2018年2月15日木曜日

「まとめ」に無理あり 日経「米アパレル市場 迅速配送で開拓」

記者が書くからなのか、デスクが求めるからなのか--。14日の日本経済新聞夕刊総合面に「米アパレル市場 迅速配送で開拓 『鎌倉シャツ』は現地に倉庫」という記事が載った。いわゆる「まとめ物」だ。一応は3社の動向をまとめているが、中身はスカスカだ。このレベルで世に送り出しても、記事の作り手としての能力の低さを証明するだけだ。
水天宮(東京都中央区)※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で問題点を指摘してみる。

【日経の記事】

日本のファッション企業が倉庫を使った迅速な配送で米国市場を開拓する。メーカーズシャツ鎌倉(神奈川県鎌倉市)は米国に設置する物流倉庫からの配送を3月に始める。カジュアル衣料店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングも物流施設の設立を検討する。米国ではアマゾン・ドット・コムが強敵だが、迅速な配送によるネット販売の強化で米国進出に本腰を入れる。

メーカーズシャツ鎌倉はニュージャージー州に倉庫を設ける。当初の広さは約330平方メートル。定番のドレスシャツを中心に幅広い商品を扱う。日本から空輸で2週間ほどかかっていたのが、米国の倉庫から直送することで、ニューヨークなど東海岸の近い場所なら最短で翌日に届くという。

倉庫などの初期投資額は1千万円弱を見込む。ネットの売上高は約10億円だが、数年内に15億~20億円に増やす計画だ。

バロックジャパンリミテッドも米国の倉庫を活用して短時間配送に取り組む。昨年11月に米国向けの通販サイトを立ち上げたが、注文から数日内に届けるようにする。ファーストリテイリングも将来的に米国で物流施設の設置を検討する。物流を強化して、米国のネット販売を増やす戦略だ。


◎実質1社モノのような…

この記事は実質的には「メーカーズシャツ鎌倉」の1社モノだ。

「バロックジャパンリミテッド」については、自社の倉庫なのかどうか不明だし、米国のどこに倉庫があるかも分からない。既に「米国の倉庫を活用」しているのか、これから「活用」するのかも判然としない。これでは情報としての価値が乏しい。

「ファーストリテイリング」に関しては、さらに苦しい。最初の段落で「ファーストリテイリングも物流施設の設立を検討する」と出てきたので、第2段落以降で詳細な情報を提供するのかと思ったが「ファーストリテイリングも将来的に米国で物流施設の設置を検討する。物流を強化して、米国のネット販売を増やす戦略だ」と同じような話を繰り返しているだけだ。

では「メーカーズシャツ鎌倉」の話は凄いかと言うと、これも大したことはない。「当初の広さは約330平方メートル」で「初期投資額は1千万円弱」。1社モノならばベタ記事が精いっぱいだ。まとめ物にして扱いを大きくしようとの意図は理解できるが、無理があり過ぎる。

ついでに言うと「ネットの売上高は約10億円だが、数年内に15億~20億円に増やす計画だ」との説明にも問題を感じた。ここでは「メーカーズシャツ鎌倉」の国内も含むネット販売の話をしているのだろう(断定はできない)。だが、「倉庫を使った迅速な配送で米国市場を開拓する」というテーマなのだから、米国での「ネットの売上高」を説明すべきだ。非常に小さい金額になるかもしれないが、そこは仕方がない。

さらに言うと「約10億円」が年間の「売上高」ならば、その点は明示した方がいい。いつの「売上高」かも欲しい。「数年内」もできるだけ具体的な年数を入れたい。例えば「2017年3月期のネット販売は約10億円だったが、3~4年後には15億~20億円に増やす計画だ」となっていると「ちゃんと書いている感じ」がかなり出てくる。



※今回取り上げた記事「米アパレル市場 迅速配送で開拓 『鎌倉シャツ』は現地に倉庫」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180214&ng=DGKKZO26882330U8A210C1EAF000

