2021年12月4日土曜日

日経ビジネス特集「危機は去ったのか」に見当たらない「危機」の定義

日経ビジネス12月6日号の特集「危機は去ったのか~緩む日本、コロナ第6波への戦略」は残念な内容だった。最も問題を感じたのはワクチンに関する記述だが、長くなるので別の投稿で触れるとして、それ以外に引っかかった点を指摘したい。

ハングライダー発進基地

この特集では「危機は去ったのか」との問いに答えを出していない。「新型コロナの収束がまだ見通せないだけでなく、我々が『感染症の時代』に入った可能性もある」といった記述から「危機は去っていない」とのニュアンスは感じるが、「危機は去ったのか」どうかを明確にはしていない。

「危機は去ったのか」と特集で問うならば、どうなれば「去った」と言えるのかの判断基準は示してほしい。日本では、ほぼゼロコロナの状況が続いている。これで「危機は去っていない」と見るならば、どうなると「去った」と言えるのか。どういう状況で「新型コロナの収束」と見なすのか。

個人的には「危機」は日本にまだ来ていないと見ている。基準を示せと言われたら、コロナによる死者数で年間10万人程度か。しかし過去2年間で2万人にも届いていない。その多くが高齢者という点を考慮するとさらに「危機」には遠い。医療の供給が追い付かないといった問題は「混乱」レベルと捉えている。

この考えに同意してくれとは言わない。日経ビジネスには独自の「危機」の捉え方があっていい。しかし、今回の特集では、そこが見えてこない。

「我々が『感染症の時代』に入った可能性もある」といった話には基本的に意味がない。大昔から人類は「感染症」と付き合ってきたはずだ。だとすると常に「感染症の時代」とも言える。「危機」もそうだ。定義次第では永遠に「危機」は去ってくれない。

取材班には「危機は去ったのか」を具体的に論じる気はなかったのか。だとすれば、なぜこのタイトルを選んだのだろう。


※今回取り上げた特集「危機は去ったのか~緩む日本、コロナ第6波への戦略」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00958/


※特集の評価はD(問題あり)。田村賢司編集委員と橋本宗明編集委員への評価はDを据え置く。生田弦己記者への評価は暫定でDとする。


※田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_18.html

「名目」で豊かさを見る日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_3.html

「名目」で豊かさを見る理由 日経ビジネスの苦しい回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_14.html

日経ビジネス「東大の力~日本を救えるか」に感じた物足りなさhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post_6.html


※橋本編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「オプジーボ巡る対立」既に長期化では?  日経ビジネス橋本宗明編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_20.html

光免疫療法の記事で日経ビジネス橋本宗明編集委員に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_5.html

「日本は『ワクチン後進国』脱せよ」と日経ビジネス 橋本宗明編集委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_16.html

2021年12月1日水曜日

「人口減時代にも成長が必要」との前提が引っかかる日経1面トップの記事

日本経済新聞にとって「経済成長が必要」は自明なのか。1日の朝刊1面トップを飾った「生産年齢人口、ピークの95年比13.9%減 国勢調査確定値~生産性改善が急務 規制緩和・DXに活路」という記事では「人口減時代の成長は一人ひとりの能力を高め、規制緩和にも取り組んで生産性をどう押し上げるかにかかる」と訴えるが、そもそも「人口減時代」に国としての「経済成長」を追求すべきなのか。

大阪城公園

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

こうした女性や高齢者の就労拡大にも限界はある。生産性を高めなければいずれ生産年齢人口の減少の影響を補いきれなくなる。

日本の労働生産性(労働時間あたりベース)の伸び率はアベノミクス下の12年から19年まで年平均1.1%と一定の改善があった。

それでも20年時点で1時間あたりに生み出す付加価値は48.1ドルと主要7カ国(G7)で最も低い。経済協力開発機構(OECD)各国平均の54.0ドルも下回る。

内閣府の試算によると、働く人や労働時間が増えたことによる2010年代の平均的な経済成長率(潜在成長率、年平均0.7%)の押し上げ効果はゼロポイントにとどまる。1980年代には労働による押し上げは年平均で0.7ポイントあった。

人工知能(AI)など先端技術の活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて生産性を上げなければ根本的な成長につながらない。


◎何のための「成長」?

