2016年11月23日水曜日

生存者バイアス無視の日経「定説覆す?アクティブ投信」

「読者を誤解させるようなことをまた書いてるな」。23日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に北沢千秋QUICK資産運用研究所長が執筆した「定説覆す?アクティブ投信 日本株で指数型しのぐ」という記事を読んで、すぐにそう思った。日本株投信に関して「アクティブ型投信が継続的に指数を上回る成績を上げる」と北沢所長は言い切っている。しかし、データの用い方に問題があるので、こうした結論を導くのは無理がある。
早稲田大学(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です

問題のくだりは以下のようになっている。

【日経の記事】

そこで運用実績が10年超の日本株投信を対象に、アクティブ型とインデックス型の運用成績を比べ、「インデックス型優位」の定説を検証してみた

グラフBは、アクティブ型の中で年間リターンがTOPIX連動型投信の平均を上回ったファンドの比率だ。今年は9月までの実績で240本中、138本がTOPIX型の平均リターンを上回った。過去11年でアクティブ型の勝率が5割を超えた年は6回と、そこそこ健闘していた。

ただし、これは1年間ごとの成績で、長期的に相場全体に勝ち続けているファンドがあるかはわからない。そこで240本のアクティブ型について、それぞれが過去11年に何回TOPIX型の平均リターンに勝ったかを調べた(B)。

結果はTOPIX型を上回った年が8回以上という、高勝率のファンドが43本(全体の18%)あった。半面、勝ち星が4回(45本)や3回以下(22本)という、高い信託報酬を払う価値がなさそうなファンドも多かった。アクティブ型はまさに玉石混交だ。

それでもアクティブ型全体で10年リターン(年率)はプラスを維持していたのに対し、TOPIX型はマイナス(表C)。「長期的にアクティブ型はインデックス型に負ける」という定説は、単純には日本株投信に当てはまらない。

----------------------------------------

運用実績が10年超の日本株投信を対象に」して「検証してみた」ところに問題がある。これでは生存者バイアスを排除できない。「10年超」に限ると、運用期間10年以下で淘汰された投信などを排除できる。その影響で「10年超」のアクティブ投信の運用成績が高く出ているだけかもしれない。

これは投資の世界では「常識」なので、北沢所長が知らないとは考えにくい。例えば、ヘッジファンド全体の運用成績が高くなりやすいのも、生存者バイアスの影響だと言われる。

なのに記事では、生存者バイアスが働く比較手法をわざわざ選んでいる。これでは「インデックス型優位を強引にでも否定したかったのでは?」と勘繰られても仕方がない。一方、「生存者バイアスの問題は全く気付かなかった」とすると、北沢所長に今回の記事を書く資格はない。

生存者バイアスが生じない比較をするか、生存者バイアスが働いていない根拠を示すか。どちらかができていないと「アクティブ型」「インデックス型」のどちらが優位か結論は導き出せない。

以下の説明にも疑問を感じた。

【日経の記事】

世界の主要市場を対象にアクティブ型と主要指数のリターンを比較しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによると、アクティブ型投信が継続的に指数を上回る成績を上げる市場は「日本以外に見当たらない」という

なぜ日本市場だけなのか。定かではないが、いくつかの仮説はある。

一つは市場の効率性の問題だ。株価を動かす情報が瞬時に広がる効率的市場では、銘柄発掘などでファンドマネジャーの手腕は発揮しにくい。一方、非効率的な市場では、「皆が知らないいい会社」が市場に埋もれている可能性が高まる

同じアクティブ型でも、知名度の高い大型株を買う投信より中小型株ファンドが常にリターンが高いのは、その傍証かもしれない。

もう一つの仮説は指数の問題。東証1部上場の全社を対象とするTOPIXには資本生産性の低い銘柄が多く、しかも新陳代謝が乏しいために投資リターンも低くなる、という見方だ。世界の主要なベンチマーク(運用目標とする指数)の中で、全上場企業を組み入れた指数はまれだ。

----------------------------------------

まず「アクティブ型投信が継続的に指数を上回る成績を上げる市場は『日本以外に見当たらない』」という時点で「比較手法がおかしくないか」と疑ってほしい。「S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス」は北沢所長から「日本株ではアクティブ投信が優位なんですよ」と問いかけられて、そんな市場は他には「見当たらない」と答えただけではないのか。「日本ではアクティブ型が優位」と「S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス」も判断しているのであれば、それが明確に伝わる書き方をしてほしかった。

北沢氏の最初の仮説が成り立つならば、日本の株式市場は世界の中で頭ひとつ抜けた「非効率な市場」でなければならない。その可能性を否定できる材料を持ってはいないが、現実的には考えにくい気がする。こんな仮説を検討するぐらいなら、まず生存者バイアスの問題を考慮すべきだ。

最後にもう1つ指摘したい。

【日経の記事】

もっとも、単純にアクティブ型とインデックス型のどちらが優れているかを論じるのは不毛だ。独立系ファンドコンサルタントの吉井崇裕氏は「投資する資産の特性を考えて選ぶのが望ましい」という。

例えば日本の中小型株や海外の低格付け債(ハイイールド債)に投資するなら、ファンドマネジャーの目利きが生きるアクティブ型が効率はよさそうだ

----------------------------------------

世界の主要市場を対象にアクティブ型と主要指数のリターンを比較しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによると、アクティブ型投信が継続的に指数を上回る成績を上げる市場は『日本以外に見当たらない』という」と書いていたのは何だったのか。

日本株投信に関しては「アクティブ投信優位」という結論を導いているので、「日本の中小型株」の場合、「アクティブ型が効率はよさそうだ」と解説するのも分かる。だが「海外の低格付け債(ハイイールド債)」ならば、「アクティブ型投信が継続的に指数を上回る成績を上げる」のは難しいのではないのか。例外は「日本」だけだったはずだ。

「アクティブ型かインデックス型か」について自分が投資初心者に助言するならば、「コストが低いインデックス型を選ぶのが原則」と伝えたい。「全体として見れば、コストが高いゆえにアクティブ型がインデックス型の運用成績を長期的に上回るのは難しい」と言っていいだろう。「市場平均を継続的に上回る運用ができる投信を事前に選ぶ能力が自らにはある」と信じるならば、アクティブ型も選択肢に入れていい。ただ、そういう目を持った人はほとんどいないと考えるべきだ。

そして、北沢所長が書いた投資関連記事は信用すべきではない。これは保証できる。

※記事の評価はD(問題あり)。北沢千秋QUICK資産運用研究所長への評価はDを維持する。北沢所長に関しては以下の投稿を参照してほしい。

日経 北沢千秋編集委員への助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_30.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_11.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_38.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_62.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_15.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_1.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_81.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_17.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_18.html

0 件のコメント:

コメントを投稿