2018年1月19日金曜日

訂正は出したが…週刊エコノミスト金山隆一編集長の残念な対応

週刊エコノミスト1月23日号に訂正が出た。「1月2・9日合併号56ページ『出口の迷路』で、『しかし、そうすると含み益が現実化してしまう』とあるのは、含み損の誤りでした」となっている。この件では昨年末に同誌編集部に問い合わせを送っているが、訂正掲載後も回答はなかった。
筑後川と耳納連山(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

訂正は筆者から要請されて渋々出したのだろう。それでも載せないより載せた方がいい。後は、間違い指摘をしてきた読者に対して、きちんと回答できればよいのだが…。メンツの問題もあって難しいのか。残念ではある。

編集部に送ったメールの内容を改めて紹介しておきたい。



【エコノミストへのメール(12月26日)】

週刊エコノミスト編集部 担当者様   野口悠紀雄様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

2018年1月2・9日合併号の「出口の迷路~金融政策を問う(13)短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに」という記事についてお尋ねします。記事には「(日銀が)金利増による支払増を避けるためには、国債を売却して当座預金残高を減らす必要がある。しかし、そうすると含み益が現実化してしまう。それが具体的にどの程度の損失になるかは、国債保有額、償還までの残存期間、そして、金利上昇幅による」との記述があります。

「含み益が現実化してしまう」のであれば、「利益」が出そうなものですが、「それが具体的にどの程度の損失になるかは~」と「損失」の話が続きます。この後にも「(国債を)一気に売却しても満期持ちしても、損失額は大きくは変わらないということになる」などと出てきます。記事中の「含み益」は「含み損」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


【エコノミストへのメール(12月31日)】

週刊エコノミスト編集長 金山隆一様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

2018年1月2・9日合併号の「出口の迷路~金融政策を問う(13)短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに」という記事の中で「含み益」となっているのは「含み損」の誤りではないかとの問い合わせを2017年12月26日にしました。

筆者である野口悠紀雄氏からは「正しくは『含み損』です」「編集部に訂正掲載を依頼します」との回答をいただいています。しかし、12月31日の段階で御誌からの回答は届いていません。

定期購読者から間違い指摘を受け、筆者も誤りを認めているのに、読者への回答はしないとの御誌の姿勢に正しさはあるのでしょうか。

◇   ◇   ◇

※金山隆一編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html

ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html

駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html

読者との「約束」守らぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html

週刊エコノミストが無視した12の間違い指摘(2017年)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/122017.html

2018年1月18日木曜日

「インフレ期待高まれば株高」と日経 荻野卓也記者は言うが…

「インフレ期待の高まり」は日経平均株価が上値を追う上で「援軍」となるだろうか。その可能性はもちろんある。だが、マイナス面も無視できない。なのに17日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~株、インフレ期待の援軍 原油高・賃上げ、内需に恩恵」という記事では「インフレ期待の高まり→株高」と単純に捉え過ぎている。
西鉄福岡駅(福岡市中央区)※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【日経の記事】

26年ぶりの高値水準を更新した日経平均株価。世界的な景気拡大への期待が最大の要因だが、足元では意外な援軍も現れている。インフレ期待の高まりだ。原油高や賃上げが背景にあり、恩恵を受けやすい内需株中心に投資マネーが流入している。この傾向が強まれば、相場の上昇基調に弾みが付く可能性がある。

 16日に相場の強さを印象づけたのが金融株の連騰記録だ。みずほフィナンシャルグループはこの日までに9営業日続伸した。2014年10月22日~11月5日の10日続伸以来の長さだ。かんぽ生命保険も同じく9日続伸で、こちらは15年11月の上場以来最長となる。太陽生命保険の熊田享司氏は「金利先高観が強まり、収益改善期待が広がった」とみる。金融緩和の縮小観測に加え、根底にあるのがインフレ期待の高まりだ。

