2018年1月6日土曜日

「かつての日本人は仕事熱心」に根拠がない日経の社説

6日の日本経済新聞朝刊総合1面に「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人」という社説が載っている。筆者は「かつての日本人は仕事熱心だった」との前提で社説を書いているが、本当にそうだろうか。社説の前半部分を見ていこう。

筑後川と耳納連山(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です
【日経の社説】

「日本人は仕事熱心」という常識はもはや過去のものかもしれない。米調査会社のギャラップが昨年公表した、仕事への熱意(エンゲージメント)についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意を持って積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体の6%。調査した139カ国のなかで132位と、最下位級にとどまった。

ほかの調査でもほぼ同様の結果が出ている。与えられた仕事を指示通りにこなす受け身の勤勉性はそれなりに高いものの、自ら主体的に仕事に取り組む姿勢に欠ける現状は非常に心配だ。

働き手の熱意の低い職場から目の覚めるようなイノベーションが生まれないのは自明だろう。企業業績と社員の熱心さの間には強い相関関係があることも知られている。日本企業の収益力が低い一因は社員の熱意不足ではないか。

仕事の「やらされ感」が強まれば、不祥事や労働災害も起こりやすくなる。政府が旗を振る生産性革命も、個々人が旧態依然の仕事ぶりを改め、新たな働きかたに挑戦しようとしなければ、絵に描いたモチに終わる。各人の熱意を引き出し職場を活性化することは、各企業にとっても日本全体にとっても待ったなしの課題である。

かつて旺盛だった「仕事熱心さ」が後退した理由のひとつは、人員の年齢構成のいびつさだろう。若い人が新しいアイデアを出しても、職場で多数派を占めることの多い中高年層が抵抗し、はね返される。そんなことが繰り返されれば、あきらめムードが広がり誰も何も言わなくなる。


◎過去の「熱心さ」は何で判断?

「米調査会社のギャラップが昨年公表した、仕事への熱意(エンゲージメント)についての国際比較」で日本が「最下位級にとどまった」ことを根拠に、今の日本人は「仕事熱心」ではないと筆者は判断している。これは分かる。

だが「かつて旺盛だった『仕事熱心さ』が後退した」ことを示すデータは見当たらない。「かつて」がいつ頃を指すのかも不明だ。「かつては仕事熱心だった」との前提に根拠がないのに「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人」というテーマで社説を書くのは無理がある。

社説では日本人について「与えられた仕事を指示通りにこなす受け身の勤勉性はそれなりに高いものの、自ら主体的に仕事に取り組む姿勢に欠ける」と評している。個人的な感想で恐縮だが、20年前も30年前もそうした傾向はあった気がする。

「そんなことはない。日本人の仕事熱心さは大きく減退している」と筆者が考えるのならば、「かつて」との比較をデータで示すべきだ。間違った前提に基づいて分析を進めても、意味のある結論は得られないだろう。


※今回取り上げた社説「いつの間にか『仕事熱心』をやめた日本人」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO25406090V00C18A1EA1000/


※社説の評価はD(問題あり)。

2018年1月5日金曜日

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り

日本経済新聞の正月企画「パンゲアの扉 つながる世界」が相変わらず苦しい。5日の朝刊1面に載った「(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない」という記事はツッコミどころが多かった。まずは「スリランカは東南アジアに属するか」を考えたい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
北九州市立松本清張記念館(北九州市小倉北区)
            ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

「パンゲアの扉 つながる世界(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

「活躍の場を求め若者は翔(と)ぶ。12月中旬、東京・駒込の日本語学校。東南アジアのエリート学生8人が大学受験に向けて世界史の授業を受けていた。講義も生徒がとるノートも日本語だ。スリランカ人のニワルタナさん(22)は国営企業中心の母国では『起業できない』と飛び出した。日本の国立大学で経済を学び『将来は欧州でファッション関連の会社をつくりたい』」

記事の書き方から判断すると「スリランカ人のニワルタナさん」は「東南アジアのエリート学生8人」の1人です。しかし「スリランカ」は「東南アジア」には含まれません。「東南アジア」とは「アジア南東部、インドシナ半島とマレー諸島からなる地域の総称。ミャンマー・タイ・ベトナム・ラオス・カンボジア・マレーシア・シンガポール・フィリピン・インドネシア・ブルネイの諸国を含む」(大辞林)と考えるのが普通です。

