2020年4月22日水曜日

原油は「増産競争で市場崩壊」と日経 松尾博文編集委員は言うが…

22日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」という記事が載っている。見出しで引っかかったのが「市場崩壊」だ。冒頭で松尾博文編集委員は以下のように書いている。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米原油市場で先物価格が史上初めて、買い手がつかない「マイナス取引」となった。期近5月物に限る「瞬間風速」とはいえ、産油国の増産競争は市場の崩壊を招いた。出口の見えない供給過剰は原油価格を長期的に低迷させ、新型コロナウイルス危機が終息しても、石油の将来に禍根を残すことになりかねない。



◎「市場の崩壊」とは?

市場の崩壊」とはどういう状況を指すのだろうか。個人的には「何らかの理由で売買が全く成立しなくなり市場としての機能を果たせなくなること」だと感じる。

であれば「買い手がつかない『マイナス取引』となった」としても「市場の崩壊」は起きていない。市場の価格発見機能も生きている。その価格が「マイナス」となっただけだ。

松尾編集委員は「市場の崩壊」を別の意味で捉えているのかもしれない。しかし、記事中にその説明はない。「需給バランスは崩壊し、市場はOPECの手に負えなくなった」との記述があるので「需給バランスが大きく崩れる=市場の崩壊」と見ているのかもしれないが、一般的な認識とは乖離しているのではないか。

記事にはもう1つ気になる解説があった。

【日経の記事】

問題はコロナ危機が終息した後、石油需要が戻ってくるかだ。新型コロナは社会のありようを変えるきっかけになりうる。テレワークやオンライン授業は意外とうまくいく。多くの人がそんな感想を抱いたはずだ。

コロナ後もこれが定着すれば、世界各地で国際会議が開かれ、通勤ラッシュにもまれる、そんな日常が変わるかもしれない。エネ研の小山氏は「移動に要するエネルギー需要が構造的に抑制される可能性がある。デジタルなど代替手段に置き換えられ、石油需要抑制が進むかもしれない」という。

IEAは「世界エネルギー展望」の最新版で、石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎えると予測した。コロナ危機はピーク到来を早める可能性がある。

サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は英フィナンシャル・タイムズ紙に「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」と述べた。気付いていないのは産油国だけかもしれない。



◎辻褄は合うような…

石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎える」という「予測」と、「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」とのコメントは矛盾しない。

30年代にピークを迎え」るとしても、そこで「エネルギーの中心」から外れるとは限らない。「コロナ危機」が「ピーク到来を早め」たとしても、それは同じだ。

エネルギーの中心であり続ける」かどうかを考える上で、いつ「石油消費」が「ピークを迎え」るかは重要ではない。「エネルギーの中心」かどうかは他の「エネルギー」との比較で決まる。既に「石油消費」が「ピークを迎え」ていたとしても、「エネルギー」消費で「石油」が圧倒的な地位を維持しているのならば、「エネルギーの中心」という位置付けは変わらない。

気付いていないのは産油国だけかもしれない」と松尾編集委員は記事を締めている。だとしたら「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」との認識が甘すぎると思える材料を示してほしかった。


※今回取り上げた記事「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200422&ng=DGKKZO58332600R20C20A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。松尾博文編集委員への評価もDを据え置く。松尾編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

二兎を追って迷走した日経 松尾博文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_7.html

「タンカー攻撃」の分析で逃げが目立つ日経 松尾博文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_15.html

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