2018年2月9日金曜日

「肌着からデータ送信」が怪しい日経「ポスト平成の未来学」

「タブレット端末に心拍数のデータを送ってくれるポリエステル繊維製の肌着」と聞いたら、どういうイメージが湧くだろうか。個人的には、何らかの機器を装着した「肌着」では「肌着がデータを送ってくれる」とは感じられない。
片の瀬公園(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

12日の日本経済新聞朝刊未来学面「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう」という記事では「データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」と言い切っていた。しかし、調べてみると「ポリエステル繊維製の肌着」そのものがデータ送信するわけではなさそうだ。

記事の最後には「ご意見や情報をmiraigaku@nex.nikkei.co.jpにお寄せください」と出ているので、意見を送ってみた。内容は以下の通り。


【日経に送ったメール】

日本経済新聞社 上阪欣史様 奥津茜様

12日の「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう」という記事について意見を述べさせていただきます。まず気になったのが最初の段落です。

 「1月下旬、僕(41)のタブレット端末に毎日、自分の心拍数がリアルタイムで表示されるようになった。データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着。電気を通す直径700ナノ(ナノは10億分の1)メートルのポリエステル繊維製で、軽さは普通の肌着と変わらない。東レとNTTが開発したウエアラブル・センサー付き衣料『hitoe』だ」

これには驚きました。「ポリエステル繊維製」の「肌着」が「タブレット端末」に心拍数の「データを送ってくる」と書いてあります。繊維がタブレット端末にデータを送信するなんて画期的な話です。「繊維の中に微細な機械を埋め込むのかな? でも、それじゃ洗濯できないのでは?」などと考えてしまいました。そこで調べてみると、謎が解けました。

「データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」ではなくて「hitoeトランスミッター」という機器なのですね。記事を読んだ時は「肌着が心拍数を計測してデータを送信する」と思い込んでしまいました。

ひょっとしたら「ウエアラブル・センサー」が「hitoeトランスミッター」を指すのかもしれません。しかし、記事には肌着は「ポリエステル繊維製」と書いてあったので、「電気を通す直径700ナノメートルのポリエステル繊維」が「センサー」の役割を果たすと理解しました。

「hitoeトランスミッター」という機器がデータを送ってくるのならば「データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」との説明は不正確であり、誤解を招きます。

ついでに言うと、41歳男性の「僕」には違和感を覚えました。記事中で使うとしても20代までではないでしょうか。

次に移りましょう。今回の記事では「hitoe」の話から以下のように展開していきます。

「衣服を介した生体情報は企業にとっても大きな価値がある。例えばライブ会場や観光地などで、来場者がどれだけ楽しんでいるのかを把握できれば、サービスの改善や新企画の提案に生かせる。こうした未来を予見させるのが、日本IBMによる人工知能(AI)『ワトソン』を使った服づくりだ。昨年9月のファッションイベントに電装のドレスを出品。『カワイイ!』といった来場者のツイッターのやりとりをワトソンが解析し、感情の動きに合わせてドレスの色を変えた。吉崎敏文ワトソン事業部長(55)は『何十万通りの服と感情のデータをマッチさせれば“私だけの一着”が出てくるかもしれない』と話す」

「ワトソン」の話は「衣服を介した生体情報」に関する「未来」とはズレています。流れとしては「着ている服が生体情報を読み取り、その情報を企業が生かしていく」という事例を持ってくる必要があります。しかしワトソンは「来場者のツイッターのやりとり」から情報を得て、それを「電装のドレス」の「色」に反映させているだけです。「衣服を介した生体情報」を読み取ってはいません。事例としては辛いと感じました。

「ファストから『とがった』価値追求へ」という関連記事についても少し触れておきます。問題としたいのは「伸び悩み」の使い方です。記事では「国内の衣料品販売は伸び悩んでいる。直近の衣料品の国内市場は91年の3分の2の10兆円程度に落ち込んでいる」と記しています。

「伸び悩む」とは「能力や勢いが盛んになろうとしているのにある段階で停滞してそれ以上になれずにいる」(大辞林)という意味です。基調としては伸びているが、その勢いが弱い時に用いる言葉です。「直近の衣料品の国内市場は91年の3分の2の10兆円程度に落ち込んでいる」のであれば、低迷が長く続いています。記事に付けたグラフでも、そうした傾向が読み取れます。だとすれば「国内の衣料品販売は伸び悩んでいる」との説明は不適切です。

