2021年9月10日金曜日

緊急事態宣言延長への賛否表明を避けた日経社説はやはり廃止でいい

日本経済新聞の社説はなくていいと繰り返し訴えてきた。10日の朝刊総合1面に載った「『緊急事態』見直しを経済再開の一歩に」という社説もその典型だ。中身を見た上で具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の社説】

政府は新型コロナウイルス対策で、緊急事態宣言の解除基準を見直した。宣言期間中の行動制限も緩和する。ワクチンの接種率向上などを踏まえた妥当な判断だ。感染対策と経済活動を両立させる重要な一歩としたい。

全国に広がったインド型(デルタ型)ウイルスは感染力が強い。ある程度、感染者が出るのは避けられない。症状が悪化した時に、医療機関でしっかり治療を受けられるかどうかこそ大切だ。

このため、緊急事態の解除基準は新規感染者数よりも、医療の逼迫度合いを重視するよう改めた。中等症や重症の患者が「継続して減少傾向にある」ことなどを含めた。東京、大阪など19都道府県は、新基準の下でも緊急事態の延長が妥当と判断された

「継続して減少傾向」というあいまいな基準では、客観的な判断がしづらいとの指摘もある。具体的な数値を示せないか、工夫してほしい。まず、入院中の患者の症状の程度に関する正確な情報を迅速に収集する必要がある。

政府はまん延防止等重点措置の対象地域で、一定の条件を満たした飲食店は午後7時半まで酒類を提供できるようにすることなども決めた。感染対策を徹底させている店舗には、早期の制限緩和で報いたい

国内のワクチン接種率は1回目が6割を超え、2回完了も5割近い。接種後の感染例はあるが重症化は少ない。また、抗体治療薬の点滴も普及し始め、重症化の防止に役立っている。

過去の流行時に比べウイルスに向き合う手段はかなりそろった。政府はワクチン接種の進み具合を見ながら、緊急事態宣言の下でも移動制限や飲食店の時短営業、酒類の提供禁止などの措置を緩和する方針だ。

度重なる緊急事態宣言により飲食業や観光業、小売業は大きな打撃を受けた。産業界の意向にも耳を傾け、立て直しにつながる緩和策の内容や方法を詰めてほしい。

緊急事態宣言下での行動制限は、感染の広がりを抑え医療負荷を減らすのが狙いだ。政府と自治体はそもそも宣言を出さずに済むよう、医療体制の整備に全力をあげるべきだ。

多くの地域で新規感染者数は減少傾向にある。原因は何か、また行動変容がどう寄与したのかを明らかにすることも、対策に説得力をもたせるうえで必要である。


◎なぜ自分たちで考えない?

東京、大阪など19都道府県は、新基準の下でも緊急事態の延長が妥当と判断された」ことへの賛否を明らかにしていないのが、この社説の最大の問題だ。

過去の流行時に比べウイルスに向き合う手段はかなりそろった」「感染対策を徹底させている店舗には、早期の制限緩和で報いたい」と思うのならば「緊急事態の延長」は好ましくないと訴えても良さそうなものだ。しかし、そうは書いていない。

だからと言って「緊急事態の延長」を支持している訳でもない。この曖昧さは何なのか。「難しい問題なので、延長がいいとも悪いとも言いにくい」という気持ちが分からなくはない。だったら社説は要らない。廃止しないにしても、明確な社論を打ち出せるときにだけ掲載すればいい。

今回の社説で日経は「宣言期間中の行動制限も緩和する」ことを「妥当な判断」としている。ならばなぜ「緊急事態」の解除を求めないのか。そこの説明から逃げているのが残念だ。

新型コロナウイルス対策」として好ましい具体策は何か。日経の論説委員がまず結論を出すべきだ。しかし「具体的な数値を示せないか、工夫してほしい」「産業界の意向にも耳を傾け、立て直しにつながる緩和策の内容や方法を詰めてほしい」と政府の頑張りを求めるだけだ。

緊急事態の解除基準」で日経が「具体的な数値」を提案してもいい。「立て直しにつながる緩和策の内容や方法」を日経が考え出す手もある。

その辺りの労を惜しんで「しっかり対策立ててね」的なことしか言えないままでいいのか。この問題に関わる論説委員には改めて自問してほしい。


※今回取り上げた社説「『緊急事態』見直しを経済再開の一歩に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210910&ng=DGKKZO75629000Q1A910C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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