2021年9月16日木曜日

「外国人投資家は日本株をほぼ売り尽くした」と日経 梶原誠氏は言うが…

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)を「訴えたいことが枯渇した書き手」と見ている。それでも何とか話を捻り出している感じはあるが、やはり苦しい。16日朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~今こそ市場に政策を問え」という記事でも、その傾向は変わらない。

三池港灯台(四ツ山灯台)

冒頭部分から見ていこう。

【日経の記事】

東京株式市場では、自民党総裁選を控えた政局相場の水面下で、政治家と市場がかみ合わない対話を続けている

著書などによると、出馬する岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏がそろって金融所得への課税強化を志向する。投資家にとってはリターンが下がる嫌な政策だ。

それなのに日経平均株価はあっさり3万円を超え、今週は31年ぶりの高値を回復した。支持率が低迷する菅義偉首相の退陣で、自民党が衆院選を有利に戦って政治が安定するとの期待に投資家の不満はかき消された。株高は、持論が支持されたというメッセージすら候補者に送りかねない。


◎「対話を続けている」?

政局相場の水面下で、政治家と市場がかみ合わない対話を続けている」と梶原氏は言うが、そういう話になっていない。

政治家」に関しては「著書などによると、出馬する岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏がそろって金融所得への課税強化を志向する」と書いているだけで「水面下」でどんなメッセージを「市場」に送っているのか分からない。送られてきた「水面下」のメッセージに「市場」がどう返答したのかも分からない。

水面下」と言っているのだから、世間の目に触れないところで「対話を続けている」のだろう。梶原氏がその内容をつかんでいるのならば、具体的な「対話」の内容を明らかにすべきだ。そうしないと「政局相場の水面下で、政治家と市場がかみ合わない対話を続けている」と言われても納得できない。

政治家と市場がかみ合わない対話を続けている」というのは、梶原氏の作り話ではないか。だから具体的な「対話」には踏み込めないと考えれば腑に落ちる。

記事の終盤も見ておく。


【日経の記事】

次の首相は恵まれている。コロナで止まった経済の再開が近づき、企業業績は回復中だ。外国人投資家は日本株をほぼ売り尽くし、10倍台半ばの予想PER(株価収益率)は20倍台の米国より割安だ。きっかけ次第で買われやすいのは、首相が誰かも分からないのに株高が続く現象が物語る

ハネムーンには終わりがある。今から市場の本音に耳を傾けて政策を鍛えないと、首相になった後にマネーが豹変(ひょうへん)し、在任期間を縮めるだろう。


◎半年足らずで外国人は撤退?

最も気になるのが「外国人投資家は日本株をほぼ売り尽くし」という説明だ。本当なのか。

2020年度の株式分布状況調査によると日本株に関して「外国法人等の株式保有比率」は今年3月末で3割を超えている。梶原氏の説明が正しければ、今はほぼゼロになっているはずだ。誤りとは断定できないが、半年足らずで「外国人投資家」が「日本株をほぼ売り尽くし」たとすれば驚くべき事態だ。梶原氏の勘違いを疑いたくなる。

ついでに言うと「ハネムーン」の使い方も引っかかる。「きっかけ次第で買われやすいのは、首相が誰かも分からないのに株高が続く現象が物語る。ハネムーンには終わりがある」との記述から判断すると「最近の株高はハネムーン期間中だから」と梶原氏は認識しているのだろう。

SMBC日興証券の用語集では「ハネムーン期間とは、政権交代後、新政権発足からの最初の100日間を指します。発足直後の新政権は概ね高い支持率を示す傾向が強いため、国民やマスコミとの関係を甘い新婚期(ハネムーン)に見立ててこう呼びます」と解説している。

つまり「新政権発足」前は「ハネムーン期間」には当たらない。株式市場との関係で言えば、今回「ハネムーン」の始まりがあるかどうかも、まだ分からないのだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~今こそ市場に政策を問え」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210916&ng=DGKKZO75779000V10C21A9TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight.html

「世界との差を埋める最後のチャンス」に根拠欠く日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/deep-insight.html

「日経平均3万円の条件」に具体性欠く日経 梶原誠氏「コメンテーターが読む2021」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/3-2021.html

1 件のコメント:

  1. 「訴えたいことが枯渇した書き手」という認識なら、個人の評価がEというのは違和感あり。今回の記事内容も確かに不正確な断定が多くミスリードを引き起こしかねない、評価Dにも至らず。

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