グラフにも「衣料品の国内市場は伸び悩んでいる」とのタイトルが付いています。グラフと併せて見ると記事の作り手が「伸び悩み」の意味を理解していないのが容易に分かります。気を付けてください。

記事に関する意見は以上です。今後の参考にしていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180208&ng=DGKKZO26645530X00C18A2TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。上阪欣史記者への評価はDで確定させる。奥津茜記者は暫定でDとする。

2018年2月8日木曜日

「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文

日経ビジネス2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」の中に「猛スピードで進む高齢者の増加」という説明があった問題で、日経BP社から回答があった。その内容を紹介するとともに、回答に注文を付けておきたい。問い合わせと回答は以下の通り。
横浜赤レンガ倉庫(横浜市)※写真と本文は無関係です


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 武田健太郎様 武田安恵様

2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」の中の「PROLOGUE~2100年 日本はこうなる 人口・暮らし・社会を大胆予想」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

「むしろ生まれる子供はもっと減り、76年の年間出生数は50万人を割り込むと予想されている。少子高齢化ならぬ『無子高齢化社会』が本格化するのだ。猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少。今後、100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来を統計から予想するとこんな姿になる」

引っかかったのは「猛スピードで進む高齢者の増加」です。高齢社会白書(2017年版)によると、高齢者(65歳以上)人口は2016年が3459万人で、42年に3935万人とピークを迎え、65年には3381万人にまで減る見込みです。

記事からは「76年」の時点でも「高齢者の増加と人口減少」が「猛スピードで進む」ような印象を受けます。しかし、この頃には高齢者は減少傾向となっているはずです。

「猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少」とは「100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来=2100年ごろまで」に関する記述だとも解釈できます。その場合は約80年のうち60年近くも高齢者人口が減り続ける可能性大です。しかも65年には今より高齢者人口が少なくなるのです。

また、16年からピークの42年までの26年間でも、14%しか高齢者人口は増えません。この期間に限っても「猛スピードで進む高齢者の増加」とは言えないでしょう。

「100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来を統計から予想する」場合、「高齢者人口は2040年代まで緩やかに増え続けるが、その後は減少に転じる」とでも書くのが適切ではありませんか。「猛スピードで進む高齢者の増加」が2100年頃に向けて進むとの記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「無子高齢化社会」との表現には問題を感じました。出生数が49万人であっても明らかに「無子」ではありません。少なくとも不正確であり、厳しく言えば誤りです。また、「50万人」で「無子」かどうかを線引きする根拠もないはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社からの回答】

弊誌「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」に問い合わせいただいた件につきまして、回答いたします。

23ページの特集記事本文中、「むしろ生まれる子供はもっと減り、76年の年間出生数は50万人を割り込むと予想されている。少子高齢化ならぬ『無子高齢化社会』が本格化するのだ。猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少。今後、100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来を統計から予想するとこんな姿になる。」とのくだりにつきまして「76年」の時点でも「高齢者の増加と人口減少」が「猛スピードで進む」ような印象を受ける。しかし、この頃には高齢者は減少傾向となっているので、「猛スピードで進む高齢者の増加」は誤りではないかとのご指摘でした。

高齢社会白書によりますと高齢者人口がピークを迎えるのは42年と予想されており、その後、減少に転じるとみられているのはおっしゃる通りです。

 弊誌として「猛スピードで……」以下の部分で読者にお伝えしたかったのは、「今後、100歳近くまで生きる今の子供たち」が生きていくうえで「猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少」の両方を経験するということです。それ以前の記述も踏まえたもので、76年時点に限定しているわけではありません。

ただ、直前に76年について触れておりますため、ご指摘いただいたように、あいまいな面があったかもしれません。今後、より正確さを期すよう努めて参りたいと考えています。

◇   ◇   ◇

回答内容への不満は2つある。

◎「2100年ごろまで」を無視

確かに問い合わせでは「記事からは『76年』の時点でも『高齢者の増加と人口減少』が『猛スピードで進む』ような印象を受けます」と書いたが、さらに「『猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少』とは『100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来=2100年ごろまで』に関する記述だとも解釈できます」とも述べた。
大平山山頂からの風景(福岡県朝倉市)
     ※写真と本文は無関係です

つまり、問い合わせの時点から「76年時点の話ではない可能性がある」と明示している。にもかかわらず、回答では「それ以前の記述も踏まえたもので、76年時点に限定しているわけではありません」と説明している。これでは、きちんとした回答とは言えない。


◎2042年までは「猛スピード」?

