2022年6月29日水曜日

「デフレ圧力が残っている」と日経 菅野幹雄上級論説委員は言うが…

日本経済新聞の菅野幹雄上級論説委員が29日の朝刊オピニオン面に書いた「中外時評~物価高が問う『家計との対話』」 という記事には色々と引っかかる部分があった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

「いまの日本では急性インフレと慢性デフレが同時進行している」。黒田氏が引用した消費者の物価観に関する調査を実施した渡辺努東大教授は、そう指摘する。

暮らしの目線ではウクライナ危機を受けたエネルギー価格などの急上昇が目立つ。だが「消費者物価指数を構成する600近い品目のうち、支出比重で4割の品目は価格が1年前から動いていない。これは世界のどこにもない現象だ」という。物価下落が続いているわけではないが、デフレ圧力は歴然と残っている


◎「デフレ圧力」の根拠は?

デフレ圧力は歴然と残っている」と菅野上級論説委員は言い切るが根拠は見当たらない。「4割の品目は価格が1年前から動いていない」としても、そうした「品目」の価格が強含みなのか弱含みなのかは分からない。「エネルギー価格などの急上昇が目立つ」のであれば、強含みと見る方がまだ自然だ。

続きを見ていく。


【日経の記事】

「家計との対話」は世界中の中央銀行が苦しんでいる。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は0.75%という通常の3倍の幅で政策金利を上げて8%台のインフレに対処し、景気後退の可能性も「確かにある」と断言する。生活苦につながる物価高を力ずくで抑え込む姿勢だ。

だが、日本は強引に金利を上げるような段階にはまったく至っていない。日本の根本的な課題がそこにある


◎論じるのはそこ?

日本は強引に金利を上げるような段階にはまったく至っていない。日本の根本的な課題がそこにある」と菅野上級論説委員は言う。となると「強引に金利を上げるような段階」に至る方が好ましいということか。そんなにインフレはいいものなのか。

強引に金利を上げるような段階」にはなっていないとしても、長期金利が上昇するのが当たり前の局面には入ってきている。それを日銀が「強引に」抑え込んでいるところには「日本の根本的な課題」はないのか。上級論説委員として、そこを考えてほしい。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び日銀の政策連携を強化し、一体となって取り組む」。2013年1月に安倍政権が日銀と出した共同声明は完遂には至っていない。むしろ物価は動かないもの、動かない方がいいという認識が、日本になお深く根付いている

物価が動かない4割の品目は、輸入価格上昇の影響を受けず人件費も上がっていないサービス分野が大半だ。消費者が値上げを嫌い、それを恐れた企業が価格を据え置く。収益は改善せず賃金も上がらない。守りの経済でイノベーションの意欲は起きない。そんな悪循環が起きている。


◎そんなに物価を動かしたい?

物価は「動かない方がいいという認識が、日本になお深く根付いている」と菅野上級論説委員は言う。仮にそうだとして何が問題なのか。物価の安定を求めるのは別に悪くない。

消費者が値上げを嫌い、それを恐れた企業が価格を据え置く。収益は改善せず賃金も上がらない。守りの経済でイノベーションの意欲は起きない。そんな悪循環が起きている」とも言うが、おかしな話だ。

自分が経営者ならば「消費者が値上げを嫌い、それを恐れた企業が価格を据え置く。収益は改善せず賃金も上がらない」という状況の方が「イノベーションの意欲」は湧く。

サービス分野」で人手を大幅に減らしても従来通りの事業展開ができる「イノベーション」を起こせたらどうなるか。人員が余るので新規採用なしに事業を拡大できる。「価格を据え置く」としても事業拡大で「収益は改善」できる。「イノベーション」がコスト削減ももたらすものならば「賃金」を上げる余地も生まれる。

消費者が値上げ」を簡単に受け入れてくれる環境の方が「イノベーションの意欲」は湧かない。困ったら値上げをすればいいだけだ。「イノベーション」に頼る必要はない。

ちなみに記事の説明では「悪循環」にならない。

消費者が値上げを嫌い、それを恐れた企業が価格を据え置く。収益は改善せず賃金も上がらない。守りの経済でイノベーションの意欲は起きない。イノベーション不足がさらに消費者を値上げ嫌いにする。そんな悪循環が起きている」という話なら分かる。

「A→B→C→D」という流れでは「循環」ではない。「A→B→C→D→A→B→……」となる必要がある。しかし「守りの経済でイノベーションの意欲は起きない」→「消費者が値上げを嫌い」という因果関係はちょっと考えにくい。


※今回取り上げた記事「中外時評~物価高が問う『家計との対話』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220629&ng=DGKKZO62121370Y2A620C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

米国は「民主主義の再建」段階? 菅野幹雄ワシントン支局長に考えてほしいことhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_30.html

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「トランプ流の通商政策」最初の成果は日米?米韓? 日経 菅野幹雄氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_27.html

新型コロナウイルスは「約100年ぶりのパンデミック」? 日経 菅野幹雄氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/100.html

「中間選挙が大事」は自明では?日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」に足りないものhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/deep-insight.html

「『マルチの蘇生』最後の好機」に根拠欠く日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/deep-insight.html

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