2018年6月5日火曜日

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う

今回は「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT大手が、個人情報を独占する状況」にあるかどうかを検討したい。日経ビジネス6月4日号の「時事深層 POLICY 強権得たEU、日本は不戦敗か~『GAFA』のデータ独占に挑戦状」という記事で、筆者の吉野次郎記者がそう断言していたのが気になった。
プレミアホテル門司港(北九州市)
      ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス編集部への問い合わせ、それに対する回答、再度の問い合わせの順で見てほしい。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 吉野次郎様

6月4日号の「時事深層 POLICY 強権得たEU、日本は不戦敗か~『GAFA』のデータ独占に挑戦状」という記事についてお尋ねします。記事には「欧州連合(EU)は5月、米IT大手が独占する個人情報を強制的に開示させる新規制を施行した」「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT大手が、個人情報を独占する状況に風穴を開けるのが狙いだ」との記述があります。見出しでも「『GAFA』のデータ独占」との表現を用いています。しかし、「GAFA」が個人情報を「独占」しているとは思えません。

5月24日付の「EUデータ新規制GDPR、主要企業8割が対応未了」という日経の記事では「欧州連合(EU)が25日に施行する新たな個人情報保護ルール『一般データ保護規則(GDPR)』を巡り、日本企業の8割が対策を完全に終えていないことが日本経済新聞社の主要100社調査でわかった」と記しています。EUの個人情報をGAFAが独占しているのならば、GDPRに日本企業が対応する必要はありません。保護の対象となる個人情報を日本企業は持っていないはずです。

常識的には、日本企業を含めて欧州で事業展開する様々な企業が膨大な量の個人情報を得ていると考えられます。例えば、銀行や証券会社を通じて個人が取引をした場合、金融機関は個人情報を一切持たず、GAFAが情報を独占している可能性はゼロでしょう。

EUでは「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT大手が、個人情報を独占する状況」にあるとの説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、仮にGAFAだけが個人情報を有しているとしても「GAFAが独占」という表現はお薦めしません。GAFAが1つのグループとして個人情報を集めているのならば、許容範囲だと思いますが、4社はそういう関係ではないはずです。

五輪で言えば「日本勢がメダル独占」は気になりませんが、「日中韓がメダル独占」と言われると違和感があります。経済記事を書く場合「大手4社が独占する市場」などとすると、必ず問題が生じます。市場の供給者が4社に限られる場合、「独占」ではなく「寡占」となるからです。

今後、記事を書く時には、この辺りに注意してください。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、編集部よりお答えさせていただきます。

「GAFAが独占する個人情報」で用いた「独占」という表現は、「市場独占」(世界中にあるすべての個人情報を4社だけで独占している状態)」の意味ではありません。この場合、「寡占」と書くべきでしょう。

記事中で用いた「独占」は、「自社で囲い込んで第三者には渡さない」という意味で使っています。例えばフェイスブックなら20億人の利用者がいます。その20億人分の個人情報をフェイスブックは第三者に提供することなく、独占しています。GDPRはこの「独占」に風穴を開けるために、データポータビリティー権を規定しました。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。ご指摘ありがとうございました。



【日経BP社への問い合わせ】

「GAFAが独占する個人情報」に関する問い合わせに回答していただき、ありがとうございます。ただ、回答には事実誤認と思える説明がありました。
アルバカーキ橋(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

「記事中で用いた『独占』は、『自社で囲い込んで第三者には渡さない』という意味で使っています」との説明には無理がありますが、ここでは問題にしません。回答の通り「GAFAが個人情報を独占している=GAFAが個人情報を自社で囲い込んで第三者には渡さない」という意味だとしましょう。だとするとGAFAは個人情報を“独占”していません。

2018年5月22日に更新されたアップルのプライバシーポリシーでは「第三者への開示について」以下のように記しています。「Appleは、製品やサービスの提供に関してAppleに協力したり、お客様への宣伝に関してAppleを支援したりする戦略パートナー企業に対して、一定の個人情報を提供することがあります」

グーグルもプライバシーポリシーとして「Google は、お客様の同意を得た場合に、Google 以外の者と個人情報を共有します」と明言しています。回答にあったフェイスブックは“独占”しているかもしれませんが、「GAFAが個人情報を“独占”」とは言える状況ではありません。

結論としては、「独占=自社で囲い込んで第三者には渡さない」という意味で考えても、「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT大手が、個人情報を独占する状況」にはないと思えます。違いますか。

お忙しいでしょうから、再度の回答は求めません。ただ、「それでもGAFAは個人情報を独占している」との判断であれば、その根拠を教えていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇

2回目の問い合わせから丸1日経過した段階で反応はなかった。

※今回取り上げた記事「時事深層 POLICY 強権得たEU、日本は不戦敗か~『GAFA』のデータ独占に挑戦状」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/052801059/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。吉野次郎記者への評価は暫定でDとする。

「岩田規久男前日銀副総裁の苦しい弁明」を批判してみた

週刊エコノミスト6月12日号の「出口の迷路 金融政策を問う(34)インタビュー岩田規久男前日銀副総裁『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』 」という記事は興味深い内容だった。聞き手である藤枝克治編集長の突っ込み不足は感じるが、全体としての完成度は高い。リフレ派のダメさを象徴する岩田氏の問題点も浮き彫りになっている。
三浦教会(長崎県佐世保市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の批評から離れて、今回はインタビューの内容を基に岩田氏への批判を試みたい。まずは「消費税率引き上げのせいで2%の物価目標が達成できなかった」という弁明について見ていこう。


【エコノミストでの岩田氏の発言】

最初の1年目は想定通りの展開だった。まず、「リフレレジーム」に転換した日銀による大量の長期国債を中心とする資産買い入れが、株高を引き起こし、為替市場では円安をもたらした。株や外貨建て資産を持っている人に対して、資産効果が働き、消費が大きく伸びたのが1年目の特色だ。

我々が重視していた予想インフレ率も順調に上がり、消費者物価(除く生鮮食品)前年比は、13年3月のマイナス0・5%から、14年4月には1・5%まで2ポイントも上がった。遅くとも14年8月には2%に達するスピードで、2年以内に目標を達成できると思った。

消費増税について、安倍晋三首相は自民党総裁選に出る前に、「デフレから脱却しない限りやらない」と述べていたので、私はそのつもりでいた。ところが結局実施され、財政政策が需要を圧縮したため、とたんに物価が上がりにくくなってしまった。


◎「自分達のせいではない」と言い訳してない?

