2022年1月10日月曜日

「異次元緩和撤退が株高持続の条件」? 日経QUICKニュース永井洋一編集委員の無理筋

10日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に日経QUICKニュースの永井洋一編集委員が書いた「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷」という記事には色々と疑問を感じた。順に見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

2021年は欧米株が最高値を更新するなか、日経平均株価は32年前の最高値まで2割以上も低い水準にとどまった。日本株が買われない「真相」の一つは銀行の店頭で示される名目金利から物価変動の影響を除いた実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある。実質金利の低下は最高値更新の条件といえる。

財務省によれば21年の海外投資家による日本国債の買越額は10兆円以上に膨らみ、14年以降で最大規模となった。一方、株式は1兆円程度の買い越しにとどまった。ここ数年、海外勢は日本株から日本国債への資金シフトを続けている。「ほかの国に比べて日本は低成長・低インフレが続くとの見方が背景にある」(野村証券の中島武信氏)

10年物国債の名目の利回りから消費者物価指数(CPI)の前年同月比の上昇率を控除して便宜的にはじいた実質長期金利(21年11月までの3年平均)は米国がマイナス1%、ドイツがマイナス2%程度なのに対し、日本はほぼゼロ、中国はおよそ1%だ。株価が伸び悩む日本と中国は相対的に実質金利が高い。


◎実質金利が高い?

「日本株が買われない」要因として「実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある」と永井編集委員は言う。「実質金利」が「ほぼゼロ」だから「民間投資」が「低迷」するのか。「投資」をしたいと望む企業にとって「実質金利」が「ほぼゼロ」ならば強力な追い風と言える。

名目金利も「実質金利」も「長期金利」ベースでさえ「ほぼゼロ」まで下がっているのに「民間投資」が「低迷」しているとすれば、そもそもの「民間投資」需要が非常に弱いとみるべきだ。

なのに「実質金利の低下は最高値更新の条件」なのか。「米国がマイナス1%」だとしたら日本は「実質金利」が1%分下がるだけで並ぶ。今はゼロ近辺の物価上昇率がプラス1%になれば実現だ。最近の経済情勢を考えれば、それほど難しくない。原油高などを受けてインフレ率が1%を安定的に超えてきたとして、それで「民間投資」が盛り上がるのか。

さらに気になったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

問題は、こうした海外要因に振り回されやすい日本株が抱える構造的な脆弱性にある。

「日本経済の低迷の原因は国債の大量発行にある。景気対策で目先の国内総生産(GDP)は増えても、その資金を国債で賄う限り、政府の資金需要が民間経済を押しのける『クラウディングアウト』が発生し、名目金利から期待物価上昇率の影響を除いた実質金利を押し上げるためだ」。バブル経済研究の第一人者である慶応大の櫻川昌哉教授は指摘する。

名目金利はゼロ%まで下がると人々は将来、何かに投資するのに備えてお金を流動性の高い現金や預金に滞留させる。国民の預金は金融機関を通じて国債に吸い上げられ、民間の資金需要が締め出される。その結果、経済活動はふるわず、期待物価上昇率が低迷するので実質金利が高止まりする。長期停滞と呼ばれる日本の病根だ。「国債の大量発行の結果、日本人は気づかぬうちに長期デフレや潜在成長率の低下といったコストを支払わされている」(櫻川氏)


◎「クラウディングアウトが発生」?

「クラウディングアウト」とは「国債の増発などによる政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ、金融が逼迫して民間の資金需要を抑制する現象のこと」(百科事典マイペディア)だ。これが日本で発生していると「慶応大の櫻川昌哉教授」が言っているらしい。しかし長期金利ベースで見ても日本の金利はゼロ近辺に張り付いたままだ。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」るような動きは全く見られない。

日本の企業は現預金をため込み過ぎだとの指摘もある。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」ているために企業が資金を調達できず、投資したくてもできない状況には程遠い。

記事の結論部分もかなり無理がある。


【日経の記事】

21年末の東証1部の時価総額は735兆円と1999年末比1.6倍となったが、国債の発行残高は947兆円(21年3月末時点)と22年で3.2倍に膨らんだ。長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる。


◎株安になりそうだが…

「長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる」という驚くべき結論を永井編集委員は導き出している。

では「長期的な株高持続」を狙って政府・日銀が「異次元緩和撤退」を決めたらどうなるだろうか。長期金利のコントロールをやめ市場に任せる。日銀は保有国債の大部分を市場で売却する。そうなると長期金利にはかなり上昇圧力がかかる。

