2018年11月7日水曜日

「生産性」を論じない日経「生産性考~その先に何が(下)」

7日の朝刊1面に載った「生産性考~その先に何が(下) ケインズの予言 富の再分配、新たな議論」という記事は「生産性」に全く触れていない。「生産性」を論じるのが難しいのならば「生産性考」とのタイトルは外すべきだ。
豊後森機関庫公園(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

富山涼平さんの「職場」は長野県松本市の自宅だ。平日は2社から請け負うプログラミングの仕事に充て、週末は趣味のスノーボードに費やす。「色々な仕事ができるとやる気も上がる」。仕事はネットで完結。月収60万円が目標だ。

 30年後、こんな働き方が普通になるかもしれない。副業、兼業を含めた広義のフリーランスは日本に1119万人いるといわれ、労働力人口の17%にあたる。人材サービスの米アップワークなどは、米国で2027年に広義のフリーランスが労働力人口の半分を占めると予想する。

経済学者のジョン・メイナード・ケインズは「労働時間は1日3時間になるだろう」と未来を予想したが、そんな時代が近づいているのだろうか

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

(1)「色々な仕事」をしてる?

富山涼平さん」は「2社から請け負うプログラミングの仕事」をしているらしい。これで「色々な仕事」ができているのか。「プログラミングの仕事」しかしていないと感じる。

プログラミングの仕事」の中に「色々な仕事」があると言いたいのかもしれない。それを言い出せば、よほどの単純労働でない限り「色々な仕事」がある。医師、教師、警察官、会社経営者なども同じだ。「色々な仕事」ができるのが「フリーランス」の特徴だと取材班は示唆したいのだろう。だが説得力はない。


(2)今は「普通」じゃない?

平日に「フリーランス」として「プログラミングの仕事」をしていると聞いて、特殊な「働き方」だと思うだろうか。個人的には「普通の働き方」だと感じる。記事でも「副業、兼業を含めた広義のフリーランスは日本に1119万人いるといわれ、労働力人口の17%にあたる」と書いている。なのになぜ「30年後、こんな働き方が普通になるかもしれない」と書いてしまったのか。


(3)「富山涼平さん」は「3時間」労働?

経済学者のジョン・メイナード・ケインズは『労働時間は1日3時間になるだろう』と未来を予想したが、そんな時代が近づいているのだろうか」と記事に出てくる。文脈的に考えて、冒頭で紹介した「富山涼平さん」の「労働時間」が「1日3時間」以下でないと話が成立しない。しかし「労働時間」に関する情報は見当たらない。

それに「1日3時間」の「労働時間」は既に現実になっている。パートやアルバイトでは「1日3時間」の「労働時間」でも働く場所はたくさんある。パートやアルバイトは取材班の眼中にないかもしれないが…。

ここから記事を最後まで一気に見ていこう。「生産性」をしっかり論じているかチェックしてほしい。

【日経の記事】

現実は厳しい。電話通訳1件100円、テープ起こし1時間1500円。フリーの仕事を見つけるサイトでは機械化の可能性がある仕事の賃金下落が激しい。会社勤めは手厚い福利厚生を期待できるがフリーはそれもない。生活は不安定になるかもしれない。安全網はどうあるべきなのか。

「おかげで生活は充実しているわ」。シニ・マルッティネンさんはフィンランドの首都ヘルシンキで、カフェを運営しながら「赤十字でのボランティアにも打ち込めている」。政府からベーシックインカム(基礎所得)を月約7万2千円受け取っているためだ。

同国は17年、2千人の失業者に対し、収入の有無に関係なく最低限の所得としてもらえるベーシックインカムの実験を始めた。シニさんはこの取り組みで一定の収入が確保できたため、仕事をやめてカフェの起業に一念発起した。

ばらまきといわれかねないベーシックインカムだが、ネット革命の最先端の経営者が賛同し始めている。米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は「新しいことに挑戦できる考え方として検討すべきだ」と話す。

27兆円。GAFA(グーグルの親会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)4社の手元資金の総額はこの3年で7割増えた。余るお金は、米アップルの巨額の自社株買いのように株主に流れる。

20世紀型の製造業なら投資して工場を建設し、従業員も多く雇った。だが、知識集約型のデジタル経済を担う企業ではかつてほど投資や雇用を必要としなくなっている。経済全体に富が配分されるメカニズムが働きにくくなっている。先進国で労働分配率が低迷している現実と、デジタル経済の進展に伴う富の集中はコインの裏表だ。

取り残された中間層のいらだちがポピュリズムのかたちで政治を揺らし、いずれは自分たちにも跳ね返ってくる。こんなリスクを感じるからこそ、IT企業の経営者がベーシックインカムの議論に傾いている。

富の集中の行き過ぎを解消する答えがベーシックインカムなのかはわからない。ただ、世界のあちこちで再分配を巡る議論が始まっている意味を、問い直す時期に来ているのかもしれない。


◎「生産性」はどこに行った?