2013年の就任会見で岩田氏は以下のように述べている。

「2 年くらいで責任をもって達成するとコミットしているわけですが、達成できなかった時に、『自分達のせいではない。他の要因によるものだ』と、あまり言い訳をしないということです。そういう立場に立っていないと、市場が、その金融政策を信用しないということになってしまいます」

ところが、今回のインタビューも含めて結局は原油安や増税を言い訳にしている。

また、「(物価上昇率が)14年4月には1・5%まで2ポイントも上がった」ことを受けて「2年以内に目標を達成できると思った」のも奇妙だ。

今回のインタビューで岩田氏は「消費増税については、実施前に『2%を安定的に達成する前に、消費増税すれば、2年で2%を達成することは不可能だ』とはっきり言うべきだった」とも述べている。つまり、少なくとも14年4月に消費税率が8%になる段階では「2年で2%を達成することは不可能」と確信していたはずだ。なのに、14年4月の物価上昇率を見て「遅くとも14年8月には2%に達するスピードで、2年以内に目標を達成できると思った」のか。矛盾している。

次は「現在の日本は景気がよく、雇用も改善しているので、2%の物価目標にこだわらなくてもいいという意見がある」との問いに対する岩田氏の考えを見ていく。


【エコノミストでの岩田氏の発言】

世界標準の物価目標が2%のなかで、日本が仮に1%にすると、長期的には円高傾向が続く。そのため、製造業は日本からどんどん出ていくだろう。日本はデフレが長く続き、デフレリスクが非常に大きい。いったんデフレになったら脱却するのは非常に難しいことが分かったはずだ。デフレに陥らないための「のりしろ」としてもインフレ率を上げておかなければならない。



◎そんな簡単な話?

「世界標準の物価目標が2%のなかで、日本が仮に1%にすると、長期的には円高傾向が続く」と断言しているのが引っかかった。これが本当ならば、中央銀行は物価目標を動かすだけで簡単に為替相場の長期的なトレンドを決められる。
久留米市立久留米商業高校 ※写真と本文は無関係です

自国通貨安に対応する必要が生じた新興国などに教えてあげたらどうか。「通貨安に悩んでいるんですか。そんなの簡単に解決できます。試しに物価目標を0%にしたらどうですか。長期的には通貨高となりますよ」と。

もちろん、そんな簡単な話ではないはずだ。実際のインフレ率は為替相場に影響するとは思う。長期的に物価上昇率2%のA国と1%のB国で比べればB国の通貨が高くなりやすいのは道理だ。だが「物価目標」で決まるとは考えにくい。目標だけ2%で揃えても、実際の物価上昇率が低ければ通貨高を招く。

次に「就任時に『2年で2%に達しなかったら辞任する』と国会で答弁しながら、辞任しなかった理由は」という問いへの答えを検証したい。


【エコノミストでの岩田氏の発言】

何度も同じ質問をされるが、私はそうは言っていない。国会では、「どういう責任をとればいいのかはよくわからないが、最高の責任のとり方は辞任だ」と言ったので、「2年で2%に達しなかったら、その理由が何であれ、直ちに辞任する」とは言っていない。

責任のとり方は、責任の所在によって違う。消費増税や原油価格下落の下でも、2年で2%を達成できるような代替策があったのであれば、私の政策選択の誤りのために2年で2%に達しなかったことになる。その場合は、最高の責任のとり方である辞任を選ぶ。これは責任のある立場にある人にとっては、当たり前の話ではないか。

ところが、日本では、どれほど自分に責任があっても辞職しないのが普通のため、私の発言が珍しがられて、「最高の責任のとり方」という部分を飛ばして、「2年で2%に達しなかったら(達しなかった理由がどうであれ)辞任する」と言った、という報道や批判が絶えないのは、はなはだ遺憾だ。


◎「消費増税や原油価格下落」のせい?

「消費増税や原油価格下落の下でも、2年で2%を達成できるような代替策があったのであれば、私の政策選択の誤りのために2年で2%に達しなかったことになる」との弁明に無理がある。繰り返すが「『自分達のせいではない。他の要因によるものだ』と、あまり言い訳をしない」と就任会見で岩田氏は述べていた。なのに、ここでも「消費増税や原油価格下落」という「他の要因」のせいにしている。

「他の要因によるものだ」と言い訳をせず、2年で2%を達成できなかった時の「最高の責任のとり方は辞任だ」との考えであれば、やはり2年経過時点で辞任すべきだ。「2%を安定的に達成する前に、消費増税すれば、2年で2%を達成することは不可能だ」と確信していたのならば(怪しい気もするが…)、増税が避けられないと判断した時点で辞めるのが筋かもしれない。

もう少し岩田氏の言い訳を詳しく見ていこう。

【エコノミストでの岩田氏の発言】

私が言いたかったのは、自分は職に拘泥しておらず、報酬や名誉のために副総裁を務めるわけではないということだ。元々、13年3月末で大学を定年退職した後は好きに暮らそうと思っていた。20年以上もの間、デフレを放置してはダメだと言い続けてきたのに、日本の多くの学者やエコノミストたちは日銀を批判せず、政策金利がゼロになると、金融政策には物価を引き上げる力はない、という金融政策無効論を主張し続けていた。そのため、私は日本国民に絶望していた。

副総裁に任命されても、なるべく早く、できれば2年より前に目標を実現させて辞めたいと思っていた。欧州ではインフレ目標をほぼ2年で達成している。しかし、量的質的金融緩和を始めて1年しかたたないうちに実施された消費増税と原油価格の長期にわたる大幅下落の下で、20年間も続いたデフレを2年で終わらせて、インフレ率を2%に引き上げることは、無理な話だ。

今から思えば、原油価格の下落はどうしようもない外的要因だが、消費増税については、実施前に「2%を安定的に達成する前に、消費増税すれば、2年で2%を達成することは不可能だ」とはっきり言うべきだった。「日銀副総裁は、財政再建の手段に対しては、中立を守るべきだ」との信念から、中立を守ったことを悔やんでいる。


◎「悔やんでいる」なら…

「中立を守ったことを悔やんでいる」のならば、なおさら早く辞任すべきだったのではないか。「消費増税すれば、2年で2%を達成することは不可能」「自分は職に拘泥しておらず、報酬や名誉のために副総裁を務めるわけではない」「日銀副総裁は、財政再建の手段に対しては、中立を守るべきだ」「(2年で2%を達成できないときの)最高の責任のとり方は辞任」という4つの条件から、ベストな選択を考えてみよう。
甘木公園の桜(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係

