2021年3月1日月曜日

日経 山田彩未記者「女性起業拡大へVC動く」に感じた問題点

 1日の日本経済新聞朝刊スタートアップ面に載った「女性起業拡大へVC動く~ANRI、投資先の2割配分 多様性で収益伸ばす」という記事には色々と問題を感じた。山田彩未記者は最初の段落で以下のように書いている。

夕暮れ時の風景

【日経の記事】

女性の起業家が増えない現状を変えようと、ベンチャーキャピタル(VC)などが動き出している。主要国のスタートアップ投資のうち、女性が創業した企業への投資は3%どまりだ。企業の成長には多様性が不可欠との認識が広がり、独立系VCは投資の2割超を女性が代表の企業に充てる。米国では新規株式公開(IPO)の引き受け条件にする圧力も強まる。


◎「女性の起業家が増えない現状」を伝えないと…

記事を最後まで読んでも「女性の起業家が増えない現状」が伝わってこない。「主要国のスタートアップ投資のうち、女性が創業した企業への投資は3%どまり」といったデータは見せているが、これだと「女性の起業家」が増えていないとは言い切れない。「スタートアップ投資」の対象にならない「女性の起業家」もいるはずだ。「女性が創業した企業への投資は3%どまり」に関しても、少し前までは1%だった場合「急増」とも言える。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

「スタートアップが上場を目指すには経営陣が男性ばかりでは社会に受け入れられない」。独立系VCのANRI(東京・渋谷)の佐俣安理代表は語る。同社は2020年11月、運用中のファンド(総額220億円)で投資先の2割以上を女性が代表を務める企業にする方針を発表した。

「(投資先の)多様性の欠如は成長の妨げにもなる」(佐俣氏)と判断。リクルート出身者が起業した女性向けキャリアスクール運営のSHE(同・港)などに出資した。


◎「女性ばかり」は受け入れられる?

記事の内容から判断すると「ANRI」の方針はおかしい。「多様性の欠如」が問題だと思うのならば「経営陣」の男女バランスが適切な「スタートアップ」を投資対象にすれば済む。しかし、なぜか「投資先の2割以上を女性が代表を務める企業にする方針を発表した」らしい。

女性が代表を務める企業」の「経営陣」が女性のみだった場合「多様性の欠如」は問題にならないのか。だとしたら問題は「多様性の欠如」ではないはずだ。

女性の起業家」を増やすことと関係ない話も山田記者は盛り込んでいる。


【日経の記事】

ただ起業が盛んな米シリコンバレーでも男性偏重が続き、セクハラなどに反対する女性らの「#MeToo」の運動も広がった。米国では、成長企業に女性役員を求める動きが強まる。ゴールドマン・サックスが20年1月、女性など多様性をもたらす人材が取締役会に1人もいない企業のIPOを引き受けない方針を表明。ビッグデータ管理・分析のスノーフレイクが20年9月の上場直前に女性取締役を増員した。


◎取締役になれば「起業家」?

成長企業に女性役員」を入れたからと言って、その「女性役員」が「女性の起業家」になる訳ではない。「女性の起業家」を増やせば「女性役員」の増加要因になるが、創業後に「女性役員」を受け入れても「女性の起業家」は増えない。上記のくだりでは話が脱線している。

記事の中で最も問題を感じたのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

スタートアップ情報の米クランチベースによると、米国や日本など主要国で女性を創業者に含む企業への投資額は19年に266億ドル(約2.8兆円)と10年比で8.6倍だった。全体の6.5倍より伸び率は大きい。だが女性のみで設立の企業への投資は全体のわずか3%。男性と共同創業の9%を足しても12%だ。

BCGは男女格差の原因として、(1)VCなど投資家が女性起業家に対し事業に無知だという偏見を持っている(2)男性起業家が自身を売り込みすぎている(3)男性投資家が育児や美容など女性起業家が多い事業領域を理解していない――を挙げた。


◎女性には何の「原因」もない?

この手の話では「女性の側に問題は全くない。問題があるとしたら社会構造、あるいは男性」という流れになりやすい。この記事もそうだ。

BCG」(ボストン・コンサルティング・グループ)の言い分をそのまま書いただけと山田記者は弁明するかもしれないが、この「男女格差の原因」は酷い。

VCなど投資家」は「偏見」の持ち主であり、「男性投資家」は「女性起業家が多い事業領域を理解していない」と決め付けている。「理解していない」比率は100%なのか。でないのならば、「理解していない場合が多い」などと記すべきだ。「BCG」がそういう表現を用いていないと言うなら「BCG」の分析を記事に盛り込むべきではない。

「偏見がある」「理解していない」などと特定の属性への侮蔑とも取れることを書くのならば、どういうデータでそういう傾向を読み取ったのか根拠も示すべきだ。男性蔑視に社会が寛容なのは分かる。だからと言って、全ての「男性投資家」は「女性起業家が多い事業領域を理解していない」と取れる書き方をするのは感心しない。

さらに言えば、女性の側に「男女格差の原因」を求めないのは無理がある。「BCG」は「男性起業家が自身を売り込みすぎている」と言っているらしいが、正当な方法で「売り込み」をしているのならば「売り込みすぎている」との説明はおかしい。むしろ「女性起業家は男性に比べて売り込みに消極的な傾向がある」などとすべきだ。


※今回取り上げた記事「女性起業拡大へVC動く~ANRI、投資先の2割配分 多様性で収益伸ばす

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210301&ng=DGKKZO69466690W1A220C2FFT000


※記事の評価はD(問題あり)。山田彩未記者への評価も暫定でDとする。

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