問い合わせでは「16年からピークの42年までの26年間でも、14%しか高齢者人口は増えません。この期間に限っても『猛スピードで進む高齢者の増加』とは言えないでしょう」と指摘した。しかし、この問題には触れずに「『今後、100歳近くまで生きる今の子供たち』が生きていくうえで『猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少』の両方を経験する」と回答している。

「26年間で14%でも猛スピードでの増加だ」との判断ならそれでもいい(もちろん無理はあるが…)。そこはしっかり見解を示してほしかった。ちなみに「2042年までは高齢者人口が猛スピードで増加する」との前提ならば「『猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少』の両方を経験する」世代を「今後、100歳近くまで生きる今の子供たち」に限定する必要はない。今の30代や40代も過半数が2042年を生きるはずだ。


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html

年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/85-100.html

今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100_7.html

2018年2月7日水曜日

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解

7日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~米中 ぶつかり合うDNA」で、筆者の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が「万里の長城」について誤りだと思える解説をしていた。秋田氏によると中国には「周辺に自前の影響圏(朝貢圏)を広げ、囲い込もうとする性質」があり、「その証しが万里の長城である」という。一般的な認識とは逆と言ってもいい説明だ。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。
帆船日本丸(横浜市)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

「Deep Insight~米中 ぶつかり合うDNA」という記事についてお尋ねします。記事中で筆者の秋田浩之氏(本社コメンテーター)は中国に関して以下のように記しています。

「一方の中国にも、独自のDNAがある。それは周辺に自前の影響圏(朝貢圏)を広げ、囲い込もうとする性質だ。その証しが万里の長城である。中国が一帯一路構想の実現に向けて疾走するのも、国力が増すにつれ、再び、遺伝子の働きが活発になってきたことの表れといえるだろう」

秋田氏は中国に「周辺に自前の影響圏(朝貢圏)を広げ、囲い込もうとする性質」があり「その証しが万里の長城である」と言い切っています。これを信じれば「万里の長城」は歴史的に中国の拡大主義の象徴であったはずです。本当でしょうか。

朝日新聞では「万里の長城」について「中国北部を東西に走る城壁。紀元前から、北方からの異民族侵入を防ぐために築かれ、秦の始皇帝が大増築した」と解説しています。

デジタル大辞泉によると「中国本土の北辺に築かれた長大な城壁。春秋時代に斉(せい)・燕(えん)・趙(ちょう)・魏(ぎ)などの諸国が国境に築いたもので、秦の始皇帝が匈奴(きょうど)の侵入を防ぐために燕・趙の長城を用いて万里の長城とした。南北朝時代から位置を南に移し、現存のものはモンゴルの侵入に備えて明代に築かれたもの」となっています。

基本的には「北方からの異民族侵入を防ぐため」のもので、拡大主義の象徴というよりは防衛目的の建造物と考えるべきです。「(中国が)周辺に自前の影響圏を広げ、囲い込もうとする性質」の証しとして「万里の長城」を捉えるのは誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

回答は届かないだろう。

※追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「Deep Insight~米中 ぶつかり合うDNA」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26590380W8A200C1TCR000/


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価もDを据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」

2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」には色々と問題を感じた。その中でも、間違いだと思えたのが「猛スピードで進む高齢者の増加」という説明だ。2100年に向けて日本で高齢者が「猛スピードで」増加するとは考えにくい。そこで日経BP社に問い合わせを送ってみた。内容は以下の通り。
水天宮(東京都中央区)※写真と本文は無関係です

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 武田健太郎様 武田安恵様

2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」の中の「PROLOGUE~2100年 日本はこうなる 人口・暮らし・社会を大胆予想」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

「むしろ生まれる子供はもっと減り、76年の年間出生数は50万人を割り込むと予想されている。少子高齢化ならぬ『無子高齢化社会』が本格化するのだ。猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少。今後、100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来を統計から予想するとこんな姿になる」

