2022年8月19日金曜日

2021年の豪州戦に負ければ「W杯への道が絶たれ」てた?日経 岸名章友記者の誤解

日本経済新聞の岸名章友記者は悪くない書き手だと思うが、19日夕刊の記事では事実誤認と思える記述があった。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

筑後川昇開橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 岸名章友様

19日の夕刊くらしナビ面に載った「スポーツの流儀:日本サッカーの未来図(3) 森保監督、『情と徹』で道開く~和製指揮官成功の試金石に」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「2021年10月、負ければワールドカップ(W杯)への道が絶たれるアジア最終予選オーストラリア戦」との説明です。

この試合に関して21年10月21日付の日経の記事では「負ければW杯出場が自動的に決まるB組2位以内が厳しくなる日本」と書いています。つまり「負け」でもまだ「2位以内」の可能性が残る訳です。「2位以内」が不可能となっても、3位ならばプレーオフを勝ち抜いて出場権を得る道があるので「ワールドカップ(W杯)への道が絶たれる」ためには「B組」4位以下を確定させる必要があります。しかし「オーストラリア戦」前の段階で7試合を残して3位の日本が、次の試合の負けで4位以下を確定するとは考えられません。

「2021年10月、負ければワールドカップ(W杯)への道が絶たれるアジア最終予選オーストラリア戦」という記述は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「スポーツの流儀:日本サッカーの未来図(3) 森保監督、『情と徹』で道開く~和製指揮官成功の試金石に」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220819&ng=DGKKZO63569770Z10C22A8KNTP00


※記事の評価はD(問題あり)。岸名章友記者への評価はB(優れている)からC(平均的)に引き下げる。岸名記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


武藤はCFとして海外で勝負できてない? 日経 岸名章友記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/cf.html

2022年8月15日月曜日

「偏差値時代、終幕の足音」が大げさな日経1面連載「教育岩盤~漂流する入試」

15日の日本経済新聞朝刊1面に載った「教育岩盤:漂流する入試(1)偏差値時代、終幕の足音~大学『推薦・総合型』が過半に 入学後の指導、重み増す」という記事。「偏差値時代、終幕の足音」という見出しにはインパクトがあるが、中身を伴っていない。「偏差値で大学が序列化される時代が終わろうとしている」と言い切った根拠に関する記述を見ていこう。

有明海

【日経の記事】

リクルート進学総研が今春、約1万1千人を対象にした調査では第1志望の大学に入れた受験生は68.3%で、前回の19年より14.8ポイント増えた。年内入試が主流になれば一般入試の難易度を示す偏差値は意味を失う。小林浩所長は「大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」と語る。


◎意味は失わないのでは?

「年内入試が主流になれば一般入試の難易度を示す偏差値は意味を失う」と日経は言うが、なぜそう思うのか謎だ。今回の記事では「全国の大学でのAOと推薦による入学者は00年度に33.1%だったが、21年度は50.3%で初めて半数を超えた」と説明している。つまり「年内入試が主流」になっている。日経の見立て通りならば、既に「偏差値」は意味を失っていてもいい。そうなっているのか。

「年内入試が主流」になっても「偏差値」は意味を失わないだろう。厳密に言えば「偏差値」で表される大学・学部の序列は意味を失わない。

「AOと推薦」の難易度も、その序列に従って決まるはずだ。「付属・系列校」を考えれば分かりやすい。基本的には大学入試の難易度に沿って「付属・系列校」の難易度も決まる。「大学が付属・系列校や指定校からの推薦などで入学者を年内に『囲い込む』動きが止まらない」らしいが、その時に「入学者」の多くは「付属・系列校」の「偏差値」を学校選びの基準にするだろう。その「偏差値」が大学のそれと連動するのだから「年内入試が主流」になっても「偏差値」は意味を持つ。

「大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」と見るのも無理がある。「大学選びの軸が偏差値しかない時代」がそもそもあったのか。学びたいこと、立地、学費なども以前から「軸」だったと思える。

