2020年5月24日日曜日

ちょっと大げさ…日経「新興国 高まる債務リスク」

24日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「新興国 高まる債務リスク~コロナで財政悪化
アルゼンチン利払い停止 返済負担重く」という記事は少し大げさだと感じた。「アルゼンチン利払い停止」を受けて「新興国」全体が危ないというストーリーを考えたのだろう。だが、実際にはそれほど「債務リスク」は高まっていないように見える。

海から見た福岡市 ※写真と本文は無関係です
記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

アルゼンチンに限らず、新興国の財政は新型コロナで悪化の懸念が高まる。医療体制の整備や需要の落ち込みに対応した経済対策で、財政支出は増加している。産油国では原油安も重なり、信用リスクをやり取りするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、「保証料」が高止まりする

ICEデータデリバティブ(IDD)によると、中東のオマーンのCDS(5年物)は22日に6.12%と2月末の3.25%から2倍近くまで上昇した。バーレーンも4%強の高水準で推移する。両国とも中東の産油国の中で政府債務残高の国内総生産(GDP)比が高い。

南アフリカのCDSも2月末の2.14%から3.59%まで上がっている。IMFによると20年度の財政赤字のGDP比率は過去最大に膨らむ見通し。感染拡大も続いている。3月には一部格付け機関が投機的階級に格下げした。トルコは5.57%、ブラジルも3.07%に上昇している。日米欧の主要国は0.1~0.3%台だ。一般的には2%を超えると、市場の警戒が高まる



◎「債務リスク」高まってる?

記事に従って「債務リスク」の大きさを「CDS」の「保証料」率で判断するとしよう。「『保証料』が高止まりする」と書いているのだから、足元では横ばい基調と見ているのだろう。だとしたら「高まる債務リスク」は感じられない。

オマーンのCDS(5年物)は22日に6.12%と2月末の3.25%から2倍近くまで上昇した」との記述はあるものの、あくまで「2月末」との比較だ。「高まる債務リスク」とするならば、5月に入ってCDS保証料率が上昇(できれば急上昇)している事例が欲しい。

債務リスク」を見る上では変動率と同時に水準も重要だ。しかし、これも大したことがない。記事には「産油国や高債務国で信用リスクが高まる」という説明を付けたCDS保証料率のグラフがある。ここに出てくる10カ国で最も保証料率が高いオマーンでも6%強。「一般的には2%を超えると、市場の警戒が高まる」らしいが、2%超も8カ国に過ぎない。このうち2カ国は「2%強」ぐらいのレベルだ。

記事でも「アルゼンチンの直近のCDSは131%まで上昇していた。他の新興国はアルゼンチンと比べ、そこまで高くなっておらず状況は異なる」と書いている。「他の新興国」の「債務リスク」がそれほどでもないのは筆者ら(大西康平記者と宮本岳則記者)も分かっているはずだ。

仮説を立てて企画を練るのは悪くない。想定したストーリーに合わなかったのに、強引に話を作り上げてしまったのが今回の記事だと思える。

付け加えると、記事では「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の説明が不十分だと感じた。「CDS」をよく知らない人にとってみれば「なぜ『保証料』がパーセント表示なの? 保証料2%って何に対する比率なの?」と疑問に思うのではないか。

保証料」は「保証料率」と表記した方がいい。想定元本に対する保証料の比率が「保証料率」だという説明も欲しかった。

さらに言えば「南アフリカのCDSも2月末の2.14%から3.59%まで上がっている」という記述は舌足らずだと思える。「2.14%から3.59%まで上がっている」のは「CDS」ではなく「CDS保証率」だ。略するならば「保証率」の方が好ましい。



※今回取り上げた記事「新興国 高まる債務リスク~コロナで財政悪化
アルゼンチン利払い停止 返済負担重く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200524&ng=DGKKZO59504760T20C20A5EA1000


※記事の評価はC(平均的)。大西康平記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。宮本岳則記者への評価はCを据え置く。宮本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 宮本岳則記者「野村株、強気の勝算」の看板に偽り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post.html

日経 宮本岳則記者「スクランブル」での不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_3.html

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

断定して大丈夫? 日経「ウーバー上場手続き 時価総額、米歴代2位」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/2.html

1 件のコメント:

  1. 丁寧に書くのなら「CDSスプレッド」が妥当と思います
    https://www.jpx.co.jp/markets/derivatives/cds-indices/
    https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-01-15/Q44BMOT0G1L001

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