2020年10月4日日曜日

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」

 慶応大学大学院准教授の小幡績氏の主張は歯切れがいい。一方で粗さも目立つ。「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか」という著書では「市場の仕組みを理解していないのでは」と思える記述もあった。原油市場に関する解説を見てみよう。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です


【本の引用】

国家内部にはいろんな意見があるし、利害関係者がいる。たとえ独裁国家、独裁企業であったとしても内部を簡単にはまとめられない。国際的な寡占体制も、高い価格水準から値崩れを起こした場合には、産油国同士で一致団結することはできない。一方、価格暴騰のときには一致団結できる。すべての関係者がさらに儲かる、団結で全員が得をするからである。暴落のときは抜け駆けするインセンティブが常にあるし、それが強い。だから、うまくいかないのである。


◎「価格暴騰のとき」は必ず「一致団結できる」?

そもそも「国際的な寡占体制」が成立していない。「寡占」とは「同一産業内で、少数の大企業が、その市場を支配している状態」だ。「シェールオイルの開発業者も40ドルを割ると持続性がなくなるから、破産する中小業者が続出してくる」と小幡氏もこの本で書いている。「破産する中小業者が続出」するのに「寡占」なのか。国単位での「寡占」と言うならば「産油国」はそんなに「少数」なのか。

とりあえず「国際的な寡占体制」が成立していて、原油を生産できるのは米国、ロシア、サウジアラビアだけだとしよう。この場合「価格暴騰のときには一致団結できる」だろうか。この「価格暴騰」が協調減産の結果だとする。そして生産量は国家が管理できると仮定する。

ロシアは現状で満足しているのに、米国は「ガソリン価格の上昇などで国民の不満が高まっている。減産を緩和したい」と考えてもおかしくない。サウジは「財政状況が厳しいので、減産強化でさらに価格を上げたい」と願うかもしれない。「価格暴騰のとき」に「一致団結できる」場合もあるだろうが、そうなるとは限らない。

暴落のときは抜け駆けするインセンティブが常にある」とも小幡氏は言う。異論はないが「価格暴騰のとき」も同じだ。自国だけが協調減産を緩める「抜け駆け」によって「さらに儲かる」可能性はある。

暴落のとき」に「団結で全員が得をする」状況もあり得る。上記の例で言えば、3カ国すべてが完全な採算割れに陥る価格水準では「一致団結できる」可能性が高まる。「抜け駆け」で供給量を増やすと再び採算割れに陥ると思えば「抜け駆けするインセンティブ」も弱まる。

価格暴騰のときには一致団結できる」が「暴落のとき」は「うまくいかない」と単純に考えるのは誤りだ。そうなる場合もあれば、違う場合もある。市場に関してある程度の知識がある人にとっては「言われるまでもない当たり前の話」だ。


※今回取り上げた本「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか


※本の評価はD(問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

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