2020年4月4日土曜日

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」

4日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」という記事は引っかかる部分が多かった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

低迷する東京株式市場で、逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ。4月3日までの1カ月間で日経平均株価が15%下げたのに対し、テルモ株は1%上昇した。



◎「1%上昇」では…

逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ」と勢いよく書き出したものの、その上昇率は「1カ月間」でわずか「1%」。ほぼ横ばいだ。「逆行高」は間違いではないが、かなり苦しい。最初の段落で「この記事、大丈夫かな?」と不安になる。

次に気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

新型コロナは危機の連鎖を引き起こした。まず、人々を「健康の危機」に陥れた。次に襲ったのが「グローバル化の危機」だ。保護貿易主義の連鎖などで以前からグローバル化は後退していたが、コロナ封じの副産物として世界の分断が進み、より深刻になった。

2つの危機が生み出したのが「資本主義の危機」だ。経済活動の停止やサプライチェーンの分断で景気が悪化。おびえた投資家は株に手が出せなくなり、企業にマネーが流れなくなった。企業は成長に向けた投資に加え、配当や自社株買いを手控えてでも現金を確保したいので投資家に報いられない。投資リターンが落ちるので、投資家の株離れは加速する。



◎「資本主義の危機」?

まず「おびえた投資家は株に手が出せなくなり」との認識に同意できない。日経も3月26日付で「ネット証券、口座開設が急増 株価急落で初心者参入」という記事を書いている。「株に手が出せなく」なるどころか、新たに手を出す「投資家」がたくさんいるのではないか。

それに、需要が急減すれば企業利益が大きく落ち込むのは当然だ。それに呼応して株価が急落するのも自然な動きだ。割安だと見れば押し目買いを入れる投資家が出てくる。そうした意味で「資本主義」は機能しているように見える。新型コロナウイルスの影響で様々な需要が急減したからと言って「資本主義の危機」を叫ぶのは安易ではないか。

次は以下のくだりに注文を付けたい。

【日経の記事】

医療や医薬のビジネスは莫大な先行投資が欠かせない。ましてや数年に1度の未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい。それでも渋沢は投資家を説得して資金を集め、業績が軌道に乗るまで頭を下げて説明を続けるだろう。自ら立ち上げた第一国立銀行(現みずほ銀行)の創生期でそうしたように、だ。



◎「研究開発投資への支持が得にくい」?

今の社会の雰囲気からすれば、新型コロナウイルス関連の「研究開発投資」は「支持」が得やすいのではないか。

(話題の株)アンジェス、逆行高 『パンデミック』で思惑」という3月12日付の記事で日経は以下のように説明している。

アンジェスは5日、大阪大学やタカラバイオと共同で新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表。ワクチンへの関心からアンジェス株は5日、6日と制限値幅の上限(ストップ高水準)まで上昇したが、その後は相場全体の下落に合わせて利益確定売りが膨らんでいた

未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい」のならば「新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表」した「アンジェス」の株価はなぜ急騰したのか。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

だが多くの日本の経営者は同業他社との横並びに代表される「ノーリスク・ノーリターン」の意識が染みついていると、経営学者や投資家は以前から指摘してきた。コロナの衝撃は今、経営者に「萎縮したままでいいのか」と問いかけている。



◎「ノーリスク・ノーリターン」?

長年、数多くの経済記事を読んできたが「日本の経営者」には「『ノーリスク・ノーリターン』の意識が染みついている」との「指摘」に触れた記憶はない。

仮にそうした「指摘」が数多くあるとしても、まともに受け取る必要はない。明らかに間違っているからだ。

少し考えれば分かる。例えば同業他社が揃って大幅増産に乗り出したとしよう。その時に「横並び」で増産投資に踏み切るのは「ノーリスク」だろうか。「同業他社との横並び」を選択することにも当然に「リスク」はある。

ローリスク・ローリターンを好む傾向がある」といった説明ならば違和感はないのだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56717810S0A310C2ENI000/


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

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