今回の記事に驚くような内容はない。何とかインパクトを持たせようとして「偏差値で大学が序列化される時代が終わろうとしている」と大きく出たのだろう。しかし、書いた本人も「終わろうとして」いないことに気付いている気がする。


※今回取り上げた記事「教育岩盤:漂流する入試(1)偏差値時代、終幕の足音~大学『推薦・総合型』が過半に 入学後の指導、重み増す」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220815&ng=DGKKZO63430360V10C22A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年8月14日日曜日

野口悠紀雄氏のMMT批判が説得力欠くダイヤモンドオンラインの記事

一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏を経済評論家として高く評価してきたが11日付のダイヤモンドオンラインに載った「コロナ禍で“盛況”だった『MMT』はやはりインフレで破綻した」という記事には失望した。「MMT」が「インフレで破綻した」と思える内容になっていないからだ。記事の一部を見ていこう。

夕暮れ時

【ダイヤモンドオンラインの記事】

MMT(現代貨幣理論)という考えがある。

自国通貨で国債を発行できる国は決してデフォルトしない。だから、税などの負担なしに、国債を財源としていくらでも財政支出ができるという主張だ。

コロナ禍ではMMTを地で行くような大規模財政支出が米国や日本などで行われてきた。

従来の正統的な考えは、「国債を財源とすれば負担感がないので、財政支出が膨張しすぎ、インフレになる。だから、こうした財政運営を行ってはならない」とされてきた。

MMTは、従来の経済理論に対する挑戦と言われた。

しかし実は、新しい内容はほとんどない。これまでの経済理論の寄せ集めなのだが、従来の理論との唯一の違いは、こうした財政運営をすればインフレになることの危険を軽視したことだ。

「インフレにならないように注意すれば大丈夫」だと、いわば、最も重要な点をMMT論者ははぐらかしたわけだ。


◎逆では?

厳密に言うと「自国通貨で国債を発行できる国は決してデフォルトしない」と「MMT」では考えない。例外的な「デフォルト」を否定していない。

上記の説明でさらに問題なのは「従来の理論との唯一の違いは、こうした財政運営をすればインフレになることの危険を軽視したこと」とのくだりだ。「最も重要な点をMMT論者ははぐらかした」と野口氏は断言するが、そんなことはない。

MMT主唱者のステファニー・ケルトン氏は著書の中で以下のように述べている。

「過剰な支出によってインフレが起きてしまってから、事後的にインフレと戦うのは避けたい。議会が新たなプログラムへの支出を決定する前に、CBOのような政府機関が、新たな法律にインフレリスクがないか評価することで、リスクを事前に抑えるのが好ましい。要するにMMTは、財政支出に対する人工的制約(歳入)を、真の制約(インフレ)に置き換えることを目指している」

これを受けて、「MMT」に関して「インフレになることの危険を軽視した」「最も重要な点をMMT論者ははぐらかした」などと訴えるのは無理がある。「過剰な支出によってインフレが起きてしまってから、事後的にインフレと戦うのは避けたい」とまでケルトン氏は述べているのだ。

野口氏の主張をさらに見ていこう。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

MMTは、国債依存の財政運営は、「インフレが起きないかぎり、続けられる」としていた。

しかし、コロナの収束が視野に入って経済活動が再開されてくると、アメリカではインフレが起きてしまった。

6月の消費者物価の上昇率は前年比9.1増。ウクライナ戦争による資源価格上昇の影響もあるとはいえ、約40年半ぶりという高インフレだ。

同じような状況がヨーロッパでも他の国でも起きている。

つまり、多くの人が危惧していたように、MMTは実際には機能しないことが証明されたのだ。


◎おかしな説明では?

