2016年8月4日木曜日

東洋経済を格下げ 経済メディア最上位は週刊エコノミスト

約半年ぶりに経済メディアの格付けを見直した。今回は週刊エコノミストをBBBからAに引き上げる一方、週刊東洋経済をAからBBB+に、日経ビジネスをBB+からBBに引き下げた。この結果、日本の経済メディアで最上位はエコノミストとなり、東洋経済は2位に転落した。
久留米百年公園(福岡県久留米市)の桜
               ※写真と本文は無関係です

東洋経済については高橋由里編集長も記事中のミスの握りつぶしに加担していることが確実となったため、メディアとしての評価も見直さざるを得ないと判断した。日経ビジネスも間違い指摘の無視が常態化しており、日経より高い格付けを付与する理由がなくなった。

エコノミストは読者からの問い合わせに誠実に対応している点が評価できるし、最近は特集の完成度の高さでも見るべきものがある。金山隆一編集長の手腕に今後も期待したい。

※上記の内容については「ミス黙殺に走った東洋経済の高橋由里編集長へ贈る言葉」「『逃げ切り』選んだ日経ビジネス 飯田展久編集長へ贈る言葉」「一読の価値あり 週刊エコノミスト『ヤバイ投信 保険 外債』」「英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配」「最優秀書き手16年4~6月は週刊エコノミスト種市房子記者」などを参照してほしい。

◆経済メディア格付け(2016年8月4日時点)

週刊エコノミスト(A) ※従来はBBB
週刊東洋経済(BBB+) ※従来はA
週刊ダイヤモンド(BBB)
FACTA(BBB)
日経ビジネス(BB)※従来はBB+
日本経済新聞(BB)
日経ヴェリタス(BB)
日経MJ(BB-)
日経産業新聞(BB-)

※購読料を払うだけの価値があると思えるメディアをBBB以上に格付けしている。

2016年8月3日水曜日

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪

心の底から落胆させてくれる記事が2日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に出ていた。 田村正之編集委員が書いた「マネー底流潮流~広がる『投信おまかせ革命』」 というコラムがそれだ。「ロボアドバイザー」の指示に従った投資の広がりを田村編集委員は「投資信託おまかせ革命」と呼び、歓迎すべき動きとして紹介している。何でもすぐに「革命」と呼びたがる田村編集委員ではあるが、こんなものが「革命」だと本気で思っているのだろうか。だとしたら、絶対に信用してはいけない書き手だ。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

自分に向いた資産配分を低コストで構築できる「ロボアドバイザー」が、若い世代に広がり始めている。いわば「投資信託おまかせ革命」だ。

「予想を大きく上回る体験者数。しかも9割弱が20~40代」。ロボアドを使った資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供するお金のデザイン(東京・港)の北沢直取締役はそう話す。

簡単な質問に答えるとその人に向いた資産配分がわかり、それに合わせて世界中の上場投信(ETF)の中から数十本を選んで買い付けてくれる。大きな価格変化があれば資産配分の再調整もする。数あるロボアドの中でも最も緻密な部類のサービスで、総コストは年1%強だ。

2月のサービス開始以来100日間で7万人以上が体験し、実際の申込者も5000人を超えた。「全体の9割弱がほぼ投資未経験者。若い世代に国際分散投資を促す狙い通りの展開」(北沢氏)と話す。体験者は現時点で10万人を突破している。

みずほ銀行のロボアド「スマートフォリオ」は去年10月のサービス開始。利用者のうち25~54歳の資産形成層が6割だ。「利用者のコストは信託報酬だけで、平均は年0.6%台」(みずほ銀行)

地方銀行に急速に広がりつつあるのが、三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」だ。個人のリスク許容度を無料で診断する。同社はポートスター稼働に合わせ、リスク水準が異なるバランス型投信5本で構成する「eMAXIS最適化バランス」シリーズを立ち上げている。


ポートスターでリスク許容度を診断すれば、5本の中から最適な1本が提示される。信託報酬(年0.5%)以外にコストはかからない。お金のデザインほどの緻密さは望まず、ざっくりとした診断で低コストで運用したい向きに適している。