フリーランス」を取り上げるのもいい。「ベーシックインカム」について考えるのも悪くない。だが、この連載は「生産性考」だ。「フリーランス」や「ベーシックインカム」が「生産性」とどう関連してくるのかを論じなければ、記事として成立しない。
平和祈念像(長崎市)※写真と本文は無関係です

その作業を投げ出して「世界のあちこちで再分配を巡る議論が始まっている意味を、問い直す時期に来ているのかもしれない」などと書いても意味はない。問題は「生産性」だ。

ちなみに、企業2面に載せた「生産性考~働き方、職住近接シフト」という関連記事の最後には「生産性」の文字が見える。記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事(企業2面)】

フリーランスでなくても、会社に出勤しない働き方は広がりつつある。日立製作所はテレワークを活用し、3年後にグループ10万人が社外で働ける体制を整える。政府はそんなテレワーク導入企業を2017年の14%から20年に30%超へと増やす目標を掲げている。

第一生命経済研究所の熊野英生エコノミストは、通勤時間を労働時間に置き換えると「東京都の事業所だけで1年間に8兆6千億円の経済効果がある」と試算する。

人工知能(AI)やロボットが普及して世界がどこへ向かうかはっきりとは見えない。だが、かつてない変化が進行中だ。個人や企業、国はそれぞれの生産性をどう高めるのか、答えを出していかなければならない


◎取材班でしっかり反省を

関連記事では「職住近接」を取り上げているが、「生産性」とどう関係するのかは触れていない。「東京都の事業所だけで1年間に8兆6千億円の経済効果がある」とのコメントは出てくるものの「生産性」との関連は不明だ。

そして最後に「個人や企業、国はそれぞれの生産性をどう高めるのか、答えを出していかなければならない」と取って付けたように「生産性」という言葉を入れて連載を終えている。

関連記事には「緒方竹虎、森本学、今出川リアノン、嘉悦健太、島津忠承、田中暁人、栗本優、秦野貫、大島有美子、増田有莉、松川文平、大鐘進之祐、高尾泰朗、矢崎日子が担当しました」と出ていた。今回の連載がなぜ失敗作となったのか。14人全員でしっかり考えてほしい。



※今回取り上げた記事「生産性考~その先に何が(下) ケインズの予言 富の再分配、新たな議論
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181107&ng=DGKKZO37456810W8A101C1MM8000


※連載全体の評価はD(問題あり)。緒方竹虎氏を連載の責任者と推定し、同氏への評価を暫定でDとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

CEO選任は「会社法で義務付け」? 日経1面連載「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/ceo.html


※過去の「生産性考」については以下の投稿も参照してほしい。

日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html

「労働生産性」を数値で見せない日経1面「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_28.html

解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_83.html

「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html

「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html

最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html

本当にコンサル部門初の「育児中の女性」? 日経「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_2.html

2018年11月6日火曜日

日経「パイオニア再建、視界不良」で堀田隆文記者に注文

6日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場」という記事は興味深く読めたが、引っかかる点もあった。まずは以下のくだりだ。

長崎の鐘(長崎市の平和公園)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

小谷進会長(68)や森谷浩一社長(61)らパイオニア経営陣が安堵したのは8月中旬のことだ。「お困りなら、出資する前段階で融資もしましょう」。投資ファンドが資金を貸す異例の内容に経営陣は飛びついた。

直前の8月6日に発表した2018年4~6月期の決算。パイオニアは「継続企業の前提への疑義」を決算書に注記しなければならなかった。

この時点で実態は絶望的だった。「すでに、銀行は支援を打ち切ると伝えてきていた」とパイオニア幹部は話す。三菱UFJ銀行など十数行が参加する130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった。


◎手元資金で返済できるのに「致命的」?

130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった」と記事では説明している。パイオニアにとって苦しい状況だとは思うが「絶望的」「致命的」は大げさだ。

手元資金が300億円程度」あるのならば「130億円」を返済しても170億円の「手元資金」が残る。しかも、記事によると子会社の「インクリメント・ピー」には「400億円の価値がある」ようだ。「万策尽きた。倒産しかない」という状況ならば「絶望的」「致命的」と言えるが、記事の説明を信じれば「8月6日」の時点でそこまで追い詰められてはいない。

記事には、どう理解すべきか分からない記述もあった。

【日経の記事】

1990年、世界初のカーナビを発売。その後も車にあらかじめ取りつける「純正品」でホンダやトヨタとがっちり組んだ。だがトヨタで調達担当をした元役員は見抜いていた。「あの会社はたしかに技術はあるけど、技術の見通しには欠ける

2010年ごろから米グーグルが地図に進出する。クラウドにデータを載せたグーグルの地図サービスはめまぐるしく更新され、既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる

パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ。インクリメントの関係者は「グーグルから提携を打診されたこともある」と話す。



◎「技術の見通しには欠ける」?