変化を示すのが市場のインフレ期待の度合いを示す「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」だ。物価連動国債と国債の利回り差を基に算出するこの指標は、昨年秋から上昇基調を強め、18年は0.6%台まで上昇。業種別東証株価指数の「銀行」をみると、BEIと歩調を合わせる場面が目立つ。インフレ期待と銀行株の相関性の高さがうかがえる。


◎「金融緩和の縮小」が実現したら…

「金利先高観が強まり、収益改善期待が広がった」から金融株に買いが入ったのは分かる。だが、「金融緩和の縮小」が現実となれば、基本的には株価にマイナスだ。筆者の荻野卓也記者はそこをどう考えているのか。記事には説明がない。
須賀神社(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

仮に、インフレ期待が高まる中で金利上昇は実現しないという展開になったとしても、「収益改善期待」が崩れた金融株には失望売りが広がる公算が大きい。いずれにしても、単純に「インフレ期待の高まり→株高」と考えるのは無理がある。

続いての記述にも疑問を感じた。

【日経の記事】

インフレ期待を高める主因が原油価格の上昇だ。ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は12日に1バレル64ドル超と、約3年ぶりの高水準をつけた。原油は生活の様々な場面で利用されており、価格変動が物価に与えるインパクトが大きい。

もう1つは日本で広がる賃上げの期待だ。経団連は16日、春季労使交渉の指針をまとめた。安倍晋三首相が要請した3%の賃上げを社会的期待と明記し、企業に前向きな検討を求めた。人手不足感が強まるなか、今回は踏み込んだ内容になるとの見方がある。実現すれば消費拡大を通じて物価を押し上げそうだ。



◎原油高で消費拡大?

今回の記事では「原油高・賃上げ、内需に恩恵」という見出しがまず気になった。「賃上げ、内需に恩恵」は分かる。しかし「原油高」は原則として消費にマイナスだ。原油高になれば、その分は日本の富が産油国に流れてしまい、消費に回せる余裕が乏しくなる。なのに荻野記者はそこに触れないまま、「原油価格の上昇」を「インフレ期待を高める」要因として株価の押し上げ材料と捉えている。

景気が良くなった結果として期待インフレ率が高まり、それを後追いするように緩やかに金利が上がってくれば、うまい具合に株高につながりそうな気がする。しかし、荻野記者のように「インフレ期待の高まり→株高」と単純に考えるのは分析が甘すぎる。


※今回取り上げた記事「スクランブル~株、インフレ期待の援軍 原油高・賃上げ、内需に恩恵」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180117&ng=DGKKZO25771770W8A110C1EN1000


※記事の評価はC(平均的)。荻野卓也記者への評価も暫定でCとする。

2018年1月17日水曜日

北上製紙、解散なのに従業員は「依願退職」? 日経報道に疑問

会社が解散するのに、従業員は「依願退職となる」らしい。17日の日本経済新聞朝刊企業総合面に載った「日本製紙系の北上製紙、解散方針を発表」という記事にはそう出ている。本当だろうか。
甘木鉄道 甘木駅(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

まずは記事の中身を見てみよう。

【日経の記事】 

日本製紙は16日、62.9%を出資する北上製紙(岩手県一関市)が7月にすべての事業から撤退すると発表した。段ボールの原紙や新聞用紙の生産・販売を停止する。時期は未定だが、会社は解散する方針。インターネット通販の普及で段ボールの需要は堅調だが、中国での需要増加で段ボール原料の古紙が値上がり。4期連続の営業・最終赤字に陥っていた。

北上製紙では関連企業を含めて100人を超える従業員が依願退職となる。同社は2017年3月期の売上高が54億円、営業利益は1億8700万円の赤字。段ボール原紙の生産量は年間約8万トンで、日本製紙本体がつくる量の約6%にあたる。営業地域がほぼ東北地方に限定されており収益改善が難しかった。