「販売会社は現在13社と急速に広がり、中でも地銀が7社と多い。近く販社は20社になりそう」(代田秀雄取締役)。地銀は開拓が難しかった30~40代の資産形成層に食い込む武器になるとみているようだ。サービス開始後の体験者数は7万を超える。

最近、低コストの投信の品ぞろえが急速に進み、ネットを通じて興味を示してきたのが若い年齢層だ。しかしそれをどう組み合わせればいいのか自信がない人も多かった。ロボアドがその隙間を埋めつつあるのかもしれない。診断プロセスの開示など課題も残るが、若い世代の投資への入り口を広げつつあるのは間違いないようだ。

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読んでもらえれば分かるが、この記事はほぼ「広告」だ。「ロボアドバイザー」の問題点に触れているのは、わずかに「診断プロセスの開示など課題も残るが」という部分のみ。後は節操もなく「投信おまかせ革命」を煽っている。

百歩譲って「投信おまかせ革命」が起きているとしよう。それは歓迎すべき事態なのか。個人的には「危険すぎる革命が起きている」としか思えない。

「投信をどうやって選んだらよいのか分からない」と考えている若い世代が「そうか。投信おまかせ革命が起きてるんだから、ロボアドの指示に従って素直に投信を買えばいいんだ」と信じ込むのは好ましいだろうか。投信を売る側が歓迎するのは分かる。だが、投資する側は都合よく操られるだけだ。

身近にそういう人がいたら、こう助言するだろう。「業者が提供するロボアドに従ってよく分からないまま投信を買うなんて、まさにカモ。投信を選ぶ基準さえ持ち合わせていないのなら、投資なんか考えるな。預貯金か個人向け国債で十分。投信に手を出したいなら、まずは知識を持て」。

記事で紹介している「お金のデザイン」の「THEO(テオ)」に関してはコストが高すぎて話にならない。「総コストは年1%強」と田村編集委員は書いている。テオの手数料が1%で、ETFの信託報酬が上乗せされるようだ。だが、テオに年1%も払ったら、低コストのETFに投資するメリットが台無しだ。

手数料は1000万円の投資であれば年10万円にもなる。それだけの手数料を払っても利回りを上乗せしてくれるわけではない。むしろ悪化要因だ。例えば投資家を100人ずつに分けて、以下のような条件で10年間投資をするとしよう。どちらの利回りが高くなるか考えてほしい。

(1)テオに任せて運用する。もちろん年1%の手数料を払う。

(2)テオが運用対象としているETFの中から投資家本人の判断で適当にポートフォリオを組んでもらう。投資家はETFの売買手数料と信託報酬を負担する。

手数料を考慮しなければ、(1)も(2)も平均利回りに有意な差は出ないだろう。しかし手数料に差があるので、(2)の利回りが(1)を上回るはずだ。

「テオに従った方がきちんと分散投資ができる」との反論は出るかもしれない。しかし、投資対象はETFだ。どう選んでもかなりの分散はできている。「先進国株だけでなく新興国株も組み入れるべきだ」といったレベルの話ならば、それほど重要ではない。リバランスも同様だ。1%もの手数料を払ってまで対応すべき問題ではない。

「利回りが落ちてもいい。十分に分散してくれてリバランスもしてくれるのならば、1000万円の投資で年10万円の手数料は高くない」と考える投資家がいるかもしれない。しかし、わざわざ手数料を払って「平均的に利回りで負ける側」に加わりたい人はかなりの少数派だろう。

では、無料のロボアドならいいのか。これも自社の商品に誘い込むものならば論外だ。三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」について記事では「(同社の)バランス型投信5本で構成する『eMAXIS最適化バランス』シリーズ」の中から「最適な1本が提示される」と説明している。つまり自社の商品を買わせるためのツールだ。「三菱UFJ国際投信のバランス型投信以外は選択肢に入れたくない」と決めているならば話は別だが、幅広い選択肢の中から商品を選びたい投資家は近寄るべきではない。