引っかかったのは「猛スピードで進む高齢者の増加」です。高齢社会白書(2017年版)によると、高齢者(65歳以上)人口は2016年が3459万人で、42年に3935万人とピークを迎え、65年には3381万人にまで減る見込みです。

記事からは「76年」の時点でも「高齢者の増加と人口減少」が「猛スピードで進む」ような印象を受けます。しかし、この頃には高齢者は減少傾向となっているはずです。

「猛スピードで進む高齢者の増加と人口減少」とは「100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来=2100年ごろまで」に関する記述だとも解釈できます。その場合は約80年のうち60年近くも高齢者人口が減り続ける可能性大です。しかも65年には今より高齢者人口が少なくなるのです。

また、16年からピークの42年までの26年間でも、14%しか高齢者人口は増えません。この期間に限っても「猛スピードで進む高齢者の増加」とは言えないでしょう。

「100歳近くまで生きる今の子供たちが経験する未来を統計から予想する」場合、「高齢者人口は2040年代まで緩やかに増え続けるが、その後は減少に転じる」とでも書くのが適切ではありませんか。「猛スピードで進む高齢者の増加」が2100年頃に向けて進むとの記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「無子高齢化社会」との表現には問題を感じました。出生数が49万人であっても明らかに「無子」ではありません。少なくとも不正確であり、厳しく言えば誤りです。また、「50万人」で「無子」かどうかを線引きする根拠もないはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。

◇   ◇   ◇

問い合わせは2月3日(土)に送っているが、6日(火)までに回答はなかった。回答があれば、その内容も紹介したい。

追記)回答に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_8.html


※特集全体への評価はD(問題あり)。武田健太郎記者と武田安恵記者への評価もDを据え置く。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html

年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/85-100.html

2018年2月6日火曜日

AIに関する週刊ダイヤモンド深澤献編集長の珍説を検証

週刊ダイヤモンドの深澤献編集長が週刊ダイヤモンド2月10日号の「From Editors」という編集後記でAIに関する珍説を披露していた。記事の全文を見た上で、この説が妥当か検証してみたい。
巨瀬川と耳納連山(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

AIが進化したとはいえ、人間が当然身に付けている「常識」や「倫理観」を持たせるのは難しいそうです。

有名なAI開発プロジェクト「ロボットは東大に入れるか。」でも、「金属の棒に、バターで豆を張り付ける。棒の片方を火で炙ったら、どういう順番で豆が落ちるか」といった小学生レベルの理科の問題に、むしろ苦労したとか。

未来の戦争で戦場に出るロボット兵士には、敵か味方か、兵士か民間人かを正確に見分ける能力が必須となるでしょうが、そうすると「動くものなら全て撃て」と教えられた原始的なAIを搭載したロボットに完敗することになる。

AI時代に人間が就くべき職業として「AIに常識と倫理を教える先生」というのはありかもしれません。


◎「動くものなら全て撃て」に負ける?

引っかかったのは「敵か味方か、兵士か民間人かを正確に見分ける能力」を持つ「ロボット兵士」が「『動くものなら全て撃て』と教えられた原始的なAIを搭載したロボットにに完敗する」という説明だ。色々考えてみたが、「完敗する」可能性は低そうだ。

ここでは、「正確に見分ける能力」を持つロボットを「先進ロボット」、「動くものなら全て撃て」とプログラムされているロボットを「原始ロボット」と呼ぶ。先進ロボットは敵味方の識別をするので、攻撃を仕掛けるタイミングが原始ロボットよりわずかに遅くなると仮定しよう。攻撃能力は互角とする。

まずは、先進ロボットと原始ロボットが集団で戦う場合を考える。広い草原で100体ずつに分かれて配備されているとする。ここで戦闘開始となったらどうなるか。まずは原始ロボット同士での戦いが始まる。原始ロボットは自らの近くで動く仲間の原始ロボットを見境なく攻撃するので、戦闘開始からすぐに大きく数を減らすだろう。そして、先進ロボットの集団と接近した時には、相手に敵だと識別されている上に、数の上では圧倒的な劣勢だ。原始ロボットの敗北は避けられそうもない。

