2019年2月5日火曜日

小久保裕紀氏は巨人での特別扱いに自覚なし? 日経「スポートピア」

「かなりの特別扱いを受けていたのに、本人にはその自覚がないのかな」--。5日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に前侍ジャパン代表監督の小久保裕紀氏が書いた「スポートピア~移籍を『吉』とするには」という記事を読んでそう感じた。「トレードでダイエー(現ソフトバンク)から巨人に移籍した」当時を小久保氏は以下のように振り返っている。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

選手人生の転機になりうる移籍。それを「吉」とするためにはいくつかポイントがある。大事なことはその球団のしきたりに合わせつつも、野球においては絶対に妥協しないこと。

たとえばホークスではタンクトップ、短パン、サンダルでの球場入りが許されたのに対し、巨人では袖無しの服装はだめ。「ジャイアンツ時間」があり、宿舎を出るときには定刻の30分前にバスに乗る決まり。その30分がもったいなくて、自分は部屋でストレッチなどの準備をしていたが、それ以外は伝統に従った



◎「それ以外は伝統に従った」と言われても…

宿舎を出るときには定刻の30分前にバスに乗る決まり」なのに「自分は部屋でストレッチなどの準備をしていた」と小久保氏は書いている。だとしたら、かなりの特別扱いだ。「移籍してきた大物選手だから許されたんだろうな」とは思う。自分が「巨人」の選手だったら「なんで特別扱いを認めるんだ」と不満を持ったはずだ。「ストレッチなどの準備」は「バス」の近くでできそうな気もする。

それ以上に気になるのが、小久保氏が「それ以外は伝統に従った」と認識している点だ。間違っている訳ではない。ただ、「高速道路では時速200キロ以上出したが、それ以外は交通ルールを守って走った」と言っているのに似たものを感じる。

伝統」に従わなかったのが悪いとは言わない。結果的に良い判断だったと小久保氏が認識しているのならば「大事なことはその球団のしきたりに合わせつつも、野球においては絶対に妥協しないこと」とは書かずに「大事なのはその球団のしきたりも時には無視して自分のやり方を貫くこと」などと助言した方が自然だ。


※今回取り上げた記事「スポートピア~移籍を『吉』とするには
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190205&ng=DGKKZO40891340U9A200C1UU8000


※記事と筆者への評価は見送る。

2019年2月4日月曜日

「リーダーは男性向き」を「バイアス」と 日経 女性面編集長は言うが…

女性活躍関連で「無意識の偏見」を取り上げると問題のある記事になりやすい--。その傾向が4日の日本経済新聞朝刊女性面の記事にも見られた。「『無意識の偏見』登用阻む まず認識、個別対応を 『女性は管理職向かない』『育児中きつい仕事は無理』… 」というメインの記事に付けた解説に関して、筆者の佐々木玲子女性面編集長に以下の内容で意見を送っている。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経に送った意見】

日本経済新聞社 女性面編集長 佐々木玲子様

4日の朝刊女性面に載った「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査」という記事について意見を述べてみます。記事で佐々木様は以下のように記しています。

<記事の引用>

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2018」によると日本の女性管理職比率は12.9%。米国は4割超、英仏は3割超と遅れが目立つ。

背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか。淑徳大学の野村浩子教授は大手25社の社員ら2527人に「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」を実施。「リーダーは男性向き」と思い込むバイアスがある可能性が浮かんだ。

社会のなかで「組織リーダー」「男性」「女性」に対して、どんな無意識の偏見があるかを探るため「責任感が強い」など同じ38項目を提示。各パターンで「望ましい特性」と思う度合いを尋ね、各項目の平均値を比べた。組織リーダーと男性は「望ましい特性」の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった。

ただ、同調査から企業のダイバーシティ推進の施策が偏見を低減する可能性も得られたという。数値目標設定などで計画的に女性管理職を育成する企業ほど社員の性別役割分業意識は低いと分かった。

全管理職必須のダイバーシティ研修の実施企業では女性社員のリーダー意欲が高い傾向もみられた。「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」(野村教授)

