2020年11月9日月曜日

データの見せ方がご都合主義的な日経 佐伯遼・富田美緒記者「チャートは語る」

8日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「チャートは語る~マイナス利回り、欧州覆う コロナ第2波 強まる景気懸念」という記事には無理を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

耳納連山の電波塔※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

世界の金利低下に拍車がかかっている。米ブルームバーグによると利回りがマイナス圏の債券残高は6日に17兆ドル(約1700兆円)を超え、過去最大となった。震源地は欧州だ。新型コロナウイルス感染の第2波が広がり、景気不安から安全資産である国債に資金が向かっている。中央銀行がさらなる金融緩和に前向きなことも国債への資金シフトを促しているが、景気低迷の長期化でマイナス金利が長引く懸念もある。

金融情報会社リフィニティブのデータをもとに世界主要62カ国・地域の10年債利回りを調べたところ、53%にあたる33カ国がマイナスから0%台となった。先進国・新興国ともにこぞって緩和に向かった直後の6月(30カ国)より増えた。


◎大きな変化はないような…

世界の金利低下に拍車がかかっている」根拠として「利回りがマイナス圏の債券残高」が「過去最大となった」ことを挙げている。嘘はないのだろう。だが記事に付けたグラフを見ると「10年債利回り」がマイナスとなっている「国・地域」の割合は2019年以降、20%程度でほぼ横ばいだ。

筆者ら(佐伯遼記者と富田美緒記者)はこれでは都合が悪いと考えたのだろう。対象を「0%台」にまで広げて「6月(30カ国)より増えた」と説明している。この辺りはご都合主義的なデータの使い方だ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

中でも欧州の金利低下が目立つ。ドイツが一時マイナス0.6%台後半と約8カ月ぶりの水準に低下したほか、フランスも10年物がマイナス0.4%に沈んだ。6月時点では1%台だった南欧諸国でも低下が進み、イタリアは0.6%台、ギリシャは0.8%台だ。


◎間違ってはいないが…

欧州の金利低下が目立つ」のも間違いではないだろう。だがプラス圏にあった国がマイナスに転じた例は示していない。「マイナス利回り、欧州覆う」という見出しも誤りとは言えない。ただ「コロナの前からそうなのでは?」と言いたくなる。

プラス圏の国が今年に入ってどんどん消えているならば「マイナス利回り、欧州覆う」という見出しでしっくり来る。しかしプラス圏の国はプラス圏の中で「金利低下」が起きているだけのようだ。

世界の金利低下に拍車がかかっている」と言うと大きな動きが起きているように見える。実際には「欧州中心に金利低下傾向が続いている」といったレベルではないか。そもそも先進国では低金利が定着している。そこから「金利低下に拍車」を掛けるのはかなりハードルが高い。

小さな動きを大きく見せようとする「努力」が今回の記事の無理を生んでいる気がする。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~マイナス利回り、欧州覆う コロナ第2波 強まる景気懸念

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201108&ng=DGKKZO65970410X01C20A1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯遼記者への評価はDで確定とする。富田美緒記者への評価はDを据え置く。両記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「外貨投資、思わぬ落とし穴」 佐伯遼記者への疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/08/blog-post_54.html

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_13.html

2020年11月7日土曜日

「増産」に関する情報がなさすぎる日経「日鉄、EV向け鋼板増産」

5日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「日鉄、EV向け鋼板増産~400億円で新加工設備」という記事は悪い意味で凄い。「増産」を伝えるニュース記事なのに、どの程度の「増産」になるのか全く触れていない。

石橋文化センター(久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。


【日経の記事】

日本製鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市)に400億円程度を投じ、電気自動車(EV)に使う高性能鋼板を増産する。環境規制を背景にEVの高性能化に役立つ鋼板の需要は増えている。トヨタ自動車など自動車大手がEVへの投資を一段と増やす中で、供給能力を高める。

投資するのはEVモーターの中心部に使う「電磁鋼板」。EVは、省エネ性に優れて長い距離を走行できるモーターが必要になる。磁性をコントロールする高性能な電磁鋼板を使うことで、モーターの省エネ化につながる。より薄く軽量化にもつながる電磁鋼板の需要は世界的に伸びており、日鉄は21年以降に瀬戸内製鉄所広畑地区に投資して、新たな加工設備を導入する方針だ