では、1対1の場合はどうか。

双方の攻撃可能範囲が半径100メートルで、先進ロボットが200メートル以内ならば敵味方を識別可能だと仮定すれば、100メートルより離れた場所から戦いを始める場合、勝負の行方は五分五分だ。

100メートル以内では原始ロボットの勝ちかと言えば、そうとも限らない。例えば、周りに鳥がたくさん飛んでいる状況では原始ロボットが不利だ。原始ロボットはまず鳥に攻撃を仕掛けるので、その間に先進ロボットから攻撃を受けてしまう。

ここまでは、先進ロボットが原始ロボットについて学習していないとの想定で話を進めてきた。しかし、最新のAIを搭載した先進ロボットは原始ロボットの行動パターンを学習していると考える方が自然だ。

その場合、(1)自らはなるべく動かない(2)ダミーの動く物(風船など)を用意してそちらを敵に攻撃させる--といった対策を立ててくるだろう。そうなると、原始ロボットの勝ち目はさらになくなる。

他に動く物がない環境で、1対1でいきなり出くわして--といった状況を想定すれば、原始ロボットが勝つ場合もある。だが、かなり特殊な条件付きだ。基本的には先進ロボットが有利だと思える。

そもそも「未来の戦争で戦場に出るロボット兵士には、敵か味方か、兵士か民間人かを正確に見分ける能力が必須となる」とすれば、「『動くものなら全て撃て』と教えられた原始的なAIを搭載したロボット」は必須の能力を欠いていることになる。そんなロボットが戦場に出てくる可能性は限りなく低そうだ。味方も鳥も風船も無差別に攻撃するロボットでは、現実的には使い物にならない。

正常な判断ができる人ならば、そんな「ロボット」を戦場に送り込もうとは、まず考えないだろう。1体で敵を全滅させられるほどの圧倒的な強さを見せてくれるのならば話は別だが…。


※今回取り上げた記事「From Editors」
http://dw.diamond.ne.jp/

※記事の評価はD(問題あり)。深澤献編集長への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。

2018年2月5日月曜日

「大東亜帝国は学食で男女別々」? 東洋経済「大学が壊れる」

週刊東洋経済2月10日号の特集「大学が壊れる」の中に出てくる「大学選びの5カ条 君たちはどう生きるか 大淘汰時代の大学選び」という記事は偏見を感じさせる内容だった。記事ではオバタカズユキ氏が学食に関して「大東亜帝国クラスだと男女席を同じゅうせず」などと語っているが、常識的には考えにくい。この記事には、他にも問題を感じた。順に見ていこう。
早稲田大学 戸山キャンパス (東京都新宿区)

【東洋経済の記事】

 大学にはカラーがある。偏差値が同じならどの大学も一緒、というわけではない。

たとえば慶応義塾大学。幼稚舎から上がってきた本当のお坊ちゃん、お嬢様の価値観のようなものが校風に影響を与えている。それを嫌うと浮いてしまうことがある。

一方、かつての早稲田大学はバンカラで、いろいろな地方の出身者が雑居していたが、今はアッパーミドル家庭、東京の中高一貫校の出身者ばかり。地方の県立トップ高出身者も入学しているが、そうとう減っている。


◎早大は「東京の中高一貫校の出身者ばかり」?

まず、早大についての「東京の中高一貫校の出身者ばかり」という説明が怪しい。大学のホームページで合格者の出身高校所在地別状況を見ると、東京の高校は3分の1程度だ。「中高一貫校」に限れば比率はさらに下がる。入学者の状況も似たようなものとすれば、早大の学生で「東京の中高一貫校の出身者」は3割に満たないと推測できる。だとすれば「東京の中高一貫校の出身者ばかり」は言い過ぎだ。「ばかり」と表現するならば、個人的には7~8割は欲しい。

続きを見ていこう。

【東洋経済の記事】

今はインターネットや情報誌などに、大学に関する情報があふれている。情報はたくさんあって選択肢が増えているように見えるが、ネット情報は玉石混淆で、スマートフォンで調べてわかった気になるのは危ない。冒頭で述べた大学のカラーのようなものも、インターネット情報だけではわからない。

いちばん大事なのは実際にキャンパスに足を運んでみることだ。最近は各大学がオープンキャンパスに力を入れている。こうした催しに参加することもプラスだが、それよりも志望大学を三つくらい、土曜日でもいいが、できれば学生の多い平日に訪問してみたい。高校を休んででも見学する価値がある。