「MMT」が「国債依存の財政運営は、『インフレが起きないかぎり、続けられる』」と主張しているとしよう。この主張は「高インフレ」が起きると「実際には機能しないことが証明され」るだろうか。

「国債依存の財政運営でインフレが起きることはない」と訴えていたのならば分かる。しかし、そうした主張を「MMT」はしていない。「過剰な支出によってインフレが起き」ることを「MMT」は想定しているし危惧してもいる。

さらに続きを見ていく。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

経済学の教科書には、MMTが主張するような財政運営を行なえば、必ずインフレーションが起きると書いてある。

インフレが起きると人々の購買力が減るから、インフレは税の一種だ。しかも、所得の低い人に対して重い負担を課す過酷な税だ。

その通りであることが実証されたのだ。

誰も負担をせずに、財政支出の利益だけを享受できるという魔法が実現できるはずはない。”打出の小づち”などあり得ないというごく当たり前のことが実証されただけだと言える。


◎それはMMTも訴えているが…

「”打出の小づち”などあり得ないというごく当たり前のことが実証されただけだと言える」と書いてあると「MMT」は「”打出の小づち”」があり得ると主張しているように見える。もちろん、そうではない。

「政府支出には何の制約もないのだろうか。じゃんじゃん紙幣を印刷すれば経済は繫栄するのか。とんでもない。MMTは打出の小槌ではない。非常に重要な制約は存在する。それを見きわめ、尊重しなければ、とんでもないことになる」とケルトン氏は述べている。野口氏の見方とかなり近い。

今回の記事の中で「MMTの主張者の1人、ステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授は、『支出を行なう際に適切な措置が行われなかったからだ』と防戦しているが、説得性に欠けることは否めない」とも野口氏は書いている。どこが「説得性に欠ける」のか。「MMTは、財政支出に対する人工的制約(歳入)を、真の制約(インフレ)に置き換えることを目指している」。その「置き換え」が実現したのに「高インフレ」になったと言うなら、野口氏の主張には多少は説得力があるが…。

「野口氏もそろそろ書き手としての引退を考えた方が良いのでは」と思える記事だった。



※今回取り上げた記事「コロナ禍で“盛況”だった『MMT』はやはりインフレで破綻した」

https://diamond.jp/articles/-/307887


※記事の評価はD(問題あり)

2022年8月9日火曜日

雑なMMT批判が残念 藤巻健史氏「Xデイ到来~資産はこう守れ!」

 「Xデイ到来~資産はこう守れ!」という書籍の中で著者の藤巻健史氏がまたも雑なMMT(現代貨幣理論)批判を展開している。今回はそこを見ていく。

夕暮れ時の筑後川

【本の引用】

ロシアのウクライナ侵攻はMMTのインチキさも浮き彫りにしました。3月24日の日経新聞に「元米軍高官のベン・ホッジス氏は米欧の経済制裁が効力を発揮し、今後(注:ロシアの)戦費調達が苦しくなる」との記事がありました。

MMTだと「ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる。戦費調達、問題なし」ということになりますが、誰もそんなことを言い出しません。ばかばかしくて言い出す気にもなれないのでしょう。

MMTに関してはマネックス証券の創業者兼会長の松本大氏も、マネックスメール(マネックス証券が毎営業日に顧客に市況等を送っている電子メール)の中で次のように述べています。

「皆さん、MMT=現代貨幣理論って覚えてますか? ちょっと前によく聞いた、税金なんて上げるな、中央銀行がバンバンお金刷って国債買えばそれでいいじゃん! というアノ論です。

しかしこのMMTはまやかし、あるいはまやかしのようなもので、そんな錬金術がある訳がありません。でも日本にいると、国の歳出は歳入より断然大きい状況が恒常化していて、そのために国債の大量発行を続けていますが、金利は上がってこないので、もしかしたらこれはまやかしではなく本当に機能するのではないか? などと思ってしまったりするのです。

しかし、今のロシアを見てください。欧米が、世界が、ロシアを国際金融システムから排除しています。それはなぜか? ロシアを立ち行かせなくさせるためです。しかしもしMMTなるものが本当に機能するのならば、ロシアがドルを調達できなくする、即ちドル建ての債券発行をできなくするとか、関係ないでしょう。