「経済成長」が必要なのは、どんな状況だろう。「人口が増えているのに国民は十分に栄養を摂取できていない。だから食糧生産を増やす形での経済成長が不可欠」といった話なら完全に同意できる。「海外では誰もが当たり前にスマホを使っているのに、日本では貧しさゆえに普及率が10%以下。だから経済成長して国民の多くがスマホを買えるようにしたい」という話でもいいだろう。

しかし今の日本で、さらに「生産性を上げ」てでも手に入れたいものがそんなにあるのか。食べ物もスマホも、あるいは衣服やクルマもほぼ行き渡っているように見える。脱炭素の流れが正しいとの前提で言えば「経済成長」を求めない方がむしろ好ましい。

「1時間あたりに生み出す付加価値は48.1ドルと主要7カ国(G7)で最も低い。経済協力開発機構(OECD)各国平均の54.0ドルも下回る」と日経は書いているが、こうした比較に意味があるのか。

そもそも何位になれば満足するのだろう。「G7」で3位以内に入り「OECD」平均を上回れば、それで解決なのか。仮にそうだとして、日本が順位を上げれば「G7」のどこかが最下位になる。その国が今度は上位を目指して国民に鞭を打つべきなのか。そうやって各国が際限のない生産性向上競争に身を投じていくのが、あるべき姿なのか。

生きていくうえで必要なものがそこそこ手に入るようになったら「経済成長」はなくてもいい。「人口減時代」であれば1人当たりGDPが一定でも「経済」は縮小していく。人々が幸福に暮らすために「経済成長」が欠かせないならば、そこを求めるべきだろう。ところが日経は「経済成長」自体を自明の目標と捉えているのではないか。

「経済成長」を実現しても、国民の幸福度が高まらないなら意味はない。「経済成長」していなくても、国民が今の暮らしに満足しているなら問題はない。そうは考えないのか。

思考停止に陥らず自問してみてほしい。


※今回取り上げた記事「生産年齢人口、ピークの95年比13.9%減 国勢調査確定値~生産性改善が急務 規制緩和・DXに活路」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211201&ng=DGKKZO78039180R01C21A2MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2021年11月30日火曜日

日経 細川幸太郎記者が伝えた韓国の動向が教えてくれるワクチン効果の弱さ

新型コロナウイルスに関して韓国の動向は参考になる。その意味で30日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「韓国の接種証明、半年で失効~死者最多で3度目促す 期限切れなら行動制限」という記事は興味深く読めた。記事の説明が大筋で正しいとすれば「ワクチンに大した効果はない。日本での感染者数急減の要因をワクチンに求めるのは間違い」と示唆している。

大阪城公園

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

韓国政府は29日、新型コロナウイルスのワクチン接種完了者に付与していた「接種証明」に半年間の有効期限を設けると発表した。韓国では接種完了者が感染するブレークスルー(突破)感染が6割を超え、新規感染者や重症者、死者の人数が過去最多水準となっている。欧州に続き期限設定で追加接種を促す動きがアジアでも出てきた。

中略)韓国政府はワクチン接種率が70%を超えたのを受けて、11月1日に「日常回復」を掲げて飲食店利用などの行動制限を大幅に緩和した。結果的に街には人があふれ、17日には1日あたりの最多感染者数を2カ月ぶりに更新。24日には4115人の新規感染者が確認された。死者数も過去最多水準が続く。


◎アストラゼネカに原因を求めても…

「韓国では接種完了者が感染するブレークスルー(突破)感染が6割を超え」たらしい。「ワクチン接種率が70%を超え」る程度のようだ。これらを比較すると「ワクチン」の「感染」予防効果は非常に弱いと思えてくる。

「新規感染者」だけでなく「重症者、死者の人数が過去最多水準となっている」のだから重症化や死亡を防ぐ効果も乏しいと見るべきだろう。「ワクチン接種率」でほぼ同レベルの日本はここから学ぶべきだ。

「ワクチン」には大きな効果があると信じたがる人は「アストラゼネカ製のワクチンがダメなんだ。日本とは違う」と考えるかもしれないが、そこも苦しい。


【日経の記事】

防疫当局は英アストラゼネカ製のワクチンの予防効果低下も指摘している。アストラ製ワクチンの中和抗体量が接種完了後3カ月で半分以下に減少したと発表。米ファイザー製は5カ月で半減したという。韓国では接種完了者の27%に相当する1100万人がアストラ製を接種しているため足元の感染拡大のひとつの要因となった可能性がある。


◎違いが小さすぎる

「アストラ製ワクチンの中和抗体量が接種完了後3カ月で半分以下に減少したと発表。米ファイザー製は5カ月で半減したという」と記事では書いている。「半減」するまでの期間が「3カ月」と「5カ月」。似たようなものだ。いずれにしても「半減」する。しかも「接種完了者の27%」しか「アストラゼネカ製」を接種していない。