製紙業界では洋紙の需要が低迷し、讃州製紙(高松市)が16年3月に製紙事業から撤退。日本製紙は17年11月、古紙価格の高騰により18年3月期の連結営業利益予想を150億円と、従来予想の半分に下方修正している。

◇   ◇   ◇

日経の報道が正しければ、北上製紙の従業員は「依願退職」になる。会社が解散し、親会社が面倒を見ないのならば普通は「解雇」となりそうなものだ。そこで調べてみたものの、日本製紙の発表資料には「依願退職」かどうかを判断できる情報がなかった。

参考になるのは河北新報の「<北上製紙>社長『従業員の再就職を支援』 老舗の事業停止、地域経済への影響懸念」という記事だ。「北上製紙は関連会社を含めて約120人の従業員を抱えている。会社は労働組合に7月20日付の全員解雇を提案し、再就職に向けた労使の協力態勢を固めたい考えだ」と出ていた。

河北新報の報道を信じれば、従業員の多くは「解雇」となる。もちろん「依願退職」の可能性が消えたわけではない。日経の報道が誤りなのか、少し様子を見たい。


※今回取り上げた記事「日本製紙系の北上製紙、解散方針を発表」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180117&ng=DGKKZO25757450W8A110C1TI1000

※今回は記事への評価を見送る。

ウェルスナビを好意的に取り上げる週刊エコノミストの罪

週刊エコノミスト1月23日号で「挑戦者2018」という新連載が始まった。金山隆一編集長によると「ベンチャー企業、未公開会社、中小企業のなかにもキラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社の経営者、創業者をインタビューする新コーナー」らしい。しかし、初回の「柴山和久 ウェルスナビ社長 暗闇に向かって跳べ」という記事には色々と問題を感じた。順に見ていこう。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

将来を考えずに財務省を辞めた後、転職活動で人生は変わった。書類選考で落とされ、ようやく面接にたどり着いてもことごとく不採用。「自分には存在価値がないのでは」と思うようになったころだ。預金はどんどん減って、残高は8万円。やることがなく、スターバックスで、コーヒー1杯を妻と2人で分け合っていると、ベビーカーに乗った犬がマンゴーフラペチーノをうまそうに飲んでいる。あれは、本当にうらやましかったなあ。


◎それでも「スターバックス」を使う?

「残高は8万円」と言いながら「スターバックス」を使っているところに余裕を感じる。個人的には、価格が高すぎて利用する気になれない。「コーヒー1杯を妻と2人で分け合って」などと苦労話のように語っているが、マクドナルドに行けば2杯注文してもおつりがもらえそうだ。

次の展開がさらに余裕を感じる。

【エコノミストの記事】

社名の意味は「豊かさへの道しるべ」。働いて、一定の収入があれば、誰でも豊かになれるサービスにしたいという願いを込めた。

起業のきっかけは、財務省からマッキンゼーに転職した後、2014年秋までの1年間、ウォール街で機関投資家をサポートしたことだ。10兆円の資産運用のアルゴリズム開発に携わった。結局、ただの数式だった。「それなら、資産の多寡に関係ない」と強く思った。



◎結局、「マッキンゼーに転職」…

「面接にたどり着いてもことごとく不採用」と書いてあったので、追い込まれて「起業しよう」となったのかと思ったら、「財務省からマッキンゼーに転職」したらしい。「マッキンゼー」への転職に成功した人が「書類選考で落とされ、ようやく面接にたどり着いてもことごとく不採用。『自分には存在価値がないのでは』と思うようになった」と語っても、あまり説得力はない。

まあ、ここまでは余談の部類だ。次からが本題と言える。

【エコノミストの記事】

投資、運用の王道「長期・積み立て・分散」を広めたい。これを正しく行うためには高度な知識と膨大な手間がかかる。その経費を預かり資産の手数料でまかなうためには、高額資産を持つ富裕層でなければ見合わない。AI(人工知能)による自動化で、コストを削減。運用額が10兆円でも10万円でも効果は同じだ。今は最低10万円だが、将来的には制限をなくしたい。


◎何をやってる会社?