「受験生です。大学見学に来ました」と言えば、守衛さんもまず入れてくれる。

図書館は原則入れないが、手始めに学生食堂でご飯を食べてみよう。キャリアセンターに行けば、就活の雰囲気も伝わってくる。部活の様子や大きな教室を外からのぞくのもよし。ピロティのような場所で、学生たちがどんな会話を交わしているか、耳を傾けてみるとよい。

学食は、お昼どきは混雑するので、午後2時以降が狙い目だ。学食で大学生たちはどんな会話をしているのか。授業のない学生がたむろしていると、本音を知ることができてなおよい。

その際、男女が一緒に和やかに歓談している率がポイント。男女の「和気あいあい度」「にこやかにキャンパスライフを楽しんでいる度」は意外なほど偏差値に比例する。この点、東京大学は例外。立教大学は少し温室ハウスのような空気だとか、中央大学は資格試験疲れの学生がちょっと目立つとか、大東亜帝国クラスだと男女席を同じゅうせず、だとか。学生気質や校風が高校生でも何となく感じ取れるはずだ。

キャンパスでは購買部、特に書籍コーナーもチェックしてみよう。偏差値の低い大学は漫画本メインだったりする。どんな本が並べられているのかを見れば、その大学の知的レベル、文化レベルを推し量ることができる。


◎色々と気になる点が…

オバタ氏は大学選びで「いちばん大事なのは実際にキャンパスに足を運んでみること」で、その際は「学食」で「男女が一緒に和やかに歓談している率」を見るように勧める。まず「男女が一緒に和やかに歓談している率」はそんなに大事なのか。大事だとすれば、その理由が知りたいところだが、記事では教えてくれない。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

百歩譲って大事だとしよう。だが、「男女の『和気あいあい度』『にこやかにキャンパスライフを楽しんでいる度』は意外なほど偏差値に比例する」のであれば、わざわざ「キャンパスに足を運んでみる」までもない。オバタ氏が例外とする東大を除いて偏差値ランキングをチェックすれば「男女が一緒に和やかに歓談している率」が高いかどうかを判断できる。

「偏差値に比例する」という話も信じ難い。「東京大学は例外」とオバタ氏は言うが、だったら東京工業大学やお茶の水女子大学には当てはまるのか。東工大は9割近くが男子学生で、お茶の水は女子大だ。「男女が一緒に和やかに歓談している率」は普通に考えれば低くなる。

「中央大学は資格試験疲れの学生がちょっと目立つ」との説明も引っかかった。オバタ氏は中央大を訪れた際に、疲れた学生が多いなと感じてその理由を1人1人に尋ねたのかもしれない。だが、高校生がそういった事情を「何となく感じ取れる」かと言えば、難しいだろう。

そして最も気になったのが「大東亜帝国クラスだと男女席を同じゅうせず」との記述だ。これらの大学の学食で男女一緒に食事をしているグループは1日に1組いるかどうか--と言えるのならば、記事の説明で問題ない。それぞれの学食を訪ねたわけではないので断定はできないが、「男女席を同じゅうせず」は言い過ぎだと思える。しかも、それを偏差値と絡めているところに偏見の臭いがする。

オバタ氏の言う、大学選びで「二つ目に大事な」ことについても疑問を感じた。

【東洋経済の記事】

二つ目に大事なのは、ネット上の大学関連情報や雑誌のランキングのたぐいは極力見ないこと。大学に関する情報を見るくらいなら、勉強に集中したほうがよい。

教育熱心な親ほど、大学ランキングなどの数字に踊らされてしまう。しかし、子どもの志望校がどのレベルに位置づけられているかを大ざっぱに知る程度ならよいが、細かなランキングの上下を気にする必要はまったくない。親は自分の出身大学や受験経験のコンプレックスを反映し、つい感情的になってしまう。それらは「それは世間のうわさ話なのね」という程度に受け止めておくべきで、そうしたランキングに一喜一憂するのは有害無益だ。



◎どうやって志望大学を絞り込む?