さらに「財政再建」のために公的年金の支給額を半減させ、支給開始年齢も80歳からとするのはどうか。国家公務員の給与も一律半額とするなど歳出削減を強力に実行してみよう。

こうした動きは名目金利を上昇させる一方で、消費低迷などを通じて物価下落要因となるだろう。つまり「実質金利」には上昇圧力がかかる。「実質金利の高さ」を問題視していたのに、永井編集委員の提案に従うと「実質金利」は上昇する可能性が高い。それで「長期的な株高持続」につながるのか。よく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220110&ng=DGKKZO79080140Z00C22A1ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。永井洋一編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。

2022年1月9日日曜日

問題多い日経「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力」

9日の日本経済新聞朝刊1面に載った「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力」という記事は問題が多かった。順に見ていこう。

巨瀬川

【日経の記事】

北欧の島国アイスランドは2008年、リーマン・ショックの際、危険な投資にのめり込んだツケが回り、財政が破綻する危機に陥った。

なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた――。政府はこう分析し、女性を積極的に登用する社会へと転換を図った。


◎「財政が破綻する危機」?

アイスランドは「2008年」に「財政が破綻する危機に陥った」と言えるだろうか。「アイスランドの金融危機」を解説した2017年の記事で日経自身が「政府債務は大きくなく、ギリシャのような財政危機には発展しなかった」と書いている。

基本的には銀行経営が行き詰った「金融危機」と捉えるべきだ。そうでないと、なぜ「男性中心の経営」が危機を招くのか辻褄が合わない。

続きを見ていく。


【日経の記事】

09年に初の女性首相が誕生。企業などに女性役員比率を4割以上にするよう求めた。11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった。


◎比較するなら…

「11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった」と書いているが、どのくらい高まったのか触れていない。これは困る。11~19年の「成長率」であれば、02~10年との比較が欲しい。

今回の記事には「アイスランド、09年の大転換」との見出しが付いている。だったら10年以降の「成長率」で見るのが自然だ。19年までならばちょうど10年でキリも良い。それをわざわざ「11年」からの9年間で見ている。ご都合主義の臭いはする。

さらに見ていく。


【日経の記事】

アイスランドは09年、男女平等の度合いをランキングにした「ジェンダーギャップ指数」でトップに躍り出る。以来、12年連続でその地位を維持し、女性の労働参加率(15~64歳)も80.7%(20年時点)と高い。


◎「男女平等の度合いをランキングにした」?

「男女平等の度合いをランキングにした『ジェンダーギャップ指数』」という説明には問題がある。これは「ジェンダーギャップ」(男女格差)のランキングに過ぎない。完全に「男女平等」な社会でも「ジェンダーギャップ」はあり得る。混同すべきではない。

例えば日本の看護師の90%以上が女性で大きな「ジェンダーギャップ」があるとしても「男女平等の度合い」が低いとは言えない。

さらに気になるのが「アイスランドは09年」にこのランキングで「トップに躍り出る」という話だ。先に触れたように今回の記事では「アイスランド、09年の大転換」と見出しで打ち出している。これまで100位以下だったところから一気に「トップに躍り出る」といった話ならば「大転換」と呼ぶのも分かる。

ところが08年のランキングでアイスランドは4位だったようだ。つまり既に「ジェンダーギャップ指数」の順位は高かった。4位から1位になったからと言って「大転換」があったと言えるのか。

記事では「なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた」とも書いていた。08年時点で4位なのに「男性中心の経営」だったのか。だとすれば「ジェンダーギャップ指数」の4位はどんな意味を持つのか。

最後に記事の結論部分にも注文を付けておこう。


【日経の記事】

男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中、日本は女性を生かす社会を描けていない。賃金格差、子育て、積極的な登用などの課題に本気で向き合わなければ成長へのきっかけはつかめない。国や企業は変わる勇気を示せるか。覚悟が問われる。


◎色々と引っかかる点が…

「男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中」と書いているが、記事で取り上げたそれらしき国はアイスランドだけ。しかも「男女平等」が「成長の原動力」になっていると取れる記述はない。

