2020年10月21日水曜日

問題あり 日経 高井宏章編集委員の「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」

20日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に高井宏章編集委員が書いた「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」という記事はツッコミどころが多い。記事を見ながら具体的に指摘してみる。

西鉄三潴駅(久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】  

自国通貨建ての国債は債務不履行のリスクはなく、インフレが脅威になるまでは財政支出を拡大すべきだ――。MMTの主張のひとつだ。コロナ禍で各国は、中央銀行とタッグを組んで巨額の財政支出を賄う「強制MMT」に追い込まれた。余波は金融・資本市場にも及ぶ。

真っ先に大波をかぶるのは債券市場だ。米国の10年物国債利回りは4月以降、0.7%前後のレンジに押し込められ、月間の変動幅は「コロナ前」の3分の1程度に縮小。イールドカーブ・コントロール(YCC)を導入済みの日本は金利変動がほぼ消えた

債券の期間が長いほどさまざまなリスクを織り込んで利回りが高くなるのが市場の力学。これを封殺する発想はMMTに近い。MMTの旗手、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授は著書「財政赤字の神話」で「(国債の)金利は常に政策判断で決まる」と言い切っている。


◎別物では?

金利の「変動幅」が日米で「縮小」したことに触れて「債券の期間が長いほどさまざまなリスクを織り込んで利回りが高くなるのが市場の力学。これを封殺する発想はMMTに近い」と解説している。これは別の話だ。「10年物国債利回り」が「変動幅」がゼロだとしても、イールドカーブが消失するとは限らない。高井編集委員には米国債のイールドカーブを見てほしい。「期間が長いほど」「利回りが高く」なっているはずだ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

市場からダイナミズムを奪えば、金利動向から物価や景気の先行きや財政リスクを読み取るのは困難になる。債券市場を長年見てきた岡三証券の高田創氏は「日本国債が『生体反応』を失って久しい。クレジット市場もその後を追うだろう」と話す。

企業分析はやるだけ無駄。クレジットは『安くなったら黙って買いましょう』ぐらいしか言うことはない」。あるベテラン市場関係者はあきらめ顔だ。「すでにバブルの域に入っているが、疑似MMTと金融社会主義的な政策で、今の構図は崩れそうもない」と嘆く。実際、国内社債のスプレッド(上乗せ金利)は「コロナ前」の水準を回復。海外の低格付け債も堅調だ。

「強制MMT」で金融市場の「見えざる手」の力が衰えると何が起きるか。

クレジット市場は過去、異変をいち早く告げる「炭鉱のカナリア」として機能してきた。そのシグナルが弱まれば、危機の火種の探知は難しくなる。債券ほど官製相場のグリップはきつくないが、カネ余り主導で進む株高にも同様の危うさが漂う。米著名投資家のハワード・マークス氏は「政策効果が支配的になりすぎて、『良い企業かどうか』という問いがかき消されてしまう」と警鐘を鳴らす。


◎「クレジット市場も後を追う」?

クレジット市場もその後を追うだろう」という見立てが正しければ、社債市場もいずれ「生体反応」を失う。「企業分析はやるだけ無駄」と言える状況ならば「社債のスプレッド」はトリプルAの社債だろうがジャンク債だろうが同じ水準に固定されて動かなくなるはずだ。

しかし、なぜそうなるのかよく分からない。「疑似MMTと金融社会主義的な政策」のせいとなるのだろうが「疑似MMTと金融社会主義的な政策」は全ての社債発行企業の債務不履行を阻止してくれるものなのか。

日産自動車が9月に発行を決めた社債のドル建ての「利回りは3年債で3.04%、10年債で4.81%」と日経も書いている。かなり高い。「疑似MMTと金融社会主義的な政策」が完全に社債の債務不履行を防いでくれるのならば、日産はトヨタ自動車と同じ条件で起債できるはずだ。しかし、そうはなっていないし、なりそうもない。本当に「クレジット市場もその後を追う」のか。

企業分析はやるだけ無駄」だとすれば、信用リスクを無視して高利回りの社債を買えばいい。本当にそんな単純な話で済む時代が来るのだろうか。とりあえず「来そうもない」と予言しておく。


※今回取り上げた記事「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201020&ng=DGKKZO65196400Z11C20A0DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。高井宏章編集委員への評価も暫定でDとする。

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