2021年9月17日金曜日

自社は規制で守られたい? 日経「記事の適正対価に一歩~グーグル、日本で新サービス」

17日の日本経済新聞朝刊ビジネス2面に載った「記事の適正対価に一歩 グーグル、日本で新サービス~料金算定なお不透明」という記事は色々と引っかかるところがあった。中身を見ながら指摘したい。

夕暮れ時の大刀洗町

【日経の記事】

米グーグルは16日、報道機関のニュース記事を集めて配信する新サービスを、同日付で日本で始めたと発表した。新聞社や通信社など40社以上の記事を配信し、使用料を支払う。グーグルなど「プラットフォーマー」が報道各社のコンテンツに対価を支払う一歩となるが、料金算定の不透明さなどに課題も残る。


◎「対価を支払う」初の「プラットフォーマー」?

グーグルなど『プラットフォーマー』が報道各社のコンテンツに対価を支払う一歩となる」と書いてあると、「プラットフォーマー」として日本で初めて「コンテンツに対価を支払う」のが「グーグル」だと理解したくなる。

2020年7月6日付の東京新聞の記事によるとヤフーニュースは対価を支払っており「媒体によって異なるが、地方紙の相場は1PV当たり0.025円」らしい。「『プラットフォーマー』が報道各社のコンテンツに対価を支払う一歩」はかなり前に日本でも踏み出されているのではないか。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

グーグルが始めたのは「グーグル・ニュース・ショーケース」と名付けた配信サービスだ。グーグルのサイト、スマートフォンのアプリ上で、報道各社の記事を一覧できる。サイト、アプリに表示される「パネル」内の見出しを選ぶと、各社のサイトで記事を読める。日本経済新聞のほか、朝日新聞、読売新聞、中日新聞、共同通信など国内40社以上の報道機関が参加する。

グーグルは報道各社とそれぞれ記事使用について契約を結び、使用料を支払う。新サービスに配信する記事は報道各社が選ぶ。


◎日経としての見解は?

日本経済新聞のほか、朝日新聞、読売新聞、中日新聞、共同通信など国内40社以上の報道機関が参加」と書いているのだから、今回の件では日経も当事者だ。

自社が当事者となる記事を書く難しさは理解できる。しかし、やはり日経の当事者としてのコメントは欲しい。会社として「料金算定の不透明さなど」をどう考えているのか。担当役員クラスのコメントは入れてほしかった。

記事の終盤に飛ぼう。


【日経の記事】

グーグルは記事の対価となる使用料を報道機関の視聴者数、有料記事の配信数、ブランド力などを考慮し決めているとみられるが、具体的な算定基準は明らかになっていない。明確な算定基準がないと「読者が限られる地方紙は(記事の価値に見合った)適正な対価を受け取れないリスクがある」。上智大学の音好宏教授は明確な算定基準がないことについての懸念を指摘する。


◎地方紙限定の「リスク」?

読者が限られる地方紙は(記事の価値に見合った)適正な対価を受け取れないリスクがある」という「上智大学の音好宏教授」のコメントが引っかかる。「日本経済新聞のほか、朝日新聞、読売新聞」など大手新聞社は「適正な対価を受け取れないリスク」とは無縁とも取れるが、なぜそう言えるのか。

適正な対価」を仮にメディアが決めるとしよう。この場合「適正な対価を受け取れないリスク」を回避するのは容易だ。「使用料」が「適正な対価」を上回るのは難しいと判断すれば「配信サービス」から抜ければいい。

契約期間などの問題で「適正な対価を受け取れない」時期が多少はあるだろうが「嫌ならやめる」という選択肢はあるはずだ。

結論部分も見ておこう。


【日経の記事】

公正取引委員会は2月に「メディアのニュースの配信料の算定は、根拠について明確にされることが望ましい」との意見を出している。仏政府は算定基準の明確化を求め、これを立法化した。同国の当局は今夏、グーグルが記事の使用料について、仏メディアとの誠意ある協議を求めた命令に従わなかったとして、5億ユーロ(約640億円)の罰金を科した。

国内外で、なおコンテンツの「ただ乗り」批判を受けかねないケースもある。各国の足並みをそろえた法整備も必要となりそうだ


◎やっぱり日経はお上頼み?

最後に唐突に「各国の足並みをそろえた法整備も必要となりそうだ」と締めている。「国内外で、なおコンテンツの『ただ乗り』批判を受けかねないケースもある」というだけで、なぜ「足並みをそろえた法整備」という話になるのか。

そもそもメディアが同意しているのならば「ただ乗り」を「批判」する方がおかしい。同意なく著作権を侵害しているのならば既存の法律で対応できるはずだ。

力関係で「プラットフォーマー」優位だからと言って規制で守ってもらおうという考え方が残念。「具体的な算定基準」を「明らかに」すべきだと「日本経済新聞」が考えるならば、それを「グーグル」に要求すればいい。要求が通らないなら「配信サービス」には参加しないという選択もあったはずだ。

そこを貫徹できずに「具体的な算定基準」が不明なまま「配信サービス」への参加を決めたのならば自己責任だ。再販制度や軽減税率に関してもそうだが、日経は自分のこととなると規制で守ってもらいたがる。メディアとしての矜持は、どこに捨ててきたのだろうか。


※今回取り上げた記事「記事の適正対価に一歩 グーグル、日本で新サービス~料金算定なお不透明

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210917&ng=DGKKZO75833020W1A910C2TB2000


※記事の評価はD(問題あり)

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