「(パイオニアは)技術はあるけど、技術の見通しには欠ける」という「トヨタで調達担当をした元役員」のコメントに続いて「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」と書いてあるので「パイオニアのカーナビは地図情報の更新がやたらと遅かったのかな」と感じた。

杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です
しかし、次の段落では「パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ」「グーグルから提携を打診されたこともある」と説明している。だとすると「技術の見通し」もしっかりしていたのではないか。

パイオニアの「カーナビ」が「高精度なデジタル地図向けのデータベース」を備えているとしたら「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」という話はどうなるのか。パイオニアともグーグルとも関係ない「カーナビ」に関する話なのか。結局、よく分からなかった。

次は言葉の使い方に注文を付けたい。

【日経の記事】

ファンド傘下でリストラを進めて収益を改善し、自動運転分野で大手メーカーと提携するのがパイオニアの「ベストシナリオ」だろう。だが、「最悪、インクリメント社を切り売りしてイグジット(投資回収)する解体シナリオも十分ある」とファンド関係者は話す。



◎「イグジット」は要らないような…

イグジット」は「出口」という意味なので「イグジットする」には違和感を覚える。「ファンド関係者」は使うのかもしれないが…。余計な横文字だとも思えるので「インクリメント社を切り売りして投資回収する解体シナリオも十分ある」と直した方がいい。匿名のコメントでもあり、「イグジット」を省いても何の問題もないはずだ。

記事の結びに移ろう。

【日経の記事】

11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた。パイオニアのショールーム「パイオニアプラザ銀座」だ。2011年2月、一等地にオープンした展示場は、ひっそりと営業を終了していた。ほろ苦い風景の先に何が起きるのか、時間との戦いだ。



◎きれいに終わってはいるが…

結びとしては美しい。筆者である堀田隆文記者の書き手としてのセンスを感じる。ただ、この結びにするならば「パイオニアプラザ銀座」が「営業を終了」したのは、ここ数カ月の話でないと苦しい。

調べてみると、閉館は2016年8月7日のようだ。2年以上前に「営業を終了」しているのに「11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた」と言われても…とは思う。


※今回取り上げた記事「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181106&ng=DGKKZO37401430V01C18A1TJ3000


※記事の評価はC(平均的)。堀田隆文記者への評価は暫定Dから暫定Cに引き上げる。堀田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人件費」にほぼ触れない日経「インドIT3社、人件費高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_22.html

2018年11月5日月曜日

CEO選任は「会社法で義務付け」? 日経1面連載「生産性考」

日本経済新聞朝刊1面で「生産性考」の連載が始まった。過去にも「生産性考」のタイトルで何度か連載しており、ツッコミどころの多い内容が目立った。今回もこれまでの流れを引き継いでいるようだ。取材班は「CEO」の選任が「会社法で義務付けられている」と誤解している可能性が高い。
日本橋高島屋S.C.(東京都中央区)
       ※写真と本文は無関係です

日経に送った問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「生産性考~その先に何が(上)新たな分業 AI浸透 変わるカイシャ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

<記事の当該部分>

「新しいメンバーに何をやってもらおうか」。求人サイト運営のアトラエに11月1日、ウェブデザイナーが中途入社した。仕事内容は社長や役員ではなくデザイナーチームが決めた。最も業務に詳しい人が判断すべきだとの考えからだ。

同社は会社法で義務付けられている取締役など以外の役職は置いていない。上司からの指示でなく自分で考えて自分で動くために、会社のすべての情報を共有する。新居佳英最高経営責任者(CEO)は「創造性が求められる時代こそ、フラットに全員で考えることが合理的だ」と話す。

--ここからが質問です。

記事の説明を信じれば「アトラエ」に「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」はないはずです。しかし記事には「新居佳英最高経営責任者(CEO)」と出てきます。「CEO」は「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」に当たるのではありませんか。

アトラエ」のホームページを見てみると「CEO」以外にも「プロジェクトリーダー」となっている人物が出てきます。これも「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」の存在を示唆しています。

同社は会社法で義務付けられている取締役など以外の役職は置いていない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を指摘しておきます。