オバタ氏は「ネット上の大学関連情報や雑誌のランキングのたぐいは極力見ないこと。大学に関する情報を見るくらいなら、勉強に集中したほうがよい」と助言する。「いちばん大事なのは実際にキャンパスに足を運んでみること」だとも述べていた。「志望大学を三つくらい、土曜日でもいいが、できれば学生の多い平日に訪問してみたい」とオバタ氏は言うが、だったらその「三つ」はどうやって選ぶのか。

大学関連の情報に極力触れないようにして「三つ」を選ぶのは難しい。「親や教師に選んでもらえ」と言いたいのか。謎だ。

今回の記事は最後に「(談)」となっている。つまり、オバタ氏に取材した内容を記者がまとめたものだ。雑な説明をそのまま記事にした記者の責任も重い。

因みに、今回の記事には早稲田大学大隈講堂の写真を使っていて、写真には「昔のイメージで大学を選ぶと失敗する(写真は本文と関係ありません)」という説明が付いている。早大についても記事中でしっかり触れているのだから「写真は本文と関係ありません」とは言えないだろう。

さらに言えば「自宅生の半数超は1時間以上かけて通学─大学生の片道通学時間─」とのタイトルが付いたグラフも気になった。このグラフは本文との関連性がほぼない。強いて挙げれば「自宅からキャンパスまでの交通の便も、実際に行ってみないと意外とわからないものだ」というくだりだが…。何のためにグラフを入れたのか、これも謎だ。


※今回取り上げた記事「大学選びの5カ条 君たちはどう生きるか 大淘汰時代の大学選び」


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年2月4日日曜日

年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」

日経ビジネス2月5日号の特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」では、「ハッピーシナリオ~クラウドワーカーとして市役所から業務を受託 安価な公営住宅と年金で生活には十分」という記事で、2100年に「幸せ100歳」を達成した場合の例を示している。だが、この「ハッピーシナリオ」はあまりハッピーには見えない。
横浜ランドマークタワー(横浜市)
        ※写真と本文は無関係です

「2100年、84歳になった青木陽人」に関してどう描いているのか見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

東京の家を売り払い、地方都市に移住した。45年以降、政府は人口減でスカスカになった日本列島をコンパクトで効率的な国に作り変えるべく、人口10万~20万人程度の地方都市にインフラや行政サービスなどを集約させた。低所得者でも暮らせる家賃1万円の公営住宅を整備。雇用も不足しないよう配慮し、クラウドワーカーが働きやすいように通信環境も重点的に整備された。この政策のおかげで、多くの人々が東京から地方に移り住んだ。

陽人は公営住宅に入居し、フリーで配線修理の仕事をしながら妻のリハビリに付き合った。幸い妻は回復し歩けるようになったことから、税理士の通信教育講座を受講し資格を取得。クラウドワーカーとして税理士事務所を立ち上げ、約25年がたった。

85歳となる来年からは年金受給が始まる。夫婦合わせて月10万円足らずだが、貯金を少しずつ取り崩し、税理士の仕事を週2回程度すれば、十分生活できると考えている。


◎「バッドシナリオ」のような…

まず「年金受給が始まる」のが「85歳」では辛い。「2100年には年金受給が85歳からになる」と聞いたら「年金制度は実質的に破綻するんだな」としか思えない。筆者には「2100年には84歳でも元気に働ける人の割合が95%を超える」といった前提があるのかもしれないが、現実的ではない。

さらに、やっともらえる年金が「夫婦合わせて月10万円足らず」なのが厳しい。現在の物価水準が続くとの前提で「家賃1万円の公営住宅」に住むとしても、光熱費や通信費を差し引くと残るのは8万円程度だろう。

「税理士の仕事を週2回程度すれば、十分生活できる」かもしれないが、逆に言えば85歳になっても仕事を続けないと「生活」が成り立たない。「青木陽人」さんが100歳まで生きる場合、「十分生活できる」だけの収入を得ようとすると、90代になっても働き続けるしかない。それが本当に「ハッピーシナリオ」なのか。

特集を担当した武田健太郎記者と武田安恵記者には、その辺りをもっと突き詰めて考えてほしかった。


※今回取り上げた特集「幸せ100歳達成法~長生きリスクを越える」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/013000903/?ST=pc


※特集全体への評価はD(問題あり)。武田健太郎記者と武田安恵記者への評価もDを据え置く。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html

今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100_7.html

「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_8.html