2019年7月3日水曜日

「フィンランドを見習え」が苦しい日経 佐竹実記者「Disruption 断絶の先に」

Disruption」をテーマに記事を作るのはやめた方がいいと以前に助言したが、聞き入れてもらえなかったようだ。日本経済新聞朝刊ディスラプション面の「Disruption 断絶の先に」という連載は第4部に突入した。3日の「第4部 疾走モビリティー(1)移動を自由に スマホでGO」という記事にも「Disruption」と呼べるほどの変化は出てこない。
旧観慶丸商店(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

それ以外にも記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら指摘してみる。

【日経の記事】

バスや電車などの公共交通機関から自家用車、自転車まで。あらゆる移動手段をまとめてサービスとしてとらえるのがマースの考え方だ。その先進地といわれるのがフィンランド。人口60万人の首都ヘルシンキで、6人に1人がダウンロードしているスマートフォン(スマホ)アプリが「whim(ウィム)」だ。

「タクシーが移動の選択肢に入るなんて、これまで思ってもみなかったわ」。ツアーガイドの女性、ヘイディ・ヨハンソン(40)は1年前にウィムを使い始めてから、生活になくてはならない存在になったと話す。利用しているのは月62ユーロ(約7500円)の定額制プラン。公共交通やシェア自転車が乗り放題となるうえ、タクシーが半径5キロ以内なら10ユーロで利用できる

10ユーロタクシーのおかげで、車を家に置いてくることが増えた。娘を連れて夜のパーティーにも行けるし、とてもお得よ」という。62ユーロは割高ではないのか。「いえ、むしろ節約になっている。ウィムは本当に便利よ」



◎どの範囲?

まず、使える地域に触れていないのが気になる。「首都ヘルシンキ」限定なのか、それとも「フィンランド」全域なのか。それによって「62ユーロは割高ではないのか」の答えも変わってきそうだ。

また「ヘイディ・ヨハンソン」さんに問うべきは「62ユーロは割高ではないのか」ではなく「タクシーが半径5キロ以内なら10ユーロで」が「割高」かどうかだろう。

10ユーロ」と言えば約1200円。日本で5キロ利用すれば1500円前後なので、日本人の感覚で言えば決して安くない。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

そんなに便利なのか、記者も実際に試してみた。目指すは世界遺産であるスオメンリンナの要塞。街の中心部であるヘルシンキ中央駅に立ち、スマホのアプリに行き先を打ち込んだ。すると数秒で、いくつかの選択肢が表示される。20分ほど歩いて港まで行き、フェリーに乗るか、路面電車で港に行くか。別のフェリーに乗る選択肢もあったが、時間が10分程度余計にかかるため2つに絞った。

フィンランドの公共交通は、中心部であれば2.8ユーロで90分乗り放題になる。そのため2つの経路の金額は一緒。ならばと路面電車を選んだ。チケット購入ボタンを押すと、スマホ画面にチケットが表示される。それを路面電車の運転士に見せれば乗車可能だ。あとはアプリに表示された地図に従って歩くだけ。代金はクレジットカードを登録しておけば自動的に引き落とされる。チケットを買う必要がないので乗り換えもスムーズだ


◎日本より不便では?

これを読む限りでは「whim(ウィム)」が便利だとは思えない。まず「チケット購入」の手続きをする必要がある。日本ではSuica(スイカ)やPASMO(パスモ)などの交通系電子マネーを使えば「チケット購入」の手間を省ける。最近はタクシーの支払いにも使えるようなので、日本(例えば東京)の方が便利ではないか。
九州芸文館(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係

佐竹実記者は「チケットを買う必要がないので乗り換えもスムーズだ」と書いているが、「チケット購入ボタンを押す」という手順が必須であれば、手間としては「チケットを買う必要」があると見るべきだ。

今回の記事のテーマは「移動を自由に」だ。東京よりヘルシンキの方が圧倒的に「自由」ならば「Disruption」と呼んでもいいかもしれない。だが、東京の方が「自由」に移動できそうな気がする。これは辛い。