答えは「増税の実現が濃厚になったと判断した時点での辞任」だ。増税となれば「2年で2%を達成することは不可能」となる。それを訴える上では「日銀副総裁は、財政再建の手段に対しては、中立を守るべきだ」との信念が妨げになる。だが、黙っていたら「2年で2%」は達成できない。だったら、辞めて自由に発言すればいい。元々「職に拘泥して」はいないはずだ。

そうすれば「2年で2%を達成する」可能性が多少は高まるし、達成できなくても「最高の責任のとり方」はできる。なのに「2年で2%を達成することは不可能」だと確信してから何年もダラダラと職にとどまったのだから、「職に拘泥して」いると見られても仕方がない。

無理のある正当化は他にもある。

【エコノミストでの岩田氏の発言】

理論も、それに基づいた金融政策も正しかったと思っており、我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている。理論とそれに基づく政策の妥当性は、代替案との比較で評価されるべきもので、代替案のない批判は無意味だ。我々の金融政策は理論通りには進んでいるが、既に述べたさまざまな逆風が吹いて、2%の達成に時間がかかっている。

さらに、国内総生産、実質雇用者報酬、失業率、有効求人倍率、正規社員有効求人倍率、新卒の就職状況、経済的理由による自殺者数の大幅減少など、どの指標をとっても、20年間も続いたデフレ期と比べれば、この5年間で大きく改善している。2%を達成しないことだけをもって、量的質的金融緩和やイールドカーブ・コントロール政策は失敗だと主張するのは妥当ではない。そもそも、2%の物価安定を目標にしているのは、これらの経済指標を改善するためであるから、我々が採用した金融政策は効果的だったといえる。


◎だったら、そちらを目標にしたら…

自分の勉強不足かもしれないが、「2%の物価安定を目標にしているのは、これらの経済指標を改善するため」という話は初めて聞いた。だったら、そちらを目標に掲げるべきではないか。

「今季は30本塁打を達成する」と公言したプロ野球選手が、シーズン終了後に「本塁打は10本しか打てなかったけど、チームは昨季の最下位から3位に上がった。だから、やはり30本塁打という目標を掲げたのは効果的だった」と言い訳しているようなものだ。だったら最初から「チームのAクラス入りに貢献する」とでも宣言すべきだ。

推測だが「国内総生産、実質雇用者報酬、失業率、有効求人倍率、正規社員有効求人倍率、新卒の就職状況、経済的理由による自殺者数の大幅減少」と並べたのは、改善した経済指標を後になって見つけて並べただけだろう(「経済的理由による自殺者数」を「経済指標」とするのは抵抗があるが、ここでは論じない)。

「実質雇用者報酬」を入れて「実質賃金」は外している辺りに、後付けの正当化の臭いがする。「実質賃金」が伸びなくても「実質雇用者報酬」が増えれば「金融政策は効果的」との結論になるのか。だったら最初にそう宣言しておいてほしい。岩田氏の主張はご都合主義が過ぎる。

「代替案のない批判は無意味だ」と岩田氏が言うので、素人なりに「代替案」を提示すると、日本で起きた程度のマイルドなデフレならば放置でいい。個人的には物価上昇率2%よりもマイナス2%の方が嬉しい。日本では年間の物価下落率が2%を超えたことはないのだから、幕引きが困難となるような強引な金融緩和は必要ない。

岩田氏の考えでは「予想インフレ率が2%で安定した段階で金利を緩やかに上げていくのが、出口だ」となる。つまり出口の手前では実質金利がマイナス2%に達する。これは怖い。外貨建て資産はあまり持ちたくないが、実質金利のマイナスが大きくなると、さすがに円資産を減らすしかない。そういう状況に陥らないことを祈りたい。


※今回取り上げた記事「出口の迷路 金融政策を問う(34)インタビュー岩田規久男前日銀副総裁『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』 」
https://www.weekly-economist.com/20180612bojexit34/


※記事の評価はB(優れている)。構成を担当した黒崎亜弓記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Bへ引き上げる。聞き手の藤枝克治編集長も高く評価したいところだが、間違い指摘の無視を続けている責任を重く見てF(根本的な欠陥あり)評価とする。6月5日号の「株主総会直前! ここが変だよ企業統治~増配・自社株買い 株主重視より増配のおかげ 減益局面では通用せず」という記事では「増配のおかげ」という見出しが明らかに間違っていた。これに関する指摘を無視した上に次号に訂正も載せなかったので、編集の責任者である藤枝編集長の責任は免れないと最終的に判断した。この件に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「増配は増配のおかげ」? 週刊エコノミストの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_29.html

2018年6月4日月曜日

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー

日本経済新聞の芹川洋一論説フェローはデータ分析が苦手なようだ。4日の朝刊オピニオン面に載った「核心~動かすTV 守るネット層 揺れる安倍内閣の支持率」という記事でも、粗雑な分析を披露していた。記事の冒頭から説明に矛盾がある。まずは、そこから見ていこう。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

春先に大きく落ちこんだ安倍晋三内閣の支持率がどうやら下げ止まったようだ。本社調査では、2月に56%だったのが3月に42%まで下落したあと、4月43%、5月42%と踏みとどまっている。

この数カ月を振りかえってみると、支持率低下のきっかけは、森友文書の改ざん、加計学園の獣医学部の新設、福田淳一・前財務次官のセクハラなど新聞・テレビ・週刊誌の報道だった。その一方でなお40%台の内閣支持率を考えると、下支えをしている堅い層があるに違いない。



◎「きっかけ」になってる?