日鉄は19年以降、広畑地区のほか、九州製鉄所八幡地区(北九州市)で電磁鋼板向けに設備投資をしてきた。今回の追加投資で、同社の電磁鋼板関連の投資は総額で1000億円を超える。

国内ではJFEスチールも西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)で設備増強を検討している。

鉄鋼各社が投資を急ぐのは、新興国などでの電力需要の高まりに加え、世界的にEVの普及拡大を見込んでいることが大きい。


◎他社の話を入れる前に…

電気自動車(EV)に使う高性能鋼板を増産する」という話を柱に据えて記事を書くならば、どの程度の「増産」になるかは必ず入れるべきだ。それが分からないのならば「増産」で見出しを立てるのは諦めてほしい。

仮に「増産」がものすごく重要なニュースで、取材してもどの程度の「増産」か分からなかったのだとしよう。その場合は「分からない」と記事中で明示すべきだ。

できれば現状でどの程度の生産量なのかも入れたい。しかし、そうした情報もない。「増産」の時期は「21年以降」だと言うことは分かるが、「21年以降」はあくまで「投資」の時期なので「増産」が始まる時期には触れていない。情報がなさすぎだ。

鉄鋼各社が投資を急ぐのは、新興国などでの電力需要の高まりに加え、世界的にEVの普及拡大を見込んでいることが大きい」と最初の段落とのダブり感がある情報を盛り込むぐらいならば「日本製鉄」が「電気自動車(EV)に使う高性能鋼板」の市場でどのぐらいのシェアを持っているのかといった話を入れたい。

国内ではJFEスチールも西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)で設備増強を検討している」といった他社の話に触れるのは「日本製鉄」の情報をしっかり伝えてからだ。


※今回取り上げた記事「日鉄、EV向け鋼板増産~400億円で新加工設備」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201106&ng=DGKKZO65896760V01C20A1TJ2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2020年11月6日金曜日

「きょう決算発表」のタイミングで「サッポロHDの不動産事業」を分析する日経に注文

ニュース記事のように見せて何もニュースはない--。そんな記事を最近の日本経済新聞ではよく見かける。6日の朝刊企業2面に載った「サッポロHDの不動産事業、恵比寿のテナント縮小続く~きょう決算発表、稼ぎ頭にも逆風」という記事もそうだ。この中身でわざわざ「決算発表」前に載せる気が知れない。

JR久留米駅に停車中の無限列車
     ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

サッポロホールディングスは6日に2020年1~9月期連結決算(国際会計基準)を発表する。新型コロナ下の酒類の需要減で大幅減益が避けられない中、注目が集まるのが不動産事業だ。実は営業利益の7割と酒類を上回る稼ぎ頭だが、主力の東京・恵比寿で相次ぎ有力テナントの撤退や縮小が決定。都市部のオフィス需要の伸び悩みが避けられない中、懸念材料となっている。

サッポロHDはビールが祖業だが、恵比寿や札幌といった工場跡地の再開発による不動産事業で収益の基盤を固めている。19年12月期は不動産事業の営業利益が127億円と、ビールが主体の酒類の76億円を上回る。20年12月期は酒類が赤字見通し(事業利益ベース)の中、不動産は唯一の黒字事業となる。

その不動産事業の中心がビール工場跡地を再開発し、1994年に開業した複合商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」だ。地上40階建てのタワーを中心に約10棟の建物が並び、年間約1300万人が利用する。恵比寿が不動産事業の営業利益の6割を稼いでいる。

この恵比寿から主力テナントの撤退や縮小が続いている。恵比寿ガーデンプレイスの商業施設を代表する恵比寿三越が21年2月28日に閉店する。延べ床面積は全体の約7%にあたり、地下2階から地上2階までの4フロア1棟をまるごと使っている。

オフィス棟でも新型コロナ下のテレワークの普及で、入居企業がフロアの賃貸面積を減らし始めた。本社オフィスを構えるコロプラは11月中に4割を解約する予定だ。

不動産仲介大手の三鬼商事(東京・中央)によると、恵比寿がある渋谷区のオフィス空室率は20年9月時点で4.48%と前年同月比で2.97ポイント上昇した。2月は1.87%と極めて低水準だったが上昇が続いている。