佐竹記者もそう感じたのではないか。「東京よりも圧倒的に便利だ」とは訴えていない。「テーマがDisruptionだし、ヘルシンキまで出張したんだから、今さら東京の方が便利だとは言えない」との思いを抱えて記事を書いたのかもしれない。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

運営するマース・グローバル社が18年に実施した調査によると、ウィムのユーザーは平均的なヘルシンキ市民の1.3倍公共交通機関を使うようになった。タクシーの利用も増えた一方で、自家用車の利用は少し減った

ウィムのプランは料金をその都度支払うタイプや、月62ユーロと249ユーロの定額制、タクシーも含めたすべての交通機関が無料になる月499ユーロの定額制もある。

「携帯電話はいろんなプランがある。毎日使うモビリティーにも定額があって良い」。マース・グローバル最高経営責任者(CEO)のサンポ・ヒエタネン(44)はこう話す。移動は電車やバス、タクシーが独立しているため、それぞれのサービスにその都度料金を支払っている。「まとめて提供することで人々の移動が自由になる」。ネットやスマホの普及や技術革新がそれを可能にする。


◎やはり小さな変化しか…

ウィムのユーザーは平均的なヘルシンキ市民の1.3倍公共交通機関を使うようになった。タクシーの利用も増えた一方で、自家用車の利用は少し減った」という。やはり「Disruption」と呼べるような変化は起きていない。

月62ユーロと249ユーロの定額制」は何が違うのか説明がないのも気になる。

さらに言えば「移動は電車やバス、タクシーが独立しているため、それぞれのサービスにその都度料金を支払っている」という説明は、少なくとも日本には当てはまらない。

定期券を購入している人は「その都度料金を支払っている」訳ではない。「毎日使うモビリティーにも定額があって良い」と「サンポ・ヒエタネン」氏は言うが、定期券はまさに「定額制」だ。

電車やバス、タクシーが独立している」とも言えない。例えば西日本鉄道では「バス・電車乗り継ぎ定期券」を販売している。

「フィンランドは先進的で日本は遅れている」という無理のある前提で記事を作っているので、結論部分はやはり苦しくなる。


【日経の記事】

通勤の満員電車に心身ともに疲れ、運転する自動車が渋滞にはまれば時間も体力も消費する。日本でもこんな経験をしている人は少なくないはずだが、規制などが立ちはだかり、なかなか変わらない。

米アップルのiPhoneの普及でスマホユーザーが爆発的に増えてから約10年。スマホを使えば人々の移動はもっと自由になるはずだ。交通の世界のディスラプションは、北欧に見習うべき答えがあるかもしれない



◎「スマホを使えば人々の移動はもっと自由になる」?

謎の主張だ。既に見てきたようにフィンランドで「交通の世界のディスラプション」は起きていないと思えるが、取りあえず起きているとしよう。

だとしたら「スマホを使えば人々の移動はもっと自由になる」「北欧に見習うべき答えがある」という結論に説得力が出るだろうか。

首都圏で「whim(ウィム)」を導入した場合を考えてみよう。「ウィムのユーザーは平均的なヘルシンキ市民の1.3倍公共交通機関を使うようになった」のだから、首都圏で似たような変化があれば「通勤の満員電車」がさらに混雑しそうだ。

タクシーの利用も増えた一方で、自家用車の利用は少し減った」という情報だけでは自動車利用が全体としてどうなったのか判断できないので、ほぼ横ばいだとしよう。となると「渋滞」も改善しない。

交通系電子マネーを使えば「チケット購入」の手間が省けたのに、「whim(ウィム)」への移行が進むと、いちいちスマホを操作して「チケット購入」の手続きをしなければならない。

人々の移動」を「もっと自由に」するための「見習うべき答え」が本当に「北欧」にあるのだろうか。


※今回取り上げた記事「Disruption 断絶の先に 第4部 疾走モビリティー(1)移動を自由に スマホでGO
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190703&ng=DGKKZO46849540S9A700C1TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。佐竹実記者への評価も暫定でDとする。

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