2020年10月13日火曜日

日経 丸谷浩史氏「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」の無理ある解説

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」という記事は苦しい内容だった。筆者でニュース・エディターの丸谷浩史氏はかなり無理のある解説をしている。

彼岸花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

まず問題を感じたのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

その意味でデジタル改革相の平井卓也氏、規制改革相の河野太郎氏は活躍の場面が多い半面、力量を試されてもいる。コロナ対策と経済の両立は田村憲久厚生労働相と萩生田光一文部科学相、首相肝いりの携帯電話料金の引き下げでは武田良太総務相、エネルギー政策は経産相、無派閥の梶山弘志氏が当面、政策遂行で脚光を浴びる立場にいる。

ここにあげた閣僚たちは次世代の自民党を担う顔ぶれで、派閥も見事に分散している。閣僚が競い合って内閣全体のパフォーマンスをあげるとともに、個々の閣僚は実力と結果次第で次への道が開ける。政策と政略の両面から、考え抜いた人事になっている。


◎西村康稔氏はなぜ無視?

コロナ対策と経済の両立は田村憲久厚生労働相と萩生田光一文部科学相」が「政策遂行で脚光を浴びる立場にいる」と書いているが、この問題でまず名前が挙がるのは西村康稔経済再生担当相だろう。それを丸谷氏が認識していないとは思えない。なのになぜ無視したのか。

おそらく「派閥も見事に分散している」と書きたかったからだ。西村氏は「萩生田光一文部科学相」と同じ細田派に属する。そうなると「派閥も見事に分散」「政策と政略の両面から、考え抜いた人事」といった話が成り立ちにくくなる。ご都合主義で「政策遂行で脚光を浴びる立場にいる」人を選んだと考えれば腑に落ちる。

以下の解説にもツッコミを入れておきたい。


【日経の記事】

切れ目なく繰り出す政策の行き着く先には、自民党総裁選と衆院選がある。

総裁としての任期は来年9月、衆院議員の任期は10月に満了する。残るは1年間。永田町には「党内基盤が弱い首相は、大派閥が合従連衡して他の候補を担げば敗れる」との見方がある。この考え方は当たっているようでいて、この四半世紀で自民党内に生じた構造的な変化を見落としている。

派閥連合が威力を発揮したのは98年、小渕恵三氏が梶山静六氏と小泉純一郎氏を下した総裁選が最後といえる。この時、梶山氏とともに小渕派を飛び出した首相が学んだのは、議員が勝ち馬に乗ろうとする心理だった。

自民党に君臨した「竹下派経世会」創業者の一人でもある梶山氏は派閥の強さも弱点も知り、そこに一瞬の勝機を賭けた。派閥のタガは「経世会支配」といわれたころから緩んでいたとはいえ、まだ当時は中選挙区が小選挙区選挙になって2年足らず。なお強かった派閥の幻想と威光は「大乱世の梶山」でも破れなかった。

それから22年、安倍前首相の「議員は世論で反応のある人に動く。そこが昔と小選挙区制になった現在で異なる」との言葉が、首相が無派閥で勝った事情を総括する。次の総裁選も総選挙も派閥の思惑ではなく、首相が勝ち馬と認識される実績と世論が左右する。


◎「世論で反応のある人に動く」なら…

安倍前首相の『議員は世論で反応のある人に動く。そこが昔と小選挙区制になった現在で異なる』との言葉が、首相が無派閥で勝った事情を総括する」との分析が正しければ、菅氏は総裁選直前に「世論で反応のある人」だったはずだ。

しかし9月2日付の「『ポスト安倍』小泉進次郎氏が29%で首位 日経世論調査」という日経の記事によると、菅氏は6%で河野太郎氏をわずかに上回り4位。3位の石破茂氏(13%)にも大差を付けられている。これで「世論で反応のある人」と見なすのは無理がある。

丸谷氏にまともな分析を期待するのはやめた方がいいのかもしれない。

分析が雑でも、せめて歯切れが良ければまだ救われる。丸谷氏の場合、そこも苦しい。


【日経の記事】

世論でいえば、日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題がある

作家の山崎豊子さんが60年代に発表し、昭和、平成、令和にテレビドラマ化もされた「白い巨塔」の後半部分では、主人公の医学部教授が日本学術会議の会員選挙に向け、あの手この手を尽くす姿が描かれている。良心派の教授が「国会並みの愚劣極まる会になり下がっている」と皮肉を交えて語る場面もある。時の首相が任命する仕組みへと84年に変わったのは、こうした組織票による選挙制度への批判が高まったからでもあった。

学術会議会員の選考方法は2005年にも変更された。首相は学術会議を行政改革の対象とする方針を示している。説明責任と行革の両面で議論が進むことになる


◎結局、何が言いたい?

世論でいえば、日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題がある」と言うが、これが「世論」にどう影響するのか見解を示してはいない。何となく「首相」寄りな印象はあるものの漠然としている。必要性の乏しい昔話をして「説明責任と行革の両面で議論が進むことになる」と書いているだけだ。前後との関連も乏しい。

行数稼ぎだとは思うが、もう少し歯切れよく書けないものか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201013&ng=DGKKZO64894530S0A011C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史氏への評価はDを維持する。丸谷氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
 
丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_88.html

日経「Deep Insight」に見える丸谷浩史 政治部長の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/deep-insight_3.html

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