平均賃料も9月まで5カ月連続で下落。IT企業が集積する渋谷はテレワークへの移行が加速しており、もはやコロナ前のような旺盛な需要はない。

サッポロHDの岩田義浩常務は「21年12月期以降、オフィスの入居率が数%下がる可能性がある」と話す。

野村証券の藤原悟史アナリストは「恵比寿の不動産の価値は高く大崩れはしないと思うが、後継テナントの決定時期が遅れればリスクだ」と話す。市場予想平均のQUICKコンセンサスは、19年12月期の連結純利益(43億円)水準まで回復するには22年12月期までかかるとみている。

サッポロHDは恵比寿をてこ入れしようと、恵比寿三越の跡地をオフィスや物販、サービスの複合施設につくり直す計画だ。建物1棟を貸していた恵比寿三越と比べ、フロア合計での賃料収入を高める。再開は22年中の見通しだ。

新型コロナ下で当面はビールなど酒類販売の大きな回復は厳しい。6日の決算発表で、不動産事業の先行きにどう言及するかに注目が集まる


◎決算発表を受けて書いた方が…

上記の記事は簡単に言えば「稼ぎ頭の不動産事業もコロナで厳しいです。6日の決算発表でどういう説明するか注目ですね」という話だ。「不動産事業の先行きにどう言及するかに注目が集まる」と言うのならば、どこが「言及」のポイントになるか解説が欲しい。しかし、そういう深掘りはない。

この内容ならば行数を割いて載せる必要は乏しいと感じる。「決算発表」後に「不動産事業」に関する「言及」も含め詳細に分析した方がよいのではないか。

「業績の先取り記事は要らない」と訴え続けているので解説記事にシフトすることに異論はない。ただ、ニュース記事かどうか分かりにくいのは困るし、掲載のタイミングも考えるべきだ。


※今回取り上げた記事「サッポロHDの不動産事業、恵比寿のテナント縮小続く~きょう決算発表、稼ぎ頭にも逆風

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201106&ng=DGKKZO65878800V01C20A1TJ2000


※記事の評価はC(平均的)

2020年11月5日木曜日

日経の記事で「死の権利はあるか」への答えを避けた会田薫子 東大大学院特任教授

5日の日本経済新聞朝刊オピニオン1面に「複眼~『死の権利』はあるか」という記事が載っている。「患者に『死の権利』はあるのか。患者や専門家に聞いた」と言うものの、東京大学大学院特任教授の会田薫子氏は「『死の権利』はあるか」との問いに答えを出していない。他の2人は「ある」「ない」と明言しているだけに会田氏の姿勢には失望した。聞き手である前村聡記者が「『死の権利』はあるか」どうかを明言するよう迫ってくれたのかとも思う。

耳納連山に沈む夕陽※写真と本文は無関係です

会田氏の発言の一部を見ておこう。


【日経の記事】

01年に世界で初めて安楽死を合法化したオランダのように「死の権利」を確立すると、医師が「死なせる義務」を負うことも理解すべきだ。

家族など患者と「人生の物語」をつくる人のケアも必要だ。人生の集大成支援がエンドオブライフ(人生の最終段階)のケアでは重要となる。

今回の事件は分からない点も多い。スピリチュアル・ケア(実存的な苦痛に対するケア)を含めた緩和ケアが十分ならば治療終了を希望しなかったのではないか。治療終了の希望を家族などと話し合ったのか。入院して病院の臨床倫理委員会で是非を議論する選択肢を検討したのか。今後の解明に期待したい。

医療技術の進歩は光と影をもたらした。患者が家族らと話し合って意思決定し、適宜見直すアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が推奨されているように、私たちはエンドオブライフのあり方に真剣に向き合う必要がある。


◎曖昧にしておきたい?

オランダのように『死の権利』を確立すると、医師が『死なせる義務』を負うことも理解すべきだ」との発言から判断すると会田氏は「死の権利」を認めることに消極的な立場なのだろう。それはそれでいい。ならば、そこを明言してほしい。なぜ曖昧にしたがるのか分からないが、元々そういう人ならば今回の企画の3人からは外してほしかった。

ついでに会田氏の発言にツッコミを入れておきたい。

まず「『死の権利』を確立すると、医師が『死なせる義務』を負う」と決め付ける必要はない。「死の権利」を行使するのに医師の助けが必要となる場合は安楽死を手掛ける医師に頼るという仕組みにすることもできる。この場合、患者が「死の権利」を行使したいと申し出てきたら主治医は「専門の医師を紹介しましょう」と言えば済む。