ロシア中央銀行がルーブルを刷り、そのお金でルーブル建てのロシア国債を買い、国はそうして調達したお金で経済を回し、兵器を作ればいいではないですか。そんなこと夢物語ですよね? そんな話にだまされてはいけません。私の尊敬する知人の藤巻健史さんも同じことを仰っています。

今回のロシア・ウクライナ危機は、資本市場や安全保障という、人類が苦労して作ってきたけれども、その恩恵に与っている現代の人はその大切さと、どうしたら機能するかの要点を忘れがちなのを、まざまざと見えるようにしてくれていると思います。気をつけましょう」

まさに、松本氏のおっしゃる通りだと思います。


◎MMTの主張を理解しよう!

藤巻氏はMMTの本を読んだことがないらしい。しかしMMT批判はしたがる。「批判をしたいのならばMMTの基礎を学ぼう」とツイッターで呼びかけてみるが反応はない。

藤巻氏がMMT批判を展開する時にはMMTの主張をおかしな形に変えている場合が多い。今回もそうだ。

「MMTだと『ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる。戦費調達、問題なし』ということになります」と藤巻氏は言うが、そうはならない。

「ルーブル建て国債を発行してロシア中央銀行に引き受けてもらえば、いくらでもルーブルを発行できる」のは間違いない。だからと言って「戦費調達、問題なし」とはならない。2つの「問題」がある。まずインフレだ。MMTでは「過剰な支出の証拠はインフレである」(主唱者のケルトン氏)と見る。なので高インフレになってくると自国通貨建て(ロシアの場合はルーブル建て)でも「戦費調達」に「問題」が出てくる。

「米欧の経済制裁」との絡みで言えば、より重要なのは2つ目の「問題」だ。「政府には自国通貨で売られているものなら何でも買えるだけの力がある」とケルトン氏は述べている。なのでインフレを気にしない前提で言えば、戦争に必要なものが全て「ルーブル」で売られているのならば「戦費調達、問題なし」だ。

しかし、兵器を輸入しようとしても、それが「ルーブル」で買えないとなると「戦費調達」に「問題」が出てくる。

藤巻氏と「松本大氏」は本人たちが言うように、よく似ている。松本氏の「電子メール」を見る限り同氏がMMTの基礎を理解しているとは思えない。

「税金なんて上げるな、中央銀行がバンバンお金刷って国債買えばそれでいいじゃん!」とMMTは訴えていない。繰り返すがMMTでは「過剰な支出の証拠はインフレである」と見る。高インフレになった場合は増税も選択肢となる。

ちなみに「ロシア中央銀行がルーブルを刷り、そのお金でルーブル建てのロシア国債を買い、国はそうして調達したお金で経済を回し、兵器を作ればいいではないですか。そんなこと夢物語ですよね?」と松本氏は言うが「夢物語」ではない。

輸入に頼らず「経済を回し、兵器を作れ」る体制を築けばいいだけだ。簡単とは言わないが「夢物語」ではない。実際にロシアはそれに近いことができている。

「世界が、ロシアを国際金融システムから排除して」いるのにロシアが「経済を回し」戦争を続けられているのはなぜか。松本氏にはぜひ考えてほしい。


※今回取り上げた本「Xデイ到来~資産はこう守れ!」


※本の評価はD(問題あり)

2022年8月8日月曜日

今回も高く評価できる日経ビジネス上阪欣史副編集長「新型コロナウイルス対策の帰結を直視せよ」

 日経ビジネスの上阪欣史副編集長の主張には説得力がある。8月8日号の「ニュースを突く~新型コロナウイルス対策の帰結を直視せよ」という記事も良かった。中身を見ながら自分の思うところも述べてみたい。

夕暮れ時の筑後川

【日経ビジネスの記事】

新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を更新した。ワクチン接種を含め、現行の予防対策に本当に意味があるのか再考し、インフルエンザ並みの扱いに引き下げるべきだ。