「足元の感染拡大のひとつの要因となった可能性」がゼロとは言わないが、メインの要因と見るのは無理がある。「新規感染者や重症者、死者の人数が過去最多水準」の韓国と、ほぼゼロコロナの日本の差は決定的だ。これを「接種率」が同水準の「ワクチン」で説明しようとする人の気が知れない。


※今回取り上げた記事「韓国の接種証明、半年で失効~死者最多で3度目促す 期限切れなら行動制限」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211130&ng=DGKKZO77991060Z21C21A1FF8000


※記事の評価はC(平均的)。細川幸太郎記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。細川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

記事の柱を意識してる? 日経 細川幸太郎記者「LG系、TV液晶韓国生産中止」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/lgtv.html

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/nhk.html

適法でも「ライドシェア起訴」? 理解に苦しむ日経 細川幸太郎記者の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_9.html

2021年11月29日月曜日

むしろ逆では? 日経「ヤクルト日本一高津采配『いつも仕様』貫く」

29日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に載った「ヤクルト日本一 高津采配『いつも仕様』貫く~高橋、第2戦で初完封 先発登板間隔長めに」という記事は的外れだと感じた。「プロ野球のSMBC日本シリーズ」で「高津監督」は「いつも仕様」にこだわらず、短期決戦向けの「采配」を選んだのではないか。

大阪城公園

しかし木村祐太記者と田村城記者は逆の考えのようだ。「シリーズ仕様の采配に衣替えした中嶋監督に対し、いつも仕様を貫いた高津監督に勝利の女神はほほ笑んだ」と記事を締めている。この分析が違うと思える根拠を3つ挙げたい。


(1)高橋完封は「いつも仕様」?

「第2戦で完投経験のない高橋を九回も続投させ、完封勝利に導いた」ことに関して「第1戦で逆転サヨナラ負けを喫した守護神マクガフの起用に不安があったにせよ、九回は継投する局面だった。そんな中、高津監督は続投を選択」と記事でも書いている。ならば「いつも仕様」の「采配」ではなかったと見る方が自然だ。


(2)マクガフの続投をどう見る?

「第6戦を延長十二回の接戦の末、2-1」で勝ったヤクルトは抑えのマクガフ投手が10回2死から最後まで投げている。サンスポによると「今季初のイニングまたぎ」だ。「いつも仕様」から大きく逸脱している。木村記者と田村記者にはこれが「いつも仕様」に見えたのか。


(3)第7戦も「いつも仕様」になった?

「(第1戦・第2戦の先発である)奥川と高橋を第7戦に投入する算段だったのだろう」という見方には同意する。実現はしなかったが、この前提で考えると「第7戦」では、さらに「いつも仕様」から離れる考えが「高津監督」にはあったはずだ。

そうした点を考慮すると「シリーズ仕様の采配に衣替えした高津監督に勝利の女神はほほ笑んだ」と思える。「中嶋監督」との対比で記事をまとめたかったのだろうが、無理が過ぎる。


※今回取り上げた記事「ヤクルト日本一 高津采配『いつも仕様』貫く~高橋、第2戦で初完封 先発登板間隔長めに」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211129&ng=DGKKZO77963290Y1A121C2UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。木村祐太記者と田村城記者への評価は暫定でDとする。

2021年11月28日日曜日

東洋経済オンラインで「MMTは大間違い」と断言した小幡績 慶大准教授の大間違い

慶応大学大学院准教授の小幡績氏が相変わらず無理のある主張を続けている。27日付の東洋経済オンラインに載った「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」という記事では「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と意気込むが、その説明に説得力はない。中身を見ながらツッコミを入れてみたい。

【東洋経済オンラインの記事】

大阪城

また「自国通貨建ての国は、理論的に絶対財政破綻しない」という議論は、元日銀の著名エコノミストですら書いているが、それは、机上の理屈であり、現実には実現不可能なシナリオである。それは、日本銀行が国債を引き受け続けるとインフレになるからではない。その場合は、インフレまで時間稼ぎができるが、インフレになる前に、即時に財政破綻してしまうからである。

日本銀行は、すでに発行されている国債を、市場で買うことはできる。だから、理論的には、日本国内に存在するすべての国債を買い尽くすことはできる。しかし、財政破綻回避のために買う必要があるのは、既存の国債ではない。新発債、つまり、日本政府が借金をするために新たに発行する国債である。そして、これを日本銀行が直接買うこと、直接引き受けは、法律で禁止されている。だからできない。

