2019年2月14日木曜日

「鉄道会社の淘汰の時代」に説得力なし 東洋経済 大坂直樹記者

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」の中の「じわり広がる鉄道各社間の格差 鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」という記事は看板に偽りありだ。記事を最後まで読んでも「鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」とは感じられない。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

冒頭で「大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている」と打ち出し、「大手私鉄16社とJR東日本の関東圏在来線、JR西日本の近畿圏在来線について2009年度の輸送人キロを100とした場合の17年度までの状況」を分析しているので、記事で言う「鉄道会社の淘汰」とは「大手鉄道会社」に関するものだろう(大手以外に言及したくだりは記事中にない)。「淘汰」に関しては、記事の終盤に唐突に出てくる。そこを見ていこう。

【東洋経済の記事】

一方で、鉄道各社は設備投資額を年々増やしている(図3の上)。車両の更新・改良、運転保安設備整備、踏切の改良といった安全面の投資に加え、エレベーター、エスカレーター、ホームドアの設置といったサービス面の投資に力を入れている。

06年施行のバリアフリー新法は、20年度までに全国の主要3575駅にエレベーター、エスカレーターなどを設置し、段差を解消することを求めている。18年3月末時点で約9割の駅に設置され、目標達成が見えてきた。

ホームドアの設置駅数も増え、800駅の設置目標に対して18年3月末時点で725駅が設置済みだ(図4の左)。しかし、設置済みの駅には利用者が少ない駅も多く、国が求める利用者10万人以上の駅では約6割がホームドア未設置だ(図4の右)。
 そんな中でホームドア設置に力を注ぐのが東京メトロだ。25年度までに全路線全駅への設置を目指す。丸ノ内線、日比谷線などでの新型車両の導入にも積極的で、他社と比較すると設備投資の大きさが際立つ(図3の下)。

設備投資額が東京メトロに次いで大きいのが東急電鉄だ。沿線には、自由が丘や二子玉川といった人気のエリアが多く、高橋和夫社長は「想定以上に沿線人口が増えている」と語る。それゆえ鉄道の混雑率が高いという悩みを抱えるが、それ以外のサービス改善でカバーしようと投資を惜しまない。ホームドアも東横線と田園都市線の全駅に19年度中に設置予定だ。

沿線の魅力が高まれば、ほかの地域から人口が流入し、鉄道利用者を増やし続けることができる。そのためには、鉄道の安全性やサービス改善は欠かせない。

長期にわたる設備投資額が将来生き残る路線を決めるといっても過言ではない。鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある。


◎説得力ゼロでは?

「鉄道各社」の「設備投資」についてあれこれ書いた後で「長期にわたる設備投資額が将来生き残る路線を決めるといっても過言ではない」と導いているのは分かる。問題は最後の「鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある」だ。これに説得力を持たせる材料はほとんどない。

「鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある」との結論に説得力を持たせるためには、「大手鉄道会社」の一部で単独での生き残りが難しくなっている状況を描く必要がある。しかし、記事にはそうした記述は見当たらない。「大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている」としても、「鉄道会社淘汰の時代」が「始まりつつある」と言える訳ではない。

「鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」と見出しでも打ち出しているのだから「近い将来、淘汰される大手鉄道会社が出てきてもおかしくないな」と読者に思わせる内容にすべきだ。

この記事に関しては前半にも問題を感じた。そこも見ておく。

【東洋経済の記事】

大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている。図1「輸送人キロ」(乗客数に各人の利用距離を乗じたもの)で比較してみよう。大手私鉄16社とJR東日本の関東圏在来線、JR西日本の近畿圏在来線について2009年度の輸送人キロを100とした場合の17年度までの状況だ。

最も伸びたのは東京メトロ。堅調な景気を背景にビジネス利用が増えており、インバウンドなどの観光利用者が上乗せされた。

2位は阪神電鉄。09年の阪神なんば線開業で沿線の利便性が向上し、利用者が増えた。3位京成、4位名鉄はどちらも空港アクセス鉄道が絶好調だ。

一方で、17位の西鉄、18位の近鉄は09年度よりも利用状況が悪化した。西鉄は福岡が地盤。近鉄は路線距離が私鉄最大で、2府3県にまたがる。東京、大阪という大都市を外れると、大手鉄道会社といえども安泰ではない。