7月下旬以降、日本の新規感染者数が米国を上回る状況が続いている。米ジョンズ・ホプキンス大学などのデータによると、7月24日時点の7日移動平均で米国が約12万8700人、日本が約15万500人。人口100万人当たりの感染者数でみると日本は同13日時点で世界平均の約4倍に達している。

日本では今なお、全国どこでもマスク姿の人ばかり。飲食店やビルの入り口には消毒液が置かれ、入場するたびに体温測定を求める施設も多い。大半の学校において生徒・児童は今も黙食を強いられている。

翻って米国。ニューヨークなどでは一部の公共交通機関でマスク姿の人も目にするが、全土ではノーマスクが圧倒的に多い。にもかかわらず、日本では感染者数が急拡大の一途をたどり、米国では緩やかに増えたり減ったりと波は高くない。日本の国民は不自由さに耐えながら、米国とは比べものにならないほど対策に躍起になっているのに皮肉と言わざるを得ない。


◎無駄な対策をやめよう!

先日、長崎県内の温泉宿泊施設を利用した。4人は入れるサウナがあり「感染防止のため利用は最大2名まで」との掲示物が入口に貼られている。そこに1人でいたら、中学生と小学生ぐらいの兄弟がやってきて、弟だけが入り兄が外で待っている。

「一緒に入ったらどうですか」

そう声をかけると「最大2名までと書いてあるので…」と言う。

「それを守らなくてもいいんじゃないですか」

さらに促すと「そうですね」と言って兄もサウナに入ってきた。

誰かに文句を言われたら「自分が入れと命じたんです」と返せばいいかと思っていたが、結局は自分が出るまで他の人が来ることはなかった。

コロナは怖い感染症ではない。子供の重症化リスクはほぼゼロだ。サウナで感染防止対策をどうしてもしたいなら「2名までの利用を推奨します」程度にしておけばいいのにと思う。

自分の行動に対して「大人が子供にルール違反を促してどうする」との批判もできるだろう。しかし今はあまりに無駄な対策が多すぎる。惰性でやっている部分も多いのではないか。その辺りを施設管理者にはぜひ考えてほしい。

記事の続きを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

コロナ封じ込めの要であるワクチンの効果にも疑問符がついている。7月26日公表の首相官邸のデータによると、ワクチン接種を2回終えた人は国民全体の約81%、3回目は約63%に達する。接種率は主要国でもトップクラスだが、それでも感染者は増え続けている。

ウイルスはオミクロン型の派生型「BA.5」が主流だが、名古屋大学の小島勢二名誉教授は「現行のワクチンは派生型に対して効き目が乏しく、予防効果のある期間も極めて短い」と説明する。

厚生労働省の資料からも、“不都合な真実”が浮かび上がる。6月20日~7月3日に半数以上の世代で、ワクチンを2回接種した人10万人当たりの新規陽性者数が、未接種者のそれを上回ったのである。小島名誉教授は「3回目を接種してもいずれ効果は下がり、逆に感染しやすくなる可能性が高い」と指摘。「人間が本来持っている免疫力をワクチンが低下させている恐れがある」と推察する。


◎期待外れに終わったワクチン

1年前の日本人に「ワクチン接種率はそのうち8割を超えるけど、来年の今頃には新規感染者数が連日の20万人超えになるよ」と教えたら驚くだろう。「8割を超えたら集団免疫を獲得して感染は収束するはずだ」と信じていた人が多かったのではないか。

新型コロナウイルスワクチンは期待外れに終わった。この認識は持っていい。「6月20日~7月3日に半数以上の世代で、ワクチンを2回接種した人10万人当たりの新規陽性者数が、未接種者のそれを上回った」のならばなおさらだ。

「3回目を接種してもいずれ効果は下がり、逆に感染しやすくなる可能性が高い」と「名古屋大学の小島勢二名誉教授」は述べているらしい。接種のリスクと利益を比較して「明らかに利益が上回る」と言える状況でない。若い世代ほど利益は期待しにくい。