これを回避する方法は2つである。

1つは、民間金融機関に買わせて、それを日本銀行が市場で買うことである。これは、現在すでに行われている。民間主体から見れば、いわゆる「日銀トレード」で、日銀が確実に買ってくれるから、政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつけるのである。

この結果、日本国債のほぼ半分は日銀が保有することになってしまった。

問題は、これがいつまで継続できるか、ということである。日銀は、継続性、持続性が危ういとみて、イールドカーブコントロールという前代未聞の、中央銀行としてはもっともやりたくない金融政策手段に踏み切り、国債の買い入れ量を減少させることに成功した。

逆に言えば、これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである。それでも、政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう。


◎日銀の国債購入能力に限界はある?

「これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである」と小幡氏は言うが、「引き受け」は限界を気にせず簡単にできるのではないか。

日銀は確かに「無限に」国債を買える訳ではない。買える国債が枯渇してしまう可能性はある。それは日銀の購入能力に限界があるからではない。モノがないだけだ。なので「政府が国債を発行し続けた」場合に「市場経由で」その全てを買い付けるのは簡単だ。日本円は日銀が無から創出できる。金(ゴールド)など裏付けとなる資産も必要ない。

「政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう」と小幡氏は予想するが、なぜそう考えるのか謎だ。

「政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつける」のが「日銀トレード」で「日銀が確実に買ってくれる」のだから、確実に「利ざや」を稼げる。そんな旨味のある取引をなぜ「少なくとも一時的には中止する」のか。日銀の国債購入能力に限りがあると小幡氏は思っているのか。限りがあるとしたら、それは金額でどの程度なのか。その金額はどうやって算出するのか。

記事の続きを見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

このとき、政府がどうするかが問題である。政府の道は2つである。1つは、危機をようやく認識し、国債発行を減らすことを決意し、遅まきながら財政再建に取り組む、という道である。しかし、これまでの政府の財政再建の取り組みからして、この道はとらない可能性が高い。

そうなると、もう1つの道しかなく、日銀に直接引き受けをさせるように、法律改正をすることになる。理論的に日本では財政破綻は起きないと主張している人々は、この手段があるから、自国通貨建ての国債を発行している限り、財政破綻しないと言っているのである。

残念ながら、この手段は現実には不可能である。

なぜなら「中央銀行に国債を直接引き受けさせる」という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻するからである。

日銀、国債直接引き受けへ、という報道が出た瞬間、世界中のトレーダーが日本売りを仕掛け、世界中の投資家もそれに追随して投げ売りをする。

まず、円が大暴落し、その結果、円建ての国債も投げ売りされ、円建ての日本株も投げ売られる。混乱が収まった後には、株だけは少し買い戻されるだろうが、当初は大暴落する。

つまり、為替主導の、円安、債券安、株安のトリプル安であり、生易しいトリプル安ではなく、1998年の金融危機ですら比較にならないぐらいの大暴落である。1997年から1998年の1年間で、1ドル=112円から147円まで暴落したが、「日銀直接引き受け報道」が出て、政府が放置すれば、その時のドル円が110円程度であれば、1週間以内に150円を割る大暴落となり、状況によっては、200円を突破する可能性もある。

ただし、これも現実には起きない。なぜなら、日銀国債直接引き受け報道が出れば、直ちに為替取引も債券取引も株式取引もまったく成り立たなくなり、金融市場は全面取引停止に追い込まれるからだ。


◎インドネシアをどう見る?

2020年7月9日付の日経の記事によると「インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は6日、中銀と国債の直接引き受けの拡充で合意したと発表」したらしい。「インドネシア中銀は既に6月までに、30兆ルピアを超える国債を直接購入している」ようなので「国債直接引き受け」は実現していると言える。

「『中央銀行に国債を直接引き受けさせる』という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」と小幡氏は断言する。ならばインドネシアはとっくに「破綻」しているはずだが、そうなのか。「金融市場は全面取引停止に追い込まれ」たのか。

ひょっとすると、インドネシアは「中央銀行に国債を直接引き受けさせ」ても大丈夫なのに、日本は「政府が自ら検討している、と報じられた時点」で「破綻」してしまうという話なのか。だとしても、なぜそう言えるのか説明はない。小幡氏が自分に都合良くストーリーを描いているだけだと思える。