使ってもいいロボアドがあるとすれば、中立的な助言に対して1回だけ料金を取り、ロボアドの提供者が商品の購入には関わらないものだろう。ポートフォリオを組んでしまえば、あとはリバランスをするだけなのに、毎年1%もの手数料を取るようなロボアドは無駄にリターンを低下させるだけだ。

ファイナンシャルプランナーの資格を持っているのが自慢の田村編集委員はそのぐらい百も承知のはずだ。では、なぜ金融業界に魂を売り渡すような記事を書いてしまったのか。

三菱UFJ国際投信の「ポートスター」を同社のホームページで見ると「あなたに合わせた資産配分は、グローバル視点で豊富な実績を有する『イボットソン・アソシエイツ・ジャパン』が提示」と出ていた。イボットソンと言えば、田村編集委員の記事に頻繁に登場する会社だ。今回の記事がイボットソンなど日ごろお世話になっている金融業界の方々へのお礼や配慮でなければよいのだが…。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」「日経 田村正之編集委員が勧める『積み立て投資』に異議」「投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事」「なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の『真相深層』」「功罪相半ば 日経 田村正之編集委員『投信のコスト革命』」「無意味な結論 日経 田村正之編集委員『マネー底流潮流』」「リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う」も参照してほしい。

2016年8月2日火曜日

週刊ダイヤモンド「LCC乱気流」で須賀彩子記者に誤り?

週刊ダイヤモンドの須賀彩子記者が8月6日号で特集2「愛憎渦巻く人間模様 LCC乱気流」を担当していた。須賀記者に関しては素人臭さが目立つとこれまで指摘してきたが、今回の特集にはその匂いが感じられなかった。ただ、記事には誤りと思える記述があった。ダイヤモンドへ問い合わせた内容は以下の通り。
成田空港(千葉県成田市)のジェットスター機

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

8月6日号の特集2「愛憎渦巻く人間模様 LCC乱気流」についてお尋ねします。問題となるのは99ページの「スカイマークは日本航空(JAL)陣営にもANA陣営にも属さない唯一の新興航空会社だったが、15年1月の経営破綻に伴いスカイマークの抵抗もむなしく、ANAの資本が入った」との記述です。当時、国内ではフジドリームエアラインズという鈴与100%出資の新興航空会社がありました。2014年に日本での運航を始めた春秋航空日本は中国の春秋航空股分有限公司のグループ会社であり、JALやANAの陣営に属してはいません。2015年当時、スカイマーク以外にも「JAL陣営にもANA陣営にも属さない新興航空会社」があったのではありませんか。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすればその根拠も併せて教えてください。

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上記の部分を除けば大きな問題はないが、ジェットスターとピーチが明暗を分けた理由については分析が甘いと思えた。そのくだりも見てみよう。

【ダイヤモンドの記事】

しかしJALは、カネは出しても経営への関与には距離を置き続けた。「世界的に大手航空会社がLCCを手掛けて成功した例は少ない」というのがその理由。唯一、カンタスがジェットスターを成功させているとして、経営はカンタスに委ねたのだ

人材面でも、ANAが、社長をはじめ経営企画などピーチの主要部門にエース級人材を“片道切符”で転籍させたのに対して、JALはジェットスター・ジャパンに、整備などの現場を除いた経営の中枢部には、「出向」のかたちで取締役1人を送り込んだにすぎなかった。

こうしたJALの腰の引けた姿勢により、拡大路線をひた走るカンタスの暴走を止めることができず、業績不振に陥ったのだった。

それでも、16年6月期にはどうにか黒字化できるもよう。関空の拠点化や、国際線への進出で1日の機材稼働時間は9時間を超え、路線見直しなどによって平均搭乗率も1年で9ポイントも改善。資金繰りも落ち着き、15年8月を最後にニューマネーも要していない。

ただ、ここにきてピーチは、「20年のオリンピックまでに30機体制にしたい」(井上社長)と拡大戦略を描くのに対し、ジェットスター・ジャパンは、「17年中にあと1機増やして21機体制にする。その先は未定」(片岡優会長)と保守的になってきた。このままでは、こだわってきた規模でもピーチに追い抜かれてしまう。