京都のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件」について「分からない点も多い」としながら「スピリチュアル・ケア(実存的な苦痛に対するケア)を含めた緩和ケアが十分ならば治療終了を希望しなかったのではないか」と判断しているのも解せない。

緩和ケアが十分」でも「治療終了を希望」した可能性も当然にあるだろう。また「分からない点も多い」のならば「緩和ケアが十分」だったかどうかも分からないのではないか。また、どの程度の「緩和ケア」で「十分」とするのかも人によって見解が大きく分かれるだろう。「十分」な情報がない中で「治療終了を希望しなかったのではないか」などと推測するのは感心しない。

付け加えると、前村記者の「まとめ」も曖昧な内容で失望した。

全文は以下の通り。

【日経の記事】

患者の「死にたい」は「生きたい」という思いと表裏一体である。患者の気持ちに寄り添い、理由を一つ一つ解きほぐしていくしかない。

現在の医療でも治療法がなく、死に直面する患者はいる。高齢者では人生の最終段階での延命治療の是非を巡る議論が進み、患者らの意思を尊重して治療の差し控えは広がった。一方、いったん始めた延命治療を終了することは刑事訴追などを恐れ広がらず、苦しむ患者と家族はいる。

死は生の延長線上にある。「生きる権利」の保障が前提となる。同時に、患者とその人生に関わった人の思いを踏まえ、医療・ケアチームとともに本人の幸せを選択する道を広げるべきだ。今回の事件の特異な面ではなく、死に向き合う患者の視点から現在の課題を見直す必要がある。


◎結局、どっち?

患者の『死にたい』は『生きたい』という思いと表裏一体である」との書き出しから判断すると「死の権利」を認めない立場なのかと思える。しかし終わりの方では「本人の幸せを選択する道を広げるべきだ」とも書いている。これだと安楽死容認とも取れる。そして「死に向き合う患者の視点から現在の課題を見直す必要がある」とばんやりした形で記事を締めてしまう。

「結局どっち?」と聞きたくなるような中身だ。「『死の権利』があるとは言いたくない。でも『ない』と言い切ってしまうと、ただ苦しみの中で生きるしかない人を救えなくなる」などと前村記者は考えているのではないか。その迷いが記事に表れている。

ただ、どっちつかずの記事ならなくていい。前村記者は「死の権利」があると思うのか、ないと思うのか。別の機会でもいいので明確な立場から記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「複眼~『死の権利』はあるか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201105&ng=DGKKZO65830600U0A101C2TCS000


※記事の評価はC(平均的)。前村聡記者への評価はCで確定とする。前村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「積極的安楽死」への踏み込み不足が残念な日経 前村聡記者の解説記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_25.html

2020年11月4日水曜日

三井住友海上の「完全ジョブ型雇用」の定義が不明な日経の記事

ジョブ型」雇用に関する記事を最近よく目にするが、どうも胡散臭い。実態は大して変わらないのに「ジョブ型」と呼ぶことで大きな変化があるように見せている気がする。4日の日本経済新聞朝刊 総合・経済面に載った「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」という記事もそうだ。

沖端川大橋(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

三井住友海上火災保険は2021年からジョブ型の働き方を取り入れる。上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する。賞与の成果反映部分に差をつけることで、生活給も含めた金額の差は同クラスで2倍に広がる。サービスや業務のデジタル化を進めるなか、旧来型の仕組みでは人材の確保が難しいと判断した。

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する。在籍年数にとらわれずに年俸を設定し、中途採用を強化する。

専門職以外の社員では21年4月から人事制度が成果重視になる。上司が期待する行動や成果を明示し、本人と合意した上で考課の基準とする。

年俸制への完全な切り替えは影響が大きいと判断し、当面は配置や報酬の算定で勤続年数も評価する。現状は賞与の3割が成果反映部分だ。新制度では最上位と最下位の評価が最大10倍開く。30歳代後半の課長の場合、最下位が20万円で最上位は200万円。賞与の総額は約2倍の差が出る。

成果反映部分は評価が6段階あっても中央の3段階しか使っていなかった。ジョブを定義し評価を明確にし、6段階すべてを活用する。

ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた。


◎「完全ジョブ型雇用」とは?