「スリランカ人」を「東南アジアのエリート学生」と表現した記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

今回の記事では他にも引っかかる部分があった。まず最初の事例から。

【日経の記事】

「ピリピリしているから学生には話しかけないで」。2017年12月1日、理系大学の最高峰との呼び声もあるインド工科大学(IIT)ボンベイ校。この日解禁された企業の採用活動をのぞきに行くと、大学の職員にきつく言い渡された。

面接会場にしつらえた学生寮。冷房がなく蒸し暑いなかをスーツ姿の学生が列をなしていた。集まったのは米ゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツ銀行といった名だたる世界企業。「やりたい仕事ができるなら国は関係ない」。バイオ専攻のチャウドハリーさん(22)が教えてくれた。

2週間ほどの「第1次面接期間」を終え、ボンベイ校の学生900人の就職が決まった。米マイクロソフトは入社初年度の報酬で最高1400万ルピー(約2400万円)を提示――。地元紙は世界企業による人材争奪戦の一端を伝えた。


◎「900人」は世界企業に就職?

普通に読むと「ボンベイ校の学生900人」が「米ゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツ銀行といった名だたる世界企業」に就職を決めたように感じる。しかし、「900人」もの学生全員が「名だたる世界企業」で働くのかなとも思う。
関崎灯台(大分市) ※写真と本文は無関係です

仮に全員が世界企業に就職したのならば、「採用活動を許されたのは有名な世界企業のみ」とか「900人全員が有名な世界企業に就職を決めた」などと明言してほしかった。ついでに言うと、何人の学生が就職活動に臨み、そのうちの何人が「名だたる世界企業」に就職したのかが情報として欲しい。

今回の記事では、根拠が薄そうな漠然とした解説も気になった。

【日経の記事】

ユネスコの調べでは世界で年460万人(15年)が国を越え就学する。10年間で1.6倍に膨らんだ。国際教養大の鈴木典比古学長は「米スタンフォード大などのネット講義で学んでいる若者は2千万人以上にのぼる」と指摘する。

1990年代半ば以降生まれの若者は「デジタルネーティブ世代」。物心ついた時からインターネットになじみ、年齢や所属へのこだわりが薄い。彼らが主役となってけん引するグローバリゼーションは、よりフラットな世界へと導かれる。

17年秋。トランプ大統領の就任後、初めて新年度を迎えた米国の約500大学では新しく来た留学生が平均7%減った。教育界には移民に強硬な政策が影を落としているとの不安も広がる。



◎「よりフラットな世界」とは?

「デジタルネーティブ世代」が「物心ついた時からインターネットになじ」んでいるのは納得できる。だが「年齢や所属へのこだわりが薄い」かどうかはよく分からない。ネットに馴染むと「年齢や所属へのこだわり」が薄れる訳でもないだろう。

取りあえず受け入れてみるとしても「彼らが主役となってけん引するグローバリゼーションは、よりフラットな世界へと導かれる」との解説がよく分からない。記事では、「フラットな世界」が具体的にどんな「世界」かは触れないまま、米国の大学で留学生が減った話に移ってしまう。

仮に「トップとヒラしかいないような組織ばかりになる」のが「フラットな世界」だとしよう。しかし、「年齢や所属へのこだわりが薄い」とフラット化するとの流れが理解しにくい。例えば、「年齢」にこだわらずに人材を採用する企業が増えたとしても、組織をフラット化する必然性は乏しい。結局ここは、何が言いたいのかよく分からなかった。

「パンゲアの扉 つながる世界」というテーマに合わせるために、「これまでのグローバリゼーションとは違うものになる」と強引にねじ込んだ感じがする。やはりこの連載には無理がある。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180105&ng=DGKKZO25345420V00C18A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う

5日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~米中ITの『二都物語』」という記事で気になる表現があった。記事で言う「二都」とは「深圳」と「シリコンバレー」で、これは分かる。しかし「両市」となるとどうか。「シリコンバレー市」という都市があるのだろうか。以下の内容で問い合わせを送ってみた。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社コメンテーター 中山淳史様