LCCビジネスに真正面から本気で取り組んでいったANAに対し、及び腰だったJAL。この両社の姿勢の違いが、LCCビジネスの明暗を分けたといえそうだ。

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カネは出しても経営への関与には距離を置き続けた」JALを須賀記者は「及び腰」と評している。そうだろうか。例えば買収した企業の経営者に対し「必要ならばカネはたっぷり出す。経営は引き続き任せるから自由にやってみなさい」というオーナーがいたら「この人は及び腰だなぁ」とは思わないだろう。「太っ腹」と評する方がしっくり来る。

経営は自ら関与する方がうまくいくとは限らない。「世界的に大手航空会社がLCCを手掛けて成功した例は少ない」「唯一、カンタスがジェットスターを成功させている」という状況であれば、カンタスに任せるのは合理的だ。JALがやれば成功する確率はもっと高かったとは言い切れない「(日本以外で)ジェットスターを成功させている」カンタスが日本ではなぜ躓いたのかを須賀記者には解説してほしかった。


※特集全体の評価はC(平均的)。記事中の「スカイマークは日本航空(JAL)陣営にもANA陣営にも属さない唯一の新興航空会社だった」という説明はおそらく誤りだが、ダイヤモンドの体質を考えると、回答が届く可能性はゼロに近い。間違い指摘を無視するならば、E(大いに問題あり)としている須賀彩子記者への評価はF(根本的な欠陥あり)に引き下げるしかない。

※須賀記者に関しては「素人くささ漂う ダイヤモンド『回転寿司 止まらぬ進化』」「週刊ダイヤモンド 素人くささ漂う須賀彩子記者への助言」「ロイヤル社長を愚か者に見せる週刊ダイヤモンド須賀彩子記者」「週刊ダイヤモンド須賀彩子記者の『解決できない構造問題』」も参照してほしい。

追記)結局、回答はなかった。

2016年8月1日月曜日

もはや記事型広告 日経「低リスク型の投信 あおぞら投信」

1日の日本経済新聞 朝刊金融面に「低リスク型の投信 あおぞら投信、為替ヘッジ活用」という広告と見紛う記事が出ている。 こうした記事を載せないと紙面が埋まらないのならば、金融面をニュース記事で構成するのは諦めた方がいい。
三柱神社(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

問題の記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

あおぞら投信は低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する。為替リスクを避けるヘッジ手法を活用し、資産価値の目減りリスクを抑える。預金金利が低下するなかで、新たな資産運用手段として売り込む。

新たに販売するのは期待利回り年3%の「森のしずく」と年1%の「海のしずく」の2つのファンド。為替ヘッジの活用で想定リスクを抑える。高い利回りを求める投資家に年5%の「星のしずく」も販売する。

あおぞら投信は業務を始めた2014年からの2年間で運用資産残高が1千億円を超えた。柳谷俊郎社長は「今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい」と話す。

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ニュース記事を書くときは「どこにニュース性があるのか」を考えるべきだ。この記事には、そのニュース性が見当たらない。強いて挙げれば「低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する」ことだろう。あるいは「為替リスクを避けるヘッジ手法を活用」する点か。

「低リスク投信の販売は日本初」「投資信託では初めて為替ヘッジを採用した」というのであれば、記事にするのは分かる。現実には低リスクの投信は山のようにあるし、為替ヘッジも珍しくない。なのに、なぜわざわざ記事にするのか。

しかも「どの程度の低リスクなのか」には言及していない。「低リスク型の投信」という見出しを付けているのだから、必須な情報だ。「柳谷俊郎社長は『今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい』と話す」という読者にとっては無駄とも言える情報を載せる余裕があるのならば、低リスクの度合いに触れるべきだ。この記事を「記事型広告」と見なせば、宣伝臭い社長コメントを入れているのも頷けるが…。

ちなみに、あおぞら投信のサイトを見ると、期待利回り年1%の「海のしずく」は購入手数料が1.08%、信託報酬の実質的な負担が年0.925%となっていた。保有期間を仮に10年とすると、手数料負担を差し引いた期待利回りはほぼゼロだ。低リスクとは言え、わざわざリスクを取って購入するような商品ではない。