「ジェンダーギャップ指数」4位でも「財政が破綻する危機」に陥るのに、「ジェンダーギャップ」の解消が「成長の原動力」になるのか。

「日本は女性を生かす社会を描けていない」との説明も納得できない。個人的には「日本は女性を生かす社会」になっていると感じる。取材班のメンバーは自分たちの周りをよく見回してほしい。自分の力を生かす場もなく無為に日々を過ごしている「女性」ばかりが視界に入ってくるだろうか。

日経で女性記者は活躍していないのか。コロナ禍で大きな負担を強いられた医療現場で働く人たちは男性ばかりなのか。家庭で子供や高齢者の世話をしているのはほとんどが男性なのか。少し考えれば分かるはずだ。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220109&ng=DGKKZO79079580Z00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月8日土曜日

日経 小竹洋之編集委員の「オピニオン」が見えない「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」

日本経済新聞の小竹洋之氏は「編集委員」だ。読者から見ると、何かご利益がありそうな肩書にも見える。そして8日の朝刊に小竹氏が書いた「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」という記事が載っているのはオピニオン面。「筆者が明確な意見を述べてくれるのだろう」と期待したくなる。しかし、今回の記事はそうなっていない。

田主丸町中央公園

「米国ではいま『ニュー・ピューリタン(新清教徒)』という言葉が広がる。人種や性などの差別を是正するため、標的のキャンセル(消去)も辞さない人々である」と述べた上で米国での「草の根監視社会」の現状をあれこれ書いて話は進む。しかし、これに対して小竹氏がどんな主張を持っているのかは明らかにならない。そして記事は以下のように終わる。

【日経の記事】

他者に寛容でありたいと望むが故に、それを押しつけて不寛容になるという「寛容のパラドックス(逆説)」。民主主義国家の草の根の監視社会には、権威主義国家とはまた違う息苦しさが漂う。


◎それだけ?

「民主主義国家の草の根の監視社会には、権威主義国家とはまた違う息苦しさが漂う」というのが、この問題に関して小竹氏が出した最終的な結論なのか。「困ったもんだね」程度の話しかしていない。

その「息苦しさ」にどう対処すべきなのか。そこを論じてほしかった。今回の記事では米国の話に終始していたので、日本の現状に関しても触れた上で小竹氏の描くあるべき「社会」の姿を読者に示すべきだ。

小竹氏の参考になるように自分の意見を少し述べてみたい。

記事の中には「優先すべきは『社会の正義』か、それとも『言論の自由』か」というくだりがある。「言論の自由」を守ることも「社会の正義」の一部と言えるので、この設問自体に問題を感じる。これを「発言の適切さ」か「言論の自由」かという問題に置き換えた場合、個人的には「言論の自由」を重視したい。

今回の記事には以下の記述もある。

【日経の記事】

米教育人権団体FIREのデータベースによると、人種や性などにからむ言動が問題となった学者は2015年以降で505人。大学が講演に招いた政治家や有識者らに抗議の声が上がったのは、00年以降で497件にのぼる。およそ6割が左派、3割が右派からの圧力を受けていた。

明白な差別で処分されてしかるべきケースもあれば、責任を問われるのが酷なケースもある。ではアボット氏の場合はどうか。ナチスを想起させる表現は軽率だったとはいえ、本来の講演テーマとは無関係の持論を理由に発言の機会を奪うのはおかしいと、米政治学者のヤシャ・モンク氏はいう。


◎「明白な差別」は処分されるべき?

「言論の自由」を重視する立場で言えば「明白な差別で処分され」るのも好ましくない。例えば「在日韓国人は日本から出ていけ」という発言は明らかに差別的で不適切だと感じるが、この発言を理由に何らかの「処分」を下すのは好ましくない。

「明白な差別」も人によって異なる。例えば国会議員の3割を女性に割り当てるクオータ制は導入されれば男性への「明白な差別」だが、だからと言ってクオータ制導入論者を「処分」すべきなのか。導入論者の多くは「明白な差別」には当たらないと訴えるだろう。

脅迫、名誉棄損、風説の流布などに関しては「言論の自由」の制限がやむを得ない面もあるが、最小限に留めたい。

その代わりに「抗議の声」は、これまたできるだけ自由を確保したい。結果として罵詈雑言の応酬となるような事例も出てくるだろう。それでも、言いたいことも言えない「息苦しさ」を抱える社会よりはいい。

小竹氏はどう感じるだろうか。同意してくれとは言わない。自分の色をしっかり出してコラムを書こう。それが難しいのならば、後進に道を譲ることも考えるべき時期だ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220108&ng=DGKKZO79043760X00C22A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之編集委員への評価はDを据え置く。小竹編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_14.html