5日朝刊の「Deep Insight~米中ITの『二都物語』」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

「起業家だけではない。聞けば、電気自動車のテスラはすでにエレクトロニクス系の部品を128種類も深圳に生産委託し、アップルは今年、大規模な研究開発センターを同市に置こうとしている。一方、DJIなど深圳の主要企業もシリコンバレーにソフトウエア開発や情報収集の拠点を相次ぎ設けている。同市で研究活動をしている伊藤亜聖・東大准教授は『最近の両市のヒト、モノ、カネの行き来は目を見張る』と話す」

問題としたいのは「両市」との表現です。ここでは「深圳」と「シリコンバレー」を指すのは明白です。しかし、シリコンバレーは「市」ではありません。「アメリカ合衆国カリフォルニア州北部のサンフランシスコ・ベイエリアの南部に位置しているサンタクララバレーおよびその周辺地域の俗称」(はてなキーワード)であり、単独の「市」の一部でもありません。

伊藤亜聖・東大准教授のコメントとは言え、「深圳」と「シリコンバレー」を「両市」と表現するのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

筆者の中山氏が「深圳」と「シリコンバレー」をともに「市」と捉えている場合、「同市で研究活動をしている伊藤亜聖・東大准教授」のくだりの「同市」は「シリコンバレー」になってしまう。しかし、実際は「同市=深圳」のようだ。

中山氏が「シリコンバレーは市ではない。ある地域の俗称だ」と認識しているのであれば、「両市」との表現をコメントで使うべきではない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~米中ITの『二都物語』」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180105&ng=DGKKZO25318780U8A100C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

2018年1月4日木曜日

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」

日本経済新聞朝刊1面の正月企画「パンゲアの扉 つながる世界」が予想通りの苦しい展開になってきた。4日の「(3)消える『南北の壁』 自由貿易、途上国を潤す」という記事では、途上国が「第1次産品」輸出への依存から抜け出そうとしている例として、モロッコの「アルガンオイル」を取り上げている。しかし、「アルガンオイル」も「第1次産品」ではないのか。
筑後大石駅に停車中のディーゼルカー220DC
   (福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

記事の前半部分は以下のようになっている。

【日経の記事】

モロッコ南部に自生する「アルガン」。実から取れるオイルを米ハリウッドスターらがスキンケアで愛用しているとの情報が交流サイト(SNS)などで流れ、約10年前から人気に火が付いた。今や米アマゾンで4万点の関連商品が販売されるヒット商品だ。

家内工業による小規模生産だったが、大規模な生産組合が次々と誕生。生産量は現在の年4千トンから2020年には1万トンに伸びる見通しだ。欧州連合(EU)や米国など50カ国以上と自由貿易協定(FTA)を締結する同国は10億人にのぼる世界市場に売り込みをかける。

国や大企業を中心としたこれまでのグローバリゼーションは先進国が天然資源などの第1次産品を途上国から購入し、途上国はそこで得た外貨で先進国から工業製品を輸入する「南北貿易」がエンジンだった。しかし資源価格に依存する経済は脆弱で雇用も不安定。そんな途上国が自ら自由貿易に身を投じることで自立への道を歩み始めた。

かつてフランスの植民地だったモロッコも1次産品のリン鉱石の輸出国だが、今では自動車産業の一大集積地だ。仏自動車大手ルノーが年約40万台を生産し、その大半を欧州に輸出する。急速なIT(情報技術)の普及も途上国の追い風となっている。

◇   ◇   ◇

パーム油なども一次産品に含めるのが一般的なので、常識的に考えれば「アルガンオイル」も一次産品だ。だとすると、先進国がモロッコから「アルガンオイル」を輸入した場合、「先進国が天然資源などの第1次産品を途上国から購入」する「これまでのグローバリゼーション」に当てはまるはずだ。

他にも疑問点が浮かぶので列挙してみる。

◎「大規模生産」になった?