記事を最後まで読んでも、何をやっている会社かよく分からない。いわゆるロボットアドバイザーの会社のようだが、記事の説明では不十分だ。「キラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社」を紹介するコーナーならば、事業の中身にはしっかり触れるべきだ。その上で会社の「キラリと光る」部分を見せる必要がある。
道の駅 歓遊舎ひこさん(福岡県添田町)
            ※写真と本文は無関係です

今回の記事で強いて挙げれば「AI(人工知能)による自動化で、コストを削減」ということか。しかし、どの程度の低コストなのかは触れていない。調べてみると「ウェルスナビ」は前向きに紹介すべき企業ではない。

同社のホームページによると、預かり資産額に対して年間1.0%(3000万円まで)の手数料がかかるほか、運用対象とするETFの関連経費として0.11~0.14%を支払うことになる。ウェルスナビに資金を預けようかと友人に相談されたら「絶対にやめろ」と助言するだろう。

まず1%の手数料が高すぎる。ETFの組み合わせを提案して、後はリバランスをしてくれるだけだ。預かり資産1000万円の場合、毎年10万円を支払うことになる。2年目以降はリバランス代として10万円を差し出すようなものだ。

「これ(長期・積み立て・分散)を正しく行うためには高度な知識と膨大な手間がかかる」と柴山社長は言う。間違いではない。だが、それは「分散」だけだ。「長期・積み立て」はかなり簡単にできる。

「分散」も「ある程度ちゃんとできてるね」というレベルで良ければ難しくないし、リバランスも「絶対にやらないとまずい」と言うほどのものでもない。せっかくETFには低コストという利点があるのに、ロボアドの会社に1%も手数料を払ったら、それだけで低コストが台無しになる。

「1%を払ってでもリバランスをしてもらいたい」と言う人がいれば止めない。だが、ほとんどの人にとっては必要ないはずだ。

柴山社長に文句を言うつもりはない。事業を成功させるためには「投資、運用の王道『長期・積み立て・分散』を広めたい」などと投資家の味方を装うのが当然だ。

問題は週刊エコノミストの側にある。今回の記事は「聞き手=金山隆一・本誌編集長 構成=酒井雅浩・編集部」となっていた。金山編集長には「ウェルスナビ」が「キラリと光る会社、見たこともない未来をつくろうと心血を注いでいる会社」に見えたのだろう。だとしたら、投資に関する知識がなさすぎる。

さらに言うと、今回のように取材相手に一方的に語らせるスタイルで記事をまとめるのならば、編集長が「聞き手」になる必要はない。そもそも「編集長がインタビューしたのならば、自分で記事にすればいいではないか」とも思うが、そこは編集長の特権として認めてもいい。ただ、「編集長自らがどんな問いを発したのか」は見えないのに「聞き手」にだけなるのであれば、「編集長の道楽」としか感じられない。

お世話係の酒井記者には同情を禁じ得ない。インタビュー形式ならQ&Aでつなげばいいので「構成」に不安は少ないが、今回のような形式だと編集長がきちんと聞いてくれない場合は「構成」に苦しむ。自分が酒井記者の立場だったら「俺がまとめるんだから、俺に聞き手をさせてくれ。頼むから、編集長は自分の席でおとなしくしててよ」と思うだろう。


※今回取り上げた記事「挑戦者2018~柴山和久 ウェルスナビ社長 暗闇に向かって跳べ」
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180123se1000000062000


※記事の評価はD(問題あり)。金山隆一編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。金山編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html

ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html

駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html

読者との「約束」守らぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html

週刊エコノミストが無視した12の間違い指摘(2017年)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/122017.html

