2021年9月28日火曜日

「女性の理工系人材」育成のためには男性差別もありと日経は訴えるが…

 28日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「育てたい女性の理工系人材」という社説では「女性の理工系人材」の少なさを「日本の大きな損失ではないだろうか」と問うている。そんな疑問を持つ必要はない。中身を見ながら、その理由を述べてみたい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の社説】

これは日本の大きな損失ではないだろうか。経済協力開発機構(OECD)は、2019年に大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、STEM(科学・技術・工学・数学)分野に占める女性の割合を公表した。

工学系では日本は16%(加盟国平均26%)、自然科学系では27%(同52%)だった。比較可能な36カ国のなかで、日本が最も低い。女性の理工系人材の育成が遅れていることは明らかだ。性別ゆえに個人の可能性が制約され、進学をためらわせる壁があるなら、なくさねばならない


◎適正な女性比率がある?

この手の話で引っかかるのは、すぐに海外と比較したがることだ。「工学系では日本は16%」で「加盟国平均26%」だとしても「だから日本は低すぎる」と問題視すべきなのか。それぞれの国の個性が出ているだけだろう。

性別ゆえに個人の可能性が制約され、進学をためらわせる壁があるなら、なくさねばならない」という考えには基本的に同意できる。ただ、社説を最後まで読んでも「進学をためらわせる壁」があるとは思えない。

続きを見ていこう。


【日経の社説】

まずは、「理工系は男性」という根強いステレオタイプだろう。本人が興味を持っていても、親や教師が後ろ向きで、諦めてしまう女子生徒は少なくない

現状の数の少なさゆえに、目標となるロールモデルがおらず、将来のイメージを持ちにくい面もあろう。小中高のうちから広く理工系の人と出会えるイベントなどを増やし、魅力を伝えていく工夫が大学や企業には求められる。


◎そんな教師いる?

理工系は男性」という「根強いステレオタイプ」がそんなに残っているのか疑問だ。「」はともかく「教師が後ろ向き」で「女性が理系なんてやめとけ。文系に変更しろ」などと言うのだろうか。ゼロとは言わないが、そういう「教師」が今も珍しくないと筆者はどうやって確認したのだろう。調査結果などの根拠を示してほしかった。

そもそも「工学系では日本は16%、自然科学系では27%」も女性がいるのならば「理工系は男性」という「ステレオタイプ」を維持する方が難しい。

現状の数の少なさゆえに、目標となるロールモデルがおらず、将来のイメージを持ちにくい面もあろう」という説明も納得できない。そもそも「目標となるロールモデル」が必要なのかとの疑問もあるが、仮に要るとしよう。だからと言って同性でなければならないのか。例えば、ピカソの絵を見て衝撃を受けて画家を目指せるのは男性だけなのか。

百歩譲って同性の「ロールモデル」が不可欠だとしよう。しかし身近にいなくてもいいはずだ。お笑い芸人を目指す上で身近にお笑い芸人がいる必要はない。メディアを通じて関心を持ったお笑い芸人を「ロールモデル」にできるはずだ。

インターネットを含め、これだけ情報が簡単に得られる時代なのだから「理工系」に関心を持った女性は少しネット検索するだけで「ロールモデル」の候補を見つけられるはずだ。

続きを見ていこう。


【日経の社説】

とりわけ大学の役割は大きい。まだ一部だが、女性を対象にした推薦入試枠を設けたり、入学の支援金制度を設けたりする大学もある。男性への逆差別という声もあるが、あまりに女性が少ない現状を考えれば妥当だ。


◎性差別を容認するほどの話?

男性への逆差別」になってもいいから「女性」を優遇すべきだと筆者は考えているようだ。「あまりに女性が少ない現状を考えれば妥当」なのか。「自然科学系では27%」という女性比率が低すぎると言える根拠は何なのか。OECD加盟国の平均を下回っていると男性を差別してでも引き上げなければならないのか。

高等教育機関」における「自然科学系」の入学定員が100人だとしよう。成績だけで選んだら男性が73人で女性が「27」人になったとする。しかし「女性が少なすぎる」との判断で男性23人を不合格とし、成績が上位100人に入れなかった女性の中の23人を合格とする。

これで男女の比率は同じになる。ただ、成績では上位100人に入っていたのに男性であることを理由に不合格になった23人は哀れだ。そうした性差別を制度として導入するのが「妥当」なのか。筆者には改めて考えてほしい。

社説を最後まで見ていこう。


【日経の社説】

研究を続けられる環境整備も欠かせない。3月に閣議決定された「科学技術・イノベーション基本計画」は、大学などに女性研究者の新規採用や登用について数値目標の設定や公表を促した。研究者として力をつける時期と子育て期は重なりやすい。両立のためのサポート体制や、研究資金の公募などで配慮した仕組みづくりも急務だ。もちろんセクハラなどを根絶することは大前提だ。

多様性があってこそ、新たなイノベーションが生まれ、技術の発展にもつながる。デジタル分野を中心に、優れた人材は企業で奪い合いになっている。産官学あげて、理工系に進む女性を後押ししたい


◎「多様性」は必要条件?

多様性があってこそ、新たなイノベーションが生まれ、技術の発展にもつながる」と筆者は言う。性別に関して「多様性」がないと「新たなイノベーション」は生まれないのか。

常識的に考えれば「新たなイノベーション」は個人でも生み出せる。「多様性」は必要条件ではない。男性数人でスタートアップを立ち上げた時に、性別の「多様性」がないから「新たなイノベーション」は生まれないと断言できるのか。

産官学あげて、理工系に進む女性を後押ししたい」と筆者は社説を結んでいる。性別や文系理系の別なく子供たちが自分にあった進路を選べるように「後押ししたい」と考える自分とは相容れないのかもしれない。


※今回取り上げた社説「育てたい女性の理工系人材

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210928&ng=DGKKZO76106430X20C21A9EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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