◎話が違うような…

引っかかるのは「東京、大阪という大都市を外れると、大手鉄道会社といえども安泰ではない」という解説だ。「4位名鉄」は「空港アクセス鉄道が絶好調」らしい。しかし「東京、大阪という大都市を外れ」ている。

一方、「18位の近鉄は09年度よりも利用状況が悪化した」ものの「大阪」からは「外れ」ていない。どうも話が違う。

結局、この記事ではまともな分析ができていない。筆者の大坂直樹記者に猛省を促したい。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932


※特集全体も当該記事も評価はD(問題あり)。大坂直樹記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月13日水曜日

大腸内視鏡検査を「有用」と断言する井手ゆきえ氏の誤解

医学ライターの井手ゆきえ氏は「信じてはいけない書き手」と言えそうだ。週刊ダイヤモンド2月16日号に載った「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 434~陰性だったら次は10年後 大腸内視鏡検査の間隔」という記事には様々な問題を感じた。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

受けたくない検査の一つに大腸内視鏡検査がある。

事前の食事制限や下剤の服用のほか、検査時に鎮静剤を使うので、検査後の自動車運転が禁じられるなどわずらわしい。

さらに、頻度はまれだが検査に伴う“偶発症”として、出血や腸管穿孔(腸に穴が開くこと)、激しい腹痛などのリスクのほか、検査時の投薬による死亡例も報告されている。早期発見のためとはいえ、偶発症リスクに何度も曝されるのは勘弁してほしいものだ。どの程度の間隔で大腸内視鏡検査を受けるべきなのだろう。

先日、米国の保健維持組織の一つ「KPNC」から、この疑問に答える調査の結果が報告された。

同調査は、1998~2015年の利用者のうち、平均的大腸がんリスクを有する50~75歳の125万1318人(男女比は1対1、平均年齢55.6歳)が対象。大腸内視鏡検査で陰性とされた1万7253人(陰性群)と、非検査群25万9373人とで、大腸がんの発症と関連死を追跡した。

ちなみに、平均的な大腸がんリスクとは、50歳以上、腸管の良性腫瘍やポリープ、炎症性腸疾患の既往なし、大腸がんの家族歴がない、である。

追跡1年後、大腸がんの発症率は陰性群で、10万人・年当たり16.6、10年後は同133.2だった。一方、非検査群の追跡1年後の発症率は同62.9、12年以上で同224.8だった。

米国の診療ガイドラインでは、大腸内視鏡検査の結果が陰性だった場合、検査間隔を10年としている。その10年で区切って解析した結果、陰性群の大腸がん発症リスクは非検査群に対し46%、関連死リスクは88%低下していた。

つまり、大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用であり、検査結果が陰性だった場合は、少なくとも10年間は非検査群より安心できるわけだ。

がん化リスクが低い腺腫が1、2個ある、という場合もきちんと切除すれば陰性とほぼ同じ。

平均的な大腸がんリスクの持ち主の大腸内視鏡検査は、がん化が疑われる病変が見つからない限り、10年に1回で十分である。

◇   ◇   ◇

(1)エビデンスとしての有効性は?

記事の書き方から推測すると「KPNC」による調査はランダム化比較試験ではなさそうだ。だとすれば、エビデンスとしての有効性は低い。調査結果を記事に使うなとは言わないが、ランダム化比較試験でないならば、その点を明示すべきだ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

なのに「この疑問に答える調査の結果が報告された」と、決定的なエビデンスが見つかったような書き方をしている。これは感心しない。ランダム化比較試験ではない場合、健康に自信がない人、健康管理が面倒な人が「非検査群」に偏ってしまい、「検査」の影響以外の要因で「発症率」などに差が出てしまいやすい。


(2)「陰性群」と比べて意味ある?

「陰性群」と「非検査群」を比べ意味があるのか。「非検査群」には「検査をすれば陽性になる人」が最初から含まれている。これでは、その後の「発症率」が高く出るのは当然だ。ランダム化比較試験にした上で「非検査群」と「検査群」を比べるべきだ。

仮に「非検査群」も「検査群」も10年間で100人中10人が「大腸がん」になるとしよう。最初の検査で陽性(単純化のために「陽性=がん確認」と考える)となるのは5人とする。これを「陰性群」と「非検査群」で比べてしまうと、「陰性群」は95人中5人(約5%)が発症する。一方の「非検査群」は100人中10人(10%)だ。

「陰性群」の発症率は「非検査群」の約半分だ。だからと言って「大腸がん」になるリスクを検査が下げてくれているとは言い難い。

ついでに言うと「陰性群の大腸がん発症リスクは非検査群に対し46%、関連死リスクは88%低下していた」というくだりの「低下していた」が引っかかる。「低かった」とすべきだろう。


(3)「死亡リスクを下げる」?