17年度からの科学研究費補助金を得た研究で18年にインターネット上で調査し役員も回答。川崎昌目白大学客員研究員が分析に協力した。

--引用は以上です。

まず「リーダーは男性向き」に関して「バイアス」と断定する根拠はあるのでしょうか。「リーダーは男性にしか務まらない」ならば「バイアス」でいいでしょう。しかし「リーダーに向いている人の割合は男性の方が多い」という意味での「リーダーは男性向き」であれば、「バイアス」に当たらない可能性は十分にあります。

リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」もその可能性を示唆しているのではありませんか。「組織リーダーと男性は『望ましい特性』の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった」と佐々木様は書いています。

だとすると、男性としての「望ましい特性」を追求すると男性は自然と「組織リーダー」としての「望ましい特性」を身に付けることになります。女性だとそれが難しいはずです。結果として「組織リーダー」としての「望ましい特性」を有している人が男性側に偏るのはあり得る話です。

「リーダーとしての適性に男女差はない」「むしろ女性の方が向いている」との可能性を完全に排除はしませんが、そこには何らかの統計的な根拠が必要です。また、リーダーとしての適性をどうやって測るかで結果は変わるはずです。

十分な根拠なしに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアス」と書けば、それ自体が「偏見」となります。そこは注意して記事を作ってください。

リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」の結果が「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」を浮かび上がらせているとも思えません。

例えば、Aさんは「組織リーダー」と「男性」に関しては「行動力がある」ことを「望ましい特性」と捉えるものの、女性にはそれを求めないとしましょう。ここでAさんに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」が浮かび上がってくるでしょうか。

百歩譲って「リーダーは男性向き」との考えは「バイアス」だとしましょう。しかしAさんにその「バイアス」があるかどうかは何とも言えません。「男性には行動力を持っていてほしいけど、そんな男性はほとんどいない。一方、こちらが求めていないのに女性はみんな行動力がある。だからリーダーを任せられそうな人は女性ばかり」とAさんは考えているかもしれません。

バイアスがある可能性」はもちろんゼロではありません。しかし「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」によって、「バイアスがある可能性が浮かんだ」とは言えないでしょう。

さらに百歩譲って「バイアスがある可能性が浮かんだ」としても「バイアス」を確認できた訳ではありません。だとすれば「(女性管理職比率の低さの)背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか」との問いに対する答えは「分からない」ではありませんか。

なのに記事では「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」と「野村教授」に語らせています。「野村教授」自身が調査をしても「ジェンダーバイアスを可視化」できないのに、どうやって「組織にあるジェンダーバイアスを可視化」すればよいのでしょうか。

このあたりを改めてじっくり考えてみてください。私の意見は以上です。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査
https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20190204&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO40774690R00C19A2TY5000&ng=DGKKZO40774760R00C19A2TY5000&ue=DTY5000


※メインの記事も含めた評価はC(平均的)。佐々木玲子女性面編集長への評価はCを据え置く。佐々木編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

乳がん検診「ぜひ受けるべき」? 日経 佐々木玲子女性面編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_9.html

日経「最適な交通検索、予約も支払いも」に感じた疑問

3日の日本経済新聞朝刊1面に載った「最適な交通検索、予約も支払いも~国交省がアプリ基盤」という記事には主に2つの疑問を感じた。記事の全文を見た上で具体的に述べたい。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

国土交通省はアプリ1つでマイカー以外で目的地に行く最適な交通手段を検索し、予約や決済まで完了できる消費者向けシステムの構築に乗り出す。カーシェアなどシェアリングサービスを含む様々な交通サービスがデータをやり取りする共通基盤をつくる検討に入った。2019年度に課題を整理し、20年をめどに具体的な導入計画をつくることを目指す。