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する」と書いてあるが「完全ジョブ型雇用」の定義は不明。これでは困る。

上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する」のは不完全な「ジョブ型雇用」ということか。

しかし、これもよく分からない。日本の雇用形態は「メンバーシップ型」だと言われるが、日本の一般的な会社員でも担当業務はある。それを「ジョブディスクリプション(職務定義書)」として文書にすると「ジョブ型雇用」になるのか。「ジョブディスクリプション」で経理の仕事を割り振り、次の年には営業担当として「ジョブディスクリプション」を定めた場合も「ジョブ型雇用」なのか。

成果を報酬に反映する」ことは「メンバーシップ型雇用」でも当たり前にやってきたはずだ。その比率を高めると「ジョブ型雇用」になるのか。

記事の最後では「ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた」と説明している。やはり「成果重視」だと「ジョブ型雇用」と見なすのか。

例えば「データサイエンティスト」を「データサイエンティスト」職として採用し、それ以外の仕事は一切させないと「ジョブディスクリプション」で定めるとしよう。経理や営業などへの異動ももちろんない。しかし給与だけは「年功要素」だけで決める。この場合は「ジョブ型雇用」とは呼べないのか。今回の記事からは「ジョブ型雇用」ではないと判断するしかないが、だとすると「ジョブ型雇用」とは一体何なのかとの疑問がやはり残る。


※今回取り上げた記事「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201104&ng=DGKKZO65790950T01C20A1NN1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月3日火曜日

日経 山下真一氏の「一目均衡~ESGマネー導く条件」に感じた「ないものねだり」

3日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~ESGマネー導く条件」という記事でシニアライターの山下真一氏は「ESG(環境、社会、企業統治)」投資に関して「企業の情報開示や評価の改善を急ぎ、投資マネーの力を正しく発揮させる必要がある」と訴えている。しかし、これはないものねだりだと感じた。

有明海(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

勢いを増すESG投資が広く深く支持を得るには時間がかかりそうだ。日本の商社やカナダの金鉱山会社について、ESGを重視する欧州の一部年金基金は投資対象外のリストに載せている。一方で、米著名投資家バフェット氏はまさにこれらの企業に投資したばかり。まるで孤高のバフェット氏が、気候変動対策は大切だがリターンは重視しないのかと、疑問を投げかけているかのようだ。

米労働省もESG投資をけん制し、「年金運用は金銭的な利益のみを考慮すべきだ」との案を示した。運用会社は労働省案に批判的だが、個人を中心に、老後資金の運用は金銭的利益を優先してほしいと一定の賛成もある。

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件。そのためには、ESGマネーが企業の開示や評価にもとづき、正しく優良企業へと向かう流れを確立することが前提になる。開示基準の統一化や評価のルール作りを急ぎ、ESG投資という「仏」に、選別眼のある「魂」を入れる必要があるだろう


◎「選別眼のある『魂』を入れる」?

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件」という説明はやや分かりにくいが「ESG投資がさらに浸透するには、ESG投資によって市場平均を上回る確率が高まると示されることが条件」との趣旨だとしよう。この場合「ESG投資という『仏』に、選別眼のある『魂』を入れる」ことを求めるのは酷だ。

仮にある評価機関が「ESG投資」の対象企業を正しく選べるようになったとする。結果として、この評価機関の選んだ銘柄でポートフォリオを作れば市場平均を上回るリターンを得られると「示され」、山下氏の望む状況が作れたとしよう。

そうなると当然に「ESG投資」に資金が流れ込み株価の割高感が強まる。結果として「正しく」選んだ銘柄から市場平均を上回るリターンが得られにくくなる。

安定的に市場平均に勝てる必勝法は基本的にない。あったとしても、多くの人に知られてしまっては持続性がなくなってしまう。「ESG投資」も「さらに浸透」した上で市場平均を上回るリターンを安定的に得る術はないと考えるべきだ。

そもそも「CO2削減量に応じて株価が形成される」ような状況になれば「CO2削減量」ゼロの高収益企業の時価総額が破綻寸前の企業を下回ってもおかしくない。果たしてそれが株式市場のあるべき姿なのか。

ESG投資」をやるのは勝手だが「応援したい企業にしか投資しない。結果としてリターンが悪くても構わない」といった類のものであるべきだ。「リターンにも旨みを」と言い始めるとおかしな話になってくる。