「つまり、大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」と井手氏は断定している。この説明に問題があるのは既に述べてきた通りだ。

付け加えると、「大腸内視鏡検査」に「(大腸がんの)関連死リスク」を下げる効果があるとしても「死亡リスクを下げるという意味で有用」とは言い切れない。「関連死」以外の「死亡リスク」を考慮する必要があるからだ。ここは正確に書いてほしい。

「大腸がん関連で死ぬリスク」を減らせても「大腸がん関連以外で死ぬリスク」で相殺されれば意味がない。そして、がん検診には「がん以外での死亡も含めた総死亡率を下げる効果は確認できない」との研究報告がある。なのに「大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」と言い切ってしまうのは罪深い。


(4)「10年に1回で十分」?

百歩譲って「大腸内視鏡検査は死亡リスクを下げるという意味で有用」だとしよう。その場合、「10年に1回で十分」と言えるだろうか。井手氏は「非検査群」との比較を基に「10年に1回で十分」と判断したようだ。これは解せない。

「1年に1回」の群は「10年に1回」の群に比べて大幅に「死亡リスク」が低いとしよう。この場合「10年に1回で十分」と考えるべきか。常識的には「1年に1回」を推奨すべきだろう。しかし記事には、こうした比較がない。それで「10年に1回で十分である」と言われても納得できない。


※今回取り上げた記事「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 434~陰性だったら次は10年後 大腸内視鏡検査の間隔」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25790


※記事の評価はD(問題あり)。井手ゆきえ氏への評価はDで確定とする。井手氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最大18時間は絶食」で意味通じる?  週刊ダイヤモンドに疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/18.html

2019年2月12日火曜日

「快適性向上への努力」調査方法に難あり 東洋経済「最強の通勤電車」

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」の中に出てくる「通勤客1945人のアンケート回答 山手線と小田急線が高評価 ワーストは東急田園都市線」という記事はあまり意味がない。「通勤客1945人のアンケート回答」を基に「快適性向上に『努力している路線』」と「快適性向上に『努力が足りない路線』」を順位付けしているが、どちらも似たような結果だ。「そうなるだろうな」とは思う。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)※写真と本文は無関係

まずは記事の全文を見てみよう。

【東洋経済の記事】

通勤電車の利用者は鉄道各社が都心エリアで進めるサービス改善策をどう受け止めているのか。1都6県在住の東洋経済メールマガジン会員を対象に、アンケートを実施した。快適性向上に「努力している路線」と「努力が足りない路線」など、日々の通勤電車利用者ならではの率直な声を集めた。調査は1月下旬に行い、1945人から回答を得た。

快適性向上に努力している路線として最も評価が高かったのは、JR山手線。理由のコメントで多かったのは、「車両が新しい」「ホームドアの設置を進めている」など。JR東日本は2017年から山手線への新型車両「E235系」導入を本格化。車内に多数配置した液晶ディスプレーも利用者に評判がいいようだ。

2位は小田急小田原線。「複々線化」の効果で遅延の解消や列車本数増による混雑緩和が図られたことが評価された。3位にランクインしたのは京王線。昨年2月にデビューした有料座席指定列車「京王ライナー」が好評だ。

上位路線の顔ぶれを見ると「新型車両」「ホームドアの設置」が高評価を得るキーワードになっている。

調査の選択肢には入れなかったが、「その他」路線の回答として相模鉄道が21票を獲得した。神奈川県の鉄道だが、東京都心につながる直通プロジェクトを進めており、それに先行する新型車両の導入が好感を持たれている。

一方「努力が足りない路線」の筆頭は東急田園都市線だ。「混雑が解消されない」「よく遅れる」といった負のイメージが強い。「宅地開発と輸送人員の限界がマッチしていない」との厳しい意見も複数あった。

2位のJR中央線快速は、「人身事故が多い割に、ホームドアなどの対策が進んでいない」ことが不満の主な原因。3位のJR京浜東北線に対しては、遅延の多さやホームドア設置の進捗状況に対する不満の声が多かった。