同省が目指すのは自家用車以外のすべての移動手段を1つのサービスとして提供する仕組み。欧州では「MaaS」(マース)で呼ばれ、取り組みが先行している。

例えばフィンランドで普及しているサービスは、利用者がアプリに出発地と到着地を入力すると、電車やバス、カーシェアなど様々な交通手段から最適な組み合わせが示される。交通経路の検索サービスは日本でもあるが、同国では予約や料金の支払いもスマホで完結する。料金は都度払いから定額払いまで複数から選べ、タクシー運賃が含まれるものもある。

国交省はこの日本版の立ち上げを目指す。日本では大手私鉄などが沿線地域での実証実験に取り組んでいる。こうした実験への支援を通じて課題を整理し、全国規模でサービスを展開できるシステムをつくる

中核となるのは交通各社のデータを集約し、決済するための基盤の構築だ。交通機関の時刻表や電車やバスの位置情報、混雑状況といったデータを交通事業者やアプリの提供会社などがやり取りできるようにする。

ただ他社とのデータ共有に難色を示す会社が出てくる可能性もある。小規模事業者も含めて連携を広げることが利便性を高める上で課題になる。

◇   ◇   ◇

まず「交通経路の検索サービスは日本でもあるが、同国では予約や料金の支払いもスマホで完結する」と書くと「同国日本」になってしまう。「同国フィンランド」と筆者は伝えたいはずだ。

ここから疑問点を挙げていく。

(1)「最適な組み合わせ」とは?

利用者がアプリに出発地と到着地を入力すると、電車やバス、カーシェアなど様々な交通手段から最適な組み合わせが示される」という説明が引っかかった。どの「組み合わせ」が「最適」かは人によって違う。安さ優先なのか、速さ優先なのか。遅くてもいいし料金が高くてもいいから座ってゆったり移動したい人もいるだろう。

フィンランドで普及しているサービス」では「利用者がアプリに出発地と到着地を入力する」だけで「最適な組み合わせが示される」らしい。「出発地と到着地」以外には何も希望を伝えなくても「アプリ」が「この人は急いでいるからスピード重視の組み合わせで…」などと判断してくれるのか。そうなら凄いが…。


(2)航空運賃も含めて「定額」?

目指すのは自家用車以外のすべての移動手段を1つのサービスとして提供する仕組み」なので、当然に飛行機や船も含むはずだ。「フィンランドで普及しているサービス」では「料金は都度払いから定額払いまで複数から選べ」るらしい。そして「国交省はこの日本版の立ち上げを目指す」。さらに「全国規模でサービスを展開できるシステムをつくる」という。

計画通りに行けば、飛行機を含めた交通機関をどれだけ利用しても「定額払い」で済むサービスが実現する。「定額」が月10万円と高額でも、1カ月の国内移動で飛行機も新幹線も乗り放題ならば、かなり画期的だしお得だ。なので「本当にそんなサービス実現するの?」とも思う。あるいは「定額払い」だと月100万円といった超高額になるのだろうか。


※今回取り上げた記事「最適な交通検索、予約も支払いも~国交省がアプリ基盤
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190203&ng=DGKKZO40836160S9A200C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年2月3日日曜日

本当に「日本は病院数が世界一」? 東洋経済の井艸恵美記者に問う

週刊東洋経済2月9日号の特集「病院が消える」によると「日本は病院数が世界一多い」らしい。だとすると、10倍以上の人口を抱える中国よりも多くの病院が日本にはあるはずだ。しかし、各種のデータはそれを裏付けていない。東洋経済の編集部には以下の内容で問い合わせを送った。
トーマス・ブレーク・グラバー像(長崎市)
        ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集部 井艸恵美様

2月9日号の特集「病院が消える」の中の「INTERVIEW 日本の病院は質にばらつき 実証的なベンチマークが必要」という記事についてお尋ねします。記事の冒頭で井艸様は「日本は病院数が世界一多い」と述べています。特集に出てくるグラフによると、2017年の病院数は「8412」です。これは中国よりも少ないのではありませんか。

平成28年度 医療技術・サービス拠点化促進事業 新興国等におけるヘルスケア市場環境の詳細調査 報告書 中国編」という経済産業省の資料を見ると、2014年の中国の病院数(総合病院、中医病院、専門病院、その他病院の合計)は「2万5860」です。日本総研の「中国医療施設概況 2017年6月」という資料では、中国の病院の当月施設数が「2万9719」となっています。日本の3倍以上の病院数です。