※記事の評価はD(問題あり)。

2018年2月14日水曜日

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」

日本経済新聞の朝刊1面で連載している「モネータ 女神の警告~広がるきしみ」は問題が多い。14日の「(2)金融政策と財政、ずれる歯車 止まらぬ大盤振る舞い」という記事では、誤りと思える説明もあった。記事の当該部分と日経への問い合わせは以下の通り。
横浜ランドマークタワー(横浜市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

金融危機後の景気テコ入れを狙い、各国政府は財政のアクセルを強く踏んだ。お金をため込むばかりの企業・家計に代わる最大の使い手として振る舞い、マネーの奔流を勢いづかせた。

減税や財政出動へ借金を重ねられた底流には中央銀行の金融緩和がある。中銀が大量の国債を買って金利を低く抑え、政府は資金繰りの心配から解放された。

国際金融協会によると世界の政府部門が抱える負債は昨年9月末時点で63兆ドル(約6800兆円)とこの10年で倍増した。政府部門の負債は金融機関を上回る。世界全体の国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率は、金融危機前の6割から9割に上昇した。


【日経への問い合わせ】

「モネータ 女神の警告~広がるきしみ(2)金融政策と財政、ずれる歯車 止まらぬ大盤振る舞い」という記事についてお尋ねします。記事には「金融危機後の景気テコ入れを狙い、各国政府は財政のアクセルを強く踏んだ。お金をため込むばかりの企業・家計に代わる最大の使い手として振る舞い、マネーの奔流を勢いづかせた」との記述があります。

しかし、日本の場合はGDPに占める個人消費の比率が約6割なので、政府が「企業・家計に代わる最大の使い手」にはなっていません。米国は個人消費が約7割を占めますし、他の主要国も多くは5割を超えているようです。政府が「企業・家計に代わる最大の使い手」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

他にも気になる点を指摘しておきます。

記事では「お金をため込むばかりの企業・家計」と断言していますが、記事に付けた「債務残高は政府が金融機関を逆転した」とのタイトルのグラフを見ると、「企業」の債務残高は2013年まで「政府」とほぼ同水準なのに、その後は「政府」を上回っています。「債務」を膨らませて政府が支出を増やしているとすれば、「企業」も同じか政府以上ではありませんか。

記事には「各国政府」に関して「減税や財政出動へ借金を重ねられた底流には中央銀行の金融緩和がある。中銀が大量の国債を買って金利を低く抑え、政府は資金繰りの心配から解放された」との説明もあります。だとすると、なぜ昨年からベネズエラでは債務問題が続いているのでしょうか。債務不履行の問題も起きているので「政府は資金繰りの心配から解放された」とは言えません。記事では、世界を単純に捉え過ぎていませんか。

ギリシャに関する「カネ余りを背にした国債発行で財政を再建し、国際支援から脱する腹づもりだった」との説明にも問題を感じました。基本的に「国債発行で財政を再建」とはならないはずです。可能ならば、日本も「国債発行で財政を再建」したいところです。

問い合わせは以上です。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~広がるきしみ(2)金融政策と財政、ずれる歯車 止まらぬ大盤振る舞い」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180214&ng=DGKKZO26844780T10C18A2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

2018年2月13日火曜日

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」

13日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~広がるきしみ(1)自動取引『1秒に10億回』 膨張に拍車 暴発のリスク」という記事は色々と分かりにくかった。記事を見ながら具体的に指摘してみたい。
横浜ワールドポーターズ(横浜市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

異次元の領域に達したマネーは危うさをはらみながら増幅への回転を続けている。マネーの流れは人々の欲望や打算と響き合いながら膨れあがり、そこかしこできしみを広げる。女神の警告は届いているのか。

突然だった。5日午後3時すぎ、米ダウ工業株30種平均が急落、15分で下げ幅は700ドルを超えた。「損切りだ!」。シカゴ・オプション取引所のフロアは被害を食い止めたいトレーダーの怒号に包まれた。

金利の急上昇を起点とする変動率拡大を受け、コンピューターの自動取引が大量の売りを出した。1日の下げ幅は過去最大の1175ドルに達し、米国で1兆ドル(約110兆円)を超す株式時価総額が消えた。


◎どういう流れ?