※今回取り上げた記事「一目均衡~ESGマネー導く条件」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201103&ng=DGKKZO65783520S0A101C2DTA000


※記事の評価はC(平均的)。山下真一氏への評価も暫定でCとする。

2020年11月1日日曜日

東洋経済「ニュースの核心」結果論で語らない山田雄大氏の姿勢を評価

 経営の失敗を分析するのは難しくない。結果論で物が言えるからだ。しかし経営判断を下す時点では様々な不確定要素がある。なので「あそこでこうしておけば良かったのに…」と安易に語るのはズルい気もする。その意味では週刊東洋経済11月7日号に山田雄大氏(肩書は本誌コラムニスト)が書いた「ニュースの核心~『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」という記事は評価できる。

沖端川大橋(柳川市)※写真と本文は無関係

三菱重工業が取り組んできた旅客機スペースジェット(旧MRJ)が事実上の事業断念に追い込まれた」件に触れて山田氏は以下のように記している。


【東洋経済の記事】

とはいえ、サイズは違うが同じ航空機事業では、未経験のホンダがホンダジェット事業を軌道に乗せつつある。参入時点の成功確率を客観的に評価すれば、MRJのほうが高かったのではないか。

ここで三菱重工を非難しようとしているのではない。四半世紀に及ぶ経済誌記者の経験からいえば、新事業やM&Aなどで「正しそう」な戦略が、当初の印象に反してうまくいかないのだ。


◇   ◇   ◇


新事業やM&Aなどで『正しそう』な戦略が、当初の印象に反してうまくいかない」と感じるのはよく分かる。「『正しくなさそう』な戦略」を積極的に選ぶ経営者もそれほど多くはないだろう。ただ、なぜ「うまくいかない」のかに関しては山田氏の意見に同意できない。そのくだりを見ていこう。


【東洋経済の記事】

東芝による米原子力メーカー、ウエスチングハウス(WEC)の買収も似た色合いがある。06年の買収時、原子力発電は世界中で再評価されていた。東芝が手がけるのは沸騰水型炉(BWR)で、世界で主流の加圧水型炉(PWR)の親玉であるWECを買収すれば、BとPを持つ唯一の原子炉メーカーとして躍進できる。

決定時の社長だった西田厚聰氏は最後まで正しかったと主張していたが、実際、その戦略は論理的には正しかったのだろう。

しかし、多数あった新設計画は机上のものが大半だったうえ、東日本大震災と福島第一原発事故で市場環境は一変した。名門意識が高いWECを御し切れないまま、数少ない受注案件は安全規制強化もあって費用が膨張していった。最終的に1兆円を優に超える損失を招き、東芝を危機に追い込んだ。

「正しそう」であるがゆえに、状況判断が甘くなる──。そう結論づけるのは強引すぎるだろうか(反証する事例も多々あるかもしれないが)。いずれにしろ、当事者は失敗原因を分析したうえで、今後の事業計画の教訓として生かし、新たな挑戦を続けるべきだ。


◎そもそも成功確率が低いのでは?

今回の記事には「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」という見出しが付いている。しかし「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」と言えるデータは示していないし、記事中では「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」とも訴えていない。「『正しそう』な戦略が、当初の印象に反してうまくいかない」と述べているだけだ。

その要因として「『正しそう』であるがゆえに、状況判断が甘くなる」のではないかと山田氏は分析している。とは言え買収額や投資額を勘案しても「正しそう」ならばゴーサインが出るのは必然だ。「戦略は論理的には正しかった」のにストップをかける方がどうかしている。

推測だが、そもそも「新事業やM&A」の成功確率がかなり低いのではないか。だから「正しそう」な案件でも多くの失敗例を目にすることになる。市場環境の激変や強力な競合相手の登場を事前に見通せる経営者は基本的にいない。「原子炉」に関して「東日本大震災と福島第一原発事故で市場環境は一変した」が、これを織り込んで「戦略」を練るのはまず無理だ。

なので「失敗原因を分析したうえで、今後の事業計画の教訓として生か」すのは難しいと思える。「新たな挑戦を続ける」ならば、成功確率は低いとの前提に立って、失敗した時に備えたリスク管理をしっかりすべきとの結論になるだろう。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25055


※記事の評価はB(優れている)。山田雄大氏への評価はBを据え置く。山田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済 山田雄大記者の秀作「スズキ おやじの引き際」https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_5.html