「『大きな中央銀行』でいいのか」と問うた日経 小竹洋之上級論説委員に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post.html

日経 小竹洋之編集委員は「コロナ世代」対策の具体論を語れhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post_13.html

2022年1月7日金曜日

「センテナリアンの挑戦」が見当たらない日経1面連載「成長の未来図(6)」

7日の日本経済新聞朝刊1面に載った「成長の未来図(6)高齢化の不安、乗り越える~センテナリアンの挑戦」という記事も苦しい内容だった。最大の問題は「センテナリアンの挑戦」を描いていないことだ。その前に記事の冒頭部分にもツッコミを入れておきたい。

田主丸駅

【日経の記事】

いま50歳のあなたが22世紀まで生きるかもしれない――。2021年6月、「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率は13%」とした論文が発表された。

延び続ける寿命の解明は「経済政策や人生設計に大きな影響を及ぼす」。米ワシントン大のマイケル・ピアース氏らは各国の110歳以上のデータから史上最高齢とされる122歳をどれだけ上回るかを推定した。


◎寿命の頭打ちを示唆しているのでは?

「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率は13%」というデータをどう見るべきだろうか。取材班は「延び続ける寿命」を示すものと捉えたようだ。

間違いとは言えないが、個人的にはむしろ逆に見える。今の「最長寿命」が「122歳」。これが「今世紀」末に「130歳」になるとしよう。10年で1歳という緩やかなペースだ。しかも実現の可能性はわずか「13%」。「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延び」ずに終わる「確率」が87%と言い換えればどうか。「最長寿命」はかなり頭打ちだと思えるのではないか。

問題の「センテナリアンの挑戦」に話を戻そう。ここから最後まで記事を一気に見てみる。


【日経の記事】

高齢化率で世界トップを走る日本で、1世紀を生き抜いた人々を示す「センテナリアン」が急増している。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の100歳以上は50年に53万2千人。1990年代初めに起きた百寿の双子姉妹「きんさん、ぎんさん」ブームから60年で140倍に膨らむ。

だが不安が先行し、歓迎ムードはない。権藤恭之大阪大教授らの18年の調査によると、30~75歳で「100歳まで生きたい」と答えた人は6.8%にとどまる。

孤独も余生に影を落とす。死離別で独身になる75歳以上の女性は30年までの10年間で130万人増え、800万人を超える。映画とは異なる高齢者版「ホーム・アローン」が待ち受ける。

センテナリアンが身近になる社会に夢は描けるか。

広島大の角谷快彦教授は金融リテラシーの重要性を訴える。高齢期を控えた人への調査をもとに、複利やインフレの理解度が高い人ほど資産を増やし、老後の不安が軽くなる傾向を示した。「お金のリスクに対処できるようになれば安心感が高まる」

60歳以上の貯蓄を含む金融資産を推計したところ、19年時点で約1200兆円だった。15年間で約350兆円伸び、全体の3分の2を占める。国際通貨基金(IMF)は日本の高齢者の貯蓄率が近年上昇しているとし「想定外の長生きに備え退職後も貯蓄を続けている」と分析する。

眠っている資産は「シルバーエコノミー」の原動力になりえる。

ニッセイ基礎研究所の試算によると、60歳以上の消費総額は10年ごろから年1兆円規模で増え、30年に家計消費の49%(111兆円)に及ぶ。

前田展弘・主任研究員は人生後半のライフスタイルを提案するようなサービスの市場が未開拓だと指摘。「高齢者の課題を解決するビジネスが育てば、消費が飛躍的に伸びる余地はある」と話す。

担い手としての期待は消費だけではない。米ハーバード大のデビッド・ブルーム氏らは20年、労働、ボランティア、孫の世話など欧米の高齢者の経済的貢献度が国内総生産(GDP)の7.3%に相当すると算出した。日本の20年のGDPで見れば、建設業(5.9%)や小売業(5.7%)を上回る。

日本では65歳以上の労働参加率が25.3%(19年)と米国(20.2%)、ドイツ(7.8%)より高い。内閣府調査では65歳を超えても働きたい人が7割に達し、働く意欲はまだ眠っている。経験を生かせる職業教育、社会課題の介護や子育て、地域に根ざした企業や観光の支援など活躍を待つ現場は少なくない。