記事では「アトラエ」を「社内の階層をなくす組織運営=ホラクラシー」の具体例として紹介しています。仮に「階層」がないとしても、「アトラエ」のメンバーは55人しかいません。この規模ならば「フラットに全員で考えることが合理的だ」とは言えます。問題は会社が大きくなった時です。50人規模の会社の組織を「フラット」にしているとしても、それを革新的な組織運営であるかのように取り上げるのは無理があります。

しかも「仕事内容は社長や役員ではなくデザイナーチームが決めた」という話は「フラットに全員で考えることが合理的だ」とのコメントと整合しません。この方針に従うならば新たなメンバーの「仕事内容」も「全員で考えることが合理的」なはずです。なのに「社長や役員」はその輪から外れてしまっています。

そもそも50人規模の会社で「ウェブデザイナー」を採用してから「新しいメンバーに何をやってもらおうか」と考えるのも理解に苦しみます。やってほしいことが先にあって、それを実現するために「ウェブデザイナー」を中途採用する方が「合理的」です。

会社のすべての情報を共有する」という話も本当ならば問題です。例えば社内でセクハラ問題が起きた時に、その情報は全て社内で「共有」されてしまいます。これでは怖くて被害者も相談しにくいでしょう。「この相談内容は内密に」とお願いしても「会社のすべての情報を共有する」との方針があるので、セクハラの加害者にも相談内容が筒抜けになってしまいます。

最後に、記事全体に関して問題点を指摘しておきます。

今回の記事には「AI浸透 変わるカイシャ」という見出しが付いています。しかし、記事を最初から最後まで読んでも「AI浸透」の具体的な事例は出てきません。
別府大学(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

冒頭に出てくる「ガラス加工メーカーの松浪硝子工業」はロボットを導入しただけです。「松浪硝子は2044年に創業200年を迎える。そのころには『ロボットに人工知能(AI)が埋め込まれ、一段と賢くなる』。そう考える松浪社長は『無から有を生むアイデアこそが利益の源泉になる』と、生産現場の社員を商品企画に移す案を練っている」とは書いていますが、「AI浸透」には至っていません。

記事には「AIの能力が急速に上がるなか『ヒトとAI』の分業の仕組みをつくれるかが生産性向上と成長の鍵になりつつある」との記述もあります。しかし「アトラエ」の事例になると「『ヒトとAI』の分業の仕組み」にもなっていません。50人規模の会社を「フラット」に運営しているだけです。

AI浸透 変わるカイシャ」という見出しを付けるのならば、AIが浸透している状況を描いた上で、それによって「カイシャ」が変わってきている姿を描くべきです。今回の記事では、どちらもできていません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「生産性考~その先に何が(上)新たな分業 AI浸透 変わるカイシャ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181105&ng=DGKKZO37353660U8A101C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。過去の「生産性考」については以下の投稿も参照してほしい。

日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html

「労働生産性」を数値で見せない日経1面「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_28.html

解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_83.html

「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html

「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html

最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html

本当にコンサル部門初の「育児中の女性」? 日経「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_2.html

2018年11月4日日曜日

「GAFAがデータ独占」と誤解するのは日経グループの癖?

4日の日本経済新聞朝刊1面の記事によると「GAFA」は「データを独占して高成長を続ける一方で、税や賃金など『社会全体への還元』には十分な関心を払ってこなかった」らしい。日経ビジネスも6月4日号で「GAFA」による「データ独占」を取り上げていた。個人的には「GAFA」による「データ独占」はあり得ないと思える。
小石川後楽園(東京都文京区)
     ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 成瀬美和様 増田咲紀様 中西豊紀様

4日の朝刊1面に載った「巨人GAFA、社会共存の風圧~課税強化・賃上げ・偽ニュース対策…コスト膨張、下がる利益率」という記事についてお尋ねします。記事では「GAFA(グーグル親会社のアルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に関して「データを独占して高成長を続ける一方で、税や賃金など『社会全体への還元』には十分な関心を払ってこなかった」と説明しています。本当に「GAFA」は「データを独占して」きたでしょうか。

百歩譲って、世界中の「データ」を「GAFA」が全て有しているとしましょう。その場合でも、4社あるので「独占」ではなく「寡占」です。「GAFA」は一体となって活動する企業グループではありません。

それに、「データ」を「GAFA」のみが有しているとの前提は明らかに誤っています。この前提が正しければ、日経の購読者に関する「データ」は日経社内にはなく「GAFA」だけが握っているはずです。あり得ますか。

やや無理がありますが「GAFAはそれぞれが集めたデータをそれぞれが“独占”している」との意味で「独占」と書いた可能性も考慮しました。この場合も「独占」は成立していません。

