2015年12月2日水曜日

「プロの選び方」に異議あり! 東洋経済「マンション特集」(2)

週刊東洋経済12月5日号の第1特集「これからのマンション選び」の中に出てくる「プロの選び方教えます~タワマンは北向き・低層を狙え」(筆者はスタイルアクト社長の沖有人氏)という記事の問題点を引き続き解説していく。
大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

「自分の身の丈に合った物件を選ぶ」とよく聞くけれど、それはダメですね。30代前半でマンションを買うときに、今の身の丈に合わせてどうするんですか。

どんなマンションを買っても、相場が変動しないなら、毎年約100万円値下がりする。どのマンションも下落幅は同じです。率で考えれば高い物件の方がいい。背伸びするぐらいがちょうどいいのです。

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上記の説明も謎だ。「頭金1000万円で4000万円のマンションを買うのが身の丈に合っている」と思っている人は5000万円とか6000万円のマンションを買うべきだと沖氏は考えているのだろう。しかし根拠は示していない。「これから収入が大幅に増える」「家族がどんどん増えていく」という見通しがあるなら別だが、そうではない人が余計なローンを抱え込むことに何の意味があるのか分からない。

収入減による住宅ローン破綻を避けたいと考えるならば、今の身の丈よりもやや低めで考える方が無難だ。30代前半のときの収入が長期にわたって保証されているわけではないことを十分に考慮したい。

どんなマンションを買っても、相場が変動しないなら、毎年約100万円値下がりする。どのマンションも下落幅は同じです。率で考えれば高い物件の方がいい」という説明も納得できなかった。どのマンションも経年劣化で等しく価値が年間100万円低下するとしよう。自分ならば、5000万円のマンションよりも3000万円のマンションの方が好ましいと思える。

30代前半で購入して50年間住む場合、50年間の価値低下額は5000万円のマンションが5000万円で、3000万円のマンションが3000万円だ。3000万円のマンションの方が低下額が2000万円も少ない。死ぬまで住み続ける前提で買うのならば、価格が低めのマンションを狙う方が得策との結論になる。


【東洋経済の記事】

マクロ経済の動向にも関心を持ってください。特に注目すべきは金融政策です。下図のように、マンション価格は銀行の不動産に対する短期の貸出態度と強い相関関係があります。相関係数は実に0.9以上です。ここまで相関があるのは、住宅市場が大きく、価格の変動幅が限られているからです。オフィスや商業用不動産のように需給によって価格が上下しやすい場合、ここまでの連動性はありません。

金融緩和は2018年までは続くでしょうから、そこまではマンション市況は堅調でしょう。しかしその先は上がるときもあれば、下がるときもあるというサイクルに入る。貸出態度指数を見て下がる予兆があれば、そのときに売却してしまって、しばらく賃貸に住むというのも1つの方法です。

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ここまで相関があるのは、住宅市場が大きく、価格の変動幅が限られているから」という説明が謎だ。まず、市場が大きいと価格の変動幅が限られるのだろうか。為替市場や株式市場は、市場規模が小さいから価格が変動しやすいのだろうか。しかも「価格の変動幅が小さいから貸出態度指数と相関関係が生じる」という説明も疑問だ。これでは「なぜ連動するか」の説明になっていない。価格の変動幅が小さいものは全て貸出態度指数と連動するわけでもないだろう。

書き方が曖昧なので推測も入るが、沖氏は「金融緩和→貸出態度指数上昇→マンション価格上昇」という因果関係を想定しているのだろう。だとすると「金融緩和は2018年までは続くでしょうから、そこまではマンション市況は堅調でしょう」と書いているのも分かる。

ただ、これは記事に付けたグラフと整合しない。貸出態度指数と賃貸住宅価格は2007年まで上昇した後、08年、09年と急落している。リーマン・ショック後の景況感の悪化が関係しているのだろう。この局面でも金融緩和は続いていた。ゆえに、金融緩和が続く限り「マンション市況は堅調」とは言えない。因果関係で考えるならば「景気が悪くなると、その影響で貸出態度指数もマンション相場も下がりやすい」といったところか。

マンション価格の動向を沖氏の言い方に倣って述べるならば「これまでも、そしてこれからも、マンション相場は上がるときもあれば下がるときもある」となる。当たり前過ぎるが、そう言うしかない。


※記事の評価はD(問題あり)。沖有人氏の評価も暫定でDとする。

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