2018年1月16日火曜日

「井阪体制」批判が強引な週刊ダイヤモンド岡田悟記者

週刊ダイヤモンド1月20日号の「騒動のその後~セブン&アイHD~カリスマ不在で漂流する井阪体制 業績堅調でも蠢く内憂外患」という記事は、内容にかなり無理がある。筆者の岡田悟記者は「流通業界“最後のカリスマ”ことセブン&アイ・ホールディングス(HD)の鈴木敏文氏(85)」への思い入れが強いのだろう。それ自体は悪くない。だが、「鈴木氏のいないセブン&アイはダメだ」と訴えたい気持ちが強すぎて、話の展開が強引になっている。
田川伊田駅(福岡県田川市)※写真と本文は無関係です

まず、事実関係を正しく説明できていないと思える部分があるので、そこから見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

高級プライベートブランド商品「セブンプレミアム」のヒットや、全国約2万店舗にATM網を張り巡らせるセブン銀行設立と、独創的なアイデアで新たな市場を開拓してきた鈴木氏はこのインタビューのおよそ1年後、会長の地位を追われた。

中略)コーポレートガバナンスの第一人者である邦雄氏の信条は「社外取締役は社長の介錯人」。16年の鈴木氏の退任劇では、文字通り鈴木氏を“介錯”した。


◎「会長の地位を追われた」?

「会長の地位を追われた」「文字通り鈴木氏を“介錯”した」と書いてあると、鈴木氏は解任されたように感じる。実際は鈴木氏が退任を申し出ている。「事実上の解任」とも言い難い自発的なものだったとみられる。

週刊ダイヤモンドも2016年4月23日号の「セブン 鈴木会長引退 後継人事 まさかの否決 カリスマ経営者の誤算」という記事で「指名委で反対された人事案を強引に取締役会にかけたのは無理があった。実現しないから引退という姿勢は、わがままな責任放棄としか映らない」と書いている。「わがままな責任放棄としか映らない」やり方で自ら「引退」を選んだ鈴木氏に関して「会長の地位を追われた」と説明するのは正しいのか。

次に強引な「井阪体制」批判を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

そんな井阪体制の内実をさらけ出すかのような動きが、このところグループ内で目に付く。

まず、グループの祖業であるGMSのイトーヨーカ堂。井阪氏は17年3月、中国・成都のヨーカ堂を苦難の末に軌道に乗せて大躍進させた中国小売りのプロ、三枝富博氏(68)を社長に据え、立て直しを託している。

そんなヨーカ堂の店舗に、「大好きな土日のゴルフを返上して店舗訪問を繰り返している」(関係者)人物がいる。ヨーカ堂創業者である伊藤雅俊HD名誉会長(93)の次男である、HD取締役常務執行役員で経営推進室長の順朗氏(59)だ。ヨーカ堂の取締役でもあり、同社の業績改善に当たろうとしている。

ヨーカ堂で成果を上げて、井阪氏の後継を狙っているとみられるが、社内外ではいぶかしむ声も上がっている。「流通業界では知られていない、金融業界出身のコンサルタントと組んでやろうとしているが、本当に大丈夫なのか」(同社関係者)というのである。



◎伊藤順朗氏の何が問題?

伊藤順朗氏の話は何が問題なのだろう。「ヨーカ堂の取締役」が「同社の業績改善に当たろうとしている」のは当たり前だ。業績改善に無関心な方が困る。「流通業界では知られていない、金融業界出身のコンサルタントと組んでやろうとしている」ことも、それだけでは批判する理由にならない。有名な人と組めば「業績改善」に結び付くわけでもない。
道の駅 鯛生金山(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です

この後の「伊藤邦雄氏」への批判はさらに無理がある。

【ダイヤモンドの記事】

同じ伊藤でも、社外取締役の一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄氏(66)もまた「社内の人事や事業について積極的に口出ししている」(別の同社関係者)という。

コーポレートガバナンスの第一人者である邦雄氏の信条は「社外取締役は社長の介錯人」。16年の鈴木氏の退任劇では、文字通り鈴木氏を“介錯”した。そこまではよしとしても、指名・報酬委員長として鈴木色の強い村田紀敏HD社長(当時)の退任と、井阪氏の社長就任にこだわったことには、社内から「越権行為だ」と反発の声が上がった経緯がある。それが現在も続いているということか。



◎「越権行為」に当たる?