特集には「人口100万人当たり病院数」の表も載っていて、そこには「病院数はOECDで2位」との説明文を付けています。「人口100万人当たり病院数」を念頭に「日本は病院数が世界一多い」と書いた可能性も検討しましたが、「OECDで2位」なのでこれもあり得ません。

日本は病院数が世界一多い」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「病院が消える

※特集全体の評価はD(問題あり)。井艸恵美記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月2日土曜日

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」

2日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「ヘッジファンドの黄昏 昨年10年ぶり残高減~金融緩和が影響 リスク膨張続く」という記事はツッコミどころが多かった。ご都合主義的なデータの見せ方で「ヘッジファンドの黄昏」を描こうとしているが、かなり無理がある。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
          ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘したい。

【日経の記事】

「リーマン・ブラザーズと共通点がある」。米著名投資家デイビッド・アインホーン氏率いるヘッジファンド、グリーンライト・キャピタルが昨年、狙いをつけたのが電気自動車のテスラ株だ。

アインホーン氏は08年、破綻前のリーマンの財務に疑義を持ち空売りで成功した「ショートの名手」。追随も相次ぎテスラの空売りポジションは一時、約140億ドル(約1兆5千億円)に膨らんだ。だが、株価はイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による株式非公開化のツイートを巡り乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移。空売り勢は利益を上げられなかった

結局、全てを覆い隠したのがカネ余り。特に10月まではテクノロジー株全般に資金が流れ込み、テスラ株も持ち上げた。グリーンライトは18年、マイナス34%という設立以来最悪の運用成績に沈んだ。


◎利益上げられるのでは?

株価はイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による株式非公開化のツイートを巡り乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移。空売り勢は利益を上げられなかった」という説明が引っかかる。「乱高下」したのであれば「年間では横ばい圏で推移」としても「利益を上げ」る機会は十分にある。「空売り」→「株式非公開化のツイートを巡り」株価が急落→買い戻し→株価が上昇し元の水準に--という流れで利益が得られるはずだ。

そうなるとは限らない。だが、「乱高下はしたが年間では横ばい圏で推移」したことは「空売り勢」が「利益を上げられなかった」理由の説明にはなっていない。

グリーンライトは18年、マイナス34%という設立以来最悪の運用成績に沈んだ」という部分も引っかかる。「乱高下」した中の安値で「空売り」して高値で買い戻せば「最悪の運用成績」になるかもしれないが、それはタイミングが悪かった場合だ。記事からは、「年間では横ばい圏で推移」すると「空売り勢」の「運用成績」が必然的に悪化するような印象を受ける。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

全世界で約350兆円を運用し約1万あるヘッジファンド。投資戦略は様々だが、源流はリスクに備え下落時の損失を回避(ヘッジ)する投資法にある。株や債券など多様な金融商品の「買い」だけでなく「空売り」を組み合わせ、下げ相場でも絶対収益の確保を狙う。1990年代初頭、英中銀を向こうに回しポンドを売り浴びせ巨利を得たソロス氏や、リーマン・ショック時にサブプライム住宅ローン担保証券(MBS)の空売りで大もうけしたポールソン氏が代表例だ



◎説明の仕方が…

上記の説明だと「ソロス氏」や「ポールソン氏」が「ヘッジファンド」になってしまう。「ヘッジファンド」に関して「AやBが代表例だ」と書くのならば「AやB」にはファンド名を持ってきた方が自然だ。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「米著名投資家デイビッド・アインホーン氏」とフルネーム表記している人物がいる一方で「ソロス氏」や「ポールソン氏」は初出でもフルネームにしていない。統一した方が好ましい。

