2020年4月20日月曜日

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏は熱心な女性管理職クオータ制導入論者だ。しかし、その主張に説得力はない。20日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策」という記事を見ながらツッコミを入れていきたい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

年度が変わり、新しく管理職になった方も多いでしょう。どんな組織であれキーワードは女性です。すでに経済社会は製造業からサービス業に主軸を移しています。そのユーザーは7割が女性。中高年男性にニーズは分かりません。こうした需給のミスマッチに対応するのがクオータ制です。

女性にゲタを履かせる制度はおかしいという意見があります。たしかに形式的には不平等ですが、男女格差がある現実を考えれば実質的には平等といえます。無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから。

クオータ制の一番の狙いはロールモデルを作ること。まずは女性の管理職を作りましょう。例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める。最初は無作為でもいいから選ぶと、次は自分かもしれないと他の女性たちは準備します。それがクオータ制の本質です。


◎なぜ「管理職」が対象?

中高年男性にニーズは分かりません」と言い切って良いのか疑問が残るが、取りあえず受け入れてみる。だとしても、なぜ「まずは女性の管理職を作りましょう」となるのか。「需給のミスマッチに対応する」のであれば、商品開発部門などで「クオータ制」導入を検討するのが筋だろう。総務部長や経理部長を女性にして「需給のミスマッチに対応」できるのか。

そして業種を限定すべきだ。「需給のミスマッチに対応」するのが目的ならば、鉄鋼メーカーや半導体メーカーで「クオータ制」を導入してもあまり意味がない。「例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める」と言うが、それも固定すべきではない。「女性ユーザーが8割の企業では商品開発部門のスタッフの8割を女性に」といった具合にすべきではないか。

無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから」という説明も是としない。「無意識のうちに男性が高いゲタを履いている」と言える根拠を示さないのは感心しない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

料亭などでは女将が店を仕切っています。そこに嫁いだ女性は義母という身近なロールモデルがいるから見よう見まねで仕事に取り組みます。ベンチャーも同じです。スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら「自分も」と思うもの。身近なロールモデルが個人の意識を変えるのです。



◎「需給のミスマッチに対応」は?

需給のミスマッチに対応するのがクオータ制」ではなかったのか。「身近なロールモデル」を作るための「クオータ制」に話が変わってきていないか。

個人的には「身近なロールモデル」が必要だとは思わないが、ここでも取りあえず受け入れてみる。ただ、やはり「クオータ制」は必要ない。

スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら『自分も』と思うもの」と出口氏も書いている。この場合「大学の先輩」の性別は関係ないはずだ。女性管理職が身近にいなくても、身近にいる有能な男性管理職を「ロールモデル」にすれば済む。

さらに話を進めよう。

【日経の記事】

たとえクオータ制で選ばれた女性が他の管理職に比べて少し能力が劣ったとしても問題ありません。人をつくるのはポストです。そもそも「管理職にはなれない」と思って仕事をしてきたのだから、最初は差があって当然。ポストに就いたら出来るようになります。フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?


◎だったら「男性」でもいいのでは?

上記の説明を信じれば「管理職なんて誰でもいい」はずだ。「ポストに就いたら出来るようになります」と言えるのならば、男性も「ポストに就いたら」問題は解消するはずだ。女性ユーザーのニーズが分からないなどと心配する必要はない。それとも「ポストに就いたら出来るように」なるのは女性だけなのか。

フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?」との問いかけも感心しない。これに対する個人的な答えは「それを判断できるほどフランスの政治を見ていない」だ。「政治はおかしく」なっていないと出口氏が判断しているのならば、その根拠を示してほしい。

記事を最後まで見ていこう。

【日経の記事】

こういう話をすると「女性は管理職になりたがらないから登用できない」という反論が出ます。でも女性の社会的地位が低く、無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会で、女性は家事も育児も介護も押しつけられているのです。この上、管理職になるのは大変だと思うのは当たり前です。ゆがんだ社会構造がそうした意識を生み出しているのだと、管理職はしっかり認識してください。

女性の活躍においては、だれもが総論賛成のようです。でも重要なのは各論の実行。クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除し、人為的に時間軸を短縮してロールモデルを作り出す最良の方法と考えます。


◎「無意識の偏見」がある?

無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と出口氏は言うが、やはり根拠は示していない。「無意識の偏見」は「無意識」ゆえに存在を確認するのが非常に難しいだろう。なのになぜ「無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている」と断言できるのか。

女性は家事も育児も介護も押しつけられている」との見方にも賛成できない。特に「育児」が引っかかる。ほとんどの女性は「『育児』なんてやりたくない。こんな面倒な役割はできれば放棄して、何か他のことに打ち込みたい」と願っているのか。自分が知る女性の多くは「育児」を自ら進んでやっているように見えたが…。

自分は男性ではあるが「家事も育児も介護も」やってきた。しかし「押しつけられている」と感じたことはない。もちろん「押しつけられている」人もいるのだろう。だが、単純に「女性は家事も育児も介護も押しつけられている」と言い切ってよいのか。それこそ「偏見」ではないのか。

最後に文の書き方で注文を付けておく。

無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と書くと「社会」を繰り返すので拙い印象を与える。「無意識の偏見が隅々まで行き渡っている社会」とした方が良い。

クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除」といきなり「アンコンシャスバイアス」が出てくるのも好ましくない。この言葉を使うならば訳語を入れるべきだ。今回はその前に「無意識の偏見」と書いているのだから、最後まで「無意識の偏見」で通した方が分かりやすい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200420&ng=DGKKZO58186250X10C20A4TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

1 件のコメント:

  1. 日々日経の偏光記事に?っと思ったいたので参考になります。なんの検証もせずこんな記事をそのまま載せる新聞社の気が知れません。
    自身が逃げ出したライフネット生命の社内外の役員数は11名ですが、女性は1名だけです。
    女性役員を7割にすればミスマッチは解消されAPUなんかに逃げ出さずに済んだかもしれませんね。

    返信削除