例えばアップルは「製品やサービスの提供に関してAppleに協力したり、お客様への宣伝に関してAppleを支援したりする戦略パートナー企業に対して、一定の個人情報を提供することがあります」と自社サイトで説明しています。「戦略パートナー企業」と「データ」を共有しているのであれば「独占」とは言えません。

GAFA」が「データを独占して」きたとの説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他に気になった点を記しておきます。

まず以下のくだりです。

18年7~9月期決算は総じて好調だったものの、水面下で『稼ぐ効率』を示す利益率が低下していることが一因だ。トランプ減税の影響を受けない税引き前利益のアナリスト予想の集計値をみると、売上高対比の利益率が19年度には全体で20.09%まで低下する。ピークの12年度比では約6ポイントの落ち込みだ

水面下」と表現した理由が理解できませんでした。「利益率」が低下しているのは18年度までは各社の決算で確認できるはずです。「アナリスト予想」も基本的には公開情報なので「水面下」で「利益率が低下」するとは思えません。

トランプ減税の影響を受けない税引き前利益」という説明も引っかかります。「税引き前利益であれば法人税率引き下げの影響を受けない」と考えたのかもしれません。しかし「トランプ減税」に関しては「2018年1月から個人所得税も大幅に軽減する」と日経も報道していました。だとすると消費拡大などを通じて「GAFA」の「税引き前利益」に「影響」を与えている可能性が高いでしょう。

記事には「設立から日が浅く、理想主義的な傾向もあるGAFA」との記述もあります。例えばアップルは1976年の設立で、40年以上が経っています。常識的には「設立から日が浅く」とは言えません。皆さんは取材先の企業が設立40周年だと知った時に「設立から日が浅いんだな」と思いますか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「巨人GAFA、社会共存の風圧~課税強化・賃上げ・偽ニュース対策…コスト膨張、下がる利益率
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181104&ng=DGKKZO37349720T01C18A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

成瀬美和:C→D
増田咲紀:暫定D
中西豊紀:Dを維持


※日経ビジネス6月4日号の「データ独占」関連記事については以下の投稿を参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html

2018年11月3日土曜日

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員

似ていないモノを「似ている」と決めてしまったのが失敗の原因--。日本経済新聞の藤田和明編集委員が2日の朝刊マーケット総合1面に書いた「スクランブル~中国株は日本の『01年』 過剰債務との苦闘 難所に」という記事を読んでそう感じた。記事を見ながら具体的に問題点を指摘したい。
豊後森機関庫公園(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ。市場では「債務のキス」(モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのルチル・シャルマ氏)とシニカルにいわれもするが、中国も例外といえないのではないか。中国株の動きをバブル後の日経平均株価に重ねると奇妙なほどに符合する。



◎「奇妙なほどに符合する」?

中国株の動きをバブル後の日経平均株価に重ねると奇妙なほどに符合する」と言うが、記事に付けたグラフを見るとそうでもない。「中国株」は急落後すぐに当該期間の最安値を付け、その後は一進一退ながらもその安値を下回っていない。一方の「日経平均株価」はダラダラと下値を切り下げていく。

中国株」は2015年に急騰と急落を見せているが、「日経平均株価」にはそれに類する値動きがない。グラフを重ねた印象を言うと「全く違うとは言わないが、あまり似ていない」といったところか。それを「奇妙なほどに符合する」としてしまった。ここで記事の失敗は約束されたようなものだ。

ついでに言うと「債務のキス」の例えは理解できなかった。「日本は債務問題で苦しんでるね。まさに債務のキスだね」と言われて意味が分かるだろうか。「シニカル」と言うより意味不明だ(自分の読解力不足かもしれないが…)。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

中国株は今年に入って調整色を強めている。上海総合指数は前年末比21%安。「米中貿易摩擦と国内インフラ投資の減速の2つが株価を押し下げた」(野村証券の木下智夫氏)

月末値で上海総合指数が最も高かったのは2007年10月、11年前。株価の足取りを1989年12月をピークにした日経平均に合わせると、いまの中国の位置を読む補助線になる。ちょうど、日本の01年初めだ。

当時の日本はIT(情報技術)ブームがはじけて株価が急落。銀行の保有株が含み損になり、金融不安が危惧され出すあたりだ



◎01年に「金融不安が危惧され出す」?