日本の高齢化率は29.1%と先進国で突出して高く、これが社会保障費の増大を招き、財政や家計を逼迫させる要因となってきた。しかし、寿命が着実に延びていくとすれば、65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れる。

リモートワークや自動化の技術などを最大限駆使することで、元気で意欲も旺盛な高齢者の社会参加をどう促していくか。それ次第で未来の光景は大きく変わる。


◎途中から話が…

途中までは「センテナリアン」の話が続く。しかし「センテナリアンが身近になる社会に夢は描けるか」と問いかけたのを最後に「センテナリアン」は登場しなくなる。「センテナリアンの挑戦」を描いていないだけでなく「センテナリアン」自体を論じなくなっている。

そして「60歳以上の貯蓄を含む金融資産」「60歳以上の消費総額」「65歳以上の労働参加率」などと年齢を60代まで下げて話を進めてしまう。「65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れる」としても「センテナリアン」に関しては全く話が違ってくるはずだ。

「センテナリアン」を「元気で意欲も旺盛な高齢者」と見なして「労働参加」を促すべきなのか。それを実践している「センテナリアン」は今でも当たり前にいるのか。その辺りに言及しないまま記事を終えている。

例外的な事例を取り上げて「センテナリアン」でも元気に働けると訴えるのもどうかと思うが「センテナリアンの挑戦」と見出しで打ち出すならば、「センテナリアン」がしっかり「社会参加」している姿は描くべきだ。

適当な事例がなかったのならば、記事の構成自体を考え直してほしかった。それが難しいのは分かるが…。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(6)高齢化の不安、乗り越える~センテナリアンの挑戦」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220107&ng=DGKKZO79016830X00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月6日木曜日

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」

日本経済新聞の秋田浩之氏(本社コメンテーター)が6日の朝刊オピニオン面に書いた「Deep Insight~弱者の日本、どう守る」という記事には大きく2つの問題がある。まず「弱者の日本」という前提が苦しい。記事を見た上で、そう考える理由を述べたい。

夕暮れ時の筑後川
【日経の記事】

日本の現状を一言でいえば、安全保障上、「弱者」の立場に置かれているという点に尽きる。中国との軍事バランス上、それは明らかだ。中国軍がもつ主力の戦闘機は3.7倍、戦闘艦艇1.5倍、潜水艦2.5倍にのぼる。

米国のインド太平洋軍と自衛隊を合わせても、この構図がひっくり返ることはない。中国軍の主力の戦闘機、戦闘艦艇、潜水艦は米インド太平洋軍の5~5.6倍に達し、ミサイル戦力でも大きく差を広げている。

中国への日米の劣勢ぶりは安倍政権下、日本がひそかに重ねたシミュレーションなどでも明らかになった。元米軍幹部によると、台湾海峡での米中戦争を想定した米軍の図上演習でも近年、米側が敗れるケースが多い。

むろん、世界中の戦力をかき集めれば、米国は中国を大きくしのぐ。ただ、米艦隊を米本土などからアジアに移動させるには数週間かかる。米軍機はすぐに飛んでこられるが、アジアで使える軍用空港は限られ、戦時にはその一部も壊されかねない。


◎どこが「弱者」?

「世界中の戦力をかき集めれば、米国は中国を大きくしのぐ」のであれば、米国は中国との比較で「弱者」ではない。日米同盟が機能する前提で言えば、日本も「弱者」とは言い難い。「米艦隊を米本土などからアジアに移動させるには数週間かかる」としても「米中戦争」での中国優位が長くは続かないはずだ。

もう1つの問題に話を移そう。


【日経の記事】

北朝鮮への対応と並んで、日本が重点を置くべきなのは、台湾海峡の安定だ。日米による各種のシミュレーションによれば、ここで米中がぶつかれば大戦争になり、日本も戦域になってしまう危険性が高い。在日米軍などが標的になるほか、中国が作戦上、日本の南西諸島の一部を占拠しようとすることも考えられる。

各国に甚大な犠牲をもたらす戦争は、何としても防がなければならない。紛争は、力の均衡が崩れたときに起きやすくなる。台湾海峡の平和を保つには中国優位の軍事バランスに歯止めをかけ、「台湾侵攻は難しい」と中国が思うようにすることがまず肝心だ。

このため日本が果たせる役目は、主に3つある。第1に、軍事バランスのかなめである海空の防衛力をさらに強めていくことだ。作戦上、重みを増すサイバーと宇宙領域への投資も大事になる。

もっとも、中国の国防費は日本の約4倍に達しており、これだけで状況を好転させるのは難しい。そこで第2に、自衛隊と米軍の連携を深め、日米総体で対中抑止力を高めることが急務になる。


◎肝心な問題になぜ触れない?