ニュース性もないし、金融商品として魅力的なわけでもない。なのに記事で紹介して「今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい」という社長コメントまで載せてあげる。この救いようのなさは、ある意味で凄い。

しかも「低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する」と書いているのに、いつから販売するのか不明だ。調べてみると、7月に販売が始まっているようだ。だったら「販売を始めた」と書くべきだ。この辺りにも記者の節操のなさが出ているのだろう。

※記事の評価はE(大いに問題あり)。

2016年7月31日日曜日

作り手の未熟さ目立つ日経1面「クルマ 異次元攻防(1)」

31日から日本経済新聞朝刊1面で始まった連載「クルマ 異次元攻防」は苦しい展開になりそうだ。第1回のテーマは「攻めるIT、トヨタ動く」。内容に目新しさがないのはいいとしても、ツッコミどころが多いのは困る。これでは中身がすんなり頭に入ってこない。
黒川温泉(熊本県南小国町)※写真と本文は無関係です

順に問題点を指摘していこう。

◎読点を打つだけなのに…

【日経の記事】

自動車産業に大きな変革の波が押し寄せている。環境規制の強化に加え、人工知能(AI)を駆使した自動運転車の開発や相乗りに象徴されるシェアエコノミーの浸透など、IT(情報技術)業界も入り交じった主導権争いが激しさを増す。次世代のクルマを巡る異次元攻防の前線を追う。

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人工知能(AI)を駆使した自動運転車の開発や相乗りに象徴されるシェアエコノミーの浸透」という部分は分かりにくい書き方になっている。作り手の未熟さが出てしまっている。

最初に読んだ時は「自動運転車の開発」や「相乗り」が「シェアエコノミー」を象徴していると解釈しそうになった。それだと意味不明なので立ち止まって考えてみて、ようやく分かった。「自動運転車の開発」と「相乗りに象徴されるシェアエコノミーの浸透」を並べているのだと。

ならば話は簡単だ。「人工知能(AI)を駆使した自動運転車の開発や相乗りに象徴されるシェアエコノミーの浸透」とすれば問題は解決する。読点を1つ打つだけだが、日経ではそれさえ難しいようだ。

◎この「会話」はどう理解すべき?

【日経の記事】

「全ての車のワイパーの状況が分かれば、各地の詳細な気象情報が把握できる」「最近あの通りでオープンした店は行列ができている」――。日米の乗用車に通信機能を標準搭載するトヨタ社内ではこんな会話が交わされている。世界で数千万台が走るトヨタ車がセンサーになり様々なデータを取れれば、無限のビジネスが生まれる。

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最初の「全ての車のワイパーの状況が分かれば、各地の詳細な気象情報が把握できる」という話は分かる。しかし、次の「最近あの通りでオープンした店は行列ができている」は謎だ。「日米の乗用車に通信機能を標準搭載するトヨタ社内」で「最近あの通りでオープンした店は行列ができている」という会話を耳にしても、単なる世間話としか思えない。例えば会話の内容が「最近あの通りでオープンした店は行列ができているといった情報を車載カメラから得られないか」となっていれば、すんなり読めるのだが…。

◎子会社設立で「自前主義と決別」?

【日経の記事】

動きは速い。昨年11月に三井住友銀行などと共同で新技術に投資するファンドを設立。2カ月後には「日本では必要な人材を確保できない」(内山田氏)として、米シリコンバレーにAIの研究開発子会社を設けるなど、これまで貫いてきた自前主義と決別した

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トヨタがこれまで自前主義だったかどうか疑問は残るが、とりあえずそうだとしよう。しかし「米シリコンバレーにAIの研究開発子会社を設ける」ことは「自前主義と決別した」根拠にはならない。むしろAIに関しても「自前」で研究開発を進める方針だと読み取れる。外部との連携はあるのだろうが、子会社をわざわざ作るのであれば「AIに関しても自前でやる」と解釈するのが当然だ。「違う」と取材班が主張するのであれば、「子会社でAIの研究開発を進めることが、なぜ自前主義との決別なのか」を読者にきちんと説明すべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。

