2021年5月17日月曜日

「男女格差」は解消すべき? 山口慎太郎 東大教授が書いた日経の記事に注文

男女格差は解消されるべきだろうか。例えば、保育士では女性比率が圧倒的に高く、消防士では男性比率が圧倒的に高いとしよう。どちらも男女同数に近付くように誘導すべきなのか。男女どちらにも平等に門戸が開かれていて、個人の自由な選択の結果として男女格差が生まれるのならば、それでいいのではないか。

夕暮れ時の筑後川

しかし東京大学教授の山口慎太郎氏は違う考えのようだ。17日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~男女格差解消のために 男性を家庭に返そう」という記事で以下のように書いている。

【日経の記事】 

世界経済フォーラムが3月に発表した「ジェンダーギャップ指数」によると、経済分野における日本の男女格差はきわめて大きい。世界156カ国中の117位である。しかし、それ以上に大きいのは家庭内における男女格差だろう。

経済協力開発機構(OECD)平均では、女性は男性の1.9倍の家事・育児などの無償労働をしている。日本ではこの格差が5.5倍にも上り、先進国では最大だ。これは日本において性別役割分業が非常に強いことを示している。経済・労働市場での男女格差と、家庭での男女格差は表裏一体なのだ。


◎選択の自由は尊重しない?

日本では「家事・育児は女性が主に担う。その代わりに男性はしっかり稼ぐ」という役割分担を良しとする人が多いとしよう。結果として「家事・育児」にかける時間に差が生じる。これは問題なのか。

「各人の自由な選択は許されず、強制的にそうなっている」と言えるのならば問題だろう。しかし山口氏もそうは書いていない。個人が自由に選択し、現状に満足しているならば「家庭での男女格差」はあっていい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

ワークライフバランスの問題を解決するために、育児休業や短時間勤務などが法制化されてきた。こうした制度は確かに有効だ。2019年における25~54歳の女性労働力参加率をみると日本は80%と高い。米国の76%やOECD平均の74%を上回っている。

しかしこうした施策には限界もある。「子育ては母親がするもの」との固定観念がある中では、結局のところ女性が負う子育てと家事の責任や負担が減るわけではない。そのため、女性が職場で大きな責任を担うことは難しいままだ。実際、日本では管理職に占める女性の割合は15%にすぎず、米国の41%やOECD平均の33%を大きく下回る。


◎そんな「固定観念」ある?

子育ては母親がするもの」が「子育ては母親だけがするもの(父親は全くしない)」との趣旨ならば、そんな「固定観念」を持っている人がいるのかと聞きたくなる。少なくとも自分は、そういう人に会ったことがない。「固定観念がある」と断定する根拠を山口氏は持っているのか。

百歩譲って「子育ては母親がするもの」という「固定観念」を全国民が持っているとしよう。その場合でも「女性が負う子育てと家事の責任や負担」は減らせる。「家事」を周囲の人が肩代わりしたり、業者に任せたりすればいい。「固定観念」は「子育て」に関するものなので、子育てに関係しない「家事」の負担を減らす障害にはならない。

さらに言えば「女性が職場で大きな責任を担うことは難しいまま」だとすれば「ワークライフバランス」の観点からも好ましい。「女性が職場で大きな責任を担う」ようになれば、どうしても生活の比重が仕事に傾き「ワークライフバランス」の確保が難しくなる。

もちろん、これは女性に限った話だ。「女性が職場で大きな責任を担う」傾向が強まれば、男性の「ワークライフバランス」は良くなる。個人的には、この方向に行ってほしい。しかし、個人の選択を尊重する方が大切だ。

女性の多くが「管理職になるよりワークライフバランス重視」と考えていて、男性の多くが「ワークライフバランスが崩れてもいいから管理職になりたい」と願うのならば、結果として「男女格差」が生じるのは仕方がない。自分の好みを社会全体に押し付けるつもりはない。

山口氏には「日本を自分好みの社会に変えたい」という願望を感じる。しかし、山口氏が好む社会が国民全体にとって好ましい社会とは限らない。

男女格差」はなくすべきなのか。なくすべきだとすれば、なぜなのか。そこを山口氏にはしっかり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~男女格差解消のために 男性を家庭に返そう

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210517&ng=DGKKZO71874570U1A510C2TY5000


※記事の評価はC(平均的)

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