2018年8月22日水曜日

「借金のススメ」が罪深い日経「君たちはお金をどう生かすか」

22日の日本経済新聞朝刊 金融経済面の記事にとんでもない「若者への借金のススメ」が出ていた。新聞を読む若者は少ないので大して影響ないとは思うが、それでも「この記事を信じるな。筆者は金融機関の回し者だ」と声を大にして言いたい。
福岡タワーから見た福岡市街 ※写真と本文は無関係です

君たちはお金をどう生かすか(2)かりる 自分磨き、借金いとわず」という記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

「もっと専門的な英語を勉強しないと、とても仕事に生かせない」。都内のIT(情報技術)企業に勤める白井秀和さん(仮名、29)は、英会話学校に通うことを決めた。今の職場は法務部門。外資系企業との取引に絡んで英文契約書の点検や外国法を参照することも多い。英会話はマンツーマンで50万円程度。安い額ではない

 独身の白井さんは毎月10万円超の貯金をしている。1冊で数万円する専門書もためらわずに買う。お金には困らないが、英語の通学費はあえて借りたい

きっかけは、みずほ銀行とソフトバンクが共同出資した「Jスコア」。個人の信用情報を人工知能(AI)で点数化し、融資するサービスだ。白井さんは試しに職歴や年収、金融資産などをスマートフォン(スマホ)で入力してみた。結果は5.4%の利息で200万円を借りられると出た。上限利息が14%程の銀行カードローンと比べると条件は良さそうだ。「貯金を取り崩さずに無理なく返済できる」。白井さんは人生初となる借り入れへ気持ちを固めつつある

2017年9月にサービスを始めたJスコアの利用者は、半分が20~30代で、年収(中央値)は500万~600万円。使い道は自己啓発資金と教育費用が上位だ。大森隆一郎社長は「最新技術に敏感な若者は自己実現を求めている」といい、累計の利用件数は足元で3月末の2倍を超えた。

働く力を高める借金は悪ではない。そんな若者をデジタル金融が支えている。新生銀行は今夏、グループの顧客1千万人のデータを分析し、個人の信用スコアをはじけるAI基盤をつくった。消費者ローンは20~30代を照準に、それぞれに合った条件を示すことで融資を増やす狙い。


◎借金の必要ある?

まず記事の書き方について指摘しておきたい。「英会話はマンツーマンで50万円程度」では説明不足だ。月50万円と年50万円では話が全く変わってくる。1回50万円と100回50万円でもやはり大きく異なる。記事の情報だけだと「安い額ではない」かどうか判断できない。

英語の通学費はあえて借りたい」という説明もおかしい。ここで言う「通学費」とは額面通りに解釈すれば「英会話学校に通う」ための交通費だ。しかし「あえて借りたい」と考えているのは「英会話学校」に支払う「50万円」のことだろう。だとしたら「英会話学校の料金はあえて借りたい」などとすべきだ。

ここから本題に入る。記事中の説明が十分でないので「白井秀和さん」について以下のように仮定する。

・「英会話学校」に1年間通おうと考えていて必要な資金は50万円。

・現在の貯蓄額は100万円。利息はほぼゼロ。

ここで「5.4%の利息」を支払って50万円を借りるのは合理的と言えるだろうか。英会話学校に月払いできるのならば、支払額は月4万円強だ。「独身の白井さんは毎月10万円超の貯金をしている」のだから、貯蓄を取り崩さなくても支払える。

一括で支払う必要がある場合でも、貯蓄を取り崩せば問題ない。「毎月10万円超の貯金をしている」ので5カ月で元に戻るし、「5.4%の利息」を払わずに済む。

「もしもの時のために現金を持っておきたい人もいる」と筆者は反論するかもしれない。だが、貯蓄を取り崩しても50万円は残る。しかも「5.4%の利息で200万円を借りられると出た」のだから、緊急の場合は借金も可能だ。貯蓄が100万円あるのに「5.4%の利息」を払って借金するのは、あまりに非合理的だ。

「貯蓄が20万円しかなく、どうしてもすぐに英会話教室に通いたい」といった状況を想定すれば、借金という選択も無視できなくなる。ただ「毎月10万円超の貯金をしている」人が50万円の貯蓄さえないとは考えにくい。

自分を磨くために、積極的に借金をする――。そんな若者のスマートな借金像が浮かんでくるようだ」と筆者は記事を締めている。しかし、金融機関にうまく丸め込まれた筆者の言葉を信じてはいけない。「白井さんは人生初となる借り入れへ気持ちを固めつつある」そうだ。そこに合理性はないと早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「君たちはお金をどう生かすか(2)かりる 自分磨き、借金いとわず
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180822&ng=DGKKZO34268300X10C18A8EE9000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。連載全体の評価はD(問題あり)。水戸部友美記者、広瀬洋平記者、南毅郎記者、須賀恭平記者、高見浩輔記者、佐藤初姫記者への評価はDで確定させる。福井環記者は暫定でDとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

業者寄りの日経「君たちはお金をどう生かすか」を信じるな!
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_23.html

「昔」との比較に難あり 日経「君たちはお金をどう生かすか」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_78.html


※水戸部友美記者と広瀬洋平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「マネー凍結懸念」ある? 日経「認知症患者、資産200兆円に」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/200.html


※南毅郎記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「急成長 シェア経済」で藤川衛・南毅郎記者に助言
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_25.html


※須賀恭平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html


※高見浩輔記者については以下の投稿も参照してほしい。

「損保市場は長らく鎖国状態」? 日経「真相深層」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_13.html

説明不足が目立つ日経 高見浩輔記者の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_15.html

日経「上がらない物価 世界を覆う謎」の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_25.html


※佐藤初姫記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

保険料抜きで就業不能保険の実力探る日経 佐藤初姫記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_17.html

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