「家内工業による小規模生産だったが、大規模な生産組合が次々と誕生」と書いてあると、「家内工業による小規模生産」から「大規模生産」に移行している印象を受ける。しかし、「大規模な生産組合」の構成員が「家内工業による小規模生産」を手掛けていてもおかしくはない。
常盤橋(北九州市小倉北区)※写真と本文は無関係です

「生産組合」とは「小規模生産」をしている人の集まりなのか。それとも生産規模そのものが変わってきているのか。そこは明確にしてほしかった。


◎FTA締結国だけに輸出?

「欧州連合(EU)や米国など50カ国以上と自由貿易協定(FTA)を締結する同国は10億人にのぼる世界市場に売り込みをかける」との記述からは、FTA締結国にだけ「売り込みをかける」と取れる。しかし、「FTA」がなくても輸出はできる。常識的には、条件さえ合えばFTA締結国でなくても輸出に応じるはずだが…。

ついでに言うと「米国など50カ国以上と自由貿易協定(FTA)を締結する同国」と表記すると、形式的には「同国=米国」になってしまう。誤解を招く可能性は低いが、「モロッコは10億人にのぼる世界市場に売り込みをかける」とすべきだ。


◎いつの話?

「先進国が天然資源などの第1次産品を途上国から購入し、途上国はそこで得た外貨で先進国から工業製品を輸入する」のが「これまでのグローバリゼーション」だったと記事では解説している。正直言って「いつの話?」と聞きたくなる。

人件費の安い「途上国」に工業製品の生産拠点を移して…といった話は何十年も前からある。少なくとも21世紀に入ってからは、記事で言うような「途上国は一次産品をひたすら輸出」といった状況ではない。

記事では、モロッコが「自動車産業の一大集積地」になっているとも書いている。途上国に自動車メーカーが生産拠点を築く動きは「これまでのグローバリゼーション」にはなかったとでも取材班では判断しているのか。

「世界が大きく変わってきた。パンゲアの扉が開いてきたんだ」と訴えたいのは分かるが、今回のような中身では「材料がないのに強引に訴えている」と言われても仕方がない。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界(3)消える『南北の壁』 自由貿易、途上国を潤す」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180104&ng=DGKKZO25290320T00C18A1MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

2018年1月3日水曜日

年始とは言え…ほぼ中身ゼロ 日経の企業ニュース記事

3日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「EV充電設備のシステムを強化 日本ユニシス」というベタ記事は、ほぼ中身がない。短い記事なので全文を見てみよう。
浅草寺(東京都台東区)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本ユニシスは自動車向けの情報基盤の事業を強化する。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の充電ステーションの構築を支援するシステムについて、会員制充電サービスを検討している自動車メーカーに売り込む。

「スマートオアシスforチャージング」と呼ぶ同社が2009年から提供しているクラウド型のシステムを強化。充電用装置を利用するための利用者認証や課金決済を請け負い、ネットで利用者に装置の位置情報、充電装置の空き情報を提供する仕組みを備える。


◎具体的には何を「強化」?

素直に受け止めれば、この記事では日本ユニシスが「自動車向けの情報基盤の事業を強化する」のがニュースだ。だが、「強化」の中身が分かりにくい。「クラウド型のシステムを強化」とも書いているが、これでもかなり漠然としている。

「充電用装置を利用するための利用者認証や課金決済を請け負い、ネットで利用者に装置の位置情報、充電装置の空き情報を提供する仕組みを備える」というのが「強化」の中身かもしれない。今の「クラウド型のシステム」にはない「仕組みを備える」ようにするのだろうか。これも微妙だ。既に「仕組みを備え」ているとも取れる。

今はない「仕組み」を「クラウド型のシステム」に追加するとしても、それだけで「自動車向けの情報基盤の事業を強化する」と打ち出すのは、大げさすぎる。しかも、いつ「強化する」のかも謎だ。

「自動車向けの情報基盤の事業を強化する」話を柱にするのならば、この事業がどういう中身で、どの程度の規模かも情報として欲しい。その上で人員、設備、品ぞろえなどで「強化」の中身を具体的に述べるべきだ。今回のような内容では、記事にする意味がない。