そのことには上阪副編集長も触れている。そこも見ておこう。


【日経ビジネスの記事】

小杉中央クリニックの布施純郎院長は「接種後、歩行不能や長期の倦怠(けんたい)感を訴える患者の外来が増えている」と話す。

それでも政府はワクチン接種の効果を言いはやす。特に呼びかけたのは接種率が低い10~30代の若者だ。松野博一官房長官は7月「若い方でも重症化する可能性がある。できるだけ早い3回目接種を」と述べた。

だが、その呼びかけは説得力に乏しい。例えば、石川など3県で調査し、専門家会議に提出された厚労省のデータ。それによると1~2月の第6波の間、感染者のうちワクチン接種歴がない10代、20代の重症者数、死亡者数はゼロ。30代の重症者数は1人で死亡者数はゼロだった。

これとは別に7月19日時点の国内全体の感染症発生動向のデータでも10~30代の致死率、重症者の割合は小数点以下1桁までだと「0.0%」が並ぶ。一体、若年層がワクチンを打つ意義がどこにあるのだろうか。「政府が、在庫の山となりつつあるワクチンを廃棄処分にしたくないから」と想像するのは下衆の勘繰りか。

全世代の重症者数も7月下旬、東京都で十数人と極めて少ない。政府は感染症法上、コロナを結核などと同じ2類相当に指定しているが、季節性インフルエンザ並みの5類に早急に引き下げるべきだ。

そうすれば濃厚接触者探しや就業制限などもなくなる。無症状なのにわざわざPCR検査で陽性者をあぶり出す愚策もなくなるだろう。無症状、軽症ばかりのコロナと格闘し続けるより、生活や経済が犠牲になり続ける代償の方がよっぽど大きい。


◎完全に同意

「一体、若年層がワクチンを打つ意義がどこにあるのだろうか」

「季節性インフルエンザ並みの5類に早急に引き下げるべきだ」

「無症状、軽症ばかりのコロナと格闘し続けるより、生活や経済が犠牲になり続ける代償の方がよっぽど大きい」

完全に同意できる。上阪副編集長には今後も期待したい。


※今回取り上げた記事「ニュースを突く~新型コロナウイルス対策の帰結を直視せよ」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00190/


※記事の評価はB(優れている)。上阪欣史副編集長への評価はBを維持する。上阪副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「ワクチン2回の陽性率、半数世代で未接種上回る」を書いた上阪欣史 副編集長に敬意

https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/06/2.html

2022年8月4日木曜日

2割下落でも「高止まり」? 日経「欧州信用不安、車・流通にも」

「高止まり」は不適切な使い方が目立つ言葉だ。4日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に載った「欧州信用不安、車・流通にも~CDS保証料率高止まり 資源高連鎖で景気懸念」という記事は典型。「欧州でCDSの保証料率が高止まり」と説明文を付けたグラフも「高止まり」には見えない。明確に下落している。記事の説明も苦しい。

カモ

【日経の記事】

100社超の欧州企業のCDS保証料率を束ねた指数「アイ・トラックス・ヨーロッパ」の5年物は足元で1.0%程度と半年前の2倍近い。7月半ばには一時1.2%台後半と、コロナ危機が深刻だった20年3月以来の高水準となった。

足元ではやや低下したが、先んじて低下に転じていた北米や日本の同様の指数と比べると高止まりしている。6月後半に1%程度と欧州並みだった北米では、直近では0.8%台まで低下している。日本もそれに近い。米国で過度な利上げへの警戒が後退する過程で金利が下がり、投資家心理や市場環境が改善したことが大きい。


◎「やや低下」?