あまり考えずに記事を読むと「伊藤邦雄氏」は「越権行為」を繰り返しているような印象を受ける。しかし、「指名・報酬委員長として鈴木色の強い村田紀敏HD社長(当時)の退任と、井阪氏の社長就任にこだわったこと」の何が「越権行為」なのか理解に苦しむ。

「指名・報酬委員長」として自分なりの社長人事案を持ち、それに「こだわった」としても何の問題もないはずだ。「鈴木氏を“介錯”した」ことを「よしと」できるのに「村田紀敏HD社長(当時)の退任と、井阪氏の社長就任にこだわった」ら「越権行為」になるとの論理が謎だ。

「社内にそういう声もあったと言っているだけだ」と岡田記者は弁明するかもしれない。しかし、明らかに「越権行為」でないのならば、そうした声に正当性があるかのような書き方をすべきではない。「越権行為」に当たると言えるのならば、理由を記事中で説明してほしい。

「伊藤邦雄氏」が今も「社内の人事や事業について積極的に口出ししている」のも、「社外取締役」であれば当然だ。何の「口出し」もせず、おとなしく会社の方針を了承しているだけならば、「社外取締役」を置く意味がない。

こんな雑な批判を受ける2人の「伊藤氏」には心から同情したくなる。


※今回取り上げた記事「騒動のその後 セブン&アイHD~カリスマ不在で漂流する井阪体制 業績堅調でも蠢く内憂外患」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/22434


※記事の評価はD(問題あり)。岡田悟記者への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの「おうちダイレクト」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_4.html

こっそり「正しい説明」に転じた週刊ダイヤモンド岡田悟記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_96.html

肝心のJフロントに取材なし? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者の怠慢
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post.html

2018年1月15日月曜日

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価

医療保険などに入ろうかと考えている人にお薦めの特集が週刊東洋経済1月20日号に出ていた。「保険に騙されるな」というタイトル通り、保険を売る側を批判的に描きながら記事を作っている。
風治八幡宮(福岡県田川市)※写真と本文は無関係です

「『保険で貯蓄』はありえない 貯蓄性保険には入らないのが正解」「医療保険・がん保険に騙されるな 金融庁がイエローカード 公的制度が充実 貯蓄があれば本来不要」といった指摘に目新しさはないが、記事の主張自体はもっともだ。

投資信託などの金融商品を紹介する記事に関しては「業界の回し者になっていないか」を重視して見ている。今回の特集はその点で高評価に値する。

強いて注文を付けるとすれば「Part3 医療保険・がん保険に騙されるな」の中の2本の記事だ。まず「現状はパンフ配布止まり マツキヨと第一生命の温度差」という記事(筆者は若泉もえな記者)はなくていい。今回の特集は読者に「保険に騙されるな」と訴えるのが目的のはずだ。しかし、この記事は「保険会社と大手ドラッグストアの提携」で、両社に「温度差」があるという話だ。「保険に騙されるな」というテーマとはやや離れている。

そして最も気になったのが「ライフネット生命 がん保険を投入 収入保障と低価格で差別化 加入者のために一段の工夫を!」という記事(筆者は山田雄一郎記者)だ。この記事だけは、少しだけ「業界に優しい」感じがした。