芹川氏の説明を信じれば「福田淳一・前財務次官のセクハラ」は「支持率低下のきっかけ」になっているはずだ。問題が表面化したのは4月なので、これを「きっかけ」に4月あるいは5月の支持率が低下していなければ辻褄が合わない。

しかし、支持率は「3月に42%まで下落したあと、4月43%、5月42%と踏みとどまっている」。だとすると、セクハラ問題は「支持率低下のきっかけ」になっていない。

「加計学園の獣医学部の新設」という表現も不可解だ。「新設」自体が「支持率低下のきっかけ」になったと芹川氏は判断しているのか。「加計学園に関する愛媛県の文書公表」などなら分かるが…。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

仮説を立ててデータを点検することで、安倍内閣の支持率を考えてみた。

検証する材料を得るため、テレビの番組とCMを調査分析しているエム・データ社に協力を依頼した。ニュース・報道系とワイドショー・情報系で、森友、加計、福田前次官の問題をどのくらい放映していたか、1月7日から5月13日まで各局合計の放送時間を日ごとに調べてもらった。週刊誌の情報がどんなふうにテレビの番組で引用されていたのかのチェックも頼んだ。

本社の世論調査を担当している日経リサーチには、男女別に各年代の内閣支持率をはじいてもらった。

それらのデータを重ね合わせることで何がいえるのか。『日本政治とメディア』などの著書のある逢坂巌・駒沢大准教授の教示をあおいだ。

第1の仮説は、なぜ女性とシニアで安倍内閣の支持率が低いのか、その要因はテレビのワイドショーにあるのではないか、というものだ。

主婦やシニア男性は家庭でテレビを見る時間が長くなる。朝から夕方まで民放各局が流すワイドショーは政治を見せ物として取り上げる。

森友や加計の問題は不明・不可解な点がある。ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくるのではないかとの推測だ。

エム・データの調べによると、森友問題の放送時間は全体で256時間29分。そのうちワイドショー系が146時間57分にのぼる。全体の57%だ。ワイドショー中心の情報の流れだった。

いちばん過熱したのは、国会で佐川宣寿・前国税庁長官の証人喚問があった3月27日。なんと合計で18時間27分も流していた。次は佐川氏が国税庁長官を辞任した直後の3月12日で、12時間49分だ。


◎「ワイドショー中心」?

言うほど「ワイドショー中心の情報の流れ」にはなっていない。「ワイドショー系」が「全体の57%」ならば、裏返せば「ニュース・報道系」が43%ある。それほど「ワイドショー系」に偏ってはいない。しかも、ほとんどの人はテレビだけで情報を得ている訳ではない。なぜ「ワイドショー系」の影響を重く見るのかが弱い。
久留米高校前駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

また、「ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくるのではないか」と芹川氏が推測しているのは「ワイドショー系=政権に批判的」「ニュース・報道系=政権批判は控えめ」との前提があるのだろう。個人的には、そういう差は感じない。

先へ進もう。

【日経の記事】

2月から3月にかけて内閣支持率の急落がはっきりあらわれた年代は、男性は60代で、60%から35%へと25ポイントも下がった。女性の場合は20~30代で、59%から33%へと26ポイント、大幅にダウンした。

女性の60代は2、3月とも変化がなく38%だが、5月には18%まで落ちた。この世代は「内助の功」の意識が強いだけに、安倍夫妻離れに拍車がかかっているとみられる。

福田前次官のセクハラ問題が新たに出てきた4月は3月に比べるとワイドショーで取り上げる時間は短くなった。女性の支持率は20~30代で33%から45%に回復、全体でも34%から39%へと上向いた。



◎辻褄が合わないような…

「ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくる」との仮説を立てたものの、データとは整合しない。「ワイドショーで取り上げる時間」は3月に急増し、4月、5月と減ってきたはずだ。

なのに「女性の60代は2、3月とも変化がなく38%だが、5月には18%まで落ちた」のは解せない。ちなみにグラフを見ると4月も3月と大差ない。つまりワイドショーが盛んに政治の問題を取り上げた3月、4月には支持率がほぼ横ばいで推移したのに、放送時間が減った5月になって一気に支持率が下がっている。

「主婦やシニア男性は家庭でテレビを見る時間が長くなる」とすれば「女性の60代」はワイドショーの視聴時間が長い傾向があるはずだ。なのに、ワイドショーでの放送時間が長い月ほど、世論調査で「女性の60代」の内閣支持率が下がるという傾向は見て取れない。

しかし、芹川氏はあくまで「ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくる」との前提に沿って話を進める。


【日経の記事】

自民党でメディア戦略を担当している平井卓也広報本部長は「支持率に反応するのはストレートニュースではなくワイドショーだ。悪い話は早く消費してもらうしかない」と語る。ワイドショーが女性・シニア層の支持率の変動要因になっているとみるのは的外れではあるまい。



◎結局、コメント頼み?

データの裏付けが取れなかったからか、結局は「自民党でメディア戦略を担当している平井卓也広報本部長」に「支持率に反応するのはストレートニュースではなくワイドショーだ」と語らせて、「ワイドショーが女性・シニア層の支持率の変動要因になっているとみるのは的外れではあるまい」と結論付けている。

だったら、何のために「エム・データ社に協力を依頼した」のか。コメントを使うのは問題ないが、その前に「確かにワイドショーが支持率を動かしてるんだな」と納得できるデータを示すべきだ。

おかしな分析はまだ続く。

【日経の記事】

第2の仮説は、内閣支持を下支えしているのが20~30代の男性で、ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きいためではないか、というものだ。

3月の支持率は男性の平均が49%で、うち20~30代は65%と押し上げる力になった。前月比の下落幅は14ポイントだが、同年代の女性の26ポイントに比べると小さい。ワイドショーをはじめとするテレビへの反応は相対的に弱いとみていい。

この世代は情報収集でネットへの依存度が高いのが特徴だ。公益財団法人・新聞通信調査会が2017年11月に実施したメディアに関する全国世論調査によると、20代・30代で「情報源として欠かせない」メディアとしてネットをあげる人がともに78%にのぼり、他のメディアを大きく引き離している。自らの選好によりネット空間で情報を入手している様子がみてとれる。

どうもここが内閣支持の下支えをしている岩盤だ。本社調査の安倍内閣支持率の最低は38%。安倍内閣の38度線を守っているのはネット世代の20~30代の男性のようだ。


◎それは女性も同じでは?

「内閣支持を下支えしているのが20~30代の男性で、ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きいためではないか」という「第2の仮説」に関する説明も問題ありだ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

「20代・30代で『情報源として欠かせない』メディアとしてネットをあげる人がともに78%にのぼり、他のメディアを大きく引き離している」というデータを根拠として挙げているが、この書き方だと「78%」は男女合計の数値だと思える。だとしたら、同じことは「20~30代の女性」にも当てはまる可能性が高い(男女別の数値があるならば、それを用いるべきだ)。

同じように「ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きい」はずの「20~30代」で男女差が生じる理由を芹川氏は教えてくれない。やはり分析が不十分だ。

次に移ろう。

【日経の記事】

もうひとつ、週刊誌報道は新聞やテレビで取り上げられた時点で、いわゆる「週刊誌情報」ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす、ということも今回はっきりわかった。

かっこうの素材を提供したのが、週刊新潮の報じた福田前次官のセクハラ問題だ。

エム・データの調べによると、発売日前日の4月11日からの1カ月間で、NHKと民放テレビ各社は「一部週刊誌」という表現を含めて、ニュースとワイドショーで計435回も週刊新潮の報道に言及している。辞任を表明した翌日の19日は80回登場した。


◎なぜ「わかった」?