これまでは評判が芳しくなかったが、「汚名返上」の施策を講じたことで評価された路線も。東急田園都市線の新型車両「2020系」導入、JR総武線快速の「新小岩駅のホームドアの設置」は、快適性・安全性向上へ努力している証しとして挙げられた。

アンケートの回答からは、各路線の小さな努力に通勤客が気づいていることがうかがえた。今回評価が低かった路線も、細かなサービス向上を続けることで価値を高められるはずだ。


◎京成押上線がどちらも最下位…

調査対象となった「東京圏の主要32路線」のうち「努力している路線」でも「努力が足りない路線」でも、最下位は「京成押上線(押上-青砥)」だ。回答者の中でこの路線を利用している人が少ないから、こういう結果になったと推測できる。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
    ※写真と本文は無関係です

このランキングを材料に「京成押上線(押上-青砥)」に関して「よく頑張っている」とか「もっと努力すべきだ」とか論じてもほとんど意味がない。

上位に関しても同様だ。「快適性向上に努力している路線として最も評価が高かったのは、JR山手線」だが、「JR山手線」は「努力が足りない路線」でも5位に入っている。

「『努力が足りない路線』の筆頭は東急田園都市線」とも書いている。これも「努力している路線」でも5位だ。両方のランキングの差から路線別の「努力」を読み取る手もあるが、ちょっと苦しい。「好きな路線・嫌いな路線」といった調査ならば、今回のような調査方法で良かったかもしれない。しかし「快適性向上」に「努力している」かどうかを見るには向かない。

ついでに言うと、この「アンケート」で「中央線」「総武線」「常磐線」などを「快速」と「各駅停車」に分けているのも気になった。一緒にした方がいい。ちなみに、一緒にしていれば「努力が足りない路線」のトップは「中央線」の「177」で、「東急田園都市線」の「155」を大きく上回る。

「(努力が足りない路線で)2位のJR中央線快速は、『人身事故が多い割に、ホームドアなどの対策が進んでいない』ことが不満の主な原因」と筆者の橋村季真記者は書いている。これは「快速」だけの問題ではないだろう。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932


※特集全体も当該記事も評価はD(問題あり)。橋村季真記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月11日月曜日

東洋経済「最強の通勤電車」 なぜランキングは「東京圏」限定?

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」には問題を感じた。まず、なぜ「東京圏」限定でしか「『最強の通勤電車』総合ランキング」を出さないのか。「東京圏」の読者に向けて雑誌を作っているのならば分かる。しかし東洋経済は全国で販売しているはずだ。
特急 ゆふいんの森(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

ランキングの基になる「混雑率」などのデータは国土交通省のものだ。これを使う前提で考えても「大阪圏」「名古屋圏」を含めたランキングは出せるはずだ。まとめて順位を付けてもいいし、地域別でもいい。「東京圏」の「総合ランキング」しか出さずに「最強の通勤電車」を論じられても困る。

さらに言えば「総合ランキング」を算出する上で「混雑率改善度」はなくていい。「混雑率」だけで十分だ。「混雑率改善度」に関しては元々の「混雑率」が高い路線が有利になる。「最強の通勤電車」を選ぶのであれば必要のないデータだ。直近の実力を他の路線と比べれば済む。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932

※特集全体の評価はD(問題あり)。

2019年2月10日日曜日

テーマの「痴漢 治療で撲滅できるか」を論じない安部敏樹リディラバ代表

週刊東洋経済2月16日号に載った「リディラバ 安部敏樹の『社会問題』入門 第3回 〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」という記事を見出しに釣られて読んだら騙された。3ページに及ぶこの記事では結局「治療で撲滅できるか」について何の答えも出していない。
大分県別府市 ※写真と本文は無関係です

「治療」に言及した終盤を見ていこう。

【東洋経済の記事】

痴漢はスリルやリスクと隣り合わせだからこそゲーム性が高く、行為そのものに達成感を覚えていく。少しずつ手口が巧妙になり、逮捕される危険も回避できる。そうした実態は痴漢に「依存症」という側面があることを示している。

斉藤氏は「あらゆる依存症には、不安や苦痛といったストレスを一時的に和らげる効果があります。ほんの一時でも不安や苦痛から逃れようと、痴漢という行為に耽溺していくのです」とも話している。