さらに見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

メディアも政治家も、やっと大騒ぎを始め、日銀の直接引き受け報道を政府は否定することになるからだ。しかし、否定しても、いったん火のついた疑念は燃え盛り、取引は再開できないか、再開すれば、さらなる暴落となる。よって、これを収めるには、日銀直接引き受けなど絶対にありえない、という政府の強力で具体的な行動が必要となる。実質的で実効的でかつ大規模な財政再建策とその強い意志を示さざるを得ないだろう。こうなって初めて、暴落は止まる。

つまり、禁じ手といわれている、日銀の直接引き受けは、タブーを犯せば理論的には可能だ。だが現実にはタブーを犯した政府と中央銀行は国際金融市場に打ちのめされるため、結局、禁じ手はやはり禁じ手のままとなる。「自国通貨建ての政府債務なら、いくらでも借金できる」というのは幻想で、為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける。

そして、為替の暴落を許容しても、結局国債が暴落してしまい、借金はできなくなり、すべてを日銀に依存することになる、同時に、株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆されるだろう。その結果、その政権あるいは次の政権は、財政再建をせざるを得ず、日銀引き受けは結局実現することはない。


◎結局「財政破綻」に至らない?

「為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける」から結局「直接引き受け」は実現しないと小幡氏は言う。繰り返しになるが、だったらインドネシアはなぜ「直接引き受け」を実現できたのか。「株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆される」ので「直接引き受け」は「結局実現することはない」はずなのに、そうはなっていない。

他にも問題がある。「直接引き受け」に関して「それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」はずなのに、小幡氏の描いたストーリーでは「日本が破綻」しているようには見えない。

「金融市場」が「全面取引停止に追い込まれる」と、それだけで日本は「破綻」なのか。「破綻」の定義が謎だ。政府は存続していて「政府財政」も「破綻」していないのに「金融市場」の取引が止まったぐらいで国が「破綻」してしまったと小幡氏は確信するのか。全く同意できない。

それより重要なのが「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と打ち出したのに、「財政破綻は日本では起きない」と小幡氏自身も裏付けてしまっていることだ。

「日銀引き受けは結局実現することはない」し、「その政権あるいは次の政権は、財政再建」に取り組むようだ。この過程で「政府財政よりも先に、日本が破綻」してしまうらしいが、結局は「政府財政」の「破綻」を描いていない。「すべてを日銀に依存することになる」としても、それで済むなら「財政破綻」には至らない。

「インフレになる前に、即時に財政破綻してしまう」という話はどうなったのか。小幡氏が自分に都合良く描いたストーリー展開でも「財政破綻」がどうやって起きるか具体的に示せないのに、「財政破綻」の心配をする必要があるのか。

自国通貨建ての債務に関して「財政破綻」が起きないとは言わない。政府が債務不履行を望む(あるいは許容する)場合だ。それはないとの前提で言えば「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と頑張ってみた小幡氏に「誤り」がある。

なぜインドネシアで「直接引き受け」が実現したのか。そこをまず考えてほしい。結果として、自らの「大間違い」に気付けるかもしれない。


※今回取り上げた記事「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」

https://toyokeizai.net/articles/-/471734


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_14.html

2021年11月27日土曜日

日経 石川潤記者のワクチン信仰が垣間見える「ドイツの新規感染者7万人超」

記事の書き手は固定観念に囚われないことが大事だ。最近の新型コロナウイルス関連記事を読んでいると「ワクチンには大きな効果がある」という思い込みがもたらす弊害が目に付く。27日付で日本経済新聞電子版に石川潤記者が書いた「ドイツの新規感染者7万人超、空軍が重症者を輸送」という記事もそうだ。

大阪城

全文を見た上で問題点を指摘したい。

【日経の記事】

ドイツの新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。独ロベルト・コッホ研究所が26日公表した新規感染者数は7万6000人を突破し、3日連続で過去最高を更新した。医療システムへの負担が高まり、独空軍は同日、感染の深刻な地域からの重症者の輸送を開始した。行動制限の強化やワクチン接種の義務付けなどの追加策を求める声も高まってきた。

ドイツのワクチン接種率は68%だが、東部ザクセン州の接種率が58%にとどまるなど、地域間で差がある。接種率の低い東部、南部を中心に感染が広がり、医療システムの逼迫が深刻になっている。集中治療を受ける患者数は4300人を超え、過去のピーク(5700人強)に近づいている。死者は累計で10万人を突破した。

独空軍の特別機は26日、感染が広がっている南部バイエルン州から、比較的抑えられている西部へ重症者を輸送する作業に着手した。医療崩壊を避ける狙いだが、ドイツ全体で感染が拡大しているため、対応には限界もある。

ドイツは24日にドイツ社会民主党、緑の党、自由民主党の3党が連立政権の樹立で合意し、12月上旬にショルツ政権が成立する見通しとなった。感染の抑制と医療崩壊の回避が新政権の最初の課題となる。ドイツは18日、ワクチン未接種者への規制を強化し、電車や職場でも接種済みか検査陰性の証明を求めると決めたばかりだ。


◎なぜ「ドイツ全体で感染が拡大」?