日本の01年初め」を「金融不安が危惧され出すあたり」と説明するのは苦しい。記事に付けたグラフにも「山一証券自主廃業(97/11)」という文字が見える。りそな銀行の実質国有化が03年なので、90年代から続いた「金融不安」は「01年」も継続していたと考えるのが普通だ。「1989年12月」以降で「金融不安が危惧され出すあたり」を探すとしたら92年前後だろう。
上野公園病院(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

もちろん、いまの中国とは異なる。ただ過剰な債務を抱え、これ以上は財政出動やマネーの力に頼れないと市場が見透かし始めたのなら、構図は似通う。

中国政府が企業や地方政府に債務削減を指示したのが17年秋。今夏に実際に固定資産投資が息切れしてくると、インフラ関連株中心に下げがきつくなった。

株安による負のスパイラルも同じだ。自社株を担保に融資を受けている企業は多く、株安で追加担保や融資削減に直面している。

神経をとがらせる当局は10月の急落時に、そうした企業への支援姿勢を見せる「口先介入」で、株安を食い止めた。日本の場合は、銀行等保有株式取得機構を後でつくることになる。

中国の債務膨張は、08年の4兆元の景気対策が起点だ。07年末に97%だった企業債務の国内総生産(GDP)比率は18年3月末に164%になった。


◎「過剰債務との苦闘」とは?

今回の記事には「過剰債務との苦闘 難所に」との見出しが付いている。しかし、藤田編集委員の言う「債務」が公的債務なのか民間債務なのか、あるいは両方なのか分かりにくい。

バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」と聞くと公的債務をイメージしたくなる。「過剰な債務を抱え、これ以上は財政出動やマネーの力に頼れないと市場が見透かし始めた」というくだりも同様だ。

しかし「07年末に97%だった企業債務の国内総生産(GDP)比率は18年3月末に164%になった」との記述では「企業債務」と明言している(国有企業の債務もあるとは思うが…)。また「中国政府が企業や地方政府に債務削減を指示したのが17年秋」との説明は「両方」と言っているようにも見える。この辺りは明確にしてほしい。

日本で言えば「企業」に関して「過剰な債務」の問題は既にないが、「国家」に関しては今もある。どちらの問題を論じているのか明確にならないと中国との比較もしにくい。

記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

土地バブルで家計が傷んだ日本とは違うとの指摘はある。一方で「影の銀行」が膨張したのが中国だ。

「深刻ですよ」。あるエコノミストが見せてくれた写真は中国内の抗議の人だかりだ。個人が気軽にネットで融資する金融サービスで焦げ付きが相次ぎ、不満が噴き出している。

大和総研の斎藤尚登氏が懸念するのは理財商品。「健全に運用させる監督強化でマネーが細まり、株安につながっている」。過剰債務を減らすデレバレッジの難しさはこれからだ。

次の注目は、中央委員会第4回全体会議(4中全会)の行方だ。「再び景気刺激か、構造改革か。貿易摩擦の中でどちらを選ぶか」(SMBC日興証券の平山広太氏)

日本は小泉純一郎政権が構造改革路線を取り、もう一段厳しい局面をみてから株価は反転に向かった



◎小泉純一郎政権が「過剰な債務」問題を解決?

上記の説明だと、日本では「小泉純一郎政権が構造改革路線」を取った結果、「過剰な債務」の問題が解消し「株価は反転に向かった」と理解したくなる。

しかし、公的債務に関しては当時から現在に至るまで「過剰な債務」の問題を抱えたままだ。「バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」のは、日本について言えば当時も今も変わらない。

記事の終盤に話を移そう。

【日経の記事】

全く異なる道になった市場もある。米ナスダック総合指数だ。00年のピークから10年間は似た足取りだったが、その後は上昇軌道をとった。アップルなどIT企業が躍進したからだ。

難所にある中国株。世界のリスクの震源となるのか。市場の関心はいやが上にも高まる局面だ。



◎「全く異なる道」になってる?

まず「全く異なる道になった」とは思えない。日本は「もう一段厳しい局面をみてから株価は反転に向かった」のだから、どちらも結局は「上昇軌道」になっている。
長崎大学医学部 ※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「上昇軌道をとった」という表現には違和感がある。「軌道を取る」とはあまり言わない。「上昇軌道を描いた」などの方が自然だ。

急に「米ナスダック総合指数」の話が出てくるのも引っかかる。これは「バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」例なのか。しかし、そうした説明はない。「アップルなどIT企業が躍進した」から問題が解決したとしているが、「過剰な債務」が問題ならば「アップルなどIT企業が躍進」してもあまり意味がなさそうだ。

それに「中国株は日本の『01年』」と藤田編集委員が考えているのならば「米ナスダック総合指数」を持ち出す必要はない。日中の比較で十分だ。

米ナスダック総合指数」も「日経平均株価」も「奇妙なほどに符合する」との判断ならば、記事では日中の比較に重心を置き過ぎている。「米ナスダック総合指数」を持ち出したのは一種の「保険」だとは思うが、やめた方がいい。