斉藤氏は痴漢の治療プログラムを行っており、「受講者に『逮捕されなければずっと続けていましたか』と聞くと、ほぼ100%の確率で『はい』という返事が返ってきます。加害者に話を聞くと、逮捕されたときに『ホッとした』『捕まって安心した』と話します。自らの力で痴漢行為をやめられなくなっているんです」と話す。

痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない。痴漢をはじめとする性犯罪は高い再犯率が問題となっているように、痴漢と逮捕を繰り返す加害者は多い。しかし現状では、「逮捕されれば治療」という認識は広まっていない。新たな痴漢被害を生まないためには、逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている。

「日本に痴漢が蔓延している」という事実は、多くの人が知るところだ。しかし、これまで痴漢は性犯罪の中でも、“軽犯罪”と認識され、深刻な社会問題として捉えられていなかったのではないだろうか。フランスで『Tchikan』を出版した佐々木くみ氏は、「痴漢被害に遭う日々に絶望し、何度も自殺を考えていた」と話す。

痴漢を減らすためのさらなる対策が必要とされている。


◎せめて「治療の効果」は論じないと…

記事のテーマは「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」だ。できるかできないか明確な答えを出せとは言わない。ただ、この問題をしっかり論じるべきだ。その結果として「撲滅できるか」どうか全く分からないという結論になるのなら納得できる。

しかし、今回の記事では「治療で撲滅できるか」をまともに論じていない。「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」などとは書いているが、「治療で撲滅できるか」に関しては手掛かりすらない。

「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と書いているので筆者の安部氏は「治療に効果あり」との立場なのだろう。ところが、どの程度の効果があるのかも教えてくれない。これでなぜ「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」というテーマを掲げたのか。

ついでに言うと「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」と断定しているのも引っかかる。「痴漢に『依存症』という側面がある」かもしれないが、「痴漢に手を染める人=依存症」とは言い切れないはずだ。

痴漢で有罪判決を受けた人のうちどの程度が「依存症という病気」なのかが知りたい。その上で治療効果を見極めたい。「全員が依存症で治療によって100%治る」のならば、「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」はゼロにできるだろう。仮に痴漢被害の99%が「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」によるものならば、ほぼ「撲滅」と言える。

しかし「依存症」とは言えない人が多かったり、治療しても効果が上がらない人がかなりいたりする場合は「治療で撲滅」はできない。この辺りは「2000人以上の性犯罪加害者の臨床に携わった精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏」に質問してもいいはずだ。記事にはそうした形跡が見当たらない。

なのに安部氏は「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と結論付けている。治療効果が小さい場合、「逮捕から治療に結び付ける仕組み」を作ってもあまり意味がない。「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と訴えたいのならば、その主張に説得力を持たせるための材料をしっかりと読者に提供すべきだ。

今回の記事ではそれができていない。東洋経済編集部の担当者も責任を感じてほしい。


※今回取り上げた記事「リディラバ 安部敏樹の『社会問題』入門 第3回 〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2019021600/DCL0101000201902160020190216TKW038/20190216TKW038/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。安部敏樹リディラバ代表への評価も暫定でDとする。

2019年2月9日土曜日

「昔の株主は株主還元だけで満足」と日経ビジネスは言うが…

「何かそれらしく記事を締めたかったんで、適当なことを書いてしまいました」といったところか。日経ビジネス2月11日号に載った「時事深層 COMPANY~株主から物言い相次ぐ LIXIL、不可解人事の波紋」という記事は、最後の段落が引っかかった。
長崎鼻(大分県豊後高田市)※写真と本文は無関係

【日経ビジネスの記事】

折しも、日本でもガバナンスに対する投資家の関心はここ数年高まってきている。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を巡る問題を見るまでもなく、ガバナンスの機能不全が企業価値を毀損させる例が相次いでいるのだから当然のことだろう。

配当や自社株買いなど株主還元策を施していれば、株主は満足する。そんな時代はもはや終わりを迎えていることを企業経営者は肝に銘じる必要があるだろう。


◎「そんな時代」あった?