上記の説明は流れが分かりにくい。「米ダウ工業株30種平均が急落、15分で下げ幅は700ドルを超えた」のが始まりだ。その後に「シカゴ・オプション取引所のフロアは被害を食い止めたいトレーダーの怒号に包まれた」という。なぜ「オプション取引所」なのか、どのオプションに関する「損切り」なのかの説明はない。

そして「金利の急上昇を起点とする変動率拡大を受け、コンピューターの自動取引が大量の売りを出した」結果、「1日の下げ幅は過去最大の1175ドルに達し」たらしい。

「シカゴ・オプション取引所のフロア」にいたトレーダーの「損切り」と「コンピューターの自動取引」がどう関連しているかも謎だ。VIX指数が関係するのかもしれないが、記事は何も教えてくれない。

今回の記事は「自動取引が下げを増幅させた」という話が柱になっているが、「シカゴ・オプション取引所のフロア」にいた「トレーダー」が重要な役割を果たしたのならば、かなり話が変わってくる。しかし、その辺りにも記事では触れていない。「コンピューターの自動取引が大量の売りを出した」のがオプション関連か株式現物かも不明だ(株式だとは思うが…)。

この後の説明はさらに解釈に迷った。

【日経の記事】

1987年の「ブラックマンデー」もプログラム取引が背景にあった。だが今やその規模は当時と桁違いだ。JPモルガン・チェースのマルコ・コラノビッチ氏によると、米国の株式運用資産の6割は機械的な運用で、10年前の2倍に増えた。人が執行に関わる売買は1割にすぎないという。



◎残りの3割は?

「米国の株式運用資産の6割は機械的な運用」で「人が執行に関わる売買は1割にすぎない」とすると、残りの3割は何なのか。
水天宮(東京都中央区)※写真と本文は無関係です

しかも「機械的な運用」が何を指すのか謎だ。文脈的には「機械的な運用=コンピューターの自動取引」と理解したくなる。しかし、記事に付けたグラフを見るとよく分からなくなる。

「米国市場では機械的な運用が過半(株式運用資産に占める割合)」というタイトルが付いたグラフを見ると「コンピューター運用や指数連動型ファンド」が60%で「その他」が40%となっている。

記事を読んだ時は「米国の株式市場では売買の60%がコンピューターの自動取引」と理解した。しかし、グラフからは「売買」ではなく「資産残高」に関する比率で、しかも60%は「コンピューターの自動取引」を含むものの、それだけではないと取れる。

「機械的な運用」だからと言って「人が執行に関わらない」とは限らないのかもしれない。だが、説明が不十分なので謎は解けない。

付け加えると、ブラックマンデーの時と比べて「プログラム取引」の規模が「桁違い」だと言うのならば「当時」はどの程度の規模だったのか明示してほしい。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

空前の金融緩和はあふれんばかりのマネーを市場に流してきた。2006年からの10年間で世界の通貨供給量は8割増え、世界の運用資産は80兆ドル超と04年の2倍に達した。マネーの水たまりは国債をはじめ様々な資産の利回りを低下させ、息の長い投資に対する展望を見失わせた。

短期のサヤ取りの繰り返しに活路を見いだしたマネーは、速度と頻度を求めてコンピューターと結びつき「無機質なマネー」を増殖させた。アルゴリズムの高速売買が膨張に拍車をかける。処理能力は速いもので10億分の1秒。売買は人の手を離れていく。

だが近視眼的な売買は、ちょっとした潮目の変化にも一斉に反応する。米国から日本、欧州へと続いた自動取引の共振。乾いたまきに燃え移った炎のような勢いに市場は立ちすくんだ。


◎「息の長い投資に対する展望を見失わせた」?

