2020年8月24日月曜日

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…

日本経済新聞の大林尚上級論説委員が「年金の取材を始めたのは四半世紀前」らしい。長く取材しているからと言って、しっかりした主張ができるとは限らないことを大林論説委員は教えてくれている。24日の朝刊オピニオン面に載った「核心~『年金抑制』いっそやめたら? 代わりに70歳支給開始を」という記事の内容も苦しかった。
増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
         ※写真と本文は無関係です

一部を見ていこう。

【日経の記事】

本来なら現役世代の賃金上昇率などに連動する年金の増額幅を、それより低く抑える調整の仕組みがマクロスライドだ。だがこの仕組みには致命的な欠陥があった。スライド調整後の年金額が原則として前年の年金額を下回らないようにする名目下限措置だ

想定したように賃金が上がらないデフレ基調のもとでは名目下限措置があだになり、厚生年金の実質的な給付水準(所得代替率)がかえって上昇する逆転現象が生じた。所得代替率は04年度の約59%から年々小刻みに下がり、23年度以降は50%に落ち着くはずだった。だが19年度の実績は62%に上がっている。政治家が意図せずとも、高齢者は04年より恵まれた年金をもらっているのだ。マクロスライドはなまくらな刀だった

ならばどうする。厚労相の諮問機関、社会保障審議会の年金部会長として04年改革に道筋をつけた宮島洋早稲田大教授(当時)が、コペルニクス的転換を提起している。役立たずのマクロスライドはいったん脇へ置き、支給開始年齢を65歳から段階的に70歳に先延ばしする大改革である。

米英独の3カ国はひと足早く、67~68歳への引き上げを決めている。日本より平均寿命が短いにもかかわらずだ。日本は民主党政権の11年、小宮山洋子厚労相が68歳案をポロリと口にし、社保審年金部会も議論の俎上(そじょう)に載せたが、世の猛反発に遭い、たまらず撤回した。


◎なぜ刀を磨かない?

マクロスライドはなまくらな刀だった」から、使い物にならない「」は捨てて「支給開始年齢を65歳から段階的に70歳に先延ばしする大改革」に舵を切ろうと大林論説委員は主張している。

スライド調整後の年金額が原則として前年の年金額を下回らないようにする名目下限措置」が「マクロスライド」の「致命的な欠陥」ならば、「名目下限措置」を廃止すればいいのではないか。磨けば使える「」をあえて捨てる理由があるのかもしれないが、記事中に説明は見当たらない。

70歳」への支給開始年齢の引き上げを「コペルニクス的転換」と見なすのも謎だ。「65歳」という支給開始年齢も引き上げられた結果だ。これをさらに引き上げるのならば、方向性としては同じだ。なのに「コペルニクス的転換」になるのか。

マクロスライド」を廃止して、支給開始年齢を「70歳に先延ばし」すると「年金財政」が改善すると大林論説委員は見ているのだろう。だが、支給開始年齢を据え置き、「名目下限措置」を廃止する手もある。それでも足りないならば「マクロスライド」による抑制をさらに厳しくしてもいい。

そうした手法よりも「70歳」への支給開始年齢の引き上げが好ましいという結論はあり得る。しかし、大林論説委員はそこを論じていない。

記事の最後の段落を見ておこう。

【日経の記事】

では、65歳支給開始の維持がもたらすものは何か。

30年前に厚生次官を退官した吉原健二氏は現役時、支給開始引き上げを政治家に説いて回ったひとりだ。制度がまだ小さかったので将来を憂う気持ちを素直に伝えられた。現在、日本の年金受給者は4000万人だ。このままだと20年後に総人口の40%がもらう側に回る。「そんな国はほかにない。国のかたちとしても自慢できない」と吉原氏。

04年改革が最後の改革ではなかった事実がみえてきた。


◎「40%」ではなぜダメ?

こうした漠然とした話で締められても困る。なぜ「総人口の40%がもらう側に回る」とダメなのか。30%ならば許容できるのか。他の国ではどの程度なのか。他の国と同じかそれ以下にすべきなのか。この辺りを論じないまま「国のかたちとしても自慢できない」というコメントを使われても納得はできない。

もらう人の比率が仮に50%でも、持続可能な制度ならばいいではないか。その比率を10%に抑えても、持続可能性が低ければ問題ありだ。

それに「04年改革が最後の改革ではなかった事実がみえてきた」のは最近のことなのか。「改革」の必要性は多くの人が認識している気がする。大林論説委員が最近になって気付いたのならば、何のために「四半世紀前」から年金の取材をしてきたのか。

「いや自分はずっと改革の必要性を認識していた」と言うのならば、なぜ当たり前過ぎる話で記事を締めたのか。

やはり大林論説委員を書き手としては評価できない。


※今回取り上げた記事「核心~『年金抑制』いっそやめたら? 代わりに70歳支給開始を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200824&ng=DGKKZO62923510R20C20A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

0 件のコメント:

コメントを投稿