【日経の記事】

00年代初めまで年20~30%の高リターンを上げ、世界の金融市場で存在感を高めてきたヘッジファンドに08年、転機が訪れる。金融危機だ。その前後で運用成績や規模拡大のペースは明らかに異なる。市場の混乱自体は下げ局面でも収益機会を狙うヘッジファンドにとってむしろ好機。残高こそ価格下落を反映し一旦減ったが、ポールソン・ファンドのように火事場で稼いだファンドも多かった。

真の「危機」は危機後に訪れる。日米欧の中銀がばらまいた1千兆円以上の緩和マネーが原因だ。債券バブルで資産価格の底割れを防ぎ、世界の株式時価総額は08年末比で2倍以上になった。誰もが勝てる「適温相場」でパッシブ運用(総合2面きょうのことば)が勢いを増す。市場丸ごとを売買する彼らの膨張は、個々の企業の割高・割安の判断を利きにくくした。


◎「真の危機」訪れてる?

真の『危機』は危機後に訪れる」と言うが、どうも怪しい。「世界の株式時価総額は08年末比で2倍以上になった」一方で、「ヘッジファンド」の「運用資産」が大きく目減りしたのならば「危機」かもしれない。しかし記事に付けた「運用資産」のグラフを見ると、「ヘッジファンド」のそれも「08年末比で2倍以上」になっているように見える。

グラフでは1990~2007年が「年率10%増」で08年以降が「年率5%増」なので「金融危機の前と後で断層」と説明している。しかし、全体の規模が大きくなれば成長率が低下するのは当然だ。

グラフを素直に見れば「08年に一時的に落ち込んだものの、1990年から2017年まで成長を維持してきた」と理解したくなる。「運用資産」から判断すれば「真の『危機』」には程遠い。

今回の記事では「運用資産」の残高が「昨年10年ぶり残高減」となったことを受けて「ヘッジファンドの黄昏」と打ち出す一方で「誰もが勝てる『適温相場』でパッシブ運用が勢いを増す」と解説している。これも苦しい。

総合2面きょうのことば」に付けたグラフを見ると「パッシブ運用の残高」は18年に「10年ぶり残高減」となったようだ。「パッシブ運用」も「ヘッジファンド」も米国株の相場下落などを背景に18年は「残高減」になっただけではないかと思える。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

「『2の20』に値せず」――。「預かり資産の2%の手数料」と「もうけの20%の成功報酬」が業界標準だった高額報酬も値引きを迫られ、大衆化が進む。かくして顧客として影響力を増したのが年金マネーだ。彼らが求める取引の高い透明性や開示体制に手足を縛られ、コスト増がリターンを削る悪循環に陥った



◎リターンが向上しそうだが…

ここで言う「リターン」とは「手数料を引かれた後に残る顧客の利益」だとしよう。だとすればヘッジファンド側の「高額報酬」に関する「値引き」は「リターン」を底上げする効果が見込める。しかし、なぜか「コスト増がリターンを削る悪循環に陥った」らしい。ヘッジファンド側の「コスト」が増えても、手数料は「値引き」されるとすれば、「顧客」の「リターンを削る悪循環」にはなりにくい。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

推測だが「コスト増がヘッジファンドの利益を削る悪循環に陥った」と言いたかったのではないか。

付け加えると、「悪循環」と言っているのに「コスト増→リターン悪化→コスト増」という「循環」が見えてこないのも気になる。

記事の終盤を見ていこう。

【日経の記事】

「ヘッジファンド全体が輝いていた時代は終わった」(野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーの八木浩樹氏)。だが、勝ち組もいる。ブリッジウオーターやツーシグマ、シタデルなどは主力ファンドが18年に10%前後の高リターンを上げた。

いずれも自前でスーパーコンピューターを抱える一線級のAIファンドだ。しかもトップ2社が上位20社の利益の半分をたたき出す「勝者総取り」。昨年一度ならず発生した、価格変動が増幅され一方向に雪崩を打つ動きの背景に彼らの集中売買が透ける。


◎「勝者総取り」になってる?