上記の説明も納得できなかった。国債の利回りは低下したかもしれないが、株式はこれまで順調に利回りを確保してきた。「株式に長期投資すれば今後もそこそこ利回りが得られる」との「展望」は持てたのではないか。本当に最近の市場環境は「息の長い投資に対する展望を見失わせた」のか。

ついでに言うと「市場は立ちすくんだ」との説明も苦しい。売買の中心が「コンピューターの自動取引」になっているのならば、市場は「立ちすくんだ」りしない。どんな大きな暴落が起きようと、プログラムに従って瞬時に売買注文を出すはずだ。「市場関係者は立ちすくんだ」ならば分かるが…。

記事の終盤も見ていこう。

【日経の記事】

無機質マネーの奔流はあらゆる資産をのみ込む。17年6月26日、ニューヨーク金先物市場で、わずか1分間にフィンランドの金準備を上回る180万トロイオンス(約56トン)が取引された。誤発注とみられる売りに自動取引のマネーが群がり、売買が異様に増幅された。

米コロンビア大のスティグリッツ教授は自動取引の拡大を「変動率の上昇につながり、社会コストを増大させる」と警告した。低金利のぬるま湯で膨れあがった無機質なマネーは、緩和の「出口」を前に思わぬリスクをあらわにした。経済の実態から離れた膨張マネーがもたらすのは発展か、混沌か。市場は新たな問いをつきつけられている。


◎「フィンランドの金準備」で説明されても…


まず「わずか1分間にフィンランドの金準備を上回る180万トロイオンス(約56トン)が取引された」と言われても、その異常さがよく分からない。「フィンランドの金準備」が大きいのか小さいのかよく分からないからだ。例えば「通常の1カ月分に当たる取引がわずか1分間で~」といった比較なら、凄さを実感できる。

ついでに言うと、「つきつけられている」は「突き付けられている」と表記してほしかった。平仮名が続くと読みづらい。「膨れあがった」も「膨れ上がった」の方が個人的には読みやすい。


※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~広がるきしみ(1)自動取引『1秒に10億回』 膨張に拍車 暴発のリスク」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180213&ng=DGKKZO26811590S8A210C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

エーザイに厳しすぎない? 週刊ダイヤモンド土本匡孝記者

週刊ダイヤモンド2月17日号に載った「財務で会社を読む エーザイ~特許切れの崖から落ちたまま 次の認知症薬が復活の鍵を握る」という記事では、「特許切れの崖から落ちたまま」との状況認識に疑問が残った。筆者の土本匡孝記者はエーザイに関して「崖の下から這い上がれるか」「崖下に落ちた業績低迷の状態から抜け出るべく」などと記しているが、実際の業績を見ると「崖下に落ちた」とは言い難い。
善道寺(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事では以下のように説明している。

【ダイヤモンドの記事】

今年で経営トップに就いて30年、創業家筋の内藤晴夫代表執行役CEO(最高経営責任者)が率いる同社の顔といえばアルツハイマー型認知症治療薬だ。この領域で世界初の薬「アリセプト(一般名ドネペジル)」を1997年に発売すると、ピーク時の10年3月期には世界で約3200億円を売り上げた。アリセプトはエーザイの名を一気に世界に広めた。

エーザイは武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共と並んで、国内大手製薬4社の一角に数えられる。業界最高水準の給与(17年3月期有価証券報告書で平均年間給与1039万円)、「日本製薬団体連合会」トップなどを務めてきた会社としての“格”──などを総合評価して、業界内でそう位置付けられてきた。

だが肝心の売上高はアリセプトが10年以降、米国など世界の主要マーケットで相次いで特許が切れると、他社から後発品が発売されて一気に落ち込んだ。いわゆる「パテントクリフ(特許の崖)」に突入したのだ。

同じく主力製品だった消化性潰瘍治療薬「パリエット(一般名ラベプラゾールナトリウム)」もほぼ同時期に特許切れし、主力2製品の後退と歩調を合わせて売上高は減少。10年3月期は他の3社よりやや劣勢という程度だったが、今では3社と比べ2分の1~3分の1ほどだ。純利益も徐々に見劣り感が出てきた(図(2)、(3))。

収益性を測るROE(自己資本利益率)は、柳CFOが「いまだ十分な数字ではない」と認める通り、17年3月期で6.8%。こちらも徐々に低下してきた(図(4))。

大手製薬会社のある幹部は、「エーザイが座ってきた『国内大手』と呼ばれる席はいいかげん、好調な中外製薬に入れ替えるべき」と、“エーザイ切り”を言ってはばからない。それほど、エーザイの足元の業績は厳しい。