「ドイツ全体で感染が拡大している」と石川記者は言う。しかし、なぜ「ドイツ全体で感染が拡大している」のかは説明していない。「ドイツのワクチン接種率は68%」とかなり高い。それでも「新規感染者数は7万6000人を突破し、3日連続で過去最高を更新した」のならば「ワクチン」の効果はかなり低いと見るのが自然だ。

「ドイツ全体で感染が拡大している」理由が分からないのならば仕方がない。だったら、そう書くべきだ。なのに「接種率の低い東部、南部を中心に感染が広がり~」と「接種率」の差が感染状況の差につながっているような書き方をしている。

だが「東部ザクセン州の接種率」は「58%」で全体の接種率である「68%」と大差はない。「58%」と「68%」には決定的な違いがあるのか。あるとしたら、なぜ「接種率の低い東部、南部」だけでなく「ドイツ全体で感染が拡大している」のか。

そこを石川記者には考えてほしい。「ワクチンは非常に有効」という前提を疑ってみないと客観的な分析は難しいはずだ。


※今回取り上げた記事「ドイツの新規感染者7万人超、空軍が重症者を輸送」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26DPV0W1A121C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。石川潤記者への評価はDを維持する。石川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日銀担当 石川潤記者への信頼が揺らぐ日経「真相深層」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_29.html

必須情報が抜けた日経「独決済ワイヤーカードに空売り規制」 
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_20.html

2021年11月25日木曜日

FACTA「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」に見える大西康之氏の誤解

ジャーナリストの大西康之氏によると「日本を含む世界のあちこちで土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない『三無』で、『ものづくり』をするベンチャーが急成長を始めている」らしい。それが本当だとしてもFACTA12月号で取り上げた「インスタリム」と「aba」は「三無」とは言い難い。なので以下の内容で問い合わせを送っている。

大阪城

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA編集人兼発行人 宮嶋巌様

12月号に大西様が書いた「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」という記事についてお尋ねします。記事では「日本を含む世界のあちこちで土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない『三無』で、『ものづくり』をするベンチャーが急成長を始めている」と述べた上で「IoTベンチャーのインスタリム」と「ケアテック・ベンチャーのaba」を取り上げています。記事の内容が正しいのならば、この2社は「土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない」はずです。

まず「資本」について考えます。両社のホームページを見ると、資本金は「インスタリム」が1億6701万円、「aba」が3111万円です。これだけの資本金があるのに「資本」を「持たない」経営と言えるでしょうか。記事の中で、3Dプリンターに関して「aba」の関係者が「かつては数千万円しましたが今は小型車1台くらいの値段で買えます」とコメントしています。つまり「aba」は、資本財として3Dプリンターを保有しているはずです。

次に「労働」です。「インスタリム」のホームページには「医療機器デザイナー、戦略コンサル/ベンチャー出身者、デジタル義肢装具士、AIエンジニア、3Dプリンティングエンジニア、医療セールスの専門家、ビジネスオペレーションの専門家など、相互に強みを活かしあいながら、お互いが、密接に協力・連携することにより、世界初の義足のマスカスタマイゼーションを可能にしています」との説明があります。機械設計エンジニアや生産技術エンジニアの募集もしているようなので、「労働」なしで事業を展開しているとは思えません。

「aba」のホームページを見ると社員数12名と出てきます。つまり「労働」者が12人います。技術開発部や営業部といった部署もあるようなので「労働」があると考えるべきです。

「インスタリム」と「aba」に関して「土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない」と見なしたのは誤りではありませんか。少なくとも「資本」と「労働」は活用していると思えます。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」 https://facta.co.jp/article/202112004.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html

大西康之氏が書いたFACTA「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」の問題点https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/facta.html

FACTA「『防衛と原発』東芝は国有化される」の手抜きが過ぎる大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/facta.html