「各国に甚大な犠牲をもたらす戦争は、何としても防がなければならない」のはその通りだ。だからと言って「戦争」になった場合の対応を考えなくて良い訳ではない。秋田氏はこの問題から逃げ続けている。そこが残念だ。

逃げている理由は推測できる。日経の大好きな「日米同盟強化」を推進し続けると、中国の内戦に介入する形で中国との戦争に巻き込まれる可能性が高まるからだ。

簡単な「シミュレーション」をしてみよう。

中国がある日、台湾への軍事侵攻に踏み切る。その時に中国は以下のように宣言する。

「これはあくまで国内問題だ。台湾は中国の一部であり、他国は干渉しないでほしい。台湾以外への攻撃は絶対にしない。日本も自制してほしい。日本が軍事面での中立を守れば、在日米軍基地や尖閣諸島も含め日本への攻撃はないと保証する」

一方、米国は台湾の独立を即座に承認して中国に宣戦布告。英国、オーストラリアも米国に同調。米国は日本にも台湾独立の承認と対中宣戦布告を求めてくる。こうした事態に陥った時に日本はどう対応すべきか。秋田氏にはそこを考えてほしい。

日米同盟の強化を念仏のように唱え続けていた日経の路線を踏襲すれば、米英豪とともに対中戦争に踏み切るしかない。平和を守るための日米同盟だったはずが、日米同盟の存在ゆえに戦争に巻き込まれる皮肉。しかも「日本への攻撃は絶対にしないから中立を守ってくれ」と訴えている中国に戦争を仕掛けることになる。

その辺りが秋田氏にも分かるのだろう。「起こっては困ることについては考えない」という姿勢でやり過ごそうとしているように見える。

そうなると何のための「本社コメンテーター」なのかという話になる。

肝心の問題から逃げ続けたままでいいのか。秋田氏には改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~弱者の日本、どう守る」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220106&ng=DGKKZO78957760V00C22A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

2022年1月5日水曜日

「日本の問題は平等主義」に無理がある日経1面連載「成長の未来図(4)」

日本経済新聞の正月1面企画「成長の未来図」はそれほど悪い出来ではない。日経が好む「世界一変系」の1面連載でないのは評価できる。ただ、5日朝刊に載った「(4)動くか『社会エレベーター』~めざす明日は見えますか」は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

一定の格差は今よりも良い未来を渇望する原動力になりうる半面、固定化すれば絶望や諦めにつながる。肝心なのは格差を乗り越えるという目標と手応えを持てるかだ。

経済協力開発機構(OECD)が提唱する「社会エレベーター」という指標は格差を克服する難易度を探るうえで目安になる。各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ階層が変わる確率を2018年に分析した。

導き出された数値は最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す。エレベーターがうまく動けば成り上がるチャンスは早まる。


◎まず指標が分かりづらい…

まず「『社会エレベーター』という指標」が分かりづらい。「最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す」この指標で日本は「4世代」となっている。これをどう理解したらいいのだろう。

「最短でも4世代は必要」と言いたいのか。しかし、あり得ない。「最貧層に生まれ」たものの街を歩いていたらスカウトされ芸能人として大成する人もいるはずだ。

「社会エレベーター」で「4世代」という場合、平均で「4世代」かかるということか。しかし、そうは明示していない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

階級制度「カースト」が根強く残るインドは、はい上がるのに7世代(210年)と厳しい結果を突きつけられた。しかし急速な発展で変革の兆しが見える。

「IT(情報技術)の巨人を征服するインド人」。21年11月、同国はパラグ・アグラワル氏のツイッター最高経営責任者(CEO)就任に沸いた。地方の借家で育ち、インド工科大を経てビッグテックを率いる37歳は飛躍を遂げた象徴だ。

IT分野はカーストに規定がないため職業選択の制約を受けず、貧しくても秀でていれば競える。ユニコーン企業は21年11月時点で48社に上り日本(6社)を圧倒、年5万人超の人材が米国へ羽ばたく。地元メディアによると、グーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏も冷蔵庫がない質素な家庭から上り詰めた。

10年の義務教育の導入により貧困地域にできた公立学校に通うスーラジ・ライタ君(13)は「二輪車のエンジニアになりたい」と目を輝かす。米ニューヨーク大の研究者らによると、格差の流動性を示す数値は18年以降も改善を続ける。

インドと対照的に日本のエレベーターの動きは鈍い。平均所得への道のりは4世代とOECD平均(4.5世代)より短いが、京都大の橘木俊詔名誉教授は「格差の大きさより全体的な落ち込みが問題だ」と指摘する。


◎インドに学ぶ?