日中の株価の動きが「奇妙なほどに符合する」と書いたのならば、「中国株」の相場展開に関しても「日経平均株価」と似た動きになるとの予測を打ち出してほしかった。それが怖いのならば、この手の記事は書かない方がいい。


※今回取り上げた記事「スクランブル~中国株は日本の『01年』 過剰債務との苦闘 難所に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181102&ng=DGKKZO37216020R01C18A1EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

2018年11月2日金曜日

週刊エコノミストでモンテネグロを「NATO未加盟」と誤った岩川柊子氏

週刊エコノミスト11月6日号の「バルト海と西バルカンで火花 EUvsロシアの軍事的緊張」という記事で、国際政治アナリストの岩川柊子氏が「モンテネグロ」を「NATOには未加盟」と説明していた。同じ間違いを週刊ダイヤモンドもしていたが、地図の色分けの問題だけだったダイヤモンドに対し、エコノミストでは明確に「NATOには未加盟」と書いているので、より問題が大きい。
ポールマッカートニー東京ドーム公演(10月31日)
           ※写真と本文は無関係です

エコノミストの編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【エコノミストへの問い合わせ】

国際政治アナリスト 岩川柊子様  週刊エコノミスト 担当者様

11月6日号の「バルト海と西バルカンで火花 EUvsロシアの軍事的緊張」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

旧ユーゴスラビアのセルビアやモンテネグロ、マケドニアといった西バルカンの国々はNATOには未加盟だが、その東にあるルーマニアやブルガリアなどがNATOやEUに加盟し、NATO・EUの東方拡大によって地域の安定が維持されている

モンテネグロ」に関して「NATOには未加盟」としていますが、2017年6月に加盟しているはずです。記事の説明は誤りではありませんか。

ちなみに、週刊ダイヤモンド7月14日号の特集3「西側の同盟揺るがす『ハイブリッド戦争』  欧州・ロシアの新冷戦」という記事でも同様の誤りがありました。記事に付けた地図でモンテネグロをNATO非加盟に色分けしてしまい、7月28日号に訂正が出ました。御誌でも「せめぎ合うNATOとロシア」というタイトルの地図でモンテネグロをNATO非加盟国として扱っています。

モンテネグロがNATO加盟国だと確認できた場合、記事の説明だけでなく地図に関しても訂正してください。

付け加えると、地図上のバルト3国の分類にも問題があります。地図では国を「ロシア」「前ソビエト連邦」「1989年以前のNATO加盟国」「1989年以降のNATO加盟国」とそれら以外に分けています。バルト3国は「1989年以降のNATO加盟国」に分類されており、地図を見ると「前ソビエト連邦」ではないことになっています。

しかし、言うまでもなくバルト3国は「前ソビエト連邦」にも当てはまります。それが分かるように地図上で表記すべきでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある対応を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

間違いは誰にもあるので責めるつもりはない。ただ、「国際政治アナリスト」としてNATOなどの動向を追いかけているのに「モンテネグロ」のNATO加盟という2017年のニュースを見落とすだろうかという疑問は湧く。


※今回取り上げた記事「バルト海と西バルカンで火花 EUvsロシアの軍事的緊張
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20181106/se1/00m/020/044000c


※記事の評価はD(問題あり)。岩川柊子氏への評価は訂正などの対応を見て決めたい。

追記)結局、回答はなく、訂正も出なかった。岩川柊子氏への評価はF(根本的な欠陥あり)とする。


※週刊ダイヤモンドの「モンテネグロ」に関する誤りに関しては以下の投稿を参照してほしい。

間違い目立つ週刊ダイヤモンド「ハイブリッド戦争」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_10.html

2018年11月1日木曜日

どこが「7年越しの決断」? 週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者に問う

週刊ダイヤモンドの鈴木洋子記者が11月3日号に書いた「Inside~積年の課題事業をようやく売却へ 岐路に立つキリン海外事業」という記事は苦しい。冒頭で「まさに7年越しの決断である」と打ち出したものの、なぜ「7年越し」と言えるのかは教えてくれない。
伐株山(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

記事の前半は以下のようになっている。

【ダイヤモンドの記事】

まさに7年越しの決断である。キリンホールディングス(HD)は、低迷が続いていた豪総合飲料子会社、ライオンの飲料事業の売却を決めた。売却先や金額等は今後詰める。

そもそもキリンの海外事業のほころびは、ライオンの飲料事業のつまずきから始まった。発端は2007年と08年に当時3780億円(負債込み)で豪1位と2位の乳業メーカーを買収したことだった。この買収は当時計画していた、豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティルの買収をもって完成するパーツの一部だった。乳業・果汁でシェアを固めて価格決定力を強め、コカ・コーラの販売網を利用し東南アジアにも拡販するというシナリオだった。だが、コカ・コーラの買収が頓挫し、乳業事業は宙に浮いた。