「配当や自社株買いなど株主還元策を施していれば、株主は満足する」時代があっただろうか。「そんな時代はもはや終わりを迎えている」と「日経ビジネス編集部」は言うが「そんな時代」は元々なかったと思える。

例えば、「株を買った後もズルズルと値を下げて買値の半分を下回る状態が3年以上も続いている。でも無配にはなってないから満足」と考える株主が昔は当たり前にいたのか。今も昔もほとんどいないはずだ。

「米ファンド、ソニーに事業分離提案 映画・音楽など、上場求める」という2013年5月15日付の日経の記事によると「米有力ヘッジファンドのサード・ポイントは14日、ソニーに映画や音楽などの事業を分離し、米国で上場するよう提案した」らしい。

「サード・ポイントによると、同社は実質的にソニーの株式の約6%を保有するという」のだから、株主と考えてよいだろう。そしてソニーは13年の時点では無配になったこともない。つまり「配当や自社株買いなど株主還元策を施して」いたのに、「株主は満足」していなかったと判断できる。

となると、少なくとも13年時点で「そんな時代」は終わっていたはずだ。「そんな時代」とはいつの話なのか。なかったと考える方が自然ではないか。

ついでに言うと「日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を巡る問題」を「ガバナンスの機能不全が企業価値を毀損させる例」と断定するのは早計だろう。不正があったのか、不正の存在を知りながら他の役員らがそれを黙認していたのかといった点について「日経ビジネス編集部」は確たる根拠を持っているのか。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~株主から物言い相次ぐ LIXIL、不可解人事の波紋」


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年2月7日木曜日

「英国の地続き国境」問題 朝日と日経どっちが正しい?

「アイルランド島にある英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」という説明は正しいか。こんな問題があったら、どう答えるだろうか。自分ならば「誤り」を選ぶ。英領ジブラルタルがあるからだ。しかし、日本経済新聞の中島裕介記者は違う考えのようだ。中島記者だけではない。日経の多くの記事で似たような記述がある。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

一方、朝日新聞はジブラルタルを「スペインと地続き」の「英国の領土」とみているようだ。日経の説明で問題ないのか。それとも自分や朝日が正しいのか。以下の内容で日経に問い合わせを送っている。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中島裕介様 国際アジア部 担当デスク様

7日の朝刊総合1面に載った「真相深層~英国境問題、再燃の危機 EU離脱で開いたパンドラの箱」という記事についてお尋ねします。記事には「アイルランド島にある英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」との記述があります。しかし英領ジブラルタルにも「地続きの国境」があります。

「スペイン、英離脱協定案に不満」という2018年11月25日付の日経の記事では「スペインのサンチェス首相は23日、英国と欧州連合(EU)が大筋合意した離脱協定案について、隣接する英領ジブラルタルの扱いを理由に不満を示した」と報じています。この記事を信じれば、「英領ジブラルタル」は「スペイン」と「隣接」しています。地図で見る限り、川や湖が「スペイン」と「英領ジブラルタル」を隔てているとも思えません。

ちなみに「スペインと地続き、英国の領土って? EU離脱を考える」(2018年9月14日付)という朝日新聞の記事では「英国が欧州連合(EU)加盟国と地続きなのは、英領北アイルランドとここ(=ジブラルタル)だけである」と記しています。

「真相深層」での「英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

2018年11月15日付の「北アイルランド、陸続きの国境 関税同盟の扱い、火種に」という日経の記事でも「島国の英国にとって、アイルランドは唯一の地続きのEU加盟国」と書いており、御紙はこれまでも似たような説明を繰り返しています。朝日と日経、この件で正しい説明をしているのはどちらなのか。じっくり検討してください。

せっかくの機会なので、もう1つ記事の問題点を指摘しておきます。

「70年代以降、アイルランド統一をめざすカトリック系とプロテスタント系が武力衝突を繰り返した」と中島様は説明しています。この書き方だと「カトリック系とプロテスタント系」の両方が「アイルランド統一をめざす」とも取れます。

また朝日を出して恐縮ですが、朝日は「北アイルランド紛争」に関して「英国に残った北アイルランドでは、英国からの分離とアイルランドへの併合を求める少数派のカトリック系住民と、英国の統治を望む多数派のプロテスタント系住民が対立した」と記しています。「真相深層」でも「アイルランド統一をめざすカトリック系と、英国統治を望むプロテスタント系が~」などと書いた方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※「真相深層~英国境問題、再燃の危機 EU離脱で開いたパンドラの箱」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190207&ng=DGKKZO40973060W9A200C1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。中島裕介記者への評価も暫定でDとする。