「平均所得への道のりは4世代とOECD平均(4.5世代)より短い」日本は優等生とも言える。しかし「はい上がるのに7世代(210年)と厳しい結果を突きつけられた」インドに学ぶべきだと記事では示唆している。インドの「数値は18年以降も改善を続ける」としても、優等生が参考にすべき対象ではないだろう。

記事の冒頭で「一定の格差は今よりも良い未来を渇望する原動力になりうる」と書いていた。「4世代」はその「一定の格差」に収まっていないのか。収まっていないとすれば、どこに基準があるのか。そこは明確にしてほしかった。

今回の記事の前半では「格差」縮小を求めていると取れる内容が続くが、後半はむしろ逆になる。「格差の大きさより全体的な落ち込みが問題」という「京都大の橘木俊詔名誉教授」のコメントがその始まりだ。「だったら前半の記述は何のため」と言いたくなる。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

低成長で賃金は約30年伸びず所得の低い層が膨らんだ。厚生労働省によると18年の年収400万円未満の世帯は全体の約45%を占め、1989年比で5ポイント近くも増えた。

「大人になったとき親世代より経済状況がよくなっているか」。ユネスコが21カ国の15~24歳に尋ねた調査で日本の「はい」の割合は28%で最低。ドイツ(54%)や米国(43%)を大きく下回る。

日本の問題は平等主義がもたらす弊害だ。突出した能力を持つ人材を育てる機運に乏しく、一方で落ちこぼれる人たちを底上げする支援策も十分でない。自分が成長し暮らしが好転する希望が持てなければ格差を乗り越える意欲はしぼむ。

北欧の施策が参考になる。最貧層から2世代で平均所得に到達するデンマークは義務教育を延長して遅れている子どもを支え、大学生の起業も促す。北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%を超え、2.8%の日本との差は大きい。


◎どこに「平等主義がもたらす弊害」?

「日本の問題は平等主義がもたらす弊害だ」と言うものの、何を以って「平等主義」と言っているのか、よく分からない。「突出した能力を持つ人材を育てる」ことも「落ちこぼれる人たちを底上げする支援策」も、その恩恵を受ける権利が平等に与えられていれば「平等主義」とも言えるはずだ。

「義務教育を延長して遅れている子どもを支え、大学生の起業も促す」デンマークは反「平等主義」なのか。全ての国民がこれらの政策の恩恵を受ける権利を等しく有しているのならば「平等主義」から外れている感じはしない。

「北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%を超え、2.8%の日本との差は大きい」とも書いているが、これも「平等主義」とは関係ない。「教育の財政支出」が多くても、例えば白人にしか教育の機会を与えないとすれば「平等主義」ではない。

記事の終盤を見ておこう。


【日経の記事】

日本は能力を高めた人に報い、生かす発想も乏しい。米ブルッキングス研究所によると日本の大学院修了者の所得は高卒者より47%高いが、増加率は米国(72%)やドイツ(59%)を下回る。同研究所のマーティン・ベイリー氏らは「日本企業は採用を見直し高度人材を厚遇すべきだ」とする。

世界は人材育成の大競争時代に入った。支援が必要な人たちを救って全体を底上げしながら、横並びを脱して新しい産業をけん引するトップ人材も増やす。一人ひとりの能力を最大限に生かす仕組みをどうつくり上げるか。さびついた社会エレベーターを動かす一歩がそこから始まる。


◎色々と引っかかるところが…

「日本企業は採用を見直し高度人材を厚遇すべきだ」としよう。人件費の総額が大きく変わらない前提で言えば、これは格差拡大策だ。それでいいのか。「高度人材を厚遇」すると「さびついた社会エレベーターを動かす」きっかけになるのか。基本的には逆になると考えるべきだ。