製薬会社の業績はイノベーションによるところが大きい。製品の当たり外れで業績が乱高下するのは常である。

冒頭の柳CFOの発言のように、エーザイは手をこまねいているわけではない。崖下に落ちた業績低迷の状態から抜け出るべく、「アリセプト景気をはるかに超える頂を築き得る」とうわさされる新薬を仕込んでいる。

米バイオ医薬大手バイオジェンと共同開発中の次世代アルツハイマー型認知症治療薬3剤のことで、それらは2月2日時点で第2~第3相試験中だ。


◎「崖下に落ちた業績低迷」?

「売上高はアリセプトが10年以降、米国など世界の主要マーケットで相次いで特許が切れると、他社から後発品が発売されて一気に落ち込んだ」のは分かる。しかし「崖下に落ちた業績低迷の状態」と言われるほどだろうか。

土本記者は「(大手3社に比べて)純利益も徐々に見劣り感が出てきた」というものの、純利益は10年3月期が403億円で17年3月期が394億円。18年3月期の見通しも398億円といずれも400億円前後だ。

「崖下に落ちた業績低迷の状態」かどうかを見る上で重視すべきなのは売上高よりも利益だ。アリセプトの特許切れの後も利益水準をほぼ維持しているのであれば、健闘と評価してもいい。

しかも「13年3月期以降、研究開発費が売上高比率約21~24%と高い傾向にあり、業績を圧迫している」という。将来への投資を削って利益を確保しているわけでもない。これで「崖下に落ちた業績低迷の状態」と評するのは酷だ。


※今回取り上げた記事「財務で会社を読む エーザイ~特許切れの崖から落ちたまま 次の認知症薬が復活の鍵を握る」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/22688


※記事の評価はD(問題あり)。土本匡孝記者への評価もDを据え置く。

2018年2月12日月曜日

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾

日経ビジネスではいつも「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション」というコラムを最初に読んでいる。書き手としての小田嶋隆氏を高く評価しているからだが、2月12日号の「8100億円くらいじゃ驚かない」という記事のメディア批判は説得力がなかった。自己矛盾があると言ってもいい。
隅田川(東京都中央区・江東区)※写真と本文は無関係です

記事では「1月26日、東京都が2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会関連経費として、新たに約8100億円を計上すると発表した」ことに関する報道の少なさを問題視。さらに「この先、東京五輪に関して、大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか」と懸念を示している。だが、その懸念に無理がある。

記事の一部を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

で、このたび、その確定しているかに見えた大会経費とは別に、「大会関連経費」という予算が浮上して、その8100億円にのぼる金額が新たに都の負担に加算される旨が発表されたのが現在の状況だ。

しかも、誰も驚いていない。

というのも、メディアの扱いがずいぶんと小さいのだ。毎日新聞が比較的大きな行数を割いて伝えたことを別にすると、他の扱いはいずれも控えめだ。産経新聞は、8100億円のうち、30年度分の予算で計上される3200億円の部分をわざわざ切り出して引用し《東京都、五輪関連費3200億円計上 30年度予算案 小池知事「東京大会の成功とその先の未来に」》という見出しの記事を掲載している。テレビ各局は、私の観測範囲では、ほとんど時間を割いていない。

よそでも何度か書いたことだが、東京五輪については、新聞4社(読売新聞東京本社、朝日新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社)が、オフィシャルパートナー契約を締結している。本来、スポンサーシップは「1業種1社」が原則なのだが、国際オリンピック委員会(IOC)との協議の結果、特例として4社の契約が認められたカタチだ。言うまでもないことだが、テレビは、五輪の放送に関しては、完全なステークホルダー(利害関係者)だ。これはメディアにおける事実上の国家総動員体制、といっても差し支えないのではないか。

となるとつまり、この先、東京五輪に関して、大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか。

繰り返して申し上げると、予算の膨張に驚いてはいない。その先までがあまりにも予想通りの展開すぎることに、ただただ驚いている。


◇   ◇   ◇

上記の説明に関する疑問点は3つある。

◎疑問その1~毎日にも「期待できない」?