「足元ではやや低下したが、先んじて低下に転じていた北米や日本の同様の指数と比べると高止まりしている」と記事では解説している。

まず「やや低下」と言えるだろうか。「1.2%台後半」から「1.0%程度」まで下がったのならば約2割の「低下」だ。そこそこ下げている。「高止まり」とは「高水準での横ばい」を指す。1~2%下げたぐらいなら「横ばい圏」でもまだ分かるが、半月程度で2割も下がれば下落局面だと見るべきだ。

では「北米や日本の同様の指数と比べると高止まりしている」とは言えるのか。「6月後半に1%程度と欧州並みだった北米では、直近では0.8%台まで低下している」のだから、こちらも2割程度の「低下」。つまり「欧州並み」だ。

ただ、期間は約1カ月半と「北米」の方が長い。「7月半ば」以降の下げは「欧州」の方がきついと言える。それで「北米の同様の指数と比べると高止まりしている」と見るのは無理がある。

グラフを見ると「信用不安、日米欧で落ち着き~CDS保証料率が反落」といった方向で話を作った方が素直だったと思える。



※今回取り上げた記事「欧州信用不安、車・流通にも~CDS保証料率高止まり 資源高連鎖で景気懸念」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220804&ng=DGKKZO63158730T00C22A8ENG000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年8月1日月曜日

「危機は常に『未踏』の場所から」が苦しすぎる日経 小平龍四郎編集委員

ネタ切れなのか。1日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に小平龍四郎編集委員が書いた「危機はいつも『未体験ゾーン』から~『有望市場』一転、投資困難に」という記事は苦しい内容だった。「危機は常に『未踏』の場所から」と見る小平編集委員の分析に説得力はあるのか。そこに注目したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

危機は常に「未踏」の場所から――。私たちの記憶に刻まれているのは、ちょうど25年前の夏の出来事だ。1997年7月から始まったアジア通貨危機は、同年11月の日本版金融危機の背景ともなり、翌年のロシア危機へと連鎖した。

危機の震源地となったのはタイ。高い経済成長で先進国の投資を引きつけていたが、ファンドを牛耳る多くのトレーダーは、むせかえる高温多湿の東南アジア新興国に足を踏み入れたことなどなかったのではないか。冷房のきいたオフィスに陣取り、情報端末をにらみながら新興国投資に傾斜する若者を見たこともある。


◎想像が頼り?

「ファンドを牛耳る多くのトレーダーは、むせかえる高温多湿の東南アジア新興国に足を踏み入れたことなどなかったのではないか」と小平編集委員は振り返る。「タイ」が「『未踏』の場所」かどうかは推測頼みのようだ。

さらに言えば「冷房のきいたオフィスに陣取り、情報端末をにらみながら新興国投資に傾斜する若者を見たこともある」としても、その「若者」がタイを訪れたことがないとは限らない。

この後「『未踏』の場所」の話はさらに厳しくなる。


【日経の記事】

スリランカ、パキスタン、バングラデシュ――。経済や政情の混乱で、金融システムの火種とも意識されるようになった国々は、位置づけとしては、四半世紀前のタイなど東南アジア諸国に近いものがある。足を踏み入れたことはないが、それだけに興味をそそられ、新しい投資機会も想起させる。アジア新興国の成熟に伴い、手つかずの市場を探すマネーが流れ込む構図だ。


◎例はこれだけ?

「アジア通貨危機」と最近の「スリランカ、パキスタン、バングラデシュ」。「危機は常に『未踏』の場所から」というものの事例はこれだけだ。しかも「スリランカ、パキスタン、バングラデシュ」に関しては「足を踏み入れたことはないが」と書いているだけで、誰にとっての「未踏」なのか不明。

日本のバブル崩壊、リーマンショック、欧州債務危機ーー。「危機」は色々とあった。それらを踏まえても「危機は常に『未踏』の場所から」と言えるのか。小平編集委員も、そこは分かっているはずだ。

「ネタに困って苦し紛れに話をまとめた」と考えれば腑には落ちる。


※今回取り上げた記事「危機はいつも『未体験ゾーン』から~『有望市場』一転、投資困難に」


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「近づく百貨店終焉の足音」を描けていない日経 小平龍四郎編集委員の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_7.html

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html

日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_14.html

相変わらず問題多い日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_53.html

 何のためのインド出張? 日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post.html