まず「トップ2社が上位20社の利益の半分をたたき出す『勝者総取り』」という説明が苦しい。「トップ1社が上位20社の利益の9割以上をたたき出す」のならば、まだ分かる。「2社」で「半分」でも「勝者総取り」なのか。

記事では「ブリッジウオーターやツーシグマ、シタデル」を「勝ち組」としている。「勝者総取り」の「勝者」は「2社」しかいないはずだが、なぜか3社以上の「勝ち組」がいるようだ。「勝ち組」は「勝者」には入らないのか。

記事の結論部分にも注文を付けておこう。

【日経の記事】

顧客に資金を返し閉鎖するファンドも多い。一時は1兆6千億円超を運用したイートン・パークもその一つ。27歳でゴールドマン・サックスのパートナーだった経歴を持つ創業者、ミンディック氏は金融市場から姿を消し対戦型ゲームの腕前を競い合うeスポーツに資金を投じている。

独自の判断に基づき、リスクをとって売買するヘッジファンドは金融市場の価格発見機能の担い手でもある。米エンロン事件では不正会計を暴き、金融危機時には無価値な証券化商品バブルをいち早く見抜いて利益を上げた。緩和マネーが未曽有の水準に膨らんだ今、警告役不在の金融市場でリスクのマグマがたまり続ける。



◎「警告役不在」と言える?

まず「ミンディック氏」は初出をフルネームにした方がいい。

緩和マネーが未曽有の水準に膨らんだ今、警告役不在の金融市場でリスクのマグマがたまり続ける」という結びも無理がある。既に述べたように「ヘッジファンド」の「運用資産」は「08年末比で2倍以上」になっている。記事に付けたグラフによれば「ファンド数」も「頭打ち」にはなっているが、一定の水準を維持している。さらに言えばアクティブ運用をしているのは「ヘッジファンド」だけではない。

なのになぜ「警告役不在」となるのか。


※今回取り上げた記事「ヘッジファンドの黄昏 昨年10年ぶり残高減~金融緩和が影響 リスク膨張続く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190202&ng=DGKKZO40814720R00C19A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。山下晃記者への評価はDを維持する。松本裕子記者への評価はDで確定とする。


※山下記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が不可解 日経「米ファンド、サムスンに会社分割提案」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_7.html


※松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「超低金利 揺れる企業年金」の苦しい内容
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/06/blog-post_21.html

2019年1月31日木曜日

「ゴーン元会長インタビュー凄いでしょアピール」に見える日経の幼さ

「こんな自画自賛みたいな記事を1面に持ってくるのは恥ずかしくないですか」と夕刊を作る時に誰も言わなかったのか。31日の日本経済新聞夕刊1面に載った「ゴーン元会長インタビュー、『反逆』発言に関心~欧米メディアが速報、電子版トップで掲載」という記事には、日経のメディアとしての幼さを感じた。
由布岳(大分県)※写真と本文は無関係です

「ゴーン元会長のインタビューを載せたら、欧米メディアがこんなに取り上げてくれたんですよ。凄いでしょ」という喜びが記事から溢れてしまっている。その滑稽さを理解できない人物が編集局幹部に少なくとも何人かはいて、今回の記事掲載につながったのだろう。

記事の最初の段落だけ見ておこう。

【日経の記事】

日本経済新聞(電子版)が30日報じた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告とのインタビューを各国のメディアは速報で伝えた。日産社内で行われた不正調査に関し「これは策略であり、反逆だ」と批判したゴーン被告の発言などに関心が集まっている。日経の英文媒体「Nikkei Asian Review」(電子版)が掲載した英語版の記事を引用する例も目立った。


◎これが1面の3番手?