毎日新聞は東京五輪について「オフィシャルパートナー契約を締結している」のに、今回の問題で「比較的大きな行数を割いて伝えた」と記している。だとしたら、少なくとも毎日には期待していいのではないか。「比較的大きな行数を割いて伝えた」毎日まで「メディアにおける事実上の国家総動員体制」の一員にしてよいのか。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です


◎疑問その2~雑誌にも「期待できない」?

テレビと新聞がダメならば「大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない」のだろうか。「大手」の定義次第ではあるが、雑誌に期待してもいいのではないか。そして、次に触れるが日経ビジネスもその1つだ。


◎疑問その3~日経にも「期待できない」?

日経ビジネスを発行している日経BP社は日本経済新聞社のグループ会社だ。なので、日経ビジネスに「期待できる」とすればグループとしての日経には期待していい。

そして今回、小田嶋氏は自らのコラムを通じて「大手商業メディア経由」で五輪予算に関する「批判的な報道」を展開しているとも言える。日経ビジネスの編集部が「メディアにおける事実上の国家総動員体制」に組み込まれているのならば、今回のような内容のコラムは掲載が許されなかったはずだ。しかし、実際には堂々と載っている。

自らが「大手商業メディア経由」で五輪関連の「予算の膨張」を批判しているのに「大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか」と心配する方がおかしい。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/257045/020500142/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。これまでの記事のレベルの高さを考慮して、小田嶋隆氏への評価はA(非常に優れている)を据え置く。

2018年2月11日日曜日

「キャメロン発言が示唆に富む」? 日経ビジネス安藤毅編集委員

日経ビジネス2月12日号の「ニュースを突く~11年前のトラウマと改憲」という記事に辻褄の合わない説明が出てくる。筆者の安藤毅編集委員は英国の国民投票から得られる教訓として、キャメロン前英首相の発言を引用しながら以下のように解説している。
横浜赤レンガ倉庫(横浜市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

国民投票のハードルの高さも相当なものだ。参考になるのが16年、英国やイタリアで国民投票が否決され、ともに首相が退陣に追い込まれたケースだ。欧州連合からの離脱を巡る国民投票が事実上信任投票になった末に敗北した英のキャメロン前首相が衆院憲法審査会議員団に語った言葉が示唆に富む。「人々は現状維持に傾きがち。現状を変更したい側は少なくとも60%程度の賛成者がいるような状況にしておく必要がある」


◎本当に「示唆に富む」?

上記の解説を読んで「キャメロン前首相の言葉は示唆に富むなぁ…」と思えただろうか。個人的には「えっ? どういうこと?」と混乱してしまった。

まず、「欧州連合からの離脱を巡る国民投票」の直前の状況を確認しておこう。2016年6月27日の日経ビッグデータの記事では以下のように記している。

【日経ビッグデータの記事】

報道で多く取り上げられている調査は、ユーガブ(YouGov)という調査会社が発表したものである。2014年のスコットランド独立住民投票の際に、ほぼ正確に結果を予想したことで注目された会社だ。ユーガブの調査は何回か行われているが、投票の前日に発表された投票前最後の調査の結果は残留支持が51%で離脱支持が49%、投票日に行われた調査では残留支持が52%で離脱支持が48%だったという。しかしながら、実際の投票結果は、残留支持が48.1%、離脱支持が51.9%というみなさんご存じの結果となった。

◇   ◇   ◇

英国では国民投票前に残留支持と離脱支持が拮抗しており、強いて言えば残留支持が優勢だった。しかし、投票結果は離脱支持が上回った。当然ながら「現状を変更したい側」に当たるのが離脱支持だ。そして、キャメロン前首相は残留(現状維持)を目指していた。

「現状を変更したい側は少なくとも60%程度の賛成者がいるような状況にしておく必要がある」という発言が説得力を持つためには「直前の世論調査では離脱支持がやや優勢だったのに、結果としては残留派が勝利した」となる必要がある。しかし、結果は逆だ。