記事の一部を見てみよう。

【東洋経済の記事】

そこで「がんの治療費に加えて収入減も保障する保険なら特徴が出せる」と「ライフネットのがん保険W(ダブル)エール」(下写真)の販売に踏み切った。

Wエールは診断一時金のみの「シンプル」と治療サポート給付金のついた「ベーシック」、さらに収入サポート給付金のついた「プレミアム」の3タイプだ。診断一時金100万円のみのプランで比較すると「全年代でどこよりも安い」(森氏)のが自慢だという。

治療サポート給付金は治療を受けた月に10万円が支給される。回数は無制限だが、同月内に何度治療を受けても月10万円。治療を一度も受けない月は支給されない。

収入サポート給付金は診断一時金の半額を年1回、最大5回まで受け取れるという。たとえば診断一時金が200万円だと毎年100万円が5回、一時金と合計で最大700万円が給付される。


◎がん保険に懐疑的だったのに…

特集ではがん保険に懐疑的だったのに、「ライフネット生命」にはかなり好意的だ。「がんの治療費に加えて収入減も保障する保険」という点を考慮しても、取り上げる必要があるのかとは感じた。
福岡県立三池工業高校(大牟田市)※写真と本文は無関係です

そもそも「3タイプ」のうち「収入サポート給付金」が付いているのは1タイプだけだ。残りの2つは「特徴」が出せていないことになる。

「診断一時金100万円のみのプランで比較すると『全年代でどこよりも安い』(森氏)」というコメントだけ載せて具体的な保険料に触れないのも感心しない。「Wエール」については「収入サポート給付金のついた『プレミアム』」を軸に、保険料に見合った給付が得られるかどうかを検討すべきだ。しかし、記事では説明が給付に偏っている。

さらに山田記者による「ライフネット生命」への注文も引っかかった。

【東洋経済の記事】

森氏は「3タイプに絞ることでわかりやすくした」と胸を張る。が、1年以内に治療が終われば、健康保険が適用される通常の治療ならせいぜい50万円程度しかかからない。がんで本当に困るのは1年以上も治療が続く場合だ。思い切って診断一時金をなくし、治療サポート給付金のみのプランや、収入サポート給付金のみのプランを用意すれば、その分だけ保険料を抑えられたかもしれない。

54ページの永田宏教授のインタビューにあるとおり、「がんと診断されたら100万円」などと明確に書いていないと、日本では売れない可能性がある。が、創業時に保険に革命を起こすことを目指したライフネットはあえてそこに挑戦すべきではなかったか。商品改定のタイミングでぜひ「一時金なし」のプランでがん保険に新潮流を作ってほしい。


◎取材では問わなかった?

「思い切って診断一時金をなくし、治療サポート給付金のみのプランや、収入サポート給付金のみのプランを用意すれば、その分だけ保険料を抑えられたかもしれない」「創業時に保険に革命を起こすことを目指したライフネットはあえてそこに挑戦すべきではなかったか」と考えるならば、それを取材時に問えばいいではないか。

山田記者はライフネット生命の「森亮介氏」を取材しているはずだ。ならば、山田記者の提案に森氏がどう答えたのかは記事に含めてほしかった。取材時にはそこに触れなかったのならば、取材が甘い。


※今回取り上げた特集「保険に騙されるな」

※特集全体の評価はB(優れている)。山田雄一郎記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Bへ引き上げる。山田記者とともに特集を担当した富田頌子記者への評価はBで確定とする。「現状はパンフ配布止まり マツキヨと第一生命の温度差」という記事を書いた若泉もえな記者への評価は暫定でC(平均的)とする。

2018年1月13日土曜日

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問う

13日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「低格付け債に資金流入 高利回り、景気拡大で安心感 金融政策巡りリスクも」という記事は「低格付け債」の定義に無理がある。「低格付け(ハイイールド)債」とはダブルB格以下の債券を指すはずだ。しかし記事ではトリプルB格を「信用力が低く利回りが高い企業の社債」として取り上げている。
大分県日田市の三隈川(筑後川)
    ※写真と本文は無関係です