2016年7月30日土曜日

やる気も工夫も見えない日経「九州消費者物価 横ばい」

30日の日本経済新聞 朝刊九州経済面に載った「九州消費者物価 横ばい 6月 電気・ガソリン下落影響」という記事は完成度が低かった。これを書いた記者が技術的に未熟なのは間違いないが、きちんとした記事に仕上げようというやる気も伝わってこない。どう工夫すべきか記者(おそらく西部支社の編集部所属)に助言してみたい。
キャナルシティ博多(福岡市博多区)
          ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

総務省が29日発表した6月の九州7県の消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの激しい生鮮食品を除く総合指数で前年同月比横ばいの103.7
だった。全国的に低下基調にある中、唯一低下しなかった。沖縄は0.1%低下の103.4。

原油安が続いており、電気代やガソリン代の下落が響いた

九州の指数は33カ月の連続上昇記録が16年3月に中断し、5月には37カ月ぶりに低下に転じていた。連続での低下にはならなかった。

北九州市が0.3%上昇と、九州の主な都市の中で最も上昇率が大きかった。熊本市が0.2%上昇と続いた。

最も下落率が大きかったのは鹿児島市で、0.4%低下の102.8だった。

項目別では、電気代が同6.7%、ガソリン代を含む「自動車等関係費」が3.8%、それぞれ低下した。


◆西部支社の記者への助言◆

横ばい」だと記事を書きづらいのは分かります。それを割り引いても、この記事は完成度が低すぎます。「こんな記事にカネを払ってもらって申し訳ない」と考えてください。担当デスクにも責任がありますが、筆者である記者の責任は重いと言えます。

記事を書く上では「何に焦点を絞るのか」をまず考えてましょう。今回の場合、「全国的に低下基調にある中、(九州の消費者物価は)唯一低下しなかった」のであれば、それが有力な候補となります。しかし、記事では「なぜ九州の物価の基調が相対的に強いのか」に全く触れていません。九州経済面の記事ですから、読者の関心も高いはずです。なのに、「原油安が続いており、電気代やガソリン代の下落が響いた」としか書いていません。

唯一低下しなかった」に焦点を絞るのではなく、「横ばい」について書くという選択ももちろんあります。今回はそうしたのかもしれません。だとしたら「原油安が続いており、電気代やガソリン代の下落が響いた」では説明になっていません。「○○は下落したが、××などの上昇で相殺された」といった書き方にすべきです。「5月には37カ月ぶりに低下に転じていた」のに、6月は横ばいになったのであれば、どちらかと言えば上昇要因に重心を置いて記事を書くべきでしょう。

記事には九州の都市別の数表が載っています。この表があれば「北九州市が0.3%上昇と、九州の主な都市の中で最も上昇率が大きかった。熊本市が0.2%上昇と続いた。最も下落率が大きかったのは鹿児島市で、0.4%低下の102.8だった」とのくだりは不要です。表を見れば分かります。「限られたスペースの中で読者により多くの情報を届けたい」と心がけて記事を書いていれば、こういう作りにはしないはずです。

総務省の発表資料を見て、そこに出てくる情報を適当に選んで記事にして終わり--。そんな姿勢が今回の記事には透けて見えます。「九州の消費者物価に関して6月のポイントはなんだろう」「どこを掘り下げれば読者に関心を持ってもらえるだろうか」などと考えましたか。そういう意識があれば、追加で取材して専門家のコメントを取るといった手間をかけようと思えたかもしれません。

安易に記事を書いても日経のデスクは原稿を通してくれるのでしょう。しかし、そこに甘えていれば書き手としての成長はありません。今のままでよいのか、これを機にじっくり考えてみてください。


※記事の評価はD(問題あり)。

米グラウカスの伊藤忠リポートに関して日経に求めるもの

29日の日本経済新聞 朝刊投資情報3面に「伊藤忠株急落で対応も 日本取引所CEO、金融庁も関心」という気になる記事が載っていた。「米運用会社のグラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠商事の会計処理に疑問があるとのリポートを出し、それで27日に同社株が急落した件」について、日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)のコメントを紹介したものだ。
靖国神社(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