「現状を変更したい側」の賛成者は直前まで50%弱だったのに、国民投票では勝利を得ている。なのになぜ「現状を変更したい側は少なくとも60%程度の賛成者がいるような状況にしておく必要がある」とのキャメロン前首相の言葉を「示唆に富む」ものとして受け止めたのか。安藤編集委員の気持ちが理解できない。

英国の国民投票から教訓を得るとしたら「現状を変更したくない側は少なくとも60%程度の賛成者がいるような状況にしておく必要がある」となるはずだが…。


※今回取り上げた記事「ニュースを突く~11年前のトラウマと改憲」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/092900002/020700136/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。日経ビジネスでこれまでに書いた記事の安定感を評価して安藤毅編集委員への評価はC(平均的)とする。

2018年2月10日土曜日

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと

「人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景は、遠からず消え去る」という大胆な予測から日経ビジネス2月12日号の特集「見えてきたクルマの未来」は始まる。衝撃的な予測ではある。これを実現するには、自動運転の技術進歩だけでは足りない。まず、新車販売は全てレベル4以上の自動運転車になる必要がある。つまり、運転を楽しむためにスポーツカーを買う人がいなくなることを意味する。
福岡空港(福岡市博多区)※写真と本文は無関係です

さらには、世に出回っている自動運転レベル3以下のクルマに乗る人もゼロにしなければならない。常識的に考えると、かなり時間がかかりそうだ。取材班(山崎良兵副編集長、佐伯真也記者、庄司容子記者、小笠原啓副編集長)は特集の中で「遠からず消え去る」と言える根拠を提示しているだろうか。

この問題に触れていると思われる「PART 3~走る5000万台 笑う業界、泣く業界 2030年、クルマと社会はこう変わる」という記事の一部を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

2030年には新車販売の半分が「レベル4」以上の自動運転車になる──。こんな予測を示すのは、米コンサルティング会社のPwC Strategy&だ。米国、欧州、中国といった世界の主要市場で、大半の場面でドライバーが不要になる完全自動運転のクルマが販売の主流になるという。



◎2030年でもレベル4以上は半分止まり…

「2030年には新車販売の半分が『レベル4』以上の自動運転車になる」としても、半分は「人間がハンドルを握ってクルマを運転する」場合もあるレベル3以下だ。しかも、2029年までに販売されたクルマが色々なところを走り回っている。12年後でも「人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景」が「消え去る」可能性はゼロに近い。

だとすると「消え去る」のはいつなのか。結局、取材班は答えを示してくれない。「見えてきたクルマの未来」とのタイトルを付けて「人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景は、遠からず消え去る」と冒頭で言い切ったのは何だったのか。騙しだと言われても仕方がない。

ついでに、記事の中の「渋滞時間~全て自動運転なら解消 一部だけなら悪化も」という解説にも注文を付けたい。記事では以下のように説明している。

【日経ビジネスの記事】

自動運転車は交通規則を順守する。これが常識だ。全てのクルマが自動運転車になれば、車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧で、渋滞が起こらないとされている。



◎「全て自動運転なら渋滞解消」はあり得ない

「全てのクルマが自動運転車になれば、車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧で、渋滞が起こらない」という考え方に取材班のメンバーは疑問を持たなかったのだろうか。少し考えれば、あり得ないと分かるはずだ。

100台しか収容できない駐車場に1000台の自動運転車が入ろうとしている状況を考えてみよう。「車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧」だとしても、駐車場の入口から車の列ができてしまう。この渋滞は自動運転では解決できない。

事故が起きた場合も同じだ。自動運転でも事故をゼロにはできない。路上で事故が起きたてクルマの流れが止まれば、必然的に渋滞が発生する。記事を書く上で、そうした可能性は考慮しなかったのだろうか。


※今回取り上げた特集「見えてきたクルマの未来」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/020600910/?ST=pc


※特集全体への評価はC(平均的)。山崎良兵副編集長への評価はCで確定とする。佐伯真也記者、庄司容子記者、小笠原啓副編集長への評価は暫定でCとする。