事情は分からなくもない。「年末年始用の原稿を出せ」と求められて、記者が無理に捻り出した結果だとは思う。だからと言って、この内容で許されるわけではない。

日経(特に企業報道部)の幹部には「企業ニュースがない時の紙面をニュース記事で埋めようとするのは、そろそろ終わりにしませんか」と提案したい。企画モノの記事で埋めればいいではないか。今回のような中身のない記事を読者に届けても、誰の利益にもならない。

「粗製乱造で中身の薄い記事を量産するのが日経(特に企業報道部)の伝統だ。それを守りたい」と言うのならば話は別だが、今回の日本ユニシスの記事は「今のままではダメだ」と教えてくれている。それを日経の上層部に感じてほしい。


※今回取り上げた記事「EV充電設備のシステムを強化 日本ユニシス」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180103&ng=DGKKZO25282950S8A100C1TJC000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。

2018年1月2日火曜日

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」

日本経済新聞朝刊1面の正月企画「パンゲアの扉 つながる世界」が1日に始まった。「(1)溶けゆく境界 もう戻れない デジタルの翼、個を放つ 混迷の先描けるか」という記事では、冒頭から「違うんじゃないか」と感じた。まずは、そこを見ていこう。
筑後川の恵蘇宿橋(福岡県朝倉市・うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

 一握りの大国や大企業だけが力を振るってきたグローバリゼーションが変わる。小さな国、小さな企業、そして個人。デジタルの翼に解き放たれ、境界を溶かしてゆく。つながる世界への扉が開いた。もう誰も後には戻れない。


◎これまでは「大国だけ」?

日経の正月企画の難しさが冒頭に出ているとも言える。正月企画は「世界が激変期を迎えてます。そのダイナミックな動きを日経がお届けしますよ」といった力の入ったものになりがちだ。しかし、実際にそんなに劇的な変化が毎年のように起きるわけではない。なので、意義付けが強引になりやすい。

「デジタルの翼に解き放たれ、境界を溶かしてゆく」との記述から判断すると、今回の連載は日経が何度も1面連載で手掛けてきた「ネットが世界を変える」的な内容になるのだろう。この手の連載では無理のある「革命」が登場しやすい。そこは、第2回以降を注視したい。

初回の冒頭で気になったのは「一握りの大国や大企業だけが力を振るってきたグローバリゼーションが変わる」との部分だ。従来の「グローバリゼーション」では「一握りの大国や大企業だけが力を振るってきた」との前提を感じる。これは正しいのだろうか。

例えば、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブはベルギーの会社だ。世界最大の食品飲料会社であるネスレはスイスで、サムスン電子は韓国だ。これらの企業は「グローバリゼーション」の流れの中で「力を振るってきた」と思えるが、ベルギー、スイス、韓国を「一握りの大国」に含める人は稀だろう。

1人当たりGDPで見ても、上位にはルクセンブルク、スイス、ノルウェーなど「大国」以外が目立つ。「一握りの大国だけが力を振るってきた」のがこれまでの「グローバリゼーション」だとしたら、なぜルクセンブルクの1人当たりGDPは高水準なのか。

「大企業だけが力を振るってきた」との前提もやはり苦しい。ネット関連ではベンチャー企業が世界的なサービスを生み出した例は珍しくない。フェイスブックやツイッターもそうだ。「一握りの大企業だけが力を振るって」いる世界ならば、新参のベンチャーが大成功を収める余地はないはずだ。

連載では「小国でも、ベンチャー企業でも、個人でもやれる。世界は変わる」と訴えていくのだろう。だが、それは以前と劇的に違う世界ではない。しかし、日経の正月企画では大げさすぎる「革命」が起きてしまいそうだ。杞憂であればいいのだが…。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界(1)溶けゆく境界 もう戻れない デジタルの翼、個を放つ 混迷の先描けるか」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180101&ng=DGKKZO25273990R31C17A2MM8000


※記事の評価はC(平均的)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

2018年1月1日月曜日

「コマツはセブンに変身」に無理あり 日経 水野裕司編集委員

元日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~コマツは『セブン』に変身する 製造業の進化、AIで」という記事で、筆者の水野裕司編集委員は「コマツの姿」を「セブン―イレブン・ジャパンと重なる」と紹介している。しかし、その説明にはかなり無理がある。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