コメントを記事にするのは悪くない。ただ、グラウカスのリポートの内容は日経の記者も分かっているはずだ。まずは自分たちでグラウカスの手法が「合理的な根拠のない風評などを流す行為」に当たるかどうか分析してほしかった。

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)は28日、米運用会社のグラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠商事の会計処理に疑問があるとのリポートを出し、それで27日に同社株が急落した件について「不自然な取引があったかどうか調べることも可能」と述べた。株取引に問題があれば、必要に応じて対応をとる考えを示唆した。

米グラウカスは企業の財務情報などを調べ、当該企業の株を空売りしたうえで、グラウカスが問題と考える項目を指摘したリポートを出す。リポートを受けて株価が下がれば買い戻して利益を確定する。清田CEOは「(伊藤忠株を空売りした後にリポートを出したのなら)倫理的に若干疑問がある」と述べた。

金融庁や証券取引等監視委員会も今回の件には関心を寄せており、慎重に対応を検討するとみられる。金融商品取引法は株式などを売買する目的で、合理的な根拠のない風評などを流す行為を禁じている

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この記事だけを読むと、グラウカスの行為には「風説の流布」が疑われているとの印象を受ける。ただ、日経QUICKニュース(NQN)の片野哲也記者が27日に書いた「伊藤忠、米社が不正会計指摘 議論の焦点は連結の範囲」という記事の内容からは、「風説の流布」の可能性は非常に低そうに思える。記事の一部を見てみよう。

【NQNの記事】

グラウカスが「不適切な区分変更」として疑義を示したのは大きく分けて3点ある。1つ目は伊藤忠が2011年に米資源大手ドラモンド・カンパニーの持つ権益の20%を取得したコロンビアの石炭鉱山の会計処理だ。取得後に石炭価格が下落し、ストライキの発生もあって採算が悪化した。伊藤忠は15年3月期に同鉱山への出資分を「関連会社投資」から「その他の投資」に変更したが、グラウカスはこの処理で1531億円相当の損失の認識を回避したと指摘する。

2つ目は中国最大の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)への投資を巡るものだ。伊藤忠は15年にタイ最大財閥チャロン・ポカパン(CP)と1兆2000億円を折半出資し、CITIC株の10%を持つ。前期は404億円だったCITICからの持ち分法投資利益や配当などは17年3月期は700億円を見込む。これに対しグラウカスは、CITICは大株主である中国政府の支配下にあるため伊藤忠は重要な影響力を持たず、持ち分法は適用できないと主張する。

3つ目は、持ち分法適用会社である中国食品・流通大手の頂新グループの持ち株会社、頂新(ケイマン)ホールディングについて伊藤忠が15年3月期に連結対象から外した会計処理だ。この結果、15年3月期には約600億円の再評価益を計上した。グラウカスは「会計上の利益は発生したが、経済実態的にも伊藤忠と頂新の関係上も変化は生まれていない」と指摘する。

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伊藤忠の会計処理が「不正会計」に当たるかについては「伊藤忠が採用する国際会計基準(IFRS)では連結対象の範囲は実質的な関係が重視されており判断は難しい」と片野記者も述べており、微妙だろう。だが、リポートの公表は「合理的な根拠のない風評などを流す行為」かと言われると違う気がする。

もちろん日経の記者が「合理的な根拠のない風評などを流す行為」に該当する可能性も十分にあると判断しているのであれば、それを頭から否定はしない。ただ、リポートの中身を日経自身が分析して、それを紙面に載せてほしい。上記のNQNの記事は紙の新聞では読めないはずだし、NQNの片野記者も「風説の流布」の可能性は論じていない。

個人的にはグラウカスの取り組みに高い関心を持っている。仮に伊藤忠の会計処理に問題があり、それが公開情報から読み取れるのであれば、日経がそれを指摘してもよかったはずだ。グラウカスの発信する情報への注目が高まるにつれて、経済メディアとしての日経の存在意義も問われてくるだろう。日経にとっては面白くない展開だろうが、読者としては歓迎すべき動きと言える。

※日経の記事の評価はC(平均的)。