この記事は1面の3番手で80行近い長さだ。「日本経済新聞(電子版)が30日報じた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告とのインタビューを各国のメディアは速報で伝えた」ことは、日経の読者にとってそれほど重要な話なのか。

読者に何を伝えるべきかを真剣に考えて紙面を作っていたら、「ゴーン元会長インタビュー 欧米メディアが速報」を1面の大きな記事で取り上げる結果にはならなかったはずだ。

夕刊を担当した編集局幹部は「この手の自画自賛系の記事を載せると日経のメディアとしての価値が高まる」とでも思っているのか。個人的には「インタビュー記事を載せたところまでは良かったのに…」と残念でならない。

褒められたい気持ちは分からないでもない。だが、そこを我慢できずに自分で「こんなに凄いんですよ」とアピールするのは、あまりに未熟だ。日経編集局の幹部はそこに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「ゴーン元会長インタビュー、『反逆』発言に関心~欧米メディアが速報、電子版トップで掲載
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190131&ng=DGKKZO40693010Q9A130C1MM0000


※記事の評価はC(平均的)。「ゴーン元会長インタビュー」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏

31日の日本経済新聞朝刊1面に載ったゴーン元会長のインタビュー記事は基本的には評価できる。ただ、総合2面に載った「統治不全生んだすれ違い ゴーン元会長と日産」という解説記事には問題を感じた。この中で筆者の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)は以下のように記している。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

有罪か、無罪か。すべては裁判で判断されるべきことだ。ただ、日産子会社を通じてブラジルやレバノンに自宅用物件を購入したとの疑惑について質問が及んだ時だった。元会長は「私は弁護士ではない。問題があるのならなぜ(その時に日産の関係者が『会長、それはだめです』と)私に教えてくれなかったのか」と眉をつり上げながら反論していた。

「みなが知っていた」とすれば、日産の関係者にも不作為があった可能性がある。元会長による人事面での報復を恐れた。「会長だから仕方ない」との忖度(そんたく)が働いた――。理由は様々考えられるが、報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたことを考え合わせれば、日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう

自分が日産を救ったリーダーだと信じていた元会長。いつしか独裁者だと感じるようになったそれ以外の人々。問題の底流には両者のすれ違いもあったとは言えないか。



◎日産への取材はまだ?

「『みなが知っていた』とすれば、日産の関係者にも不作為があった可能性がある」という説明が引っかかる。ゴーン元会長が逮捕されて2カ月以上が過ぎている。「みなが知っていた」かどうかについて取材する時間は十分にあったはずだ。なのに現段階でも「日産の関係者にも不作為があった可能性がある」としか言えないのか。

「数多くの日産関係者に取材を試みたものの、誰も何も答えてくれなかった」といった事情が仮にあるのならば、そこは明示すべきだ。

取りあえず「不作為があった」かどうかは分からないとしよう。なのに中山氏は「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたことを考え合わせれば、日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう」と結論付けてしまう。これも解せない。

不作為があった可能性がある」と書いているのだから「なかった可能性」も十分にあるはずだ。だとすると「機能不全に陥っていたことは確かだろう」と言える根拠は「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたこと」に尽きる。

しかし、これも苦しい。「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きた」としても、「ルノー」では「報酬などをめぐる問題」がなかったかどうかは分からない。同じような「問題」があるのに誰も問題視していない「可能性がある」はずだ。

結局、「(日産側に)不作為があった」かどうかも、「報酬などをめぐる問題」がルノーではなかったかどうかも明確ではない。なのに「日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう」という結論を導くのは無理がある。

ついでに言うと「自分が日産を救ったリーダーだと信じていた元会長。いつしか独裁者だと感じるようになったそれ以外の人々」という書き方も決め付けが過ぎる。「それ以外の人々」の全てが「いつしか独裁者だと感じるようになった」と取れるが、そう感じていない人もいると考える方が自然だ。中山氏は日産関係者の全員に「独裁者だと感じるようになった」か聞いた訳ではないだろう。

両者のすれ違い」と書くと「それ以外の人々」は一枚岩だと感じるが、これも違うだろう。「ゴーン元会長」を積極的に支持していた人たちが社内に皆無だった可能性は非常に低いと思える。

インタビューに合わせて解説記事を書くことは、かなり前から分かっていたはずだ。ならば、もう少ししっかりした内容に仕上げてほしかった。


※今回取り上げた記事「統治不全生んだすれ違い ゴーン元会長と日産
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190131&ng=DGKKZO40665250Q9A130C1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html