ライオンは飲料事業で10年度にのれん代388億円を減損処理。その後、赤字こそ出してはいないものの、計画値の下方修正が続き、17年度は売上高1534億円に対して営業利益はわずか54億円。一方酒類事業は、1953億円の売上高で545億円の利益を稼いでおり、飲料事業は同社の“お荷物”となっていた。

近年では看板の加糖乳飲料商品でシェアを伸ばすなどの健闘もあったものの、豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られており、当初のもくろみは完全に外れていた。



◎分かるように書かないと…

まさに7年越しの決断である」と書くのならば、その直後に「7年越しの決断」だと読者を納得させる説明が要る。しかし、そんな話は出てこない。「2007年と08年に当時3780億円(負債込み)で豪1位と2位の乳業メーカーを買収した」と10~11年前から振り返り始め、「7年越しの決断」と言える理由に触れないまま話が進んでいく。

鈴木記者は「10年度にのれん代388億円を減損処理」した時点から「7年越しの決断」だと言いたいのかもしれない。だが、そうは書いていない。

付け加えると「豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られており、当初のもくろみは完全に外れていた」という説明も理解に苦しむ。
別府駅(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

コカ・コーラの買収が頓挫し、乳業事業は宙に浮いた」ために「価格決定権」を握れなかったと鈴木記者は考えているようだ。しかし、「豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティル」は「乳飲料市場」とは関係ないと思える。

豪1位と2位の乳業メーカーを買収」しても「豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られて」いるのに、「豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティル」を加えると「乳飲料」の「価格決定権」を握れるのか。「コカ・コーラ」が「乳飲料」も手掛けているのならば、その説明が要る。

今回の記事は色々な意味で説明が足りていない。

ついでに記事の後半も見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

キリンHDは2000年代中盤、食品業界の巨額M&A攻勢の先兵となってきた。しかし、振り返ってみればその内容は拙速なものが多かった。

11年に約3000億円で買収したブラジルのスキンカリオール(ブラジルキリン)は、15年度には上場来初となる473億円の当期赤字の元凶となってしまった。

そもそもスキンカリオールは、圧倒的なシェアを持つ1位企業から大きく離された2位企業だった。当時「かなり前にうちにも持ち込まれたが却下した」(ビール大手首脳)案件を、後から高値でつかんでしまった。結局ブラジルキリンは17年に取得時の半値以下で売却するに至る。

だが、海外の課題事業を切ったキリンHDの業績は、幸いなことに回復基調にある。ライオン酒類事業の好調で、17年度の海外事業の事業利益(のれん代等の償却前の営業利益)は、連結の33%以上に達した。

成長を海外に求めた一連の取り組みが、頓挫の経験も含めて“一周”した18年。キリンHDは何を学び、何を次の成長の柱として狙うのか。東南アジアで各社が狙っていた大型買収案件はほぼ売り先が決まり、“買い物リスト”の残りは少なくなっている。前任社長2人の買収の後始末を終えた磯崎功典社長の次の一手が待たれる


◎取材はしてない?

キリンHDは何を学び、何を次の成長の柱として狙うのか」と書いているが、鈴木記者はそれをキリン関係者に取材していないのか。「キリンHD」が「ライオンの飲料事業の売却」に関する発表をしたのは10月10日だ。そこから記事の締め切りまで2週間程度の時間があったはずなのに、何も聞かなかったのか。

九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です
今回の記事で取材の跡が見えるのは「ビール大手首脳」のコメントぐらいだ。これも「ライオンの飲料事業の売却」に関する発表を受けて取材したものとは限らない。

しかも記事の結論は「前任社長2人の買収の後始末を終えた磯崎功典社長の次の一手が待たれる」という「成り行き注目」型だ。説明は下手で、キリンHDへの取材の跡は伺えない。そして結論が「次の一手が待たれる」では、記事として評価できる点が見当たらない。

こんな説明が雑で取材にも手抜きが目立つ記事を書くために記者をやっているのか。鈴木記者にはそこをしっかり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Inside~積年の課題事業をようやく売却へ 岐路に立つキリン海外事業
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24924


※記事の評価はD(問題あり)。鈴木洋子記者への評価はDを据え置く。鈴木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ソニーの例えが下手な週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_19.html

週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者のヨイショ記事に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_11.html