2021年11月17日水曜日

「現在世代の消費」に使うと「将来世代に残るのは借金だけ」と誤解した東洋経済の野村明弘氏

週刊東洋経済の野村明弘氏は財政問題で誤解があるようだ。11月20日号の「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」という記事からは、そう判断できる。問題のくだりを見ていこう。

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【東洋経済の記事】

一方、選挙で主張された「減税や現金給付で国民の可処分所得を増やす」というのは分配政策ではなく、再分配政策だ。ただし、誰から誰への分配かが重要だ。

大規模金融緩和による超低金利が長期化する中、与野党はこうした政策を国債発行で賄う姿勢をますます強めている。積み増される国債の負担を被るのは将来世代だ。道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれるが、現在世代の消費のために使われるとあっては、将来世代に残るのは借金だけだ。これでは、将来世代から現在世代への再分配といえなくもない。


◎「国債」が資産として残るはずだが…

政府が「現在世代」に「現金給付」をして、それが「現在世代の消費のために使われる」としよう。この場合「将来世代に残るのは借金だけ」だと野村氏は言う。明らかな誤解だ。

こうした政策を国債発行で賄う」前提で考えてみよう。記事には「主たる国債保有者である高資産家・高所得者」との記述もあるので、とりあえず「高資産家・高所得者」が「国債」の保有額を積み増すとしよう。

この枠組みでは「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。「高資産家・高所得者」の資産を相続する「将来世代」が「国債」を資産として引き継ぐ。

道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれる」と野村氏は言う。これも間違っていないが「現在世代の消費のために使われ」たからと言って「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。国内で国債を引き受けていれば「将来世代」には「国債」自体が資産として残る。

記事の続きも見ておこう。


【東洋経済の記事】

また、日本の公的債務残高が主要国で最悪の水準にある中、将来、インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合はどうなるか。

政府は財政を持続させるために増税や給付カットを行い、そこで得たお金を国債の元利払いに充てるだろう。「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者。彼らから、主たる国債保有者である高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」(権丈氏)。


◎「財政を持続させるため」?

政府・日銀には日本円を無限に創出する力がある。なので「インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合」でも「財政を持続させるため」に「増税や給付カット」に踏み切る必要はない。ここも野村氏は誤解しているのではないか。

インフレ」に問題ありとは言える。許容範囲を超えた「インフレ」を抑えるためには「増税や給付カット」も必要だ。ただ「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者」という決め付けが謎だ。やり方次第だろう。

高資産家・高所得者」の負担が重くなるように「増税や給付カット」を進めればいいだけの話ではないか。「高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」のが避けられないと思わせるような書き方は感心しない。

話をまとめよう。

必要があれば「現在世代の消費のために使われ」るとしても「国債」に頼って「再分配政策」を進めていい。「将来世代に残るのは借金だけ」というのは誤った認識だ。

結果として「インフレ」がひどくなってくれば「増税や給付カット」も選択肢に入るが「中・低所得者」への影響を相対的に小さくするやり方はいくらもある。

この結論に、どこかツッコミどころがあるだろうか。もし思い付かないのならば、野村氏には従来の認識を改めてほしい。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28761


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html

「最悪の事態」が起きない前提で「最悪シナリオ」を描く東洋経済 野村明弘氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_15.html

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