2017年4月13日木曜日

黒田投手に「限定合理性」? 週刊ダイヤモンドの不適切な説明

週刊ダイヤモンド4月15日号の特集「思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済」の不適切な説明について、さらに論じていきたい。ここでは「Part 1~経済は1%の基本だけ覚えればいい」の中の「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法」という記事を取り上げる。まずは8つの「思考法」のうち「4 限定合理性~これで黒田投手の義理堅さも説明できる」の問題点を見ていく。
鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

記事では以下のように説明している。

【ダイヤモンドの記事】

2014年暮れ、大リーグに残れば20億円ともいわれた高年俸オファーを蹴って、古巣の広島東洋カープと推定年俸4億円で契約した黒田博樹投手(16年シーズンで引退)。日本では多くの人が拍手喝采、「義理堅い男だ」と褒めちぎった。

黒田投手をたたえる「おとこ気」という言葉がファンの間でブームに。Photo:JIJI
 一方、海の向こうの米国では「Why, Japanese people!?」と叫んだファンがいたかもしれない。同じ「野球」をするのだから、高い給料をもらった方がいいに決まっているじゃないかと。

経済学はコストパフォーマンスの良い方を選ぶ合理的な人間像を前提にしている。が、黒田投手のような人間も想定しており、そのような人間の性質を経済学では「限定合理性」と説明する


◇   ◇   ◇

大リーグに残れば20億円ともいわれた高年俸オファーを蹴って、古巣の広島東洋カープと推定年俸4億円で契約した黒田博樹投手」を記事では「限定合理性」に当てはまる例として取り上げている。これは奇妙だ。
福岡大学病院(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

完全な推論能力や情報処理能力を備えているという意味の合理性に対し、 限定された能力しかもたないことを限定合理性という」(weblio辞書)らしい。黒田投手に限らず人は誰も「限定された能力しかもたない」ものだ。ただ、記事の説明では「完全な推論能力や情報処理能力を備えて」いれば、「高年俸オファーを蹴って」古巣と契約することはなかったとの前提を感じる。

しかし、そうは思えない。「自分の経済的利益を最大化したいのならば、古巣に戻るのは得策ではない」との判断は黒田投手もできたはずだ。しかし「古巣に戻る方がより大きな満足感が得られる可能性が高い」との計算で広島に復帰したのだろう。これは「完全な推論能力や情報処理能力を備えている」場合でも同じ結論になり得る。

だとすれば、黒田投手の判断を「限定合理性」で説明するのは無理が生じる。例えば黒田投手が「なるべく年俸を多く得たい」と思っているのに、「球団から提案された契約の選択肢をよく理解できず、年俸が少なくなるような契約の方を選んでしまった」というのならば「限定合理性」で説明できる。だが、今回は違う。

こんな雑な説明の事例に使われては、黒田投手も気の毒だ。特集の担当者ら(大坪稚子記者、竹田孝洋記者、土本匡孝記者、山口圭介副編集長)には反省を求めたい。


※今回取り上げた記事「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19845

※記事の評価はD(問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

誤り目立つ 週刊ダイヤモンド特集「速習! 日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_12.html

「収穫逓増」の説明が奇妙な週刊ダイヤモンド「速習!日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_80.html

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