まずは関係する部分を見ていこう。

【日経の記事】

コマツが画像処理半導体(GPU)の世界首位、米エヌビディアとの協業を決めた。エヌビディアが得意とする大量のデータの高速処理技術を使い、人工知能(AI)で建設現場の作業効率を上げる。建設会社の生産性向上を支援する新しいビジネスモデルづくりをめざしている。

すでにコマツはドローン(小型無人機)で工事現場を測量して、掘削する土の量をもとに工事に要する日数を計算するなどのサービスを始めている。AI活用はその深化が狙いだ。

ドローンで撮った写真を3次元データにするまでの時間が、これまでの10~12時間から20分に大幅短縮。刻々と変わる現場の様子の「見える化」が進み、施工計画の修正に役立つ。

現場で待機しているだけのダンプカーも把握でき、待ち時間の削減に手を打てる。「(必要なときにダンプを手配する)シェアリングサービスも視野にある」と四家千佳史・執行役員スマートコンストラクション推進本部長は話す。

建機が急に土を掘りにくくなったとき、運転席のカメラが撮影した画像からAIが地質を分析して、「バケット(土をかき出すカゴ)を3度浅く入れて下さい」などと音声で指示することも可能になるという。

高齢化で建設業界は今後、人手不足がより深刻になりそうだ。建設会社は効率経営を一段と迫られる。コマツがそのノウハウの提供に力を入れるのは、顧客である建設会社との「共存共栄」のためだ。

コマツの姿は、フランチャイズチェーン(FC)契約を結んだ加盟店との間に情報網を築き、在庫管理や消費者の変化に応じた品ぞろえなど店舗運営を支援するセブン―イレブン・ジャパンと重なる。

加盟店からロイヤルティー収入を得るセブンイレブンに対し、いまコマツは建設会社への支援料を建機の価格に上乗せしている。どんな形で対価を受け取るのがいいか模索している段階だが、めざすビジネスモデルは経営ノウハウを売って利益を得る点で、セブンイレブンと同じといえる。

◇   ◇   ◇

気になった点を挙げてみる。

◎なぜ「セブンイレブン」限定?

百歩譲って、コマツの「めざすビジネスモデル」がFCチェーン的なものだとしよう。だが、数あるFCチェーンの中で「セブン―イレブン・ジャパンと重なる」「セブンイレブンと同じといえる」などとセブンイレブンだけをなぜ抜き出したのか、記事には説明がない。
キリンビール福岡工場(朝倉市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

他のコンビニも基本はFCだし、飲食チェーンなどにもFCはたくさんある。「加盟店との間に情報網を築き、在庫管理や消費者の変化に応じた品ぞろえなど店舗運営を支援する」のは、どのチェーンもほぼ共通する。単にFC的と言うだけなら「コマツは『ローソン』に変身する」でも成り立つ。セブンイレブンという特定企業に「重なる」と言うのであれば、セブンイレブンにしかない特徴との共通点が欲しい。


◎コマツは「経営ノウハウ」を売る?

コマツに建設会社経営のノウハウがあって、それを「売って利益を得る」のならば、FCチェーンと似ていると言えなくもない。しかし、記事を読む限りでは、コマツがやろうとしているのはAIを使った情報提供サービスだ。「経営ノウハウ」とは違う気がする。

建機を使っている時、運転者に「バケットを3度浅く入れて下さい」と助言するサービスは「経営ノウハウ」を売っていると言えるだろうか。例えば、航空機メーカーが運転中のパイロットにAIを使って様々な注意喚起をするサービスを始めたとしよう。その場合、航空機メーカーは航空会社に「経営ノウハウ」を売っているのか。

そう考えると、やはりコマツの「めざすビジネスモデル」はFC的ではないし、FCの中で「セブンイレブン」と重ねる必要はさらに乏しい。


※今回取り上げた記事「経営の視点~コマツは『セブン』に変身する 製造業の進化、AIで」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180101&ng=DGKKZO25275760R31C17A2TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司編集委員への評価もDを据え置く。水野編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html