2015年5月23日土曜日

「会社研究 ホンダ(下)」への疑問

「会社研究 ホンダ」には疑問が多く残った。特に22日付の(下)は理解に苦しむ説明が目立つ。その中でも気になったのが、ホンダの現地生産への評価だ。具体的に見てみよう。

【日経の記事】
グラン・プラス(ブリュッセル)で売られていた絵画
                          ※写真と本文は無関係です

だが、減産は4~9月期でほぼ一巡。北米での新型「シビック」投入を機に下期から反転攻勢に入る。その前にホンダは積年の課題にめどを付ける覚悟を決めた。

1980年代以降の北米展開で、ずばぬけた強さをホンダが示したのは徹底的な現地生産シフトで為替変動のリスクを抑えたことが大きい。北米の現地生産比率は99%と車7社で断トツだ。とくに金融危機後の円高局面ではその強さが際立ち、11年3月期に上場企業で最多の純利益を稼ぎ出す原動力となった。

だが構造的な円高対応が前期は裏目に出た。輸出比率が富士重工業で8割弱、トヨタ自動車も約5割に上るのに対し、ホンダはわずか3%。このため円安の追い風を生かせず、前期の円安効果は790億円と、販売台数で約5分の1の富士重(約1000億円)を下回る結果となった。


上記の説明からは「現地生産比率の高さがホンダの積年の課題」と受け取れる。しかし、そうだろうか。「積年の課題」と言うからには、現地生産比率の高さはずっと経営上の問題点とされてきたのだろう。ならば、なぜ積極的に現地生産シフトを進めたのかとの疑問が湧く。現地生産比率の高さが円高局面で強さを発揮したのならば、なおさら「積年の課題」だったのか疑わしい。こうした点に留意しながら記事を読み進めると、さらに疑問が浮かび上がってくる。


【日経の記事】

需要が伸びる海外への生産シフト自体は正しい戦略だが、国内で安定的に稼ぐことが前提だ。世界の研究開発の中枢を担う単独収益の悪化は、グローバル商品競争力の低下につながりかねない。岩村哲夫副社長は「リスクへの備えが不十分だった」と反省する。

ホンダは反攻に向けて始動した。一つは生産の国内回帰だ。今夏以降、「フィット」の英国での生産をとりやめ、メキシコからの移管分と合わせ約5万台分の生産を寄居工場に移す方向だ。これで稼働率低迷に直面する寄居工場の稼働率はほぼ100%になり、採算が上向く。今期の輸出比率は1割近くまで上昇する公算で、円安効果も享受しやすくなる。


筆者である奥貴史記者は「海外への生産シフト自体は正しい戦略」とも書いている。ならば「なぜ海外生産比率の高さが積年の課題なのか」との疑問はさらに膨らむ。「海外シフトは正しい戦略だが、国内で安定的に稼ぐことが前提だ」との主張をとりあえず受け入れるとしても、その解決策が海外から国内への生産移管というのは理解に苦しむ。

ホンダの場合、国内の工場の稼働率が高まるのは、海外生産を国内に戻して輸出するからのようだ。輸出は海外で稼いでいる分と考えるのが一般的。ならば、いくら稼働率が上がっても「国内で稼いでいる」とは言い難い。

世界の研究開発の中枢を担う単独収益の悪化は、グローバル商品競争力の低下につながりかねない」との説明も苦しい。単独での収益が厳しくても、海外子会社の業績が良いのならば、子会社から資金を吸い上げれば済む話。生産拠点を国内に移せる支配力を持っているのだから、資金を本体に動かすのも容易なはずだ。連結業績が良くても単独業績が悪化すると必要な研究開発資金を捻出できないような体制ならば、単独業績を改善させる前にやるべきことがある。

記事では、「円安メリットを享受できる体制が望ましい」と示唆している。しかし、一般的に言えば為替相場の変動で業績が大きく変わるよりも、影響を受けにくい方が望ましいはずだ。円安メリットがある企業は裏返せば円高デメリットもある。ホンダは望ましい方向から望ましくない方向へ動こうとしているようだが、それがなぜ必要なのか伝わってこなかった。

グループ全体の生産能力を削減しないまま国内生産にシフトすれば、国内の稼働率は上がっても海外の稼働率低下で相殺される。海外の生産能力を削って、その分を国内に回すのならば、国内で能力を減らしてはダメなのかとの話になる。

ホンダが国内に生産を戻すのには、それなりの合理的な根拠があるはずだ。記事に出ていた「地域間で車を融通し、需要が強い地域に柔軟に供給する」という話なら、まだ分かる。しかし「現地生産比率の高さがホンダの積年の課題で、円安メリットを得られるように国内回帰を進める」と言われると、首を傾げざるを得ない。

※記事の評価はD、奥貴史記者の評価もD(暫定)とする。

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