのため、元売りは実勢価格と懸け離れた安い卸価格で取引せざるを得ない事態が常態化していた」と書いているのだから、卸価格でさえも「実勢価格」とは見ていない。推測が混じるが「元売りの希望卸価格」を「実勢価格」と捉えているのだろう。しかし、その価格で取引が成立していない場合、「実勢価格」ではない。

市場価格よりも安い業転玉の価格」という表現も同様に問題がある。これだと「業転玉の価格は市場価格ではない」との印象を与えるが、「業転玉の価格」は疑う余地なく「市場価格」だ。

記事の後半部分にも問題点は多い。

【ダイヤモンドの記事】

経産省は「不透明でゆがんだ市場構造」(経産省幹部)であり、元売りの超低収益体質の元凶であると問題視。この数年、改革を加速させていた。

改革には3ステップある。第1弾として、欧米で石油製品の価格指標会社として実績があり、国際的な基準を満たした英プラッツや米オーピスを日本に誘致。4月のプラッツを手始めに、両社は日本でサービスを開始した。

第2弾として、7月に石油製品仲介業者大手のギンガエナジージャパンと日本ユニコムの共同出資会社が、ガソリンなどの新たなスポット取引を開始。オーピスがこの取引価格を指標として採用しており、より透明性の高いスポット市場が生まれたところだ

そして第3弾として、早ければ今年度中に東京商品取引所でガソリン等の新たな先物市場が開設される見込みだ。「まだ何も決まっていない」と東京商品取引所はコメントするが、本誌の調べではオーピスの指標価格を採用することで最終調整している。

4月に海外の指標会社が国内市場に入ったことをきっかけに、「市場がドラスティックに変化した」(経産省幹部)格好だ。

ところが、この事態は元売り各社にとっては痛しかゆしだ。

市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだだが、需給によって価格が決まるため、供給過剰になれば即、卸価格は下がる。卸価格を維持するには、元売りは厳格に石油製品の供給量を管理する必要があるのだ。

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◎「改革」になってる?

7月に「ギンガエナジージャパンと日本ユニコムの共同出資会社が、ガソリンなどの新たなスポット取引を開始」したことを「より透明性の高いスポット市場が生まれた」と片田江記者は評価している。「透明性が高い」のが事実だとしても、問題はスポット市場の価格に引きずられて卸価格が決まってしまうことだったはずだ。

だとすると、新たなスポット市場ができても問題は解決しない。もしも問題が「スポット市場の透明性」にあるのならば、記事の前半部分の説明を改める必要がある。


◎「市場の実勢価格に基づく取引環境になる」?

市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだ」との記述は2つの意味で引っかかる。既に述べたように、新たなスポット市場を作っても、その価格に基づいて「事後調整」するのであれば、片田江記者の言う「実勢価格(元売りの希望卸価格)」に基づく取引が成立しにくい状況は変わらない。

元売りの超低収益体質の元凶」がなくなって、元売りの希望卸価格に基づく「取引環境」が整うとしよう。それは「歓迎すべきこと」だろうか。元売りにとっては「超低収益体質」から脱却できるのならば歓迎すべき事態だ。しかし、それが小売価格の上昇につながる場合、消費者にとっても「歓迎すべきこと」とは考えにくい。日本経済全体にとっても同様だ。片田江記者はどの立場で「歓迎すべきことだ」と言い切っているのだろうか。


◎今まで「需給」は無関係?

市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだ。だが、需給によって価格が決まるため、供給過剰になれば即、卸価格は下がる」と書いてあると、従来は需給と無関係に価格が決まっていたような印象を受ける。しかし、そうではないはずだ。業転玉のスポット市場では需給に応じて価格が決まる。それに基づいて卸価格が動くのであれば、卸価格も「需給」によって変動する。

これは当たり前の話だ。市場に関するある程度の理解ができていれば、記事のような書き方は絶対にしないと思える。この記事からは「市場に関する理解が片田江記者は根本的にできていない」と結論付けるしかない。

今回の記事には「経産省幹部」の発言が2回出てくる。あとは「まだ何も決まっていない」という東京商品取引所のコメントがあるだけで、元売りや商社などに取材した形跡は見えない。元々、ガソリン市場への理解が乏しい片田江記者が経産省への取材に頼って記事を作ったのも、今回のような惨憺たる出来になった一因だろう。

「自分は市場への理解が乏しいから市場関連の記事を書くのは非常に危険だ」と片田江記者は肝に銘じてほしい。


※記事の評価はE(大いに問題あり)。片田江康男記者への評価も暫定C(平均的)からEへ引き下げる。