2015年5月29日金曜日

デフレ脱却は「日銀への信頼が高まってこそ」?

28日付の日経夕刊に出ていた「日銀ウオッチ~『弱気のタカ』なぜ生まれた?」(マーケット・投資2面)は基本的によく書けている。着眼点もいい。ただ、結論部分に以下のような気になる説明があった。

アントワープ中央駅(ベルギー) 
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日銀の金融政策に対する信頼が高まってこそ、人々が予想する物価上昇率が上がり、デフレ脱却も確実になる。それなのに、政策を決める肝心の政策委員会自体が揺らいでいないか。


筆者の石川潤記者は「人々が予想する物価上昇率が上がり、デフレ脱却も確実になる」ためには「日銀の金融政策に対する信頼」が高まる必要があると考えているようだ。しかし、そう簡単に言い切れるとは思えない。「信頼が一定の場合」や「信頼が失われた場合」でも、予想物価上昇率(あるいは実際の物価上昇率)は上がり得る。

言うまでもなく、物価は日銀の金融政策に対する信頼のみに左右されるわけではない。例えば、原油価格が短期間に現在の2倍となれば、日銀への信頼に変化がなくても予想物価上昇率は上がるはずだ。もちろん日銀への信頼度も物価に影響する可能性はある。日銀の金融政策に対する信頼が決定的に失われた場合も、「デフレ脱却」への道筋を描ける。「日銀は通貨価値を守るつもりがない。無茶な金融緩和で円の価値をどこまでも毀損させるつもりだ」と多くの人々が確信すれば、円資産からの逃避などを通じて「悪いインフレ」が実現する公算大だ。

そもそも、人々の期待に働きかけて物価上昇率を高めるという日銀の考え方には懐疑的な見方が多い。「日銀の金融政策に対する信頼が高まらないと、デフレ脱却も不可能」と断定するような書き方には疑問を感じた。

ついでにもう一点指摘しておく。


【日経の記事】

奇妙なのは3人が昨年10月の追加緩和に慎重だった委員だということだ。白井委員は最終的に賛成に回ったが、木内、佐藤の両委員は反対を貫いた。木内委員は今年4月以降、資金供給量を減らす独自提案を続けており、事実上の引き締めを求めてさえいる。

一般的に景気や物価に慎重であれば、追加緩和に積極的になるはず。だが実際には、景気や物価の先行きに慎重で、追加緩和にはさらに慎重だという委員が増えているように映る。

「弱気のタカ」がなぜ生まれるのだろうか。委員の頭の中をのぞくことはできないが、委員が現在の異次元緩和の効果自体に懐疑的になっているからだと考えると、辻つまが合う。


引っかかったのは「委員の頭の中をのぞくことはできない」というくだりだ。筆者の石川潤記者は「物価見通しに慎重なのに、なぜ追加緩和には消極的なのか」と3人の日銀政策委員について論じている。厳密な意味で言えば「頭の中をのぞくことはできない」。しかし、どういう考えから3人の委員が意見形成しているかは、各委員が講演で述べた内容などから推論できるはずだ。講演の内容は記事にもなっている。そうした材料はなぜ無視したのか不思議だ。

※記事の評価はC。日経の平均的な編集委員が書くコラムよりは質が高いと思える。石川潤記者の評価もC(暫定)とする。

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