「週刊誌報道は新聞やテレビで取り上げられた時点で、いわゆる『週刊誌情報』ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす、ということも今回はっきりわかった」と芹川氏は言い切るが、なぜ「わかった」が分からない。

「NHKと民放テレビ各社」が「ニュースとワイドショーで計435回も週刊新潮の報道に言及」したといったデータは紹介している。だが、「いわゆる『週刊誌情報』ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす」と判断できる材料はない。

この部分は正直言って理解不能だ。記事の書き方からは、「週刊誌情報」であれば「政治過程に影響力を及ぼさない」との前提も感じるが、そういうものとも思えない。

ようやく記事の終盤に来た。最後もやはりおかしな説明が出てくる。

【日経の記事】

週刊誌に情報を持ち込んだのがテレビ朝日の記者で、週刊誌の報道が新聞、テレビ、ネットの各メディアによって拡散し、大きな流れができあがった点こそ今日的な状況だ。政治のプレーヤーとしてのメディアがここにくっきりと姿をあらわしている。

自戒をこめてだが、それだけにメディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められるということだろう。


◎どこが「今日的」?

どこが「今日的な状況」なのか解釈に迷う。「週刊誌の報道が新聞、テレビ、ネットの各メディアによって拡散」する状況はかなり前からある。「情報を持ち込んだのがテレビ朝日の記者」という事例は他に知らないが、このことが「今日的」とは考えにくいし、週刊誌に他のメディアの記者が情報を持ち込む例は珍しくない。

そして最後は「自戒をこめてだが、それだけにメディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められるということだろう」という、当たり前の話で締めている。「メディアは世論に影響を与える存在なので、そのことをしっかり自覚しましょう」とでも訴えたいのか。異論はないが、「今日的な状況」との関係は感じられない。

30年前も50年前もメディアは世論を動かしていたし、「メディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められ」ていたはずだ。雑な分析を長々と続けた上に、こんな結論を導くとは…。


※今回取り上げた記事「核心~動かすTV 守るネット層 揺れる安倍内閣の支持率」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180604&ng=DGKKZO31265280R00C18A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一論説フェローへの評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川論説フェローについては以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

野田聖子総務相を愚者に見せる東洋経済 富田頌子記者の罪

週刊東洋経済6月9日号の第1特集「共働きサバイバル」では、野田聖子総務相・女性活躍担当相が奇妙な持論を展開している。野田氏にも問題はあるが、より責任が重いのは聞き手の富田頌子記者だ。少し考えれば、野田氏がおかしなことを言っていると分かるはずだ。取材の場で疑問を呈してもいい。記事にする段階で、問題のある部分を省く選択もある。そうした作業をせずに、そのままインタビュー記事にしてどうする。野田氏を愚か者に見せたいのか。
門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

「INTERVIEW 共働き時代に国と企業ができること」という記事で、野田氏の発言の問題点を具体的に見ていこう。

【東洋経済の記事】

 ──日本社会にとって共働き家庭を増やすことの意味合いは。

共稼ぎを増やすことに意味があるというより、もともと日本は共稼ぎの国。江戸時代でも夫妻ともに働き家計を担うのが当たり前だった。途中、政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった。

従来の形に戻していく必要があるが、現状は険しい山道のような状態。女性活躍どころではない。



◎「江戸時代」に戻すべき?

いきなり凄い話になっている。「共稼ぎを増やすことに意味がある」かどうかは脇に置いて、「もともと日本は共稼ぎの国」だから「従来の形に戻していく必要がある」と野田氏は主張する。

戻るべき姿を「江戸時代」に求めるのならば、「もともと日本は貿易を厳しく制限する国。江戸時代には幕末に開国するまで貿易相手をオランダと中国に限っていた。従来の形に戻していく必要がある」とも言える。この考えに野田氏は賛成できるのか。できないとしたら、なぜ「共稼ぎ」については「従来の形に戻していく必要がある」のか。

「途中、政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった」という説明も謎だ。江戸時代の日本では農民が圧倒的に多かったので、女性も農作業を担う「共稼ぎ」だったとは言えそうだ。それは明治や大正でも変わらないはずだ。なので、この時期に「政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった」とは考えにくい。

だとすると、過去100年ぐらいのどこかで「政策の変更」があって、女性労働禁止令のようなものが出たのか。これもあり得ない気がする。学校の教員が全員男性になったり病院から看護婦が消えたりした時代があったとは、とても思えない。富田記者は何の疑問も持たずに野田氏の話を受け入れてしまったのか。

この後も、おかしな発言は続く。

【東洋経済の記事】

また、今の経営幹部の男性たちは高度経済成長とバブル期を経験してきた人たち。そのときの成功体験から抜け出せず、男女の役割分担があったから日本は経済大国になったという意識がある。

加えて岩盤が硬く崩すのが難しいのは、男性たちにある大黒柱意識だ。女性を働かせることは恥という勘違いをしている。



◎そんな「岩盤」ある?

「岩盤が硬く崩すのが難しいのは、男性たちにある大黒柱意識だ。女性を働かせることは恥という勘違いをしている」という発言も驚きだ。そんな「岩盤」が本当にあるのだろうか。

恋愛・婚活マッチングサービスのPairsによる2015年の調査が参考になる。男性では妻に専業主婦になってほしいと答えた人はわずかに3.4%。残りは「共働き」か「こだわらない」だ。一方、女性では13.9%が専業主婦を希望している。専業主婦になってほしいと答えた3.4%の男性も「女性を働かせることは恥」とまで思っているとは限らない。そう考えると、野田氏の言う「岩盤」に当てはまる男性は現役世代では1%もいないはずだ。

個人的にも、「女性を働かせることは恥」という価値観を持った男性に出会ったことがない。強いて崩すべき「岩盤」を探すならば、女性の専業主婦願望の方ではないか。Pairsの調査結果もそれを裏付けている。

最後にもう1つ、野田氏のおかしな主張を紹介したい。

【東洋経済の記事】

終身雇用制の下、年功序列で社長になった人は、リストラと同じくらい女性雇用ができない。変えるには厳しい法律も必要だ。「俺はやりたくないが、国が法律を定めたから残業しないし、女性も雇用する」という方便になると思う。



◎「女性雇用ができない」会社とは?

