2015年5月30日土曜日

非正規比率上昇でも「雇用の質が改善」?

29日付の日経夕刊1面トップ記事「失業率18年ぶり低水準」によると、「雇用の質も改善している」らしい。何を基準に雇用の質を計るかは意見の分かれるところだろうが、記事の説明では納得できなかった。中身を見てみよう。


【日経の記事】
アントワープ(ベルギー)市内の広告
          ※写真と本文は無関係です

総務省が29日発表した4月の失業率は3カ月連続で改善した。未就職の状態で仕事を探している完全失業者数(季節調整値)は219万人で、前月に比べ2万人減った。このうち勤め先の都合による離職は4万人減の40万人となり、2002年以降で最も少なくなった。

正社員と非正規社員の両方が増え、雇用の質も改善している正規社員は前年同月比6万人増の3294万人、非正規社員は30万人増の1939万人だった。15歳から64歳の就業率は72.9%で0.5ポイント上昇した。


正規社員は前年同月比6万人増の3294万人、非正規社員は30万人増の1939万人」だとすると、非正規比率は明らかに上昇している。これで「雇用の質も改善している」と言えるだろうか。「正規社員減で非正規社員増ならば質の低下だが、両方とも人数が増えているから改善だ」と考えたのだろう。しかし、非正規比率が高まる状況を「質の改善」と言われても同意できない。

さらに言えば「正規社員」「非正規社員」という表現も正確さに欠ける。雇用統計は「社員」のみを対象にしているわけではない。総務省の発表資料でも「正規職員・従業員」「非正規職員・従業員」と表記している。簡潔に表現したいのならば「正規雇用者」などの表現を用いれば済む。

ついでに細かい点で注文を付けておく。


(1)「見方もある」は必要?

【日経の記事】

失業率はリーマン・ショック後の09年7月に5.5%に上昇したが、景気の持ち直しを受けて低下傾向が続いている。現行の賃金水準で働きたい人がすべて雇用されている「完全雇用」に一段と近づいたとの見方もある

「見方もある」は要らないだろう。失業率が低下しているのだから、完全雇用から遠ざかっていないのは明白だ。それより、日本ではどの程度の失業率になると完全雇用なのかに言及してほしかった。すでに「ほぼ完全雇用」との見方もあるようだが…。


(2)「採用が活発になり離職者が減った」?

【日経の記事】

景気の緩やかな回復を映し、雇用や企業の生産活動の改善が続いている。4月の完全失業率は3.3%と前月に比べ0.1ポイント低下。1997年4月以来、18年ぶりの低水準となった。企業の採用が活発になり離職者が減った。IT(情報技術)関連などの生産が増え、鉱工業生産指数は前月比1%増となった。ただ、家計の消費支出はマイナスで、個人消費の本格回復には至っていない。


企業の採用が活発になり離職者が減った」という説明が引っかかった。「企業の採用が活発になるからには雇用環境がいいので、解雇などによる離職者が減った」と言いたいのかもしれない。しかし、「企業が積極採用を進めているのならば、今の仕事を辞めても新しい職が見つかるだろう」と考える人が多くなり、自発的な離職者が増える可能性もある。つまり「企業の採用が活発になった」としても、「だったら離職者は当然減るよね」とはならない。

今回の場合、「企業の採用が活発になり求職者が減った」と書いてあった方が、失業率が低下した要因としてはしっくり来る。


(3)「4月にずれ込んだ」と書くと…

【日経の記事】

住宅リフォームなどの支出が減り「住居」が実質で20.6%減り、全体を大きく押し下げた。総務省は「増税前の駆け込み需要で膨らんだリフォーム費の支払いが4月にずれ込んだことが影響した」と説明した。


4月にずれ込んだ」のは「昨年4月」の話だろう。しかし記事の書き方だと、形式的には「今年4月」となってしまう。この辺りは丁寧に書いてほしい。「支出が減り『住居』が実質で20.6%減り」と「減り」を繰り返しているのも拙い。例えば「住宅リフォームなどの支出が落ち込んだため『住居』が実質で20.6%減り、全体を大きく押し下げた」とすれば、違和感はない。


※1面トップ記事なのに、全体として完成度が低すぎる。記事の評価はD。

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