「高度人材」は自分の子供により潤沢な教育関連の投資ができるようになる。一方「最貧層」の家庭に生まれた子供が塾に行ったりするのは、一段と難しくなる。

さらに言えば「大学院修了者」が「高度人材」なのかも疑問だ。日本では「高卒者」と「大学院修了者」の能力差が米独より小さい可能性もある。だとしたら「大学院修了者の所得」が「高卒者」を上回る度合いが米独より小さいからと言って問題視する必要はない。

そもそも比較対象はなぜ米独限定なのか。ご都合主義的に比較対象を選んでいる疑いが残る。

付け加えると「大学院修了者の所得」がそれほど高くないからと言って「日本は能力を高めた人に報い、生かす発想も乏しい」と断じるのは無理がある。日本は「能力を高めた人」であれば高卒でも学部卒でも等しく「報い、生か」しているだけかもしれない。

やはり今回の記事は説得力に欠ける。それが結論だ。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(4)動くか『社会エレベーター』~めざす明日は見えますか」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78945980V00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月4日火曜日

「中間層」に焦点当てる意味ある? 日経「エネ価格高騰、低収入ほど打撃」

4日の日本経済新聞朝刊 経済・総合面に載った「エネ価格高騰、低収入ほど打撃 中間層に『貧困化』懸念~1月消費者物価、電気代は最高の見通し」という記事は、なぜ「中間層」に焦点を当てたのか理解に苦しんだ。

生月大橋

最初の段落で以下のように説明している。

【日経の記事】

原油や食料品の価格上昇の影響が国内の家計に広がってきた。エネルギー価格の高騰は電気代など光熱費に遅れて波及するため、当面家計を圧迫する見通しだ。生活必需品の値上がりは年収が少ない層ほど負担が大きい。年収低迷が続く中でインフレが先行すれば中間層の「貧困化」が同時に進む「スクリューフレーション」が日本でも生じかねないと懸念する声も上がる。


◎問題は「年収が少ない層」では?

「年収低迷」は全体に共通しているとしよう。この中で「生活必需品の値上がり」は「年収が少ない層ほど負担が大きい」らしい。となれば「貧困化」は年収の多寡にかかわらず起きている。その中で「貧困化」が顕著なのは「年収が少ない層」だ。しかし記事では、そこに焦点を充てず「中間層」に話を絞っている。これが解せない。

「中間層」に触れた部分をさらに見ていこう。


【日経の記事】

内閣府の分析によると、エネルギー関連の4品目(電気代、ガス代、灯油代、ガソリン代)の値上がりは収入が低いほど負担感が増す。総務省の家計調査にもとづく年収分類で、高収入層(平均年収1217万円)の収入に占める負担増加額の割合は22年1月時点で0.3%程度と見込むが、低収入層(同255万円)は1%近くになる。

政府・日銀は年2%の物価上昇を目指してきたが、収入の低迷が続く中でコストプッシュ型の「悪いインフレ」が加速すれば格差拡大につながりかねないと懸念する声も出てきた。中間層が貧しくなることを意味する「スクリューイング」とインフレーションを組み合わせた「スクリューフレーション」という見方だ。

08年のリーマン・ショック後に米国を中心に広まった。消費の重要な担い手となってきた中間層を減らし、経済に打撃を与える懸念が指摘されている。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「日本も中間層が減り、スクリューフレーションが深刻化する可能性がある」と分析する。


◎「中間層」が減る?

「『悪いインフレ』が加速すれば格差拡大につながりかねない」と心配するのならば「年収が少ない層」に焦点を当てて「格差拡大」を防ぐために何をすべきか論じるのが自然だ。しかし、なぜか「中間層」に注目している。「中間層」は「悪いインフレ」による打撃が中ぐらいなのだから「格差拡大」に関しては最も忘れていい層だと思える。

今回の記事は「スクリューフレーションが日本でも…」と訴えたい気持ちが先走ってしまったのではないか。

さらに言えば、「年収」によって「中間層」を定義する場合「悪いインフレ」が「中間層」を減らすのではと心配する必要はない。問題は「年収」だからだ。これが横ばいとの前提で考えれば、「悪いインフレ」は実質的に「中間層」を貧しくするが「中間層」からの脱落を促す訳ではない。


※今回取り上げた記事「エネ価格高騰、低収入ほど打撃 中間層に『貧困化』懸念~1月消費者物価、電気代は最高の見通し」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220104&ng=DGKKZO78902580U2A100C2NN1000


※記事の評価はD(問題あり)