「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人は、リストラと同じくらい女性雇用ができない」という発言も理解に苦しむ。「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人」という説明は分かりにくい部分もあるが、とりあえず「新卒で入社した後に昇進を重ねて社長まで上り詰めた人」と考えよう。
着陸直前のハンググライダー(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

例えば、高島屋、三越伊勢丹ホールディングス、Jフロントリテイリングといった大手百貨店の社長はいずれもこのパターンに当てはまる。こうした企業は「女性雇用ができない」と言えるのか。常識的に考えて「女性雇用ができない」百貨店が現在まで生き残っているとは考えにくい。

ちなみに「女性の活躍推進企業データベース」で高島屋を見ると2015 年度の「労働者に占める女性労働者の割合」は正社員で56%となっている。

「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人」は本当に「女性雇用ができない」のか。個人的には、具体的な企業名が思い浮かばなかった。野田氏は何社も名前を挙げられるのだろうか。

さらに言えば、「国が法律を定めたから残業しないし」も引っかかる。野田氏は法律で残業を禁止すべきとの立場なのか。本気とは思えないし、賛成もできないが、今後に注目したい。

さらについでに言うと、上記の「方便」の使い方はおかしい。「本当は女性を雇用したいけれど社員の反対が強くてできない」という状況の社長が「俺はやりたくないが、国が法律を定めたから女性も雇用する」と言って社員を説得するならば「方便」かもしれない(法律で決められたら、そもそも社内を説得する必要はない気もする)。だが、女性を雇用したくない社長が法律で義務付けられて嫌々「雇用しよう」と言い出すだけならば、「ある目的を達するための便宜上の手段」(デジタル大辞泉)という意味での「方便」とは言い難い。

ここまで見てきたように、野田氏の発言には色々と問題がある。だが、責めを負うべきはやはり富田記者だ。野田氏は多忙な中で時間を割いて取材に応じてくれたはずだ。なのに、野田氏の見識に疑問符が付くような内容に仕上がっている。

記者に力量があれば、取材と編集作業によって野田氏を「きちんとした主張ができる人」に見せられるはずだ。富田記者には、それができる書き手になってほしい。


※今回取り上げた記事「INTERVIEW 共働き時代に国と企業ができること」


※記事の評価はD(問題あり)。富田頌子記者への評価はC(平均的)からDに引き下げる。富田記者については以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

「子どもの貧困が深刻化」に根拠乏しい東洋経済「連鎖する貧困」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_10.html

2018年6月3日日曜日

野党は「3派」だけ? 日経 黒沼晋記者「風見鶏」の誤り

3日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~真のイギリス流野党とは」という記事は雑な説明が目立った。特に「(野党の)実態は立憲民主党、国民民主党、無所属の3派に割れたままだ」との記述は問題を感じた。ここまで行くと説明不足や説明下手というより誤りだ。「主要な野党勢力は3つに分かれている」と言いたいのだろうが、そうは書いていない。筆者の黒沼晋記者には以下の内容で問い合わせを送った。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 黒沼晋様

3日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~真のイギリス流野党とは」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

「野党第1党の議席数は自民党の2割にすら満たない。対抗するには『大きな塊』をつくるべきだとの総論では皆一致するが、実態は立憲民主党、国民民主党、無所属の3派に割れたままだ。希望の党から無所属に転じた細野豪志元環境相は『二大政党制を目指した四半世紀の歴史は終わった』と総括する」

黒沼様の説明を信じれば、野党には「3派」しかないはずです。しかし1日の「野党6党派、国民投票法改正案の7日審議入り認めず」という記事では、日経自身が「立憲民主党など野党6党派」との表現を用いています。ここで言う「6党派」とは立憲民主党、国民民主党、共産党、自由党、社民党、衆院会派「無所属の会」を指すと思われます。

今回の記事で言えば「実態は立憲民主党、国民民主党、無所属など6派に割れたままだ」となります。「3派に割れたまま」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。野党は「6派」ではなく「3派」との判断であれば、その根拠も併せて教えてください。また、「3派」が正しい場合、1日の記事の説明が誤りとなるはずです。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

付け加えると「対抗するには『大きな塊』をつくるべきだとの総論では皆一致する」のに、細野氏が「二大政党制を目指した四半世紀の歴史は終わった」と総括しているのには整合性の問題を感じました。細野氏は「二大政党制」の実現は不可能であり、「大きな塊」は作れないと判断しているのではありませんか。だとすると、現時点では「『大きな塊』をつくるべきだとの総論」に賛意を示さない可能性が高そうです。「不可能だが作るべきだ」と考えているかもしれませんが、やや無理があります。

次に問題としたいのが以下の記述です。

「とはいえ、安倍政権の基盤が強固なわけではない。3分の2を超える議席を持ちながら、学校法人『森友学園』『加計学園』問題で揺れる。日本経済新聞の5月の世論調査では不支持率が53%と過去最高だ」

この書き方だと「安倍政権の不支持率は53%で歴代政権の中で最も高い」と受け取る人がいても不思議ではありません。5月27日付の記事では「不支持率は53%(前回は51%)で2012年の第2次安倍内閣発足以降の最高を更新した」 と書いているので、黒沼様の言う「過去最高」とは「第2次安倍内閣発足以降で最高」という趣旨でしょう。誤解を招かない正確な記述を心掛けてください。

説明不足と言う点では「野党第1党の議席数は自民党の2割にすら満たない」「3分の2を超える議席を持ちながら」といった部分にも問題があります。これらは衆院についての記述でしょうが、記事に「衆院」の文字は見当たりません。不親切かつ不正確な書き方だと思いませんか。

記事の結論部分にも注文を付けておきます。黒沼様は以下のように記しています。

「『いかなる政府も、手ごわい野党なくしては長く安定することはできない』。19世紀後半の英国首相、ディズレーリはこんな言葉を残している。与党の政権運営に緊張感を与えるのは野党の重要な役割だ。真のイギリス流野党はどうあるべきか。現行制度を見直す余地はたくさんある」

