2016年11月2日水曜日

週刊エコノミストの特集「家は中古が一番」に異議あり

週刊エコノミスト11月8日号の特集「家は中古が一番」では「賃貸か購入か。長年の論争は決着した。マイナス金利時代は、中古住宅の購入が正しい」と冒頭で言い切っている。主張が明確なのは悪くない。ただ、筆者ら(酒井雅浩、大堀達也、丸山仁見の3記者)の解説に説得力は感じなかった。記事の一部を見てみよう。
熊本学園大学付属高校(熊本市) ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

「今すぐ家を買う必要はない」のか。その答えは将来のインフレリスクをどう考えるかにかかる

日銀の異次元緩和で物価は大きく上がらなかった。しかし、将来も上がらないというわけではない

日銀が長期金利を目標としたことに対し、ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)前議長はブログで評価しつつ、金利変動が急激化するリスクも指摘した。インフレ志向の日銀が対応をひとつ誤れば、金利急騰は起こりうる。

つまり、超低金利で住宅ローンを組むことは、将来のインフレリスクへの備えとなる。インフレ時は、ローン返済額は実質目減りするからだ。また、一定の資産形成ができる。

しかし、賃貸の場合、更新時に家賃を引き上げられる可能性がある。自らの資産形成にもならない。

----------------------------------------

金利急騰」の話にもツッコミを入れたい部分はあるが、ややこしくなるので省く。中古住宅を買っておけば「将来のインフレリスクへの備えとなる」という筆者らの主張に異論はない。例えば、2017年からは年率10%を超えるインフレがしばらく続くのならば、今のうちに中古住宅を買うのは正しいと思える。

問題は、インフレリスクがどの程度かだ。デフレになったり、非常に緩やかなインフレが続いたりするようならば、インフレリスクに対応するために中古住宅を買うのは不正解だ。「賃貸か購入か。長年の論争は決着した。マイナス金利時代は、中古住宅の購入が正しい」と言い切るならば、「インフレリスクの方がデフレリスクより高い」と言える材料が要る。記事ではそれを示していない。「(物価は)将来も上がらないというわけではない」と述べているだけだ。

特集には、「中古住宅を買っても、むしろ値下がりリスクの方が大きいのでは?」と感じさせる記事が目立つ。その1つが酒井記者の書いた「徴税強化で新築マンションバブル崩壊」という記事だ。

バブル崩壊は高級物件だけでなく、新築市況全体を押し下げる圧力になる。せっかく新築マンションを購入したとしても、その後資産価値がどの程度落ちるのか、不透明だ」と記事では訴えている。「崩壊するのは、あくまで『新築マンションバブル』であって、中古マンションは大丈夫」とでも思っているのだろうか。

新築マンションの販売価格が急落する状況で、中古マンション相場が崩れずに踏み止まれる可能性は極めて低い。特集の中の「主要都市圏の市況」という記事では、「名古屋圏」について「新築の価格上昇が止まれば、中古の値上がりも収まる可能性が高い」と記している。だとしたら、新築マンションバブルが崩壊したら、中古マンション価格はどうなるのか。

もう1つ、「番外編~500万戸の大空き家時代 空き家は『最後の売り時』」(筆者は住宅ジャーナリストの榊淳司氏)という記事でも「中古住宅投資の危険性」を示す記述がある。

【エコノミストの記事】

今、日本は局地的に不動産がブームになっている。東京都心や湾岸、城南4区(品川、目黒、大田、世田谷)、神奈川の一部や京都の御所周辺は不自然なまでに価格が上がったバブル状態。福岡などでも需要増に基づく価格上昇が起こっている。

原因の1つは、史上最低ともいえる低金利。行き場を失ったマネーが不動産に流れているのだ。しかし、低金利政策も今やどんづまり。この先、日本で住宅ローンがマイナスになることには現実味がない。そしてこのブームもすでにピークアウトしたという見方が多くなってきた。今後は緩やかに価格が下がっていくはずだ

----------------------------------------

「(不動産の)ブームもすでにピークアウトしたという見方が多くなってきた」時期に、「緩やかに価格が下がっていくはず」の住宅を買うのは本当に正解なのか。「中古」であれば問題ないのか。「中古住宅の購入が正しい」と断定するには、あまりに根拠が乏しい。


※特集全体の評価はC(平均的)。暫定でCとしていた大堀達也記者への評価はCで確定させる。丸山仁見、酒井雅浩の両記者は暫定でCとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