記事の記述を見ていこう。

【日経の記事】

国内外の債券市場で信用力の低い社債に資金が流入している。10日までの1週間で世界の低格付け(ハイイールド)債ファンドへの資金流入は10億ドル超と半年ぶりの高水準。国内でも利回りの高い社債を求める投資家が増えている。ただ、市場では金融政策の出口を巡り金利が不安定になれば売りに転じかねないとして、危うさを指摘する声もある。

 「最近は売り物すらなかなか出ない」。信用力が低く利回りが高い企業の社債について国内運用会社のファンドマネジャーはこうこぼす。ようやく出てきた売り物は「あっという間に高値がついてしまう」という。

投資適格債の中で最も信用力が低いトリプルB格の社債の利回りは軒並み低下(価格は上昇)している。格付けがトリプルBプラスの大王製紙の5年物社債の国債に対する上乗せ幅(スプレッド)は12月の発行以降、0.53%から0.51%台へとほぼ一本調子で低下。同水準の社債の平均も5カ月ぶりの低水準だ。

信用力の低い債券が人気を集める理由は複数ある。1つは世界的な景気拡大だ。格付けの低い債券は景気拡大で収益力や財務内容が向上すれば信用力が改善するため、下押し圧力が小さいと期待される。


◎巧妙に逃げてはいるが…

普通に読むと「投資適格債の中で最も信用力が低いトリプルB格の社債」は「低格付け(ハイイールド)債」に含まれると理解したくなる。しかし、SMBC日興証券の「初めてでもわかりやすい用語集」では「ハイイールド債」について「格付会社などで信用格付がBB(ダブルビー)以下の評価をされている債券で、信用度が低い分、格付の高い債券より金利が高く設定されています」と解説している。
高崎山自然動物園(大分市)の猿
     ※写真と本文は無関係です

なので、「トリプルB格の社債」を「低格付け債」に含めるのはまずい。筆者の富田美緒記者はおそらくこの問題に気付いている。そして巧妙に逃げを打っている。「トリプルB格の社債は低格付け債ではないのでは?」と問われた時は以下のように答えるのではないか。

「『低格付け(ハイイールド)債ファンドへの資金流入は10億ドル超と半年ぶりの高水準』とは書いたが、『トリプルB格の社債』については『信用力が低く利回りが高い企業の社債』『信用力の低い債券』『格付けの低い社債』といった表現を用いており『低格付け債』『ハイイールド債』には含めていない」

この弁明は「明らかに無理がある」とは言わないものの、かなり苦しい。「格付けの低い社債」と「低格付け債」を同一視するのは自然だし、別物だと分かるような説明も記事中でしていない。素直に読めば「トリプルB格の社債は低格付け債なんだな」と理解するのが自然だし、そう読み取った読者を責められない。

記事には「国内の社債発行額は2017年まで2年連続で10兆円を上回ったが、うちシングルA未満の社債は1割以下」との記述がある。「低格付け債=ダブルB格以下の債券」とすると、国内では低格付け債が非常に限られてくるのだろう。なので、トリプルB格の社債を「低格付け債的な社債」として扱おうと思い付いたのではないか。だが、今回のような説明では、読者に誤解を与えかねない。

どうしてもトリプルB格の社債を「格付けの低い社債」として扱いたかったら、「トリプルB格だと『低格付け(ハイイールド)債』には入らない」と記事中で明示すべきだ。そうなると、記事の説得力がかなり減じてしまう。しかし、読者を欺くような作りにするよりは好ましい。


※今回取り上げた記事「低格付け債に資金流入 高利回り、景気拡大で安心感 金融政策巡りリスクも」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180113&ng=DGKKZO25624550S8A110C1EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。富田美緒記者への評価はDで確定とする。冨田記者については以下の投稿も参照してほしい。

データの扱いが恣意的な日経「企業の現預金、世界で膨張」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_3.html

メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_3.html