まず、「ディズレーリ」の言葉に意味がないでしょう。日本では戦後に「手ごわい野党」がいない状況で、自民党が「長く安定」して政権を担いました。例えば、7年以上の長期政権となった佐藤栄作首相の時代には「手ごわい野党」が存在したでしょうか。「手ごわい」かどうかは主観的な問題なので、かつての社会党などを黒沼様は「手ごわい野党」だと見なしているのかもしれませんが…。
原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

それよりも問題なのが「現行制度を見直す余地はたくさんある」という最後のくだりです。そう感じているのならば、なぜ具体的に論じないのですか。日本の野党がなぜ「手ごわい野党」になれないのかに関して、黒沼様は制度的な問題点を全く指摘していません。なのに、最後に「現行制度を見直す余地はたくさんある」と問題点を理解しているような言葉を残されても困ります。「余地はたくさんある」のならば、その一端でも見せるべきです。

記事中では「総選挙前に野党の政治家が各省庁の幹部と政権移行のための協議をすることができる」といった英国の制度を紹介しています。こうした制度を導入すれば「手ごわい野党」になると信じているのならば、そう書くべきです。個人的見解ですが、こうした制度を導入しても「手ごわい野党」を育てる役には立ちそうもありません。

黒沼様もそう思っているのではありませんか。だとしたら「現行制度を見直す余地はたくさんある」というより、「現行制度の見直しによって手ごわい野党を生み出すのは難しい」とでも書くべきです。

何を訴えたいかを事前に明確にしないまま記事を書き始めて、適当に結論を導いているから今回のような結びになってしまうと思えます。「自分は記事を通じて何を訴えたいのか。その結論に説得力を持たせるためにどうストーリーを展開させればいいのか」を熟慮した上で記事を構成するように心がけてください。そうすれば、よりレベルの高い記事が書けるはずです。

最後に、国名表記について指摘しておきます。記事では「英国をモデルとする二大政党制」「英国型議院内閣制」「二大政党制のお手本とされた英国」「モデルは英国議会のクエスチョンタイム」「19世紀後半の英国首相」などと「英国」表記が続いた後で、最後に「真のイギリス流野党はどうあるべきか」と「イギリス」が出てきます。それを受けて見出しも「真のイギリス流野党とは」となっています。

「日経の記事スタイルでは『英国』と決めているのだから、そう表記すべきだ」とは言いません。しかし、同じ記事の中で「英国」「イギリス」の両方を使うのならば、それなりの理由が必要です。今回の場合、最後を「真の英国流野党はどうあるべきか」としても何の問題も生じません。だったら表記を統一すべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「風見鶏~真のイギリス流野党とは」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180603&ng=DGKKZO31196690R30C18A5EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。黒沼晋記者への評価も暫定でDとする。

2018年6月2日土曜日

大きく下げても「高止まり」? 日経「先進国、少子化再び」

「高止まり」は問題のある使い方が目立つ言葉ではある。その中でも2日の朝刊1面に載った「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題」という記事はかなり厳しい。2011年以降に下げ続けて半分近く低下した米国の「若年失業率」を「高止まり」と説明している。不正確と言うよりは誤りと捉えるべきだ。記事には他にも問題を感じた。
諫早湾干拓堤防道路 ※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 渡部加奈子様 石川潤様 森本学様

2日の朝刊1面に載った「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題」という記事についてお尋ねします。記事に付けたグラフには「出生率は2つの危機後に若年失業率が高止まりした米仏で下がった」との説明文がついています。しかし、グラフを見ると「2つの危機後」に当たる2011年以降、米国の「15~24歳の失業率」は一貫して下がっています。10年には18%前後あったのに17年には10%を切っているように見えます。

「高止まり」とは「相場や価格などが高値のままで下がらない状態をいう」(デジタル大辞泉)のですから、米国の危機後の若年失業率を「高止まりした」と説明するのは誤りではありませんか。正しいとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

話を戻すと、11年以降の米国に関しては、若年失業率の低下と歩調を合わせて出生率が低下しています。日本でも若年失業率は低下傾向なのに、出生率はほぼ横ばいです。記事の中で「リーマン危機後の15~24歳の若年失業率はドイツでは年々低下した。一方、若年失業率が高止まりしたフランスでは出生率が下がった」と書いていますが、出生率と若年失業率を絡めて論じるのは、少し無理がありませんか。

また、少子化が再び進み始めた理由についての説明にも疑問を感じました。何を以って「少子化再び」と言っているのは明確ではありませんが、「16年まではG7で少子化が止まっていたのに、17年に少子化傾向が再び鮮明になった」との趣旨だと推測できます。記事に付けたもう1つのグラフでG7の出生数を見ると11~16年がほぼ横ばいに見えるので、この期間は少子化が止まっていたと仮定しましょう。そして「少子化再び」の理由を記事では以下のように分析しています。

「多くの先進国では08年のリーマン危機後の景気後退で家計の手取りが減少した。雇用情勢は世界的な景気拡大で足元で改善してきているものの、賃金は伸び悩んでいる。これが出産の減少や晩産化につながっている」

「08年のリーマン危機後の景気後退で家計の手取りが減少した」ことが少子化の原因ならば、その直後から影響が出てよさそうなものです。しかし、11~16年には少子化が止まり、17年に再び少子化傾向となっています。辻褄が合いません。「16年まではG7で少子化が止まっていたのに、17年に少子化傾向が再び鮮明になった」との認識に基づいて記事を組み立てるならば、「なぜ17年は16年とは異なるのか」を示す必要があります。今回の記事では、それができていません。

「少子化再び」は全く異なる期間について述べているのかもしれません。例えば「08年まではG7で少子化が止まっていたのに、09年以降に少子化傾向が強まった」との趣旨かもしれません。しかし、これはかなり強引な解釈です。記事を素直に読めば、「少子化再び」となったのは17年と理解するのが自然です。

最後に語順の問題を1つ指摘します。「フランスは数少ない少子化対策に成功した先進国とみられていた」と書くと「少子化対策の数が少ない」ように見えてしまいます。「フランスは少子化対策に成功した数少ない先進国とみられていた」とすれば問題は解決します。「記事を書くプロ」と呼ぶにふさわしいレベルを目指すのであれば、こうした点にも配慮が必要です。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180602&ng=DGKKZO31258780R00C18A6MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。渡部加奈子記者への評価は暫定でDとする。石川潤記者はCからDに引き下げ、森本学記者はDで確定とする。

2018年6月1日金曜日

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?

日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)が1日の朝刊オピニオン面に書いている「Deep Insight~ITコンツェルンの時代」という記事は苦しい内容だった。記事によると「プラットフォーマー」は「規模の経済」ではなく「範囲の経済」に属するらしい。だが、どうも納得できない。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

当該部分は以下のようになっている。

【日経の記事】

日産コンツェルンとソフトバンクグループについてさらに言うなら、両方とも「範囲の経済」に重心を置く点が共通する。孫氏の場合は「エコシステム」や「プラットフォーマー」という手法がそうだ。「規模の経済」とは違い、買収する1社1社の現在の企業規模には意味はない。重要なのは潜在性と、エコシステム全体としての多様性や顧客の誘因力だ。

だから、今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう。例えば、規模の経済に属する武田薬品工業が7兆円の企業買収を決めた時は市場への影響力がわかりやすかった。だがソフトバンクグループとサウジのファンドがエコシステムの強化と称して3兆円の投資をしても、影響はわかりにくい。独禁当局も把握しにくいはずである。


◎「規模の経済」そのものでは?

「プラットフォーマー」について日経では「第三者がビジネスを行うための基盤として利用するソフトウエアやアプリケーションなどを構築・提供・運営する事業者」と4月27日の記事で解説している。「日本ではゲーム専用機時代のソニーや任天堂が該当する」とも述べている。だとしたら、どう考えても「規模の経済」の話だと思える。ゲーム機がたくさん売れれば、そのゲーム機向けにゲームソフトを開発しようという企業も増えてくる。「プラットフォーマー」は独占や寡占を生みやすい存在とも言える。

しかし、中山氏によると「ソフトバンクグループ」は「『プラットフォーマー』という手法」を採用している点で「規模の経済」ではなく「範囲の経済」に重きを置いていると映るようだ。アマゾンでもフェイスブックでもいいが、「規模の経済」と一線を画して成長してきた「プラットフォーマー」など存在するのか。

ソフトバンクグループも携帯キャリアという一種の「プラットフォーマー」として米国でスプリントを買収し、Tモバイルも飲み込もうとしていた。結局うまくいかなかったが、これはソフトバンクグループが「規模の経済」を重視していた表れではないのか。

さらに言えば「今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう」という説明も説得力に欠ける。「武田薬品工業」と「ソフトバンクグループとサウジのファンド」を比較すれば、確かに後者の方が「影響はわかりにくい」だろう。だが、それは出資先が多いからではないのか。

ならば、個別の出資案件を細かく見て、それぞれの市場への支配度を測れば済む。「市場支配力の計測方法」を変える必要はない。チェックすべき件数が増えると「計測方法」が変わると考える根拠が記事からは見えてこない。

「分かりにくいのは見るべき出資先が多いからではない。計測方法も変わらざるを得ない」と中山氏が確信しているのならば、その理由を読者にきちんと示すべきだ。記事ではそれができていない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

注目すべきは、米国のグーグルやアップル、アマゾン・ドット・コム、中国のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)も同様の世界を歩んでいる点だ。特にアリババとテンセントは17年に出資した企業の数がそれぞれ40社、80社に達し、テンセントは13年以降の累計で投資先が300社に迫ったという。

こうした投資手法には「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」「巨大資本で競争相手を締め出している」などの指摘がある。だが、現在の独禁法や関連法では新興グループの影響力の増大に抑止力は働かせにくい。



◎説明になってる?

上記のくだりはさらに分かりにくい。「アリババとテンセントは17年に出資した企業の数がそれぞれ40社、80社に達し、テンセントは13年以降の累計で投資先が300社に迫った」としても、それだけでは「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」「巨大資本で競争相手を締め出している」といった指摘はできない。
南蔵院(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です

「多くの企業に出資すると赤字企業の価値をむやみに吊り上げてしまう、あるいは競争相手を締め出してしまう」と言えるわけではない。例えば、ソフトバンクグループがIT企業300社に出資したとしても、ドコモやKDDIを市場から締め出す効果は期待しにくい。

また、「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」かどうかは出資した会社の数では決まらない。個別の案件を見ていく必要がある。それに、赤字企業に対して「価値をむやみにつり上げて」出資すれば、損をするのは「アリババとテンセント」だ。勝手にやらせておけばいいのではないか。仮に、赤字企業を蘇らせて投資から十分なリターンを得るのであれば「価値をむやみにつり上げている」とは言えなくなる。

さらに、記事の結論部分を見ていこう。


【日経の記事】

「デジタル資本主義」の著書がある野村マネジメント・スクールの森健上級研究員は「独禁法を超越しつつある巨大企業が誕生している点がまだ意外に認識されていない」と話す。IT企業には00年に分割論が高まった米マイクロソフトもあるが、同社はどちらかといえば規模の経済の住人だった。事情は大きく異なっている。

世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は「テクノロジー・ガバナンス(技術統治)」の必要性を訴える。企業が握りうる個人情報の所在や取引市場を第三者機関に委ねるなどして安全性を高める一方、「IT企業の成長を阻害しない形で、将来起こりうる独占に対するガバナンスを考えておく必要がある」と話す。

エコシステムという言葉の定義はまだ曖昧だ。だが、IT企業の存在感が増せば増すほど、過去のコンツェルンの時代と同様に競争政策の整備や見直しが進むのは確実だ。独占を測るものさしは大きく形を変えることだろう。



◎「独占を測るものさし」はどう変わる?

「今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう」と述べた後に、あれこれと書いて、最後は「独占を測るものさしは大きく形を変えることだろう」と同じような説明で締めている。そして、どう「形を変える」のかは自分の見方さえ示していない。これでは困る。

「独禁法を超越しつつある巨大企業」「将来起こりうる独占に対するガバナンス」といった抽象的な文言は出てくるが、具体的にどういう問題が起きてくるのかは教えてくれない。「企業が握りうる個人情報の所在や取引市場を第三者機関に委ねるなどして安全性を高める」といった記述から判断すると、「個人情報」の独占が問題になると言いたのかもしれない。しかし、様々な企業が個人情報を抱えているのに、将来は「独占」が起きるとも考えにくい。

「取引市場」に至っては従来の「独占を測るものさし」で判断できそうだ。結局、「独占を測るものさしは大きく形を変える」と思える材料はないし、どう変わりそうなのかも見えてこない。中山氏にも具体的なイメージはないのだろう。その辺りの苦しさが伝わってくる記事だった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~ITコンツェルンの時代」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